第135話 表彰式と明かされる真実
_:(´д`」∠):_「最近、太ももの裏とふくらはぎが痛いです。病院で様子見のビタミン剤を貰いましたが、ヘルニアとかだったら嫌だなぁ」
_:(´д`」∠):_「皆も健康には気を付けてくださいね」
_:(´д`」∠):_「とりあえず勇者になって歩行距離を増やしてきます」
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◆観客達◆
「それではこれより龍帝の儀及び龍姫の儀の表彰式を行います!」
試合舞台のど真ん中に立った町長が声を張り上げると、表彰式が始まる。
長々と続く町長の話には、俺だけでなく他の皆も早く話を終らせてくれとソワソワしている。
俺達が見に来たのは、この表彰式の後なんだと。
俺達は確信していた。
この大会の表彰式で、絶対に凄い事が起きると。
この国に、昔話で聞いた伝説の王様が復活するんだという、一生に一度あるかないかの大事件がおこるんだと。
「優勝者、ティラン選手、およびリリエラ選手、前に!」
来た!
町長の長い話がようやく終わり、俺達は試合の度に選手達が出場してきた通路に顔を向ける。
俺達の期待を焦らす様に、通路の奥から足音が聞こえて来る。
「「「あれ?」」」
けれど、そこに見えた姿に俺達は首を傾げる。
「龍姫様だけ?」
そう、舞台に現れたのは、龍姫様だけで、龍帝陛下の姿はどこにもなかったんだ。
表彰式の主役である龍帝陛下の姿が見えず、俺達は困惑する。
「あ、あれ? ティラン選手は……?」
町長達も龍帝陛下の姿が無い事に動揺しているみたいだ。
龍帝陛下は一体どうしたんだろう、そう思ったその時だった。
突然周囲が暗く陰った。
雲にでも覆われたのかと思ったが、そうじゃなかった。
空の上から無数の羽ばたきが聞こえたからだ。
空を見上げれば、そこには巨大な翼の群れが空を覆い隠していた。
「あ、あれは……!?」
俺達は知っている。あの恐ろしい姿を。
このドラゴニアに暮らす者なら、あの姿を知らない奴はいない。
「ド、ドラゴンだぁぁぁぁぁぁぁ!」
そう、空を覆い隠していたのは数えきれないほどのドラゴンの群れだった。
「うわぁぁぁぁぁっ! 喰われるぅぅぅぅ!」
「ひっ、ひぃぃぃぃぃっ!?」
以前ワイバーンを引き連れたドラゴンが襲ってきた時の比じゃない。
空の全てがドラゴンだったんだ。
それも緑、青、赤、黒と目がチカチカする程の多くの色のドラゴンの姿。
青色のドラゴンくらいなら街道沿いで見た事があるが、黒や宝石色に輝くドラゴンが人里にやってくるなんて聞いた事が無い!
あの中の一頭だけでも町が100回滅ぶぞ!?
「「「グルォォォォォン!!」」」
ドラゴン達が謳う様に雄たけびを上げる。
「ひぃっ!?」
「に、逃げろっ!」
「いやーっ! 助けてーっ!」
会場だけじゃない、ドラゴンの雄叫びを聞いて町中から悲鳴が上がっていた。
だがこの状況でどこに逃げれば良いんだ?
どれだけ必死で走っても、あの翼で追いかけられらたら一瞬で捕まっちまうってのに。
そして誰が助けてくれるんだ?
相手はドラゴンだぞ? 国の騎士団が総出で挑んで一頭倒せるかどうかって相手だぞ?
