第132話 追って追われて
_:(´д`」∠):_「連続投稿第四回!」
_:(´д`」∠):_「次回からはいつも通り週一連載にもどりまーす」
_:(´д`」∠):_「この熱気と湿気に満ちた時期に二万文字弱を数日で書くとか超キツイ……」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
◆ジャイロ◆
「なんだ!? 逃げたのか!?」
突然魔人の一人が空高く飛びあがった。
もう一人の仲間は地上に残っているってのにだ。
「嫌な予感がするわ!」
「させん!」
空に上がった魔人を追おうとミナが空に飛びあがろうとするが、残った魔人が攻撃してきてそれを遮る。
「ヤツを追わせはせんぞ。貴様等はここで足止めを喰らって貰う!」
そう言うと魔人はミナに襲い掛かる。
「させるかよ!」
俺は魔人とミナの間に入って攻撃を受け止める。
「貴方達、何を企んでいるの!?」
ミナが魔人に聞くと、魔人はニヤリと笑みを浮かべる。
「ふっ、決まっている。我等の目的は龍帝を始末する事よ!」
「龍帝を?」
コイツ等の言う龍帝って多分決勝で戦ってる兄貴の事だよな?
けどコイツ等が兄貴を倒す?
「私達に苦戦してた貴方達が? 無理じゃないの?」
だよな。正直アイツが兄貴に勝つ光景が思い浮かばねぇ。
まぁ俺達もこいつらに苦戦してたんだけどよ。
「龍帝は強いわよ。貴方達が何人集まっても勝てっこないわ。そもそも、アンタ達龍帝の正体を知ってるの?」
ミナの奴滅茶苦茶挑発するなぁ。
ただ、俺の後ろにいるミナはそれでも空に逃げた魔人を追おうとしてるみたいなんだが、魔人が俺を無視して後ろのミナに何度も攻撃を仕掛けて邪魔をしてやがる。
そのくせ俺が攻撃すると全力で避けるんだよな。
やりにくいったらないぜ。
「心配ないわ。町にはメグリが向かってるから、レクス達に事情を説明してくれる」
「マジか!? いつの間に?」
「アンタがコイツ等と戦ってるのを見つけた時によ。私がアンタの援護で、メグリは町に戻って連絡する事にしたの。今頃冒険者ギルド経由で町長達にも伝わって、レクス達にも直接伝えてくれるわ」
「そうか、そんじゃあ試合は中止だな」
結局試合が中止になっちまうか。
兄貴達には悪ぃ事しちまったな。
「だからまずはコイツを速攻で倒して、逃げたヤツに追いついて倒すわよ! レクス達の試合を邪魔させたくないんでしょ!」
「え?」
「予防策は打ったけど、大会を中止させずに済むならそれに越したことはないでしょ?」
「あ、ああ……」
コイツ、そこまで考えて援護に来てくれたのか。
「お前、すげぇなぁ」
「っ!? ま、まぁ、感謝しなさいよね! アンタの暴走の尻拭いは大変なんだから!」
「おう! 感謝するぜ! それじゃあ全力でコイツを倒すぞ!」
「ええっ!」
よし! やってやるぜ!
「あ、あれ? 焦らないのか? 何で?」
へっ、メグリが報告に行ってくれたんなら、焦る必要なんざねぇぜ!
寧ろお前の方が焦ってんじゃねぇか!
「喰らいなっ!」
俺は魔力強化を全力で発動させると、魔人に真正面から突っ込む。
最速最短でケリをつけるぜ!
「だからって真正面から突っ込むんじゃないわよ! エンチャントウインド!」
文句を言いながらミナが援護の魔法を飛ばしてくれる。
体が軽くなり、今まで以上に思い通りに体が動くぜ!
「お、おのれ!」
魔人も腹をくくったのか、マジな顔になって剣を振るう。
けど今頃マジになっても、もう遅いぜ!
