第136話 さよなら龍の国
_:(´д`」∠):_「ここ数日背中筋肉痛の翌日はお腹筋肉痛になってと筋肉(痛)大行進でした」
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タツトロンの町を出た僕達は、龍峰の近くにある見晴らしの悪い岩場にゴールデンドラゴンを着陸させる。
そして潜んでいると、タツトロンの町の方角からリリエラさん達がやってきた。
空からはシルバードラゴンに乗ったリューネさんの姿も見える。
「皆お疲れ様」
「レクスさんもお疲れ様。カッコ良かったわよ龍帝陛下」
リリエラさんがニヤリと笑みを浮かべて、龍帝の振りをした僕をからかってくる。
「からかわないでくださいよ。アレは演技なんですから」
そう、試合が終わった後、これからどうしようかと悩んでいた僕達は、龍帝本人からリューネさんに王位を譲る事にすればいいんじゃないかという結論にたどり着いた。
そして龍帝には何か凄い使命があるって事にしておけば、龍帝が今後姿を現さなくなっても不自然じゃないだろうとも考えたんだ。
うん、これで謎の選手ティランの正体は謎のままになったね!
「これで問題は全部解決した……のかしら?」
「はい!レクス師匠が王都の反龍帝派をあらかた捕らえて下さったので、私が玉座に就く事を妨害する者はほぼ居ないと思います!」
とそこでリューネさんが目を伏せる。
「どうしたんですかリューネさん?」
「あ、いえその、龍帝派の方から王都の主要な役職は反龍帝派が牛耳っていたと聞いていたので、私が即位しても国は大丈夫なのかな……と」
ああ成る程、リューネさんは反龍帝派を排除した事で一時的に国力が低下する事を恐れているんだね。
「確かに、悪徳貴族が役職を独占していたのなら、その役職のノウハウも独占してる筈。まともな人が新しく役職に就いても、仕事に慣れるまで時間がかかる。特に他国とのパイプが切れるのが厄介」
と、意外な事にメグリさんが問題を言葉にする。
「メグリさん詳しいですね」
「盗賊だから、情報は大事。裏社会と密接に関わる貴族は結構いるし」
成る程、盗賊という職業なのに貴族の情報に詳しいのは、盗賊だからこそ貴族の裏事情に詳しいからなんだね。
裏社会については前世でもあんまり付き合いがなかったからなぁ。
「それに私が即位したとして、王都以外の領主達がすぐに従うかもわかりません。最悪反龍帝派の領主達が反旗を翻す可能性もありますから」
「うーん、それはシルバードラゴンが居ればなんとかなると思うんだけど……」
「シルバードラゴンの居ない所で毒殺や暗殺をされたらどうしようもない」
「あ、そっか」
ミナさんの発言を聞いたメグリさんが、シルバードラゴンに頼る事の問題を指摘する。
「ひぃぃぃ……や、やっぱり龍姫様が玉座に座った方が……」
「あら、龍姫は貴方でしょうリューネ」
「そうなんですけどぉ……」
リリエラさん達の会話に怯えたリューネさんが青い顔になってリリエラさんに龍姫の座を譲ろうとするけれど、リリエラさんは良い笑顔でそれを断る。
というか、譲っちゃ駄目じゃないリューネさん?
