第122話 復活の龍帝騎士団
_:(´д`」∠):_「うぐぐ、体調が悪い……風邪かな?」
_:(´д`」∠):_「調子悪いので今回はいつもよりミスが多いかもしれません」
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◆リリエラ◆
「龍姫様ですね」
宿への帰り道、突然目の前にフードを被った男が現れた。
うーん、また裏社会の人間かしら?
けどいままで不意打ちをしてきたっていうのに、なんで今日は真正面からきたのかしら?
もしかして油断させて後ろから不意打ちでもするつもりとか?
念の為身体強化魔法を発動させておきましょうか。
相手に気取られないように弱めにね。
「人違いよ」
「お戯れを。我々にはちゃあんと分かっておりますよ」
うん、全然分かってないわね。
「人を呼ぶわよ」
「それはお止めになった方がよろしいかと。この町の住人を巻き込みたくないのでしたらね?」
「どういうことかしら?」
まさか今度は町の人間を人質にするつもり?
裏社会の人間だとしても、さすがにイカサマ博打でそれはやりすぎじゃないかしら?
町の住人全てを敵に回したらそっちだってやりづらくなるでしょうに。
「我々は貴女にお願いがあるのですよ」
「私にお願い?」
今まで散々襲ってきたっていうのに、今更話し合い? まぁ町の人達を人質に取られているから、今でも十分卑怯な事には変わりないんだけどね。
「我々は龍帝陛下と交渉したいのです」
「え?」
龍帝? あれ? イカサマ博打の元締めじゃなかったの?
いやまぁ、たしかに龍帝が狙われているとは聞いていたけれど。
それじゃあまさか……
「ええっと……もしかして今まで私達を襲ってきたのって、貴方達の手下だったの⁉︎」
「その通りです。しかしさすがは龍姫様とそのお仲間ですよ。よもや我らの送った精鋭達をことごとく返り討ちにされるとは」
「あんまりにも弱すぎたから、てっきりショボい盗賊団の仕業かと思ってたんだけど……」
「……え?」
「……あっ」
し、しまった、ついうっかり本音が出ちゃった。
いけないいけない、最近レクスさんの基準に染められてる気がするわ。気をつけないと。
「ん、んんっ! と、ともあれですね。私達は龍帝陛下との交渉を求めます。対価はこの町の住人の命です」
◆
「なんて事があったのよ」
宿に帰ってきたリリエラさんは、帰り道で起きた出来事を僕らに説明する。
「町が人質って、大変じゃない⁉︎」
「ええ、急ぎ衛兵の方々と冒険者ギルドに報告する必要がありますね」
「それはやめた方がいいと思う。事情を説明しに行くのを見られたら、最悪町の人達が見せしめに襲われるかも」
すぐに衛兵に通報するべきだというノルブさんを、メグリさんが制止する。
「僕も同意見です。向こうがそこまで強硬策をとってきた以上、こっちは監視されているだろうし」
「じゃあどうするんだよ兄貴? まさか素直にソイツらの所に行くつもりなのか!?」
僕の言葉に、ジャイロ君が心配そうに見てくる。
うん、仲間に心配してもらえるって良いね。
「うーん、それも止めた方がいいわね。相手は龍帝への謁見とか言ってるけど、これまでの話を思い出すかぎり、相手の狙いは間違いなく龍帝の命でしょ」
そうだね、龍帝を狙ってきた相手が今更話し合いで解決するとは思えない。
相手がなかなか倒せないから話し合いのフリをして命を狙うなんてのは、前世でもよくあったパターンだからわかるよ。
うん、よく命を狙われました。
「けど町の人達が人質にされている以上、相手の要求を飲むしかないんじゃないの?」
うーん、これは急いで何か対策を取らないといけないな。
「……」
と、そんな中、何故かリューネさんが顔を真っ青にして震えているのに気づく。
「どうしたんですかリューネさん?」
「っ!?」
僕に声を掛けられたリューネさんがビクリと体を震わせる。
「リューネさん? 本当にどうしたんです?」
町の人達が人質にされていると聞いて不安になるのは分かるけど、流石にこの怯えようはおかしい。
「す、すみませんレクス師匠……」
「どうしたのリューネ? 何で貴女が謝るの?」
リューネさんの様子がおかしいと気づき、リリエラさんが彼女の言葉の意味を問う。
「私……私の、私の所為なんですっ!!」
突然、自分の所為だと言い出したリューネさんに僕達は驚く。
「な、何がなんです!?」
「私が、私が早く竜騎士になれなかったから、こんな事になってしまったんです!」
ええ!? なんでそうなるの!?
