第129話 ジャイロの意地
_:(´д`」∠):_「今日は二度転生のコミカライズ一巻の発売日ですよー!」_
_:(´д`」∠):_「三巻発売とコミカライズ一巻を記念して、四日連続更新をしまーす!」
_:(´д`」∠):_「なお実際の所はあまりにも文字数が増えすぎた為に分割が多くなったからで……(日記はここで途切れている)」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「死ねぇ!」
試合開始直後、対戦相手の選手がノルブさんに向かって短剣を突き出しながら飛び出す。
「ハ、ハイプロテクション!」
パキィン!!
「なっ!?」
けれどノルブさんの防御魔法で対戦相手の短剣は真っ二つに折れてしまった。
「ええいっ!」
そしてカキーンという心地良い打撃音と共に、対戦相手の選手は場外に吹き飛ばされる。
「バーザス選手場外! 勝者ノルブ選手!」
「「「「「オォォォォォォォォォッ!!」」」」」
「いやー、一瞬でしたねぇ」
ノルブさんと相手選手との戦いは、文字通り一瞬で終わった。
それこそ三秒とかかっていなかったんじゃないかな?
「それにしても今の選手の動きは良かった。今回の大会で見て来た中ではピカイチの速さ」
「ええ、居る所には居るものねぇ。あれだけの使い手が無名だったなんて、やっぱり世の中は広いわ」
バーザス選手の飛び込みの速さを見て、メグリさんとリリエラさんが唸る。
「スピードで言えばメグリといい勝負だったわね」
「うーん、もしかしたら私より速かったかも……」
「まーけど、相手が悪かったな。ノルブの奴は凄ぇ堅ぇからなぁ」
「そうね、今回は相性が悪かったって事でしょうね。相手の選手の実力は凄かったけど、装備が普通過ぎたわ」
「達人は武器を選ばないって言うけど、強さが拮抗した相手だとやっぱり装備の良し悪しは大事ですね。あと全力を出しても壊れないように頑丈さを求めるとやっぱりそれなりの物が必要になりますし」
「いやー、そもそも普通の人は武器が壊れる様な全力が出せないから……」
「私もそんなセリフを言ってみたい」
「いや言わなくて良いから」
ともあれ、これで龍帝の儀の決勝戦は僕とノルブさんとの戦いに決まったね。
まさか決勝戦まで同門対決になるなんて思っても居なかったよ。
やっぱり大会の開催が急だったから、達人にまで情報が届かなかったのかなぁ?
◆
「皆の決勝進出を祝って、カンパーイ!」
皆の決勝進出が決まった事で、僕達はお祝いを兼ねて酒場でささやかな激励会を行う事になった。
発案者は途中敗退してしまったミナさんとメグリさんだ。
「私達は負けちゃったけど、皆は頑張ってよね」
「特にリリエラとリューネ、賞金目指して頑張って。ノルブはまぁ……死なない程度に頑張れ?」
「あ、ありがとう……ございます?」
「「そしてレクスは全力で手加減をするように!」」
それ激励じゃないですよね?
「あー、俺も兄貴と戦いたかったぁー……」
そんな呟きと共に、ジャイロ君がザクザクとフォークを料理に突き刺していた。
「アンタまだそんな事言ってんの? 諦めが悪いわねぇ。っていうかレクスと戦いたいなら訓練で相手して貰いなさいよ」
「ちっげぇよバカ! 俺は練習じゃなくってマジな戦いを兄貴としたいんだよ!」
ミナさんの言葉に、ジャイロ君はそうじゃないと口を尖らせる。
「何よ、人前で負ける姿を見られたいの? もしかして変態だった訳アンタ?」
「なんでそうなるんだよ! 負けても当たり前の練習とかじゃなくて! 本気で! 勝たなきゃいけない舞台で! 兄貴に全力で挑みたいんだ!」
「って言っても、どうせレクスには勝てないからどこで戦っても同じじゃないの」
「っ~! 分かんねぇかなぁ! そうじゃねぇんだよ!」
「男のプライドとか分かんないわよ。ほんっと無駄な事に拘るんだから」
なんだかんだ言って、ちゃんとジャイロ君のプライドの問題だって分かってるんだね。
付き合いが長いだけあるなぁ。
「勝つ事が目的じゃねぇんだよ! 全力で戦う事が大事なんだ! そんで負けたらそれはそれで兄貴が凄ぇ強いって皆に知れ渡って良いんだよ!」
え? それで良いの?
