第137話 下級万能毒消し
_:(´д`」∠):_「新章開幕です」
_:(´д`」∠):_「太ももの裏が痛い。もしかしたらヘルニアかも。薬貰ったけど効き目が無いので、週明けまた病院行かなきゃ……」
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◆国王◆
余はティオン国国王ロドルフィン=カルネル=ドル=ティオンである。
余はとても困っていた。
それというのも、この所尋常ならざる問題が立て続けに起き過ぎていたからだ。
ドラゴンの襲来、イーヴィルボアを始めとした多くの危険な魔物の闊歩。
更に騎士団の一部がクーデターを……いや、これは未然に防がれたと言うか、何故か自首してきたのだが。
そして伝説の魔人の暗躍……
どれも数十年に一度の大事がほんの数か月で立て続けに起こっておる。
異常、というより他あるまい。
「いやホントこの国呪われておるのではないか?」
「陛下、滅多なことを口にしないで下さい」
余の独り言を耳聡く聞きつけた宰相が苦言を呈してくる。
ええい、愚痴くらい言わせよ。
「分かっておるわ。余人のおる場所では言わぬ」
今執務室に居るのは、部屋の主である余と報告にやってきた宰相だけであるからな。
「そして今度はアレか……」
「はい、アレでございます。想定よりもかなり早くなっているようです」
本来ならまだ数十年は猶予がある筈だったが……もうなのか。
「せめて余の治世の間は大人しくしてほしかったと言うのに……」
よりにもよって、アレまでもが動き出すとは、全く以って忌々しい。
「悪魔め……」
◆
「魔物の討伐依頼が多いですねぇ」
「そうね、それも毒持ちの魔物が多いわね」
依頼を終えた僕達は、途中で狩った魔物素材の査定を待つ間、依頼ボードを眺めていた。
リリエラさん曰く、受ける予定が無くても、依頼ボードをチェックして情報を集めるのも冒険者に必須の技能との事だった。
事実、朝に皆が依頼を奪い合うにも関わらず、残り物しかない依頼ボードには毒を持った魔物の討伐依頼が沢山張り付けてある。
「毒持ちの魔物は毒消しが必要だから厄介なのよね。それに、どの依頼にも複数の毒を持った魔物が書かれているわ。いいえ、そういう面倒な依頼ばかりが残ったのね」
「残ったですか?」
「ええ、毒の種類によって用意する毒消しの種類も変わるから、どんな毒でも対処出来る毒消しの魔法を使える僧侶が居るパーティ以外は受けたがらないのよね」
「あれ? だったら万能毒消しポーションを使えばいいんじゃないですか?」
「そんな高価なポーションを買ってたら割に合わないわよ。ほら、依頼主の大半は村でしょ? 報酬もいまいちだから、赤字確定よ」
「え? でも依頼表に書かれた魔物達の毒くらいなら、下級万能毒消しで十分対処出来ると思いますけど? それならこの報酬でも十分利益を得られますし。確か下級万能毒消しの材料は……」
「ちょ、ちょっと待ったレクスさん! それ以上は言わないで!」
と、突然リリエラさんが僕の口をふさぐ。
「むぐ?」
「さらりと凄い事を言おうとしないで。ここはギルドの中なのよ」
え? ギルドの中の何が問題なんだろう。
「ええとね、レクスさんが本当にその……下級万能毒消し? の作り方を知っているのかは知らないけれど、市場に出回っていない様な薬のレシピをおいそれと口にしたら、あっという間に皆に真似されちゃうわよ」
そう言ってリリエラさんが周囲を見回すと、周りにいた冒険者さん達が一斉に顔を背ける。
あっ、ギルドの職員さん達まで。
もしかして皆僕達の話を聞いていたって事?