そんな化け物の群れの中で、俺達は恐怖に竦んでただただへたり込む事しかできないでいた。
『静まれぇぇいっ!!』
その時だった、町中にくぐもった声が響いたんだ。
ドラゴンの雄叫びも、町中の悲鳴すらかき消して。
「「「オオォォン!!」」」
するとこれまでバラバラに飛んでいたドラゴン達が突然秩序だった動きに変わる。
まるで王に従って行進する騎士団の様に。
「お、おいアレは何だ!?」
誰かが空を指さすと、試合会場の真上から二つの光が舞い降りて来る。
太陽の光を受けて輝くそれは、金と銀の翼を羽ばたかせていた。
「あ、あれは……」
俺達は気付く。
空を舞うドラゴン達はあの二対の翼を迎える為に道を開けたのだと。
「ゴールデンドラゴンとシルバードラゴンだ……」
「「グォォォォォォン!!」」
誰かが漏らした呟きが正解だと言わんばかりに、二頭のドラゴンが雄叫びを上げる。
正直言って恐ろしくて逃げ出したい。
だが、この体は恐怖のあまり動けないでいた。
俺だけじゃない、この場にいる全員が、伝説のドラゴンの姿を本能的に恐れているんだ。
たとえアレが、以前俺達を助けてくれた存在と同じだとしても……
そしてゴールデンドラゴンとシルバードラゴンが試合舞台へと静かに舞い降りた。
「ひっ!? は、はひ……」
逃げ遅れた町長が、丁度二頭のドラゴンに挟まれる形になっていた。
そしてドラゴンの背から誰かが降りてくる。
俺達はその姿を見て、背中があわ立つ。
「ティランだ……」
「龍帝陛下だ……」
そう、そこに現れたのは、俺達が待ち望んでいた人、ティランこと龍帝陛下その人だった。
「「「「「龍帝陛下ぁぁぁぁぁっ!!」」」」」
◆
あー危なかった。
まさかドラゴン達が町に現れた事でここまで大騒ぎになるとは思っても居なかったよ。
前世や前々世じゃ、ドラゴンの群れが町の上を横切っても、あー飛んでるなーって渡り鳥の群れが横切る感じだったんだけど。
あれかな? ドラゴンの素材保護法が制定されて、ドラゴンに馴染みのある人が減ったのが原因なのかもね。
ともあれ、町が大騒ぎになっちゃったから、僕は慌ててドラゴン達を静かにさせるようにゴールデンドラゴンにお願いした。
そして予定よりもちょっと早いけど、ティランとして試合舞台の上に舞い降りたんだ。
皆が信じる龍帝として、これからの事を伝える為に。
僕がゴールデンドラゴンから降りると、町の人達の表情が安堵に変わる。
うん、ゴールデンドラゴンに乗る龍帝の姿を見せた事で、皆もドラゴン達が敵じゃないって分かってくれたみたいだね。
「「「龍帝陛下ぁーっ‼!」」」
この龍帝コールには慣れないけど。
そしてシルバードラゴンからも、リューネさんが降りて来る。
「え? 何で龍姫様じゃない人間がシルバードラゴンから降りて来るんだ?」
とそこで、会場の人達がシルバードラゴンからリューネさんが降りて来た事に首を傾げる。
「確かあの子は……そうだ、決勝で龍姫様と戦ったリューネ選手だ!」
「そうだ、リューネ選手だ!」
「でもなんでリューネ選手が?」
どうやら皆シルバードラゴンを従えていたのはリリエラさんと思っていたみたいだね。
けどこれこそが龍姫の儀の決勝戦で負けてしまったリューネさんが龍姫の後継者だと認めて貰う為の作戦なんだ。
『静まれ皆の者!』
僕は龍帝の振りをして会場の皆に語り掛ける。
『此度は皆に伝える事があってやってきた』
「龍帝陛下が俺達に……?」
「一体何を……?」
「この先は私がお話いたしましょう」
そういって、前に出たのはリューネさんだ。
ここから先、龍帝は目立たずリューネさんに主役を譲る。
「私の名前はリューネ・ライゼル・ヴォア・ドラゴニア……ドラゴニア王家の血を引くものです」
「「「……え、ええーーーっ!?」」」
衝撃の告白を聞いて、町の皆が驚く。
うん、さっき町中に声を響かせた拡声魔法をリューネさんにもかけてあるから、この会話は町中に響いているんだ。
纏めて説明した方が手間が省けるからね。
「リュ、リューネ選手が王族だって!? マジかよ!?」
「けどそう考えれば、リューネ選手がシルバードラゴンに乗って現れた理由も納得がいくってもんだ」
「皆さんも驚かれた事でしょう。ですがこれは事実なのです。私は数百年前に国を追われた王族の末裔なのです……」
そう言って、リューネさんは以前僕達に話してくれたように、自分の祖先に起きた出来事を町の人達に語り始めた。
「――こうして宰相に国を乗っ取られた私の祖先は、王位を取り戻すため、彼等の言葉を逆に利用する為に、竜騎士となってドラゴンを倒す為に野に下ったのです」
「「「……」」」