「レクス師匠―っ! 何か反乱とか暗殺とかされない良い方法はありませんかーっ!?」
「ええっと……それじゃあこの毒消しの首飾りと……ああそうだ、タツトロンの町と王都の治安維持の為に残してきたゴーレムの命令権をリューネさんにあげますよ。あれなら休む事無く働き続ける事が出来ますから、国が安定するまでの急場しのぎの護衛として使えますよ」
「さらっと解決策が出ちゃった!? っていうか、良いんですかレクス師匠!? 毒消しのマジックアイテムとか人間の言う事を聞くゴーレムって物凄く高価なマジックアイテムですよね!?」
「いえいえ、そんな大したものじゃないですよ。強力な魔物相手じゃ時間稼ぎくらいにしかならない程度のものですしね。毒消しの首飾りも調合された猛毒には対応できないので、あくまで気休めですよ」
うん、作ったは良いけど、あの大量のゴーレム達はどうしようと思ってたところだから、リューネさんが引き取ってくれるなら丁度いいや。
毒消しのマジックアイテムも、作ろうと思えばちゃちゃっと作れるしね。
「いえ、そもそもマジックアイテムが貴重なんですが……ゴーレムの軍団とか、それこそ平民から一気に伯爵あたりの地位に昇爵出来るレベルの財宝ですよ!?」
あはは、大げさだなぁ。
この程度のゴーレムならちょっとした国で普通に防犯用に使われるレベルだよ。
確かにこの時代、一部のマジックアイテムや魔法は失われているみたいだけど、大国なら決して珍しいものでもないと思うしね。
「はい、この指輪を使えばゴーレム達に命令をする事が出来ますから」
僕は予備に作っておいた命令用のマジックアイテムと毒消しの首飾りをリューネさんに手渡す。
「はわわ……こんなとんでもない物を頂けるだなんて……レクス師匠には本当にお世話になりっぱなしです」
リューネさんが潤んだ瞳で僕に感謝の言葉を告げて来る。
「いえいえ、僕は師匠から授かった龍帝流空槍術の術理をお返ししただけですよ。これはそのおまけです」
「お、おまけがとてつもなく巨大なんですが……と、ともあれレクス師匠には本当にお世話になりました。いつかまたレクス師匠がこの国を訪れた際は、国を挙げておもてなしをさせていただきます!」
「うん、それは遠慮したいかな」
「きっぱりと拒絶!?」
国賓とか、絶対碌でも無い事にしかならないからね。
僕は普通で良いんだよ。
そしてリューネさんは皆とも別れの言葉を交わす。
「龍姫様にも、本当にお世話になりました」
「だから龍姫は貴女だって」
「ジャイロさん達の事は、修行中一緒に地獄を見ている仲間として、本当に心の支えになっていました!」
「おう! 俺達もお前といっしょに修行出来て良かったぜ!」
「というか、道連れ扱いなのね私達」
「寧ろ私達も道連れにしてたけど」
「まぁ何はともあれ、お互い生き延びる事が出来て良かったですねぇ。ええ試合とか試合とか試合とか」
「落ち着けノルブ。大丈夫だ、お前はちゃんと生きてるから」
なんだろう、ノルブさんの言葉に妙な重みを感じるんだけど。
「皆さん、本当にありがとうございました! 名残惜しいですが、反龍帝派が捕らえられた事で政務に支障が出始めているそうなんです。ですから王都を安定させる為にも、私は行かなければなりません!」
リューネさんが龍姫の正当な後継者だと宣言した事で、龍帝派の人達はリューネさんに接触をしたらしいね。
まぁ元々神輿として担ぐつもりだった龍帝がどっかに飛んで行っちゃったんだから、そうするしかないんだけど。
「頑張ってくださいねリューネさん」
「はい! 王位を取り戻す事は先祖代々の悲願でしたから! 私、全力で頑張ります! ありがとうございました!」
リューネさんは何度も僕達にお礼を言いながらシルバードラゴンへと騎乗すると、最後にもう一度お礼を言って王都へと飛んでいった。
僕達はそんな一人と一匹の姿が見えなくなるまで見送ると、今度は自分の番だとゴールデンドラゴンへと振り返る。
「そろそろ僕達もお別れだねゴールデンドラゴン」
「グルルルルゥ……」
ゴールデンドラゴンが名残惜しそうに首を伏せる。
「僕は本物の龍帝じゃないからね。いつか君が本物の龍帝と出会う時の為に別れるべきだと思うんだ」
「なにそのカップルの別れの言葉みたいなセリフ」
「しかも男の一方的な都合っぽい」
すいません後ろの人達、あんまり茶化さないで下さい。
「……君が真に仕える主と出会う為に、竜騎士の契約を解約するべきだと思うんだ」
「あっ、言いなおした」
