第127話 龍姫達の戦い、準決勝
_:(´д`」∠):_「急に涼しくなってまいりました今日この頃」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
「ショボーン」
ついさっきの試合でダブルノックアウトになってしまったジャイロ君は、すっかりヘコんでいた。
「俺だけ負けた……」
せっかく勝ったと思ったら、まさかの偶然で引き分けになっちゃったみたいだからしかたないと言えばしかたないんだけどね。
「あーもう! いつまでもウダウダと鬱陶しいわね!失格になっちゃったものはしょうがないでしょ! 切り替えなさいよ!」
ヘコんでいたジャイロ君に我慢が出来なくなったミナさんが声を上げる。
「だってよぉー」
「だってじゃないわよ! もう終わったの! 悔しいならもっと強くなりなさい! 大会は今回だけじゃないんだから!」
「え? そうなのか?」
「龍帝が現れた事を記念して始めたんだからどうせ来年もやるでしょ。龍姫の儀がお祭り騒ぎになった事を考えたら、町の偉い人達が来年もやるのは目に見えてるわ。だからその時に勝てばいいでしょ」
まぁ、確かにその可能性は高いかもね。
っていうかそうなる気がする。
「そうか、また参加すれば良いんだな」
ジャイロ君が顔を上げる。
「そうよ」
「もっと強くなればいいんだな」
「そうよ」
「……よっしゃ! 分かったぜミナ! 俺はもっともっと強くなって来年こそ優勝してやるぜ!」
「「「おおー」」」
ジャイロ君の宣言に、ミナさん達が手を叩いて盛り上げる。
さすが昔から一緒だっただけあって付き合いがいいや。
こういう関係を築ける友達っていいよね。
「さっ、それじゃあメグリとリューネの応援に行くわよ!」
「おう!」
そうだった、これからメグリさんとリューネさんの試合なんだよね。
試合が進んで人数が減ると、こうやって同門対決が多くなるのが難点だなぁ。
「次は準決勝だから、どっちが勝っても私達の身内が決勝に出るのよねぇ」
そう、ミナさんの言う通り、龍姫の儀は準決勝。
選手の数はもう残り四人にまで減っていたんだ。
ちなみに龍帝の儀に参加してる僕達も次の試合が準決勝なんだよね。
けど、ジャイロ君が試合で両者引き分けになった事で、選手が残り三人になっちゃったから、次の試合に選ばれた選手は不戦勝になるみたいなんだ。
一体誰が不戦勝になるんだろうね。
◆
「それでは準決勝、試合開始!」
審判の宣言と共に、メグリさんとリューネさんの試合が始まる。
「はぁっ!」
「くっ!」
けれど不思議な事にメグリさんの動きは不自然に鈍く、更に槍と短剣という武器の違いも相性が悪かった。
結果メグリさんはジリジリと押されていき、最終的には場外に押し出されてリューネさんの勝利となった。
「勝者リューネ!」
「やったぁー!」
試合に勝ったリューネさんが無邪気に喜んでいる。
「意外と早く終わったわね」
「装備の相性が悪かったですね」
これがミナさんだったら遠距離から魔法で削る事が出来ただろう。
リューネさんはメグリさん程スピード特化タイプじゃないから、身体強化魔法を上手く使えば十分勝ち目はあっただろうしね。
「けどなんでメグリさんはあんなに動きが鈍っていたんだろう? いつものメグリさんの動きじゃなかったですけど?」
「あっそうか、レクスは前の試合を見てないんだっけ。前の試合じゃ私とメグリが戦ったのよ。お互い本気で戦ったから、メグリも試合の疲れが残っていたのね。私も魔力を相当消耗したし……」
なるほど、それならしょうがない。
前世でも長丁場の時はその日の戦いだけじゃなく、翌日以降の戦いを考えて常に体調を最善の状態に整えておく必要があったからね。
「しまったなぁ、それならこれを渡しておくべきだったよ」
僕は懐からポーションを取り出す。
「それは?」
「僕が作った万能ポーションです。怪我を治すだけでなく、体力と魔力も同時に回復する事が出来るんですよ」
「さらっと凄い物が出てきた」
「あっ、折角ですからミナさんもどうですか? 試合の疲れが残っているんですよね?」
「あー、うん……ちょっと怖いけど、まぁレクスが作った物だから危険はない……かな?」
そう言って万能ポーションを受け取ったミナさんがふたを開けて中身を飲み込むと、その体が淡く光り始める。
「え!? 何これ!?」