町の人達はリューネさんの衝撃的な告白にどう反応して良いのかと困惑しているみたいだ。
ドラゴニアでは龍帝が戦争で死んだあと、いつか龍帝が戻る日まで宰相が代理として国を運営するという宣言をしたという話は、昔話で皆知っている事みたいだから猶更驚いただろうね。
「宰相達は龍帝騎士団を失い弱体化した国を立て直す事はしませんでした。当時のドラゴニアが他国に対して示す事の出来た最大の武力の象徴なのにです!」
うん、普通に考えれば国内最強戦力を再建しないなんてありえない事だよね。
「龍帝騎士団は王家に仕える騎士達、つまり滅びた王家に仕える騎士団という矛盾した存在が生まれてしまいます。しかしそれだけなら戦力の立て直しを渋る理由にはなりません。ドラゴンを倒し、ドラゴンと共に空を舞う竜騎士の戦力は非常に強力なのですから」
前世でも竜騎士は強力な戦闘力を持つ存在として有用だったし、なによりドラゴンという野生の脅威をまるまる味方に出来るという事は、単純に考えても敵の数を減らして味方を増やせるっていうメリットがある。
だからやらない選択肢はないよね。
「宰相達が問題としたのは、我々王族が生きていた事です。龍帝騎士団が再建されれば、騎士団は仕えるべき王族の生き残りを探す事が使命の一つとなるでしょう。しかしそこで騎士団が我々王族の生き残りの存在を知り接触したならば、宰相達の祖先がかつて生き延びた王族たちに行った蛮行が明らかになるのです」
そうなんだよね、王族が見つかったら自分達の反逆がバレちゃうから、宰相達は龍帝騎士団の再建なんて出来る訳が無い。
まぁそれも、当時の魔人との戦いで他の国も疲弊していたから出来た選択みたいだけど。
「なんてこった、俺達はそんな事も知らずに龍帝陛下が戻ってきたって浮かれていたのかよ……」
「リューネ選手、いやリューネ様の気持ちも知らずに俺達は……」
平民である皆にリューネさんの気持ちを知れと言うのは無理だ。
けど、リューネさんがその小さな体で必死に戦ってきたのは試合を見て来た皆が知る事だ。
玉座を奪われた美しいお姫様から明かされる衝撃の真実に、心を動かされない人はいない……らしい。
うん、このあたりの曝露劇については、メグリさん達の発案なんだよね。
皆の同情を買って味方をゲットしようって。
「ですが皆さんが気に病む事はありません。全ては宰相達反龍帝派の蛮行が原因なのですから!」
「「「リューネ様……!?」」」
「何も知らずにのうのうと暮らしていた俺達を、リューネ様は許してくれるっていうのか……!?」
「何てお優しい……」
自分達を責めないと言われ、町の人達がリューネさんの優しさに感動する。
このあたりはノルブさんの発案なんだよね。
許す優しさも大切ですよって。
「安心してください皆さん。既に国を私物化していた宰相達は龍帝陛下の家臣達によって捕らえられました」
「「「さ、宰相様達を!?」」」
「マジかよ!? 一体いつの間に!?」
「龍帝陛下スゲェ!」
いやそこは僕を誉めなくて良いからね。
「そして私は力を示しました! シルバードラゴンを従え、正式に竜騎士となったのです!」
「グルォォォォン!!」
リューネさんが槍を掲げると、後ろで控えていたシルバードラゴンが吠える。
これはシルバードラゴンがリューネさんに従っているよと伝える為のパフォーマンスだ。
シルバードラゴンに理解して貰うのには苦労したけどね。
「私は王位を継ぎ、最強の騎士であった龍帝騎士団を再建し、真のドラゴニアを蘇らせる事をここに宣言します!」
「「「う、うぉぉぉぉぉっっ‼」」」
リューネさんの王位継承宣言に町中から興奮の声が上がる。
伝説の存在だった龍帝の末裔であるリューネさんがシルバードラゴンを従え、王位に就き、龍帝騎士団が復活する。
伝説が現実になったかのような光景に、皆大興奮だ。
「龍帝陛下-っ‼」
「リューネ様―っ! うぉーっ! 龍姫様は本当に実在してたんだっ!」
「龍姫様―っ!」
「この国の伝説は本物だったのね!」
皆が興奮しながら口々に龍帝とリューネさんを称える声をあげる。
「あれ? けどリューネ様が王位を継ぐのなら、龍帝陛下はどうなるんだ?」
と、そこで誰かがふと首を傾げながらそんな事を口にする。
「あっ、言われてみれば……」
皆にもその疑問が伝わり、どうするんだろうと僕に視線を向けてくる。
そう、これが僕達の作戦なのさ。
『我には為すべき使命がある。故に、政は龍姫に任せる事とする!』
「龍帝陛下の使命!?」
「龍帝陛下が王位を任せる程の使命って一体どんな使命なんだ!?」
皆が王位を捨てる程の使命とは何なのかとこちらを見つめてくる。
……まぁそんな使命なんてないんだけどね!