「グルル……」
ゴールデンドラゴンは少しの間目を伏せていたけれど、気を取り直したのかすぐに体を大きく広げて、空へと首を上げて吠えた。
「グォォォォォォォォン!!」
そして大空へと舞い上がると、別れを惜しむように上空で何度も周り、やがて龍峰へと戻って行った。
「ふー、これでこの国でする事は全部終わったね。あとはもう帰るだけかな」
そう思っていた時だった。
「……ところで、ティランの賞金ってどうなるの?」
「「「「え?」」」」
ボソリとメグリさんが呟き、僕は自分がティランの報酬を受け取ってない事に気付く。
「そういえば……」
「金貨400枚……」
そういえば賞金を受け取る事は考えてなかったなぁ……
「けどまぁ僕はもう大金を持ってるわけですから、今更賞金を受け取らなくても……」
「勿体ない! 今からでも貰いに行こう!」
メグリさんが賞金を受け取るべきだとにじり寄って来る。
「いやー、大いなる使命があって姿を消した龍帝が報酬を受け取りに戻るのはちょっと……」
「使命よりお金の方が大事」
うわー、目が据わっているよ……
「だったらあの黒い騎士のゴーレムに受け取りに行かせたらどう? あのゴーレムなら龍帝陛下の家臣として町の人達に認識されてるでしょ?」
「採用! ナイスアイデア!」
よかった、これでメグリさんの機嫌を損ねなくて済みそうだ。
「でもあのゴーレムって喋れなくねぇ?」
ポツリと、ジャイロ君が思い出したと呟くと、メグリさんの首が回ってこっちに視線を向ける。
「受け取り……」
「いやいやいや、だから龍帝が受け取る訳には」
「お金っ! 大事っ!」
そんなこんなの騒動があり、僕はゴーレムを一体解体して普通の鎧にし、こっそり賞金の受け取りに行く事になったんだよね。
うーん、恥ずかしい。
「ところで、賞金を受け取りに行ったら町長が凄い形相でリリエラさんの事を探していましたよ?」
「あー気にしなくて良いわ。大したことじゃないから」
「その割にはかなり必死そうだったんですけど……」
「レクスさん、私達は一か所に定住する事の無い根無し草なのよ。今日の知り合いが明日には旅立つのが冒険者っていうものよ」
うわっ、何それカッコいい!
大剣士ライガードが物語で出会ったヒロイン達と別れる時の決め台詞みたい!
良いなぁ、今度僕も使ってみよう。
結局、町長がリリエラさんを探していた理由は有耶無耶になってしまったんだけど、まぁいいや。
「リリエラ、龍姫の儀の儀式に参加するのを嫌がってすっぽかした」
「しっ、そっとしておいてあげなさい」
何かメグリさん達が小声で話してたけど、何を話していたのかな?
まぁいっか、帰り道に覚えてたら聞けばいいや。
「……さて、それじゃあ僕達も王都に帰りましょうか」
「「「「「はーい!」」」」」
「予想外の大事件に巻き込まれちゃったけど、終わってみれば危険な敵との戦いもなかったし、案外平和に終わったなぁ」
「いやそう思ってるのは兄貴だけだぜ?」
「そうよ、私達は魔人と戦う事になってヒヤヒヤものだったんだから!」
「そもそもその前にドラゴンと戦ってたし」
「僕に至ってはレクスさんとの試合ですよ。本当に死ぬかと思いました」
「龍姫と勘違いされるとか……本当に誤解を解く事が出来て良かった……」
なんだか皆疲れてるなぁ。
帰ったら特製ポーション料理でも振る舞おうかな?
「でも終わってみれば、命の危険もなかったし修行にはちょうど良かったんじゃない?」
「兄貴「「レクス「「レクスさんの修行が一番命の危険を感じたから!」」」」」
あはは、あの程度の修行で皆大げさだなぁ。
こうして、僕達は龍国ドラゴニアでの修行を終え、懐かしの我が家に帰る事にしたんだ。
そしてその数週間後、ドラゴニアに正統な女王が即位したという情報が世界中に流れ、多くの人々が驚く事になったんだって。
更に女王はどこかから連れて来た強力な騎士達を従え新たな龍帝騎士団を設立して、瞬く間に即位直後の混乱を収めて見せたそうだよ。
それにしても、即位直後でそんな凄い騎士団を設立するなんて、流石は龍姫の正当な後継者だなぁ。
きっと世の中に埋もれていた才能ある人達を発掘したんだろうね。
これで神聖ドラゴニアもしばらくは安泰だね!
◆ゴールデンドラゴン◆
あの人間達は去った。
銀色のも自らが契約したあの人間の娘と共に去った。
…………
それはつまり……。
我は自由という事だぁぁぁぁぁぁぁっ!!
やったね我! 遂に本当の自由をゲットだ!