「レクスさんは大陸でも数えるほどしか居ないSランクの冒険者なんだから、その口から出る情報はレクスさんには当たり前でも周りからすれば値千金の情報になりかねないのよ」
いやいや、たかが下級万能毒消し程度にそこまでの価値なんてないと思うんだけど。
とそこでリリエラさんが声を潜めて言う。
「良いレクスさん。私達は下級万能毒消しなんて知らないわ。どこで手に入れた知識かは知らないけど、私達は知らないの」
下級万能毒消しの事を皆が知らない? そんな馬鹿な!?
それこそ前々世じゃ教会の司祭どころか下町の子供達が生活費を稼ぐ為に自分で作ってお店に納品していたくらいありふれた知識だったよ?
「それにこのレベルの魔物なら、今すぐ村が危機になる訳でもないわ。少しの間我慢していれば、領内の村々の様子を視察にくる巡回騎士達がやってくるから、彼等に報告すれば騎士団が動いてくれる。そのための税金だもの」
へぇ、村の人達が魔物に困ったときはそうやって騎士団に頼れば良いんだ。
僕の村は自分達で魔物を退治しちゃうから、騎士団に頼る程の魔物に襲われた経験は無いんだよね。
僕の村って運が良かったんだなぁ。
「私達の村を襲ったアイツみたいに、騎士団でも手の出しようもない魔物でもないしね。何とかして貰える希望があるだけ、この人達はマシなのよ……」
と、リリエラさんが目を細めながら呟く。
そうだね、リリエラさんの村は猛毒を持つヴェノムレックスに襲われて大変な目に遭ったんだもんね。
「……でもそれなら、猶更村の人達に下級万能毒消しの作り方を教えるべきなんじゃないですか?」
「え?」
「確かに依頼ボードに張られている魔物はヴェノムレックス程の脅威じゃないかもしれません。でも依頼をするって事はやっぱり皆困っているんですよ。だったら、少しでも困っている人を助けられるように、下級万能毒消しの調合法は世の中に広めるべきですよ」
本当に下級万能毒消しの調合法が世の中から消えてしまったのかは分からない。
もしかしたらたまたまリリエラさんが長年活動していた魔獣の森周辺では、色んな薬草が採取できるから、下級万能毒消しの必要性が無くて誰も調合法を知らなかっただけなのかもしれない。
でも、昔のリリエラさん達の様に、魔物の毒で困っている人達が居るのなら、その人達を助けたいと思うのは間違いじゃないと思うんだ。
それに所詮下級万能毒消しの調合レシピだしね!
「レクスさん……あなたって本当にお人好しね」
と呆れたように溜息を吐くリリエラさんだったけど、その顔には明らかな安堵に満ちていた。
やっぱりリリエラさんも依頼主さん達の事を心配していたんだね。
待っていれば何とかして貰えるとしても、それでもその間は心配だもんね。
「うーん、でもどうやって依頼を出している村に薬の調合レシピを広めに行こう? わざわざ村まで行くのなら、いっそまとめて依頼を受けた方が良いよね」
「そうねぇ……」
「それでしたら! 我々冒険者ギルドにお任せください!」
「「うわっ!?」」
突然僕達に話しかけて来たのは、息を切らせて受付から走ってきた受付嬢さんだった。
「お話は聞かせて頂きました。それならば是非とも冒険者ギルドを介して薬の流通をさせてください!」
「ギルドを介して!?」
「はい! 我々冒険者ギルドでしたら、各地に支部を持っておりますので依頼主が仕事を頼みに来た時にレクスさんのお話されていた下級万能毒消しを即座にお売りする事が出来ます!」
「ええと、僕は薬の調合レシピを公開しようと思ったんですけど……」
「ええ、仰ることは分かります。ですが薬の調合レシピがあっても、その材料が必ずしもある訳ではありません。一部の材料だけ無い土地、魔物に薬草を食い荒らされた土地もあるでしょう! 更に言えば危険な魔物が森に居て採取に向かえなかったり、そもそも調合の出来る人材の居ない村もあると思います!」