こう言っておけば、本物の龍帝じゃない僕が王位に就かなくて良い理由ができる上に、龍帝のお墨付きでリューネさんが王位に就く後ろ盾が出来るという二重の利点が出来る。
更に言えば、龍帝がリューネさんを龍姫として認める事で、リリエラさんの龍姫疑惑も解消されるって寸法だね!
『伝えるべき事は伝えた。そろそろ我はゆかねばならん!』
これ以上この場に居ても余計な事を喋っちゃいそうだし、僕はさっさと姿を消す事にする。
大きく空に跳躍すると、ゴールデンドラゴンが飛びあがって僕を背中に乗せる。
そんな事まで指示してないのに律儀だなぁ。
『さらばだ!』
そう言うと、僕達は龍峰へと向かって飛んでいった。
ふー、これで厄介事は全部終わったね。
……んー、何か忘れている気がするけど。
◆メグリ◆
「りゅ、龍帝様が飛んでいっちまった……」
レクスがゴールデンドラゴンと一緒に飛んでいくのを、観客達は呆然と見送っていた。
「な、なぁ、これどうなるんだ? 龍帝様は飛んで行っちまったし、龍姫様は龍姫様じゃなかったし……」
「お、俺が分かるかよ……でも、本当にどうするんだろうなぁ?」
困惑していたのは観客達だけじゃなく、閉会式を進行していた町長や運営もだった。
「ええと……優勝者である龍帝様が飛んで行ってしまったので……ええと、どうしましょうか龍姫様?」
困り果てた町長がリューネにどうしようと縋りつく。
っていうか運営が丸投げはどうかと思うけど。
「そうですね。では龍姫の儀は龍、いえリリエラ選手を表彰してください」
「え? よろしいのですか?」
龍姫であるリューネが居るのに、リリエラを表彰して良いのかと町長が困惑する。
「かまいませんよ。あくまで儀式ですからね」
「あ、ありがとうございます龍姫様。で、では優勝者であるリリエラ選手の表彰を行います。リリエラ選手前に!」
こうして、リリエラの表彰が終わり、次いで龍帝の儀の表彰をどうするかと相談が再開される。
「どういたしましょうか龍姫様?」
「そうですねぇ…… そうだ! 準優勝のノルブ選手を繰り上げで表彰してはいかがでしょう?」
「おお、それは良いアイデアですな!」
「っ‼」
身の危険を察知したノルブが一目散に外へと逃げ出した。
なかなか良い反応。ノルブもレクスに鍛えられているだけある。
「あっ、ノルブが逃げた」
「身体強化魔法まで使って、本気で嫌なのね」
「ノルブ選手―? ノルブ選手居ませんかー?」
結局逃げたノルブが見つからなかったので、リューネが代理として表彰される事になった。
「では龍帝陛下の代理として龍姫様を表彰させて頂きます」
「はい、龍帝陛下の代理となれることを光栄に思います」
「「「うぉぉーーーっ! 龍姫様―っ!」
「龍帝陛下ばんざーい!」
なんとか無事に表彰式が終わり、会場の皆が歓声をあげる。
長い試合もこれでようやく終わりか……
「あのー、ところでもう一つ問題があるんですが」
「え?」
これで全部終わったと思ったその時、町長がポツリと呟いた。
「え? なんかあったっけ?」
「さぁ?」
町の人達も何かあったかと首を傾げている。
「もう全て終わったと思うんですが、一体どんな問題があるんですか?」
リューネが首を傾げて質問すると、町長は申し訳なさそうに答える。
「ええとですね、龍姫の儀は元々町で行われていた儀式の龍姫様役を選ぶ為の大会だったのです。そして龍帝の儀も同様の理由で開催されました……のですが、龍帝陛下はつい先ほど飛んで行ってしまいました。龍姫様役はリリエラ選手が居るので良いのですが、龍帝陛下役はどうしましょう?」
「「「「「「……あっ」」」」」」
その時、会場に居た全員が思い出した。
この大会の本当の開催理由を。
うん、正直試合に夢中で忘れていた。
……今度こそノルブを連れて来る?
ノルブ((( ;゜Д゜)))「逃げろ僕! 全力で!」
町長(:3)レ∠)_「探せ―! 準優勝者を探せ―!」
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