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第126話 ジャイロと男の壁

_:(´д`」∠):_「お盆も明けたので通常営業にはいりまーっす!」

_:(´д`」∠):_「今週中にもう一話更新したいところですねぇ」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

 ◆ジャイロ◆


「さーって、次の相手はどいつだ?」


 係に呼ばれ、試合場へ出ると、観客席から歓声が上がる。


「ジャイロが来たぞ!」


「蒼炎のジャイロだ!」


 本戦で勝ち続けていたら、観客達は俺の事を蒼炎のジャイロと呼ぶようになっていた。

 どうも俺の使う強化魔法の炎の色からつけたらしい。

 ちょっと照れくさいけど、二つ名っていうのも悪くないよな。


 観客達に手を振ってサービスすると、観客席が更に盛り上がる。

 いいねいいね、これぞ一流の冒険者って感じだぜ!


「へへっ、この試合もバシッと決めてやるぜ!」


 試合舞台に上がると、反対側から対戦相手が同時に舞台に上がってくる。

 そいつは頭にバケツ兜を被ったガタイの良い戦士だった。

 確か名前はウソリって言ったっけ。


 装備は硬革と金属を半分ずつ使った鎧で、避けて戦うよりは打ち合って戦うタイプの装備だな。

 回避には向かないが大事な部分だけを金属で守る感じか。


 昔の俺ならいっそ全部金属にすりゃ良いだろって思っただろうが、今の俺には無駄な部分まで重くするのは無駄だって分かる。

 それはつまり相手も分かっていてそういう装備にしてるってこった。


 そしてウソリの得物だが、こいつがちょっと変わっていた。

 というのも、奴の得物は二本のロングソードだって事だ。


 片手でも扱いやすいナイフやショートソードじゃなく、両方ともロングソードなんだよな。


 初めて見たときはあれでちゃんと戦えんのかって思ったんだけどよ、実際に試合に出たアイツは二本のロングソードを軽々と扱って危なげなく試合に勝ったんだ。


「アイツ、今までの連中とはちょっと違うぜ」


 兄貴に修行をつけてもらうようになった事で、俺もちっとは相手の強さってもんが分かるようになってきた。

 その俺の目から見れば、コイツは間違いなく強いぜ。


「ジャイロ選手、ウソリ選手、両者とも前へ」


 審判に呼ばれて前に出た俺達は、互いに得物を構える。

 武器を構えた瞬間、相手の空気が変わった事を感じて肌がビリビリしてしてきやがるぜ。

 

「それでは、試合始め!」


「いっくぜぇー!」


 開始の合図とともに俺は速攻で前に出る。

 それはウソリのヤツも同じで、お互いが前に出た事で一瞬で距離が詰まった。


「っらぁ!」


『……っ!』


 お互いの剣のぶつかる感触。

 ウソリがぶつかった互いの剣を支点にして体を回し、反対側の手に構えた得物で俺を攻撃しようとする。

 だがそいつはムリってもんだぜ。


『っ!?』


 何故なら、アンタの剣は俺の剣の切れ味に耐えられないんだからよ!


 俺の剣はウソリの剣をあっさりと切断し、奴はバランスを崩して再度の攻撃に失敗する。

 欲を言えば相手の剣の根元から切断したかったんだが、残念な事にウソリの剣は短めのショートソードくらいには刀身が残っていた。


 とはいえ、これで折った方の剣のリーチは半減だ。

 一気に畳みかけるぜ!


 俺は飛行魔法の応用で背中の片側にだけ炎を噴出させると、体を無理やり半回転させてウソリに向き直る。

 更に振りぬいた剣からこれまた半分だけ炎を噴出させて、弾き飛ばすようにウソリに切りかかった。


「ブーストスラァッシュッ!!」


 一瞬で最高速度まで加速した剣がウソリを襲う。


『くっ!』


 だがウソリはかろうじて俺の攻撃を回避すると、後ろに跳び退って体勢を立て直す。


「へっ、やるじゃねぇの」


 ◆ウソリ◆


 何という事だ。

 修行のために素性を隠して大会に参加してみれば、この様な所でこれほどの実力者に出会うとは!

 ()()()()を受けた事で、己の力不足を思い知った俺は、もう一度己を鍛え直す為の旅に出た。


 そしてたまたま立ち寄った町で開催していた大会に参加したのは正解だった。

 修行の旅に出て早くもこれ程の死闘を味わえるとはな!