成る程、確かにそうかもしれないね。
「そこで我々冒険者ギルドです。我々ならば冒険者に常時採取依頼をかける事が出来ますから、常時薬の材料を確保できますし、それを新人冒険者の新しい稼ぎ口にする事も出来ます!」
おお、そういう考え方もあるんだね。
新人が報酬を得る事が出来てギルドでも薬の材料を常に確保できる、確かに良い事づくめだ。
「ちょっと待って、それだとギルドにばかりメリットがあって、レクスさんに利益が無いわ」
とそこでリリエラさんが会話に割って入る。
「はい、それはもちろん理解しております。ですので、ギルドとしては薬の売り上げの一部をレクスさんにお支払いするつもりです」
「レシピを秘匿する代わりに、利用料を支払うって訳ね」
「その通りです。毒消し一つ当たりの利益は微々たるものになりますが、どんな毒にでも効くとなれば、多くの冒険者達が万が一の為に買っていくでしょう。それが積もれば、結構な金額になりますよ。そうして得られる不労所得は、レクスさんが冒険者を引退した後に大きな収入源になるとは思いませんか!」
「い、引退後ですか?」
突然引退後の話をされて、僕は面食らってしまう。
「はい、冒険者の仕事は危険ですからね。ある日突然大怪我をして冒険者稼業を続ける事が出来なくなる危険性は高いです。そんな時、我々との契約で得られるお金があったなら、生活はぐっと楽になるとは思いませんか?」
成る程、確かに大剣士ライガードの冒険でも、怪我が原因で若くして引退を余儀なくされた凄腕冒険者さんがやさぐれる話があったっけ。
酒浸りになっていた凄腕冒険者さんは、ライガードに何度も頼み込まれてしかたなく現役時代に使っていた得意技を彼に教える。
そして自らが教えた技のお陰でライガードが困難な依頼を達成した事で、彼はギルドから新人の指導役として雇われる事になったんだよね。
受付嬢さんは僕がその凄腕冒険者さんみたいに、将来リタイアする事になっても生活に困らない様にしようと交渉してくれているんだね。
「まぁ、そう言う事なら分からなくもないわね」
リリエラさんも受付嬢さんの説明に納得したみたいだ。
「分かりました。そう言う事なら、僕の知っている下級万能毒消しのレシピをお教えします。ただ、あくまで下級の毒消しなので、強い毒には効果がありませんからね?」
「ええ、それは分かっております! 販売の際にはちゃんと説明いたしますとも!」
「あっ、でも普通の毒消しはどうなるの? 下級万能毒消しが広まると、そっちの売り上げが下がって色んな所から恨みを買うんじゃないの?」
え? それは怖いよ!?
利権が原因で恨みを買うのは前々世の時だけで十分だよ!
「そこは値段に差を付ける事で棲み分けを致しますのでご心配なく。個別の毒の薬よりも割高にすれば大丈夫です」
リリエラさんの懸念を、受付嬢さんはあっさりと解決してしまった。
うーん、日頃から荒くれ者達を相手にしているだけあって、問題解決能力が高いなぁ。
流石王都の冒険者ギルドの受付嬢さんだ。
こうして、僕は冒険者ギルドに下級万能毒消しの販売を委託する事で、薬の売り上げの一部を貰い続ける事が出来る様になったんだ。
「いやー、最近は腐食の大地から流れて来る魔物が多くて困っていたんですよね! これで依頼の対処が少しは楽になるという物です!」
「腐食の大地?」
あれ? その名前どこかで聞いた覚えが?
受付嬢A\(゜ロ\)(/ロ゜)/「おっしゃー! 超出世の鍵ゲットォォォォォ!」
受付嬢B(# ゜Д゜)「くっそ出遅れた!」
受付嬢C(# ゜Д゜)「位置が!位置がもっと彼に近ければ!」
冒険者((((;゜Д゜))))「受付の人達が怖くて近寄れません(ガクブル)」
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