「あっそ、なら好きにしたらいいんじゃない?」
「おう! 好きにするぜ!」
そう言うとジャイロ君は気持ちに整理がついたのか、食事を再開する。
なんだかちょっと不穏な空気になりそうだったけど、無事に落ち着いて良かったよ。
◆
今日は決勝の日。
といっても戦うのは身内同士という事もあって、僕達は特に緊張する事もなくいつも通りだ。
「あー、とうとうレクスさんと戦うんですね……うう、胃が痛くなってきた」
「頑張れ」
ノルブさんは身内同士で戦うのが嫌なのか、試合が近づいてくるにつれ、不安気な様子になってきて、それをメグリさんが宥めている。
「そろそろ行きましょうか」
部屋から出てきたリリエラさんが試合会場への移動を促してくる。
「あれ? ジャイロとリューネは?」
とミナさんがジャイロ君達が居ないと首をかしげる。
「リューネは遅刻しないようにって、先に向かったわ。ジャイロ君はちょっと知らないわね」
「まぁあのバカの事だから、待ちきれねぇぜ! って、言って先に会場に行って良い席を探してるんでしょ」
あはは、ジャイロ君ならやりそうだなぁ。
「まだ開場まで時間あるんですけどね」
なんて事を話していた僕達だったけど、当のジャイロ君は会場に向かうどころか、全く別の場所へ向かっている事を、この時の僕達はまだ気付いていなかった。
◆ジャイロ◆
「そろそろ試合が始まった頃か……」
俺は今、町を出て龍峰に向かっていた。
もうすぐ兄貴達の試合が始まるってのにだ。
「けどこんな気持ちじゃ本気で兄貴達の応援なんて出来ねぇからなぁ」
兄貴達が戦う決勝戦が近づくにつれ、俺はモヤモヤとした気持ちが収まらなくなった。
最初は負けた事にも納得してたつもりだったんだが、やっぱり自分があの場所で兄貴と戦えないと思うと、自分が情けなくなってきたんだ。
俺は兄貴の舎弟として本当に強くなったのかって思ってよ。
兄貴は俺の我が儘を受け入れて舎弟にしてくれた。
それだけじゃなく修行まで付けてくれた。
自分でも凄ぇ強くなったって自信がある。
なんせドラゴンとも互角以上に戦えたんだからな!
と思った矢先にあの引き分けだ。
「結局俺はただの田舎者なんだよなぁ」
俺達ドラゴンスレイヤーズは同じ村で暮らした幼馴染だ。
小さい頃から皆でバカやってきた。
けど、ミナはそこそこ名の知れた魔法使いの孫で、ノルブも割と良い家柄の分家らしくて、将来は教会の総本山に修行に行く事が決まってるらしい。
そんで詳しい事は言えねぇが、メグリもあれで結構大変な奴だ。
「俺だけなーんにも無い普通のガキなんだよなぁ」
だからこそ俺は兄貴に憧れたんだよな。
突然現れて、たった一日でドラゴンを倒し、ほんの数日でイーヴィルボアをぶった切るわ、魔人を討伐するわの大立ち回り。
しかも兄貴は貴族でも特別な家系の生まれでもなく、ただの平民だった。
だからなおさら憧れた。
俺だって頑張れば兄貴みたいになれるかもしれないって。
けど結果はこのザマだ。
そりゃあ兄貴の下で修行を始めて間もないし、世の中には凄ぇ連中が一杯居るのは分かるよ。
けどな、それでもやっぱり負けたのは悔しいんだ。
「だから、こんな気持ちで応援なんてしたら、真面目に戦う兄貴達に申し訳が立たねぇ!」
なにより、ダチのノルブをそんな情けない目で見たくねぇ!
そんな訳で、俺は一人龍峰に修行をしに行く事にした。
少しでも強い奴等と戦って、負けた自分よりも強くなるために。
「ああそうだ、俺は兄貴みたいに強くならないとな!」
よしっ、思い出したら気合が入ってきた!
我ながら情けない試合結果だったが、気合が入るなら多少はマシだったって思えるもんだ。
「そんじゃそろそろ飛んで行くとすっか」
街中で飛ぶと周りが驚くからなぁ。
兄貴はそこらへんちょっと無頓着すぎて心配になるんだけどよ。
とその時だった。
「お待ちくださいジャイロ殿!」
町の方から馬に乗った連中が、俺の名前を呼びながら駆け寄って来たんだ。
「あ? 誰だアンタ等?」
なんか見覚えもある様な……
「私ですジャイロ殿! 龍帝派のバキン・ワッパージです!」
「バ……? ああ、リリエラの姐さんが言ってた連中か!」
そうだそうだ、確かこのおっさんは龍帝派とかいう王都から来たヤツだった。
けどなんか増えてる様な?