「さてっと、そんじゃ行くぜ!」


 言うや否や、蒼炎のジャイロと呼ばれた少年が俺に向かって飛びかかってくる。

 その飛び込みの勢いたるや、()()()()を彷彿させる程だ。


 そう、彗星の様に現れ、瞬く間にその名を知らしめた怪物。

 最も若きSランク冒険者、大物喰らい「レクス」の姿を。


『ぬぅっ!』


 俺はギリギリで蒼炎の剣を回避する。

 先ほどの切りあいで、あの剣を受ける事は無意味だと分かったからな。

 しかし誤算だったのは、蒼炎の二つ名の由来となった強化魔法を使わずともあれほどの切れ味を誇る武器だった事か。

 おかげで得物の片割れがこの通りだ。


『せめてこれがいつもの相棒だったらな』


「あっ? 何だって?」


 俺の呟きが聞こえたらしい蒼炎が耳聡く聞き返してくる。

 聞こえはしたが、内容までは聞き取れなかったようだな。


 だがそれでいい。

 万全の状況なら勝てるなどというのは、甘えにすぎん。

 なにより、()()()()があっては修行のやり直しにならんからな。


 アレに頼り過ぎていたと気付いたからこそ、俺は自分を鍛え直す為にわざと二振りの相棒達を封印したのだ。


 そう考えると、この蒼炎はギリギリの危機感を与えてくれるいい相手だ。

 あの剣の切れ味は、いつぞや戦った巨大キメラの危険な一撃に匹敵する。

 どちらも当たればタダでは済まないという意味でな。


 俺は蒼炎の攻撃を紙一重で回避し続ける。

 一撃でも喰らえば装備が使い物にならなくなるからな。

 なにより、この相手に反撃する為には、無駄な動きを無くし薄皮一枚で回避しなければならない。


 まぁ、実際にはギリギリでないと蒼炎の攻撃を回避できないというのが本音なんだが。

 いや全く情けない。

 我ながらこんな体たらくで、よくSランク冒険者を名乗れたものだ。


『まったく、世界は広い』


 ただひたすらに回避に専念する。

 黒牙と白牙がない事でここまで苦戦するのだから、自分の未熟を思い知る。


 そして蒼炎の技術も凄まじい。

 装備の性能も厄介だが、何より恐ろしいのはその武器を自在に使いこなす技だ。

 魔法と剣技を融合させるセンスも侮れん。


 相手の攻撃にひるむ事なくとびこんでくる負けん気といい、見た目の若さからは想像もつかないほどの修羅場をくぐってきたのだろうな。

 まだまだ荒削りな部分は見えるが、単純な能力では俺を超えているか。


 とはいえ、それだけでは勝てないのが勝負の世界だ。

 時に戦いとは弱者が強者に勝つこともあり得る。

 それを実現する為、俺は辛抱強く蒼炎の攻撃を凌いでいく。


「くっそ」


 そうすると、蒼炎が焦れてくるのが分かる。

 技術と度胸は大したものだが、やはりここは若いな。


「ならこれならどうだっ!」


 この若者には、辛抱強さが足りない。

 焦れた蒼炎が力づくで状況を変化させる為に切り札を切ってくる。

 だがそれこそが俺の狙い!


『ここだ!』


 俺はわざと蒼炎を懐に入れると自らの得物で受ける。

 当然俺の剣は蒼炎の剣に切断され完全に使い物にならなくなるが、それは織り込み済みだ。


 俺の剣を切断した事で蒼炎が勝利を確信した笑みを浮かべる。

 二刀流の俺から得物を一本奪えば戦力が半減すると考えたんだろう。

 確かにそれは正しい。

 実際武器が減った事で俺の戦力は半減だ。


 だから俺は使い物にならなくなった剣を躊躇う事無く捨て、残った剣で蒼炎に斬りかかる。


「なっ⁉︎」


 得物の片割れを失った事に躊躇う様子もない俺の姿に、むしろ蒼炎の方が動揺する。


『俺は自分よりも格上の敵と戦う事には慣れているのさ』


「うぁっ⁉︎」


 俺の剣が蒼炎の得物を天高く弾き飛ばす。

 どれほど強かろうとも、得物を失ってしまえばそもそも戦う事すらできまい。

 巨体の魔物ならともかく、素手で俺の鎧を破壊する事は不可能。

 ならば剣が残っている俺の方が有利!