ポーションは瞬く間にミナさんの体を癒し、消耗した魔力も回復させていく。
「う、嘘!? 魔力がこんな一瞬で!? 何!? 何なのコレ!?」
うん、ちゃんと効果を発揮したみたいだね。
作り方はちゃんと覚えていたけど、僕が飲む機会が全然なかったからなぁ。
そして試合を終えたリューネさんが満面の笑みで僕達の所に戻ってくる。
「勝ちましたよ、レクス師匠!」
「おめでとうございます、リューネさん」
心から嬉しそうに報告してくるリューネさんを労っていると、心なしか落ち込んだ様子のメグリさんも戻ってきた。
「くっ、前の戦いで消耗し過ぎた……賞金が……」
「あはは、すみません」
うーん、こういう時知り合い同士だと気まずいよね。
「あれ? どうしたんですかミナさん?」
とリューネさんがミナさんの様子に首を傾げる。
「ああ、僕の作った万能ポーションを飲んで体力と魔力を回復させたんですよ。お二人もどうぞ」
そう言って僕は二人にも万能ポーションを手渡す。
「万能ポーション? 体力と魔力を回復させる?」
「普通のポーションに見えるけど……?」
首を傾げながら二人がポーションを口にする。
「あっダメ! メグリは飲んじゃダメ!」
そしたらいつの間にか我に返っていたミナさんがメグリさんに万能ポーションを飲むなと叫んだ。
「え?」
けれど既にメグリさんは万能ポーションを飲み込んでしまった後で。
そしてリューネさんとメグリさんの体が淡く輝き、試合で受けた傷が癒えていく。
「うわっ、なんですこれ? 傷だけじゃなくて体中の疲れが一瞬で吹き飛んじゃいました! それに試合で消耗した筈の魔力も漲って……体が軽すぎて自分の体じゃないみたいです!?」
あはは、普通の万能ポーションにそれは言い過ぎだよ。
「そのポーションは怪我の治療だけじゃなく体力と魔力も回復させる効果があるんだ。あと弱い毒消しの効果もね。ほら、何種類もポーションを持ち歩いても荷物になるし戦闘時に何本も飲んでいたら隙だらけでしょ? だからそれ一本で全部治るようにしたんだ」
「えっ? そんなポーションがあるなんて初めて聞きましたよ!? そんなの作れるんですか!?」
「無理無理、普通は作れやしないわよ。違う効能のポーションの素材を一緒に混ぜたりなんてしたら、最悪毒薬の完成よ」
「ですよね……」
「そんなものが普通に存在してたら、他のポーションは軒並み価値が大暴落よ。しかもそんなとんでもないのをこのタイミングでメグリに飲ませたりしちゃって」
「あー……」
ミナさんの溜め息にリューネさんが同意するように声を上げる。
ええと、どういう事?
「……ガクリ」
そしたら突然メグリさんが膝を折って地面にひれ伏した。
「ええっ!? どうしたんですかメグリさん!?」
まさか薬の調合をミスった!?
「完全に体が回復してる……」
あれ? ちゃんと治ってる? だったら何でそんなに悔しそうな顔をしている訳!?
「もっと早くこれを飲んでいれば! 全力で戦えたのにっ!」
「あっ……」
「今更こんなモノがあるなんて知ったら、そりゃあねぇ……」
「ええ、私だって同じ状況になったらそう言わずにはおれませんね……」
「れぇーくぅーすぅー……」
心底恨めし気に、メグリさんが僕をじっとりとした目で睨んでいた。
「す、すみません……」
こ、この状況どうしよう……
「はいはい、今更悔しがってもしょうがないでしょ。そもそも普通の選手はこんな薬飲めないんだから。そ・れ・よ・り・も・怪我も治った事だし、リリエラの応援に専念しましょ」
「そうでした。次の試合で決勝の相手が決まるんですよね! 皆で龍姫様を応援しましょう!」
「そ、そうですね!」
ミナさんとリューネさんのナイスなフォローのおかげで、僕は窮地を脱する事が出来たのだった。
「じーっ……」
……脱せてないみたいです。
◆
「それではリリエラ選手、ケイト選手、前に」
ちょっとゴタゴタはあったけど、リリエラさん達が会場に姿を現す。
そして審判に促され、二人が試合舞台の中央で武器を構え向かい合う。
決勝戦の対戦相手を決める戦いなだけに、観客達も真剣な様子で試合を見守っていた。
「なぁ、どっちが勝つと思う?」
「そりゃお前龍姫様だろ」
「だよなぁ。相手の姉ちゃんも可哀そうになぁ」
「相手が悪いよな。怪我しないように頑張れよー姉ちゃん」
……真剣?