「俺になんか用か?」
俺が聞くと、バキンのおっさん達が背筋を伸ばして整列する。
「我々も貴方と共に戦う為に来たのです!」
「は?」
え? 何? こいつ等もドラゴン相手に修行するつもりなのか?
「ジャイロ殿が決勝戦を見に行かなかったのは、龍帝の儀と龍姫の儀を反龍帝派に邪魔させない為なのでしょう?」
「え?」
何だ? どういう意味だ?
「とぼけなくても分かっていますよ。町に潜んだ密偵共は黒騎士の方々を警戒して動けなくなっていますが、町の外から襲ってくる敵には手が回らないでしょう。それを見越してジャイロ殿もレクス殿と合流する予定なのでしょう?」
「はぁ?」
なんでそこで兄貴の名前が出て来るんだ!? 兄貴は今頃決勝戦だぞ!?
「私も最初はティラン選手の正体がレクス殿なのではないかと疑ったのですが、レクス殿の目的はそう勘違いさせつつ、陰から反龍帝派を監視するのが役目だったのですね?」
……あーそう言えばコイツ等ティランの正体が兄貴だって知らないんだったな。
成る程、それで俺と兄貴が裏でティランを守っているって勘違いしたのか。
……あー、どうすっかな。
ティランの正体が兄貴だって言う訳にもいかねーし、だからと言って反龍帝派とか全然関係ねぇんだけどなぁ。
けどコイツ等の様子を見ると、ホントの事を言っても信じて貰えそうもねぇよなぁ。
「少ないですが、王都からの援軍も到着しました。反龍帝派との戦いと考えると人数に不安は残りますが、龍帝陛下が派遣してくださった騎士団のお陰で、王都の反龍帝派も大半が捕らえられ、連中の戦力も激減しております。決して敵に後れを取る事は無いでしょう!」
マジかよ!? 俺達が試合をしている間に兄貴はそこまでやってたのか。
やっぱり兄貴は凄ぇな!
つっても、コイツ等が勘違いしてるのは間違いないわけで、どう説明したもんかなぁ。
……ん~、駄目だ! 上手い言い訳が思いつかねぇ!
しゃーない、ティランの正体は秘密にするとして、俺が反龍帝派と戦うつもりなんて全然ないって事は正直に言っちまおう。
信じなくても龍峰まで行っちまえばマジだったと分かって帰るだろ!
「俺は龍峰に修行に行くだけだ。別について来たいなら構わねぇけど、なんかあっても助けねぇぞ」
「ええ、分かっておりますとも! ゆくぞお前達!」
「「「「はっ!」」」」
バキンのおっさん達をわざと無視するように、俺は飛行魔法で空に飛びあがる。
「おおっ! 空を飛んでおられる! 流石は竜騎士!」
いや違うって。
俺はコイツ等を振り払うように、全力で龍峰に向かって飛ぶ。
「おおっ!? 速い!? 皆の者! ジャイロ殿に遅れるな!」
「「「「おおっ!」」」」
バキンのおっさん達は、馬を全力で走らせて俺について来る。
結構頑張ってついて来てるけど、しばらくしたら馬も疲れんだろ。
案の定、暫くすると少しずつ後れて来る奴等が出始めた。
「よっし、そんじゃもうちっと気合を入れて飛んで一気に引き離すとする……かっ!?」
その時だった、突然俺が向かっていた先から何かが飛んできたんだ。
「うぉっ!?」
スピードを出していた事もあって、ソレはあっという間に俺の懐ギリギリに入り込む。
「くっ、ぬぉぉっ!!」
危険を感じた本能がなかば無意識に身体強化魔法を発動させ、ギリギリでソレを回避する事に成功する。
攻撃を避ける刹那、俺は自分が何を避けたのか見た。
「魔法っ!?」
そう、それは魔力で作られた魔法の槍だった。
「誰だっ!?」
身体強化魔法で強化された俺の目が、その先に佇む奴等の姿を確認する。
そこに居たのは、バラバラの装備を身に纏った戦士の集団だった。
一見すると冒険者や傭兵に見えるけど、その割には妙に綺麗に並んでやがる。
どっちかっつーと、領主様の式典で見た騎士達の行進みたいだな。
「なんかよく分かんねぇけど、攻撃してきたって事は敵か?」
もしかしてバキンのオッサンが言ってた反龍帝派ってあいつ等の事か?