『終いだっ!』


 渾身の一撃を蒼炎に叩き込む。


「ああ……アンタがな!」


 蒼炎が不可解な言葉を呟いた瞬間、鳩尾に激しい衝撃が走った。


『がはっ……っ⁉︎』


 激痛で硬直し動けなくなった体を酷使して唯一動く目を下に下げると、そこには蒼炎の拳が深々と突き刺さっていた。


『ば、馬鹿な……⁉︎』


 まさか、蒼炎の狙いも俺と一緒だったとは……


『双大牙のリソウ一生の不覚……』


 ◆


 やられた、完全にそう思った。

 コイツは俺に武器を破壊されてショックを受けるどころか、自分の武器を誘いに使いやがった。


 お陰で俺の剣は空高くに弾き飛ばされちまった。

 この野郎、とんでもねぇ思い切りの良さだ!


 そして無防備になった俺に、ウソリが剣を振り下ろす。

 くそっ、バランスを崩したこの状況じゃアレを避けれねぇ……

 何より武器が無くなっちまった。

 これじゃあ戦えねぇ。


 すまねぇ兄貴、折角兄貴にスゲェ装備を作ってもらったってぇのに。

 兄貴だったら、こんな状況でもなんとか出来……

 

 そうだ! 兄貴ならこんな程度のピンチじゃ諦めねぇに決まってる!

 俺は兄貴みたいに強くはねぇけど、それでも兄貴の舎弟だ!

 そんな俺がこんな所で諦められるかよ!


「何より、俺はまだ負けてねぇ!」


 諦めるのは負けた後にすりゃあいい!


 俺は拳に魔力を込めて自分の腕を強化する。

 コイツは以前兄貴から教わった身体強化魔法のピンポイント強化ってヤツだ!

 これをやるとほかの部分の強化が弱くなっちまうのが欠点だって兄貴は言ってたけど、成功すれば俺の拳は鉄だって砕けるはずだ!


 いや、はずじゃねぇ! ぜってぇできる!

 こいつはチャンスなんだ!

 ヤベェくらい強い敵との戦いは、俺が兄貴に追いつく為のチャンスなんだ!


『終いだっ!』


 ウソリが勝利を確信した叫びをあげる。


「ああ……アンタがな!」


『何!?』


 兜の奥からウソリの驚きの声が聞こえるのも無視して、俺は思いっきりウソリの剣に拳を叩き込む。


『正気か⁉︎』


 俺の命知らずの行動にウソリが困惑の声をあげる。

 そして俺は、賭けに勝った。


 俺の拳はウソリの剣に斬られて真っ二つになる事はなく、逆にウソリの剣を真っ二つにへし折る。

 更に拳は勢いを殺すことなくウソリの鎧を紙のようにひしゃげさせた。


『ごぉっ⁉︎』


 俺の攻撃は完全に決まりウソリの体がくの字に曲がる。

 そして兜の隙間から見えていた目の光が消える。


「よっしゃ!」


 勝った、俺はまた一歩兄貴に近づいた。

 そう思った、その時だった。


「ゴフッ⁉︎」


 突然脳天にとんでもない痛みが走り、俺は何が起きたのかも分からず意識を失った。


 ◆ミナ◆


 だれもがジャイロの勝利を確信したその瞬間、空から降ってきた何かがジャイロの脳天に直撃した。

 そしてジャイロは短く悲鳴をあげると、ゆっくりと地面に倒れていく。


「「「「「……」」」」」


 突然の出来事に試合場から歓声が消える。

 落ちてきたのはジャイロの武器だった。

 どうもウソリ選手に弾かれて宙に舞っていた武器が、勝負が決まった直後にジャイロの頭に落ちてきたみたいね。


「……」


 そして審判が二人のそばにしゃがみ込むと、完全に意識を失っているのを確認して首を軽く横に振る。

 そして立ち上がると両手を上にあげて大きく交差した。


「この勝負、ダブルノックアウトと判断し引き分けとするっ!」


「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎」」」」」


 こうして、ジャイロとウソリ選手の試合は、まさかの両者気絶による引き分けに終わってしまったのだった。


「あの馬鹿、最後の最後に油断したわね……」


 まぁ不可抗力ではあるんだけど……もうちょっとねぇ?


「あれ? もう試合終わっちゃったの?」


 そして、間の悪いことに、試合が終わったこのタイミングでレクスが帰ってきた。

 あーいや、あの馬鹿にとっては恥ずかしい瞬間を見られなかっただけマシなのかしらね?

レクス(:3)∠)_「余談だけどジャイロ君達の武器は、主人を傷つける事がないようにセーフティがかかっているから、刃が当たっても死ぬことはないよ」

ジャイロ(இ ω இ`。)「でも超痛いぜ」

ウソリ(:3)∠)_「それはそれとして、壊れた武器の修理費が痛い」


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[良い点] ジャイロ君はSランクに近くなってた!
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