てっきりあの人間が寿命で死ぬまでこき使われるのかと思ったが、何故かあの人間は我に(人間の言葉は分からんので多分)別れを告げて去って行った。
これはアレだな。
今日はお祝いだな。
普段は面倒だからあまり遠出はせんのだが、今日はめでたい日だ。
ちょっと良い感じの獲物でも狩って豪勢な食事としようではないか。
さーてそれじゃあちょっとお出かけとしゃれこもうかな。
「……」
「……」
何故かシルバードラゴンと目が合った。
あれー? おかしいな? なんで出て行った筈の銀色のと目が合うのだ?
「では行くとするか黄金の」
え? 何処に?
「ドラゴンと人間が手を取り合っていた戦士の国が蘇るのだ。ならばドラゴンの王である黄金のが居なければ話になるまい」
え? え? 聞いてないよそんなの。
「それに、我等は永久の契りを交わした仲だもの……な」
銀色のが頬を染めながらそんな事を言うが、我そんな契りを交わした記憶ありませんよ?
いや本当にありませんよ?
「さぁ! 我等の新しい門出だ黄金の!」
や、やめろ! 首を咥えるな! 無理やり引っ張るな!
我は自由なのだ! 自由になったのだ!
「おめでとうございますー」
「こりゃあめでたいのう」
「我等ドラゴンの未来は明るいですなぁ」
「そうそう、龍峰は俺がキッチリシメておくんで、後は任せてくださいよ!」
おいお前等! 全く心が籠ってない棒読みで言うな!
あと黒竜! 貴様どさくさに紛れて何自分の縄張り扱いしておる!
この龍峰は我の縄張りだぞ!
「では行くとしようか。安心せよ。人間共の巣にはちゃんと我等が暮らしやすい巣を用意させておいた故にな」
あー! さてはお前、その為に一人だけで出て行ったのか!?
っていうか我は人間臭い場所でなど暮らさぬぞ!
暮らさぬぞーっ!
「いざ我等の愛の巣へ!」
やーめーろー! 首を引っ張るなぁぁぁぁぁぁぁっ!
◆王都の貴族達◆
「いい加減白状しろ! 宰相はどこだ!」
「だから私が宰相だと言っているだろう!」
「しらばっくれるな!」
幾度となく繰り返された本物の宰相と尋問官のやり取りが続く。
「なぁ、一体いつまで繰り返すんだろうなぁコレ……」
目の前のやりとりを見ながら、同僚が溜息をつく。
「さぁなぁ。ただ、龍帝陛下の使いの方があの男を影武者とおっしゃったんだ。なら我々はあの男を影武者として扱うしかあるまい」
「だなぁ」
こうして、王都にシルバードラゴンを引き連れた龍姫様がいらっしゃるまで……いや正しくは龍帝陛下はお戻りになられないという驚きの報告や、代わりに龍姫様が王位を継ぐことになったとか、そういった色々な騒動がようやく終わったと思ったら今度はゴールデンドラゴンがやって来たとか色々あり過ぎて、うっかり皆が忘れていた事に気付くまで、宰相の処遇については忘れられたままだったりしたのだが。
「だから私が本物の宰相なのだと言ってるだろぉぉぉぉぉ!」
「だから本当の事を言えと言ってるだろぉぉぉぉぉ!」
うん、二人共お疲れ様だ。
リューネ(:3)レ∠)_「えーっと、じゃあ先祖が王位を簒奪した罪で投獄……とかでいいでしょうか?」
宰相_:(´д`」∠):_「も、もう信じてもらえるならなんでもいいです……」
尋問官_:(´д`」∠):_「や、やっと認める事が出来る……」
見張りのモブ騎士達(:3)レ∠)_「「超お疲れ様」」
ゴールデンドラゴン((( ;゜Д゜)))「我帰るーっ!」
シルバードラゴン(:3)レ∠)_「新築のマイハウス……良い」
龍峰のドラゴン達(:3)レ∠)_「とっても静かになりました」
町長((( ;゜Д゜)))「優勝者が全員トンズラしたーっ!」
観客達(:3)レ∠)_「もう試合だけで儀式要らなくねぇ?」
作者_:(´д`」∠):_「竜騎士編は今回で終幕です」
作者_:(´д`」∠):_「次回からは新章に入りまするー」