「龍姫の子孫である私が早く証を立てる事が出来なかったから!」
「リューネさんが龍姫の子孫!?」
一体どういう事!?
「落ち着いて、大丈夫よリューネ」
取り乱したリューネさんに困惑していると、リリエラさんがリューネさんを優しく抱きしめて宥める。
「っ!? でっ、でもっ」
「大丈夫だから、落ち着いて」
優しく、子供をあやす様にリリエラさんはリューネさんの背中を撫でる。
「あっ……っ」
興奮していたリューネさんだったけど、リリエラさんに背中を撫でられていくうちに少しずつ落ち着きを取り戻していった。
うーん、こういう時女性の仲間がいるってありがたいなぁ。
正直僕等男だけだったらこんなに早くリューネさんを宥める事はできなかったよ。
そして落ち着きを取り戻したリューネさんが事情を話し始める。
「私は龍帝と龍姫の間に生まれた子供の子孫なんです……」
リューネさんは、ゆっくりと噛み締める様にかつて起きた出来事を語り始めた。
「龍姫様の子供が生まれて数代が経った頃、私のご先祖様は生まれました。けれどご先祖様は生まれつき大病を患っていたそうで、ある日治療の為に他国の高名なお医者様の下へ行く事になったんです」
「え? 王族なのに医者の下へ送られたんですか? 大病というなら、普通医者の方を呼ぶと思うんですが」
と、ノルブさんが首を傾げる。
うん、王族や貴族なら医者を呼ぶのが普通だもんね。
「ご先祖様の病気は治療が難しい病気だったらしく、療養も兼ねて病を癒す力がある不思議な霊域で治療を受ける事になったんだそうです」
ああ、確かに生き物の回復力を大幅に増幅させる不思議な土地っていうのはあるんだよね。
前々世でも研究の為に行った事があるよ。
そしてリューネさんのご先祖様の治療には、そういった土地の力を借りる必要もあったんだね。
「幸か不幸か、竜騎士達の命を奪った恐ろしい流行り病は、ご先祖様が病の治療で国外に出向いている時に起きたんだそうです」
不幸中の幸いですけどね、とリューネさんが苦笑する。
「そして無事治療を終えたご先祖様でしたが、流行り病が終息するまでの数年間、故郷に帰る事が出来なかったそうです」
まぁそうだよね。折角病気が治っても、今度は流行り病にかかったら元も子もない。
「そして数年が経って、流行り病が終息した事を確認したご先祖様は、ようやく故郷の土を踏む事が出来ました」
ご先祖様が故郷に戻ってきたというのに、リューネさんの表情は悲しげなままだった。
「しかし帰ってきた故郷に家族の姿は無く、国は宰相達によって支配されていたんです」
ああ、そういえば当時の龍帝や竜騎士は流行り病で全滅して、宰相達貴族が代理で統治していたんだっけ。
「あれ? けどそれだとおかしいよね」
「ええ、龍帝の血を引く王族が帰ってきたのだから、宰相は玉座をリューネのご先祖様に返さないといけないわよね?」
皆があれ? と首をかしげる。
うーんなんだか不穏な空気になってきたぞ。
「ご先祖様もたいそう驚いたそうです。国では宰相の発表で王族は全員亡くなったと発表されていたそうですから」
それが悲劇の始まりだったとリューネさんは言う。
「初めは宰相達に会って自分の帰国を知らせようとしたご先祖様だったのですが、なぜか突然王族の名を騙る偽者だと言われて襲われたそうです」