「フレイムラッシュ!」
スピードを増した俺の攻撃は、魔人の反撃を受ける前に突き刺さる。
ミナの魔法で今まで以上に自由に動くようになった体は、連続攻撃の精度も上がっていて、反撃の為に振り下ろされた魔人の腕を焼き切る。
「ぐあぁぁぁぁぁっ!」
「止めだ!」
止めの一撃が魔人の心臓に突き刺さる。
「ぐはっ!?」
手ごたえありだ。
「へっ、相手が悪かったな」
俺の魔法剣はただ速く突くだけじゃない。
突いた傷口を焼く事で敵を体の内側から焼いてダメージを与える効果もあるんだ。
コイツの心臓は今まさに俺の魔法剣で焼かれていっている。
兄貴の話だと、高レベルの回復魔法か高級ポーションでないと治療は不可能なんだとか。
「お、おのれ……」
魔人が悔しそうに俺達を睨む。
もう遅いぜ、お前は終わりだ。
だが、突然魔人がニヤリと笑みを浮かべる。
「だ、だが甘かったな。これで龍帝は終わりだ……」
「はっ、兄貴がお前等なんかにやられるかよ。俺達にだって勝てなかったじゃねぇか」
「た、確かに、貴様等の強さは想定外だった……だが、それは正面から戦えばだ。我等には、あのマジックアイテムがある!」
「「マジックアイテム?」」
魔人の自信満々な様子に、俺達は首を傾げる。
たとえヤバイマジックアイテムを持っていたとしても、兄貴がそんな物に負けるとは思えねぇからだ。
それにメグリが町に向かってるから、兄貴達も気付いている筈。
「くくく……奴の持つマジックアイテムの名は、マナブレイカー。周囲の魔力を吸収して大爆発を引き起こすマジックアイテムよ」
「大爆発!?」
確かに街中で大爆発したらヤベェけど、けど、兄貴なら何とかしてくれる筈……
「待って、今なんて言ったの!?」
その時だった。魔人の話を聞いていたミナが顔を青くして叫ぶ。
「今、周囲の魔力を吸収するって言ったの!?」
「お、おいどうしたんだミナ? 何慌ててんだよ?」
「ほう、気付いたか。マナブレイカーが発動した魔法の魔力も吸収するという事に」
「何だって!?」
発動した魔法の魔力を吸収する? それってつまり……
俺はミナに視線を戻すと、ミナもこっちを見て首を縦に振る。
「つまりあの魔族が持っているマジックアイテムが発動したら、迎撃の魔法も爆発から皆を守る為の防御魔法も、全部吸収されるって事よ」
「なっ!? やべぇ! 急いで止めねぇと!」
「ふははははっ! もう遅い! 何故わざわざこんな事を教えたと思う! 我等は密偵故戦闘能力は高くないが、その分飛行速度は他の同胞よりも優れているのだ! 今から追っても間に合わんぞ!」
俺達は死に体の魔人を無視して空に飛びあがる。
死にかけてるコイツにわざわざとどめを刺す時間も惜しい。
「雑魚は任せた!」
俺は飛び出す前にバキンのおっさんに後の事を任せる。
「ジャイロ殿達はどちらへ!?」
「町を守りに行くっ!」
◆
足止めをしてきた魔人を倒した俺達は、町に向かった魔人を追いかける。
「兄貴に新しい装備を作って貰って助かったぜ」
新しい鎧が俺の飛行魔法を補助してくれるおかげで、先行していた魔人に少しずつ近づいていく。
けどそれでもまだ足りない。
このままじゃ先に町に到着されちまう。
「くそっ! 止まりやがれ!」
「巻き込まれない様に気を付けて! チェイスライトニングランサーズ!」
魔人を足止めする為、ミナが魔法をぶっぱなす。
「最速の雷槍を喰らいなさい!」
ミナの声に反応して、生み出された何本もの雷の槍が凄ぇ勢いで飛び出す。
流石雷の魔法は速いぜ!
「ちっ!」
雷槍の群れを回避する為にいやおうなしに魔人の速度が落ちる。
更に回避された筈のミナの魔法は、弧を描いて再び魔人に向かって襲い掛かった。
「くっ、追跡魔法か!?」
「その通りよ! 触れれば感電して動けなくなる雷光の槍の群れ、どこまで避けきれるかしら!」
よっしゃ、アレを避け続けるのはどう考えても無理だ!
となると魔法で迎撃するしかねぇ。
そうなりゃアイツが雷槍相手にモタモタしている間に俺達が追いつくぜ!
「ふっ」
その時だった、魔人の野郎が突然不敵な笑いを浮かべやがった。
「さすが龍帝の部下、なかなかの魔法。……だが俺には効かんな」
そう言って魔人が手に持っていた箱を開ける。
「まさか!?」
しまった、アイツにはアレがあったんだ!