「試合、開始っ!」
「「たぁーっ!!」」
試合開始の合図と共に2人が刃を交える。
そして、相手選手の剣が真っ二つに折れて喉元にリリエラさんの槍が付きつけられた。
「ま、参った……」
正に電光石火、勝負は一瞬で決まってしまった。
「勝者、リリエラ選手!」
「「「「「おおーーっ‼」」」」」
リリエラさんの勝利が決まり、観客席から歓声が上がる。
こうして、決勝戦はリリエラさん対リューネさんの同門対決に決まったのだった。
◆
「ところで、今までどこに行ってたの?」
今日の試合が終わり、皆で祝勝会を兼ねた食事をしていたら、リリエラさんが僕の外出の理由を聞いてきた。
「ちょっと王都まで行って反龍帝派の足止めをしていたんです」
「「「「「「あっ」」」」」」
「キュッ」
え? 何その『察した』って表情は?
「ええと、とりあえずそれで反龍帝派の人達は上手い事捕まえたんだけど、宰相だけは見つからなかったんだ」
「宰相だけ?」
「うん、捕まえたのは影武者で、自分が本物だって言い張って本物の宰相の居場所は頑として口にしないんだよね。護衛の弱さとか僕に見つかるタイミングとかを考えると偽物なのは間違いないんだけど」
そう、影武者は不自然なくらいタイミングよく見つかった。
明らかにこっちを誘っていると分かるくらいに簡単に。
「敵ながら見事な忠誠心だったよ」
「「「「「「あー」」」」」」
「キュー」
だから何、そのそういう事ねって言いたげな目つきは?
「とりあえず影武者は龍帝派の貴族の人に預けて来たよ。ただ普段から本物を見慣れている貴族の人達も騙されるくらいそっくりだったみたいだから、ちゃんと偽者だって念を押しておいたけどね」
「あーうん、分かったわ。偽者って事で納得してもらったのね」
「そっかー偽者って事で納得させちゃったのかー」
「偽物って事で納得したという事は……」
「どんな尋問をしても偽者だから問題ないという事……」
「まー偽者だしなー」
「そうですねぇ、偽物という事で一つ」
「キュッキュー」
何だろう、皆が凄く影武者に対して憐れむ様な眼差しをしているんだけど。
やっぱり敵とは言えそこまで忠誠心に溢れた相手には敬意を示しちゃうんだろうね。
前世でも敵にしておくには惜しい忠誠心に溢れた相手は何人も居たからなぁ。
「ともあれ、これでしばらくは反龍帝派も動けない筈です。今のうちに龍姫の儀と龍帝の儀を終わらせて、リューネさんが龍姫の正統な後継者と知らしめましょう!」
「はい! 龍姫さ……いえ、リリエラさんに勝ってこの槍を天下にとどろかせて見せます!」
「……しまった!?」
意気込むリューネさんの言葉を聞いて、リリエラさんが愕然とした顔になる。
「どうしたんですかリリエラさん?」
「普通にここまで勝ち進んじゃったーっ!」
……ええと、頑張ってください。
メグリ(:3)∠)_「ゴゴゴゴゴッ(無言の怒り)」
レクス((( ;゜Д゜)))「メグリさんが怖いです」
リリエラ((( ;゜Д゜)))「どうやって決勝を上手く収めよう……」
ニセ宰相(?)((( ;゜Д゜)))「どうやって本物だと信じてもらおう」
貴族達(:3)∠)_「いやー偽物じゃあしょうがないなぁ、尋問しなきゃ(棒)」
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。