うわっ、真偽も調べずに襲うとか滅茶苦茶だよ。
「本物かどうかを証明する品とかは無かったの?」
ああ、貴族にも後継者を証明する指輪とかあるもんね。
「あったそうですが、刺客の襲撃で失われてしまったとのことです」
「証拠の品さえ奪えば、本物の王族だと言っても握りつぶす事が出来る。そういうこと」
いつも冷静なメグリさんが珍しく不機嫌そうに宰相達の行いを推測する。
それにしてもそうとう強引なやり口だなぁ。
昔の事だからもう確かめようがないけど、もしかしたら流行り病も宰相達が起こした事だったんじゃあ……
王族がリューネさんのご先祖様以外全滅したのに、宰相や他の貴族達が無事だったってのも怪しいよね。
「数度に渡って刺客に襲われたご先祖様達は、宰相達に狙われているのは間違いないと判断し、自分達の死を偽装したそうです。そして宰相達の宣言を逆手に取る為に、生き残っていた竜騎士の弟子達と秘密裏に合流し、修行を始めたのだそうです。自らが竜騎士となる為に」
「成程ね。あの昔話の裏にそんな陰謀があったなんてびっくりだわ」
「ええ、ですがあの伝説がある以上、ドラゴンを従える事さえ出来れば逆転の目はあります。その時こそ私達は自分が本物の王族の血を継ぐ者だと名乗り出るチャンスだったんです」
けれど、とリューネさんは肩を落とす。
「失われた竜騎士の技の再現は難しく、多くの同胞達がドラゴンとの戦いで命を失っていきました。そして数年前、父が病で亡くなった事で王家の生き残りは私一人になってしまったんです」
亡くなったお父さんの事を思い出したのか、リューネさんが自らの槍を寂しげに撫でる。
「私一人になってしまった時はもう駄目なんじゃないかと諦めかけていました……でも、そんな時に出会ったんです。龍姫様、いえリリエラさんに!」
「え? 私?」
突然自分に話を振られて、リリエラさんが驚きで目を丸くする。
「はい! 私と同じ、いえそれ以上に研ぎ澄まされた龍帝流空槍術を操るリリエラさんに出会った時、王家の血を、そして竜騎士の技を継いでいる人は私だけではなかったと、仲間がいたんだと心の底から勇気づけられたんです!」
「いやだから私は違うって……」
「ええ、結局は私の勘違いでしたが、それでもレクス師匠に出会う事が出来ました。皆さんの協力のお陰で、私はシルバードラゴンを降し真の竜騎士になる事が出来たのですから!」
成る程ね、そういう事情があったからリューネさんはリリエラさんへの弟子入りに拘ったんだ。
だけどそこまで言ったあとでリューネさんが肩を落とす。
「けれど遅すぎたようです。まさか彼等がこんな事をするなんて……せめてあと一年早くシルバードラゴンを従える事が出来ていれば、前回の龍姫の儀で民に王家の復活を宣言する事が出来ていたでしょうに。そうすれば反龍帝派の暴走だって……私が遅かったせいで……」
リューネさんは自分の未熟が彼らの暴走を招いてしまったと己を責める。
「もっと早くレクス師匠に出会えたらなんて言いません。でも、お父様が亡くなってから今日までの日々を無為に過ごす事無く、もっと死ぬ気で鍛錬を積んでいたらと思うと……」
「そいつは違うぜっ!」
「ふぇっ!?」
突然の大きな声に驚いて、リューネさんがビクリと体を震わせる。
そして声を上げたのはジャイロ君だった。
「お前は悪くねぇ! 悪いのはその反龍帝派って連中だ! お前は悪くねぇ!」