「と、考えてる余裕はなさそうだな」
連中、武器を構えてこっちを攻撃する気満々になってやがる。
「まぁいいぜ。そっちがその気なら、こっちも遠慮なく戦えるってもんだ!」
俺は全身に身体強化魔法をかけると、飛行魔法で真正面から敵に突っ込んでいく。
「ジャイロ殿―っ! 危険です! 戻ってください!」
後ろから追いついてきたバキンのオッサンの声が聞こえてきたが、あいにくとタラタラすんのは性に合わねぇんだよ!
「ぶっ飛びな! バーストブレイクッ!!」
横なぎに振り抜いた剣の刀身をなぞる様に、炎の三日月が飛び出す。
三日月は大きさを増しながら敵に向かっていき、敵の集団を纏めて吹き飛ばした。
「「「「ぐわぁぁぁぁっ!!」」」」
「へっ、どんなもんよ!」
兄貴が教えてくれたこの魔法は、剣の動きに合わせて発動させられるから使いやすいんだよな!
魔法にあそこに当たれってイメージするよりも、ブンと振った向こうに魔法が飛んでいく方が分かりやすいしよ!
まぁ代わりに仲間も巻き込んじまうような魔法だから、試合じゃ客席に遠慮して使えなかったんだけどな。
「おおっ! たった一発魔法を放っただけで敵が浮足立ったぞ!」
「さすがは竜騎士!」
「お見事ですジャイロ殿!」
そんな事を言いながら、バキンのオッサン達がやって来る。
「へへっ、まぁ外で戦うならこんなモンよ」
「あの者達が反龍帝派なのでしょうか?」
「分かんねぇ。けどいきなり攻撃してきたからな、味方じゃねぇだろ」
「ふむ、ならば反龍帝派でなかったとしても野盗か何かの類でしょうな。どちらにせよ手加減の必要はありますまい」
おしっ、そんなら全力でぶっとばしても心配いらねぇな!
「レクス殿に報告はされないのですか?」
「必要ねぇ! この程度の連中、兄貴の手を煩わせるまでもねぇよ!」
へっ、折角だから俺のストレス解消に役立って貰うぜ!
「承知! 皆の者、我等も戦うぞ!」
「「「「おおっ!!」」」」
集まってきた龍帝派の連中が反龍帝派に向かって行き、戦いが始まる。
「とうっ!」
「ぬおりゃあ!」
戦いは敵味方が入り混じった乱戦になった事で、お互いに攻撃魔法での援護がしにくくなっていた。
けど、そのおかげで俺達戦士にとっちゃ戦いやすいぜ。
「うおりゃぁぁぁぁぁ!」
俺は身体強化魔法を使って体のあちこちから推進力を得る為の炎を吹き出し、戦場を縦横無尽に駆け巡る。
「は、速い!?」
「うわぁ、炎が! 炎が!」
俺が通り過ぎた後には、俺のスピードに反応できず通り抜けざまに切り裂かれた敵と、体中から吹き出した炎が燃え移って慌てふためく敵の姿。
「こ、このっ! 死ねぇっ!」
気合の入ったヤツはビビる事無く俺に切りかかって来るが、正直ノルブよりも遅い。
「ぐわっ!? な、何をする!?」
「す、すまん!」
俺が軽く回避すると、うっかり勢い余って味方に攻撃を当てる始末だ。
もしかしてコイツ等実戦経験が少ないんじゃないのか?
「チョロイにもほどがあるぜ」
兄貴との修行に比べれば、この程度の連中なんてただ数が多いだけだ。
ああそうさ、本当にヤバい奴ってのは、どんだけ数を揃えたって勝てやしねぇ。
「兄貴みたいな本物に勝てるのは、本物の強さを持ったヤツだけなんだよっ!」
だから俺も強くなりたい。
本物の強さを持った男に、なりてぇんだ!
兄貴と、本気で戦う為に!
ジャイロ(:3)∠)_「兄貴に追いつくために! 俺は頑張るぜ!」
反龍帝派((( ;゜Д゜)))「な、なんかデタラメに強いのが襲ってきた!?」
ジャイロ(:3)∠)_「うぉぉぉぉっ! お前らを倒してもっと強くなるんだー!」
反龍帝派((( ;゜Д゜)))「やめて! 修行ならよそでして!」
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