「魔力を喰らえ! マナブレイカー!」
箱から取り出した宝石を掲げると、魔人を襲っていた雷槍が溶けるようにかき消えちまった。
「嘘っ!?」
自分の魔法が無力化されて、ミナが驚きの声を上げる。
「お前達は人間にしてはよくやった。誉めてやろう」
魔人の野郎が上から目線で俺達を誉めてくる。
「手前ぇに褒められても嬉しくもねぇよ!」
「ふっ、そう言うな。健闘したお前達には褒美をやろう」
「褒美だぁ!? 飯でも奢ってくれんのかよ!? 手前ぇみたいな奴が店に入ったら店の人間もビビって衛兵呼ばれちまうぜ!」
「ハハハハッ、そんなつまらんものではない。お前達にやる褒美は、龍帝が死ぬ瞬間を特等席で見る権利だ!」
魔人の動きが止まる。
気が付けば魔人はもう会場の真上に到着しちまっていた。
「しまった!」
「さぁ、人間の世が終わる瞬間を見るが良い! 終わりだ龍帝!」
「やめろぉぉぉっ!」
俺の制止を無視して、魔人が試合舞台に向かってマジックアイテムを投げつけた。
くそっ、ここからじゃとても間に合わない。
「兄貴ぃーっ!」
マジックアイテムがどんどん地上に近づいて行く。
くそっ、あの魔人の話が本当なら、兄貴の防御魔法がどれだけ凄くても爆発を防ぐ事は出来ねぇ!
それどころか兄貴の魔法を吸い取って街中で大爆発をしちまう!
「逃げてメグリ! リューネ!」
「ノルブ! おっちゃん達! 町の皆! 逃げろぉぉぉぉぉっ!」
ああ、俺は馬鹿だ。
あいつ等を見つけた時すぐに兄貴を呼んでもらえば良かったんだ。
俺が下らない拘りで一人突っ走った所為で、町の皆が……
どうしようもない程に最低な結果に、俺は心から後悔する。
カキィィィィィン!!
その時だった。突然なんだか良い音が聞こえたと思ったら、地上からとんでもない速度で何かが飛んできた。
「ふはははははははっ! 遂にこの世界から全ての竜騎士が滅ブベラァッ!?」
そして勝ち誇っていた魔人の顔面にぶち当たった。
「「へっ!?」」
そのまま魔人は空高くへと吹っ飛ばされ、遥か空の上で大爆発が起こった。
何が起きたのかさっぱり分からねぇ。
けど誰がやったのかは分かる。
「……兄貴だな」
理解が追いつかないまま、俺は脳裏に思い浮かんだ姿から兄貴の名を呟く。
「……うん、レクスね」
あの状況ですぐに事情を理解して対処するなんて、兄貴くらいしか無理だよなぁ……
俺達があれだけ苦戦して倒した魔人の襲撃を、兄貴はあっさりと解決しちまった。
「やっぱ、兄貴は凄ぇなぁ……」
本当に、兄貴は凄ぇよ。
兄貴は俺なんかとは違うんだな……
「なーに言ってんのよ! アンタだって魔人を倒したでしょ!」
「うおっ!?」
いきなりミナのヤツが俺の背中をスゲェ力で叩いてきやがった。
「相手は魔人よ? そんなのを一体でも倒したってだけで充分凄いわよ。覚えてないの? 私達が初めて魔人に遭遇したあの時の事を」
「……覚えてるよ。しっかりとな」
ああ、あの日の事は絶対忘れねぇ。
絶対死ぬと思った。吐きそうになる程ビビった。
けど、あの時は兄貴が居たから踏ん張れた。
兄貴が来るまで凌げればって。
「あの時と比べたら、格段の進歩じゃない私達? 普通たった二人で魔人なんて倒せないわよ?」
ん、まぁ……そう、かもな。
「だから胸を張りなさいよ! 俺達で魔人を倒したぜ兄貴―っ! ってね! 大体魔人が二体同時に出るのがズルいのよ! アンタに落ち度はないわ!」
ミナが俺の背中をバンバンと叩く。
いつもみたいにバカ呼ばわりしながら説教してくる時よりも、優しい感じだ。
コイツなりに気を使ってくれてんのかな。
ったく、普段は口うるせぇ癖に、こういう時ばっかり優しくしてくるんだからよ。
「アンタが外で戦ったから、私はメグリを町に向かわせることが出来たし、魔人の数を減らせたのよ。もし何も知らずに空からあのマジックアイテムを投げ込まれていたら、もっとひどい事になってたのは間違いないわ」
「……」
「だからね、アンタが戦った事は間違いじゃないって事よ」
「……ああ、分かったぜ。試合が終わったら兄貴に報告だ!」
「ええ、そうしなさい。ヘコんだアンタなんかより、そっちの方がずっとアンタらしいわ」
そうだな。俺だって強くなってるんだ。まだまだ兄貴には敵わねぇけど、それでもいつかは兄貴の背中に追いつける筈だ!