「ジャ、ジャイロさん……?」
「お前は自分に出来る事を必死で頑張ってただけだろ! 家族が死んじまってビビっちまうのもしかたねぇよ! 俺だって同じ立場になったらスゲー悩むって! だからお前も自分を悪く言うのは止めろよ!」
「え……っと、その……」
ジャイロ君の勢いに、リューネさんが目を白黒させている。
けどびっくりしたおかげで、リューネさんは少しだけ冷静さを取り戻したみたいだ。
「そうよ、リューネは悪くないわ。貴方は後継者として大手を振って帰還する為に、頑張って来たんでしょう?」
「そうよ! 悪いのはどさくさで国を乗っ取った貴族達なんだから!」
「貴族達全てが悪い訳じゃないですけどね。ちゃんと味方になってくれる人もいますよ」
「うん、私達も味方」
ジャイロ君に続くように皆もリューネさんを励ます。
「そうだよリューネさん。リューネさんが諦めずに頑張ってきたから、リューネさんは竜騎士になれたんだ」
「レクス師匠……ありがとうございます、皆さんも……」
良かった、リューネさんも皆のお陰で気を持ち直してくれたみたいだ。
うんうん、これこそ友情って奴だよね。
前世の僕はこういう関係になれる人に出会う事はなかったけれど、リューネさんは出会う事が出来て本当に良かったよ。
気を取り直したリューネさんが立ち上がると、僕達に向かって深々と頭を下げてくる。
「すみませんレクス師匠。事情があったとはいえ、龍帝流を教えてくださった師匠に隠し事をしていました。亡き父より、龍姫の証を立てるまでは誰にも素性を明かすなと命じられておりましたので。皆さんもごめんなさい」
「いえ、気にしないで下さい。そういう事情があったのなら、しかたないですよ」
「そうそう、気にし過ぎよ。人間誰だって人に言えない事はあるんだから」
「うん、大事な秘密は誰にでもある」
ミナさんとメグリさんが気にするなとリューネさんの肩を叩いて慰める。
そしてようやく皆に事情を話せた事で、リューネさんも安堵の溜息を漏らす。
「でも、反龍帝派を何とかする方法を考えないとレクス師匠が……」
と思ったら、反龍帝派の脅迫を思い出して再び肩を落としてしまった。
「えっと、それなんですけど、僕に良い考えがあります」
「レクス師匠に?」
「うん、だから僕に任せてください」
いくら自分達の権力が脅かされているからといって、町の人達を人質にとるなんてやりすぎだ。
これは貴族が一番やっちゃいけない事だよ。
リューネさんの件といい、いい加減こっちからも反撃しないとね。
「うーんこれは騒動の予感」
「犯人終わったわね」
さすがにそれはまだ気が早いよ皆。
とはいえ、僕もそのつもりで行動を開始するよ!
さぁ、反撃の時間だ!
◆町の住民◆
日が昇りニワトリが鳴き声を上げる。
「あー、眠ぃなぁ」
眠い目をこすりながら、俺は厨房の窓を開ける。
昨夜は遅くまで飲み明かす客が居たからな、俺も寝るのが遅くなっちまったぜ。
「さーて、そんじゃ今日も市場に行くか」
いくら眠くても、仕入れに遅れる訳にゃいかねぇ。
早く行かねぇと良い食材を他の連中に取られちまうからな。
急いで市場に行く為に、裏口のドアを開ける。
そしたら……
ガシャガシャガシャッ
目の前を見た事もない黒い鎧の騎士様が通り過ぎた。
「へ?」
誰だ今の?
しかもよく見ると騎士様は一人じゃねぇ。
何十人もの騎士様達が、気味悪いくらい揃った動きで裏通りを歩いて行く。
「な、何でこんな所に騎士様が……?」
そしてしばらくすると、騎士様達が向かった先から悲鳴が上がってきた。
「な、なんだなんだ!?」
しかも悲鳴は一つじゃねぇ。四方八方から聞こえて来たんだ。
「な、何が起こってるんだ!?」
◆
「うわぁぁぁぁっ!?」
今日も町のあちこちで悲鳴が上がる。
けれど不思議な事に、そんな異常な状況でも誰も慌てたりはしない。
そう、町の住人にとって、この悲鳴は既に当たり前の音になっていたから。
少し経つと、路地裏から黒い鎧の騎士達がいかにもガラの悪そうな男達を引き連れて現れる。
「おいあれ、スラムを縄張りにしてる盗賊共じゃないか?」
「また黒い騎士様達が盗賊を捕まえてくれたぞ!」
男達が盗賊と分かり、町の人達が歓声をあげる。
ある日どこかからやってきた彼等は、こうやって町の悪党共を見つけては捕らえていた。
一切の素性も分からない鎧の集団。
あからさまに怪しいんだけど、盗賊や犯罪者を捕まえてくれるので、最初は不安がっていた町の人達も今じゃ好意的に接している。
「ねぇ、もしかしてアレがレクスさんの良い考えってやつなの?」
私はもしかしてとは思っていたものの、なんとなく答えを聞くのが怖かった質問をする。
「ええ、その通りです」
「やっぱり、レクスさんの関係者だったのね……でもどこからあんな人達を呼んできたの?」
町中の悪党共をとんでもない勢いで捕らえる彼等は、間違いなく腕利きの集まりだわ。
悪党を捕らえる実力もさることながら、町中の悪党を見つけ出すあの常識外れの捜査能力。
明らかに普通じゃないでしょ。
そんな人達をこの短期間で連れてこれるレクスさんって一体何者なの?
本人の話じゃ田舎の村からやってきたって話だったけど、どう考えても普通の村の住人じゃないわよね。
まさか本当に龍帝だったりするわけ!?
「いえ、人を呼んできたわけじゃないですよ。作ったんです」
「「「「「「……?」」」」」」
レクスさんの言葉に、私達は首を傾げる。
ええと、今何かおかしな発言が飛んだ様な気が……
「「「「「「……作った?」」」」」」
「はい、この間のティランの要領で、魔法で動く鎧を大量生産したんです」
あっけらかんとレクスさんが種明かしをしてくれる。
成る程成る程、この間の鎧を動かす魔法を使ったのね。
確かにそれならレクスさん並みの活躍をする集団が突然現れてもおかしくな……
「「「「「「作ったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」」
「え!? ちょっとまって!? 作ったってあの鎧の集団を!?」
「魔法で動くって、どうやってあれだけの数の鎧を動かしているの!?」
「あれ全部兄貴が作ったのかよ凄ぇな!!」
「いつの間にあんなに沢山作ったの!?」
レクスさんの発言を遅れて理解した皆が、口々にレクスさんに詰め寄る。
「ええとですね、あの鎧達は一種のゴーレムなんですよ。リリエラさんに接触した反龍帝派の実行犯達が誰か分からなかったので、とりあえず悪意を持った人間を見つけたら手当たり次第に捕らえるよう命令を仕込んでおいたんです」
「さらりと凄い事言った!」
っていうか、悪意とか簡単に分かるの!?
「じゃあ町の中にいるあの黒い鎧達って全部ゴーレムだったの!?」
「ええ、といっても大した材料が無かったので、あんまり複雑な動作は出来ないんですけどね」
「は!? でも町の人達に挨拶を返したりしてたわよ!? ゴーレムって決められた行動しかできないんでしょ!?」
ミナはゴーレムが簡単な動きしかできないと言われて、信じられないと声を荒げる。
というか、寧ろあれのどこが!? って感じの口調ね。
ミナの言う通りゴーレムは単調な行動しかできない……らしい。
私は戦った事ないけど、実際にゴーレムと戦った人達がそう言っていたのは覚えている。
けど、私達が見たゴーレムは言葉こそ発しなかったものの、その動きはとても作り物とは思えなかったわ。
「幸い、メガロホエールから貰った宝石の原石が良い感じに装置の核に使えたので、あとはささっとガワである鎧を作って動かしたんです」
「ささっとって、鎧ってそんな簡単に作れないでしょ?」
「ああ、それもゴーレムに手伝わせたんですよ。最初に作った数体のゴーレム達に簡単な加工作業をやらせておけば僕の手間も減りますから。あとは数が増える度にどんどん作業速度は上がっていくって寸法です」
な、なるほど、それならまぁ納得できない事もないわね……
「けどよくこれだけ鎧の材料を集める事が出来ましたね。確か以前狩ったドラゴンの素材はこの間の魔物の群れを迎撃する為に使ってしまった筈ですよね」
「だな、おかげで俺達が狩ったドラゴンの鱗が高値で売れたもんな!」
そうね、アレは結構な収入だったわ。
正直数か月前の私の数倍、いえ数十倍の収入だものね。
それを自分の実力で手に入れたと思うと、今でも手が震えるわ……
「うん、だからささっと龍峰に行ってドラゴン達の鱗を狩って来たんだ。とはいえ、この間狩り過ぎたからね、今回は命までは奪わず鱗だけ頂いてきたよ」
「「「「「「それはそれで酷いっ」」」」」」
うわー、それじゃあ今頃龍峰のドラゴン達は毛を毟られた鶏みたいな有様になってるのね……
人間にトラウマを抱かないと良いんだけど……
あれ? 今何かこう、自分の発言がおかしかったような?