俺だけじゃあ無理かもしれねぇけど……俺にはコイツ等が居てくれるからな!
「おし! んじゃせっかくだし、ここで兄貴達の試合を観戦するとすっか」
「ふふ、特等席ね。空から観戦なんて、国王様でもやった事ない贅沢よ」
「だな!」
俺達は空の上から兄貴達を応援する。
次にこの町に来る時は、俺があそこで兄貴と戦う事を決意しながら。
「ところでよ」
「ん? なに?」
「お前魔法使いの癖に滅茶苦茶力が強くなったよな。さっき背中叩かれた時、骨が折れるかと思ったぞ。もう魔法使いじゃなくて素手で戦った方が強いんじゃねぇのか?」
「うっさい馬鹿! 静かに観戦してなさい!」
「ぐほぁっ!?」
痛ってぇー! やっぱコイツ魔法使いの力じゃねぇよ!
けどまぁ、こっちの方が俺達らしいよな。
はぁ、町の上を吹く風が、俺を慰めてくれるようだぜ。
◆
『っ!?』
ノルブさんとの戦いの最中、突如空に異変が起きた事に僕は気付いた。
空に現れたソレの周囲の魔力が消えていく。
覚えのあるその現象が何だったのか気付くより前に、それが高速でこちらに向かって飛んでくる。
「レクス! 町の外に魔人が現れた! ジャイロとミナが戦ってる!」
そこに息を切らせたメグリさんがやって来る。
彼女の言葉と空から飛んでくる何かが、魔人と関係があると気づいた僕は、即座に迎撃行動に出た。
周囲の魔力が消えていく事から、それが魔力を吸収する性質を持つ兵器だと察した僕は、即座に剣の握りを90度変えて、飛んできたそれを剣の腹で受けた。
そして体全体を使って衝撃を吸収したあと、思いっきり振り抜いた。
魔力を吸収するという事は、通常の身体強化魔法には頼れない。
けど、この程度の重量物なら、十分技で対処できる。
『ふんっ!』
ちょっと拍子抜けするくらいにあっさりと跳ね返せたソレは、空高く飛んでいき、そして何かに当たった後で爆発した。
ドォォォォォォン!!
「な、何だぁ!?」
「空で何かが爆発したぞ!?」
「ティランが何かしたのか!?」
念の為僕は、風の魔法を使って爆発した何かの破片が町に降り注がない様に遠くへ吹き飛ばす。
『こんなものかな』
「ええと、あの、今何かあったんですか?」
と、戦っていたノルブさんが申し訳なさそうに聞いてきた。
『ええ、何かが飛び込んできたので打ち返したんです。メグリさんの話だと魔人が放った何かだったみたいですけど』
「な、何だか分からないものを即座に跳ね返したんですか?」
『はい、よくわからなかったのでとりあえず跳ね返しておきました。爆発物である可能性を考慮して、ちゃんと衝撃を完全に吸収してから打ち返しましたので、受けた途端に爆発する危険はありませんでしたよ』
「それ、とんでもない技術なのでは?」
『いえいえ、コツを掴めば誰にでも出来ますよ』
完全衝撃吸収打法は衝撃に反応するタイプのマジックアイテム相手には必須の技術だからね!
「さらりと無茶振りをされました。しかも試合の最中に……」
なぜかノルブさんがここではないどこかを見つめている。
『ええと、それじゃあ試合の続きをしますか?』
「え? あっはい、そうですね」
こうして僕達は決勝戦を再開した。
それにしてもさっき飛んできたモノはなんだったんだろう?
ダルジン((( ;゜Д゜)))「ゴフッ、どうしてこうなった……」
アザム 〇(:3)∠)_「ポン」
ダルジン((( ;゜Д゜)))「ビクッ!?」
アザム 〇(:3)∠)_「ちょっとあの世でお話しようか」
ダルジン((( ;゜Д゜)))「ひぃっ!」
死神 (:3)レ∠)_「(出番待ち)」
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。