「あの、事情は分かりましたけど、これだけ大騒ぎになって何で衛兵の方々はレクス師匠のゴーレムとトラブルにならないんですか? さすがに自分達の仕事である町の治安活動を勝手に行われたら衛兵の方々も黙ってはいられないと思うんですけど」
と、リューネが首を傾げながら質問する。
確かに言われてみればその通りだわ。
仮に衛兵達がゴーレム達の活動を好意的に受け止めたとしても、事情聴取くらいはするでしょうし。
そうなると口のきけないゴーレムじゃどうしようもないものね。
「そちらは冒険者ギルドのギルド長を通して町長に話をつけてもらっていますから心配はいらないですよ。あとは捕まえた連中を尋問して、誰が反龍帝派の刺客か調べて貰うだけです」
全部織り込み済みって訳ね。
うーん、こうなると巻き添えで捕まった盗賊達が憐れね。
なにせ完全にとばっちりだもの。
「本当に、レクス師匠は一体何者なんですか……? いっそ本物の龍帝陛下と言って貰えた方が信じられるのですが……」
うん、それは私も、いえ私達も同意だわ。
「やだなぁ、僕はどこにでもいるただの冒険者ですよ。ゴーレムなんてちょっと
マジックアイテムを研究した人間なら誰でも作れるじゃないですか」
「「「「「「作れませんっ‼」」」」」」
こらそこ、え? なんで!? って顔しない!
……ともあれ、こうして町を人質にした反龍帝派の刺客達は根こそぎ捕まる事となったわけ。
町の治安も良くなって、皆も大喜び……なんだけど。
一つだけ面倒な事になっていたのよね。
というのも……
「なぁ、もしかしてあの騎士様達は龍帝陛下の騎士なんじゃないか?」
「きっとそうだ。あんなに強いんだからな!」
「俺には分かる。あの騎士達の装備はドラゴンの鱗を加工したもんだ」
「確かこの間の魔物の襲撃でも、誰かが防衛の為にってドラゴンの素材を大量に譲ってくれたらしいよな」
「間違いない、龍帝陛下の龍帝騎士団は本当に居たんだ!」
「魔物達から守ってくれただけでなく、町の治安まで良くしてくれるなんて、さすが龍帝陛下だ!」
そう、突然現れた騎士達を、町の人達は龍帝の騎士だと思っちゃったのよね。
「「「「龍帝陛下ばんざーい!! 龍帝騎士団ばんざーい!!」」」」
うん、私知ーらない。
毟られドラゴン達(இ ω இ`。)「突然現れた災害に身ぐるみ剥がれました」
ゴールデンドラゴンヾ(#╹◡╹)ノ゛「おおテリブル、あと我は一緒に現れた黒い球体に何故か羽根を齧られました。次に遭ったら容赦しねぇ」
モフモフΣ(:3)∠)_「美味しゅうございました、モグモグ」
貴族達(:3)∠)_「ウゴゴゴゴ、信じて送りだした部下達が消息を捕まったンゴ」
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