第121話 疑惑の正体
_:(´д`」∠):_「おかしい、結局元のペースに戻ってしまった」
_:(´д`」∠):_「ちょっと色んな仕事の関係で更新頻度に誤差が出るかもしれませんというかもう出ていますね。ご了承ください。」
_:(´д`」∠):_「代わりに一話あたりの文字数を大目にしておきますので(本末転倒)」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
皆さんの声援が作者の励みとなっております!
今日の試合も終わり、僕は気分転換に町を散策していた。
龍姫の儀と龍帝の儀が開催されているタツトロンの町は、客目当てに用意された沢山の出店も相まって、まるで祭りのように賑わっていた。
というか、龍姫の儀自体がこの町のお祭りなんだっけ。
「うーん、さすがに都会のお祭りは賑やかだね」
故郷の村の祭りは小規模な事もあってささやかだったからなぁ。
この光景を見られただけでも、外の世界に出てきて良かったかもね。
「けど、素直に楽しめないのは良くないなぁ」
前世でも馴染んだ感覚を背中に受けながら、僕は路地裏に入っていく。
◆
「……居ない!?」
路地裏にやってきた人影が、先に入っていった人物の姿がどこにも無い事に慌てる。
「はい動かないでくださいね」
路地裏に入った瞬間、近くの建物の屋根に飛び乗って隠れた僕は、追ってきた人物の背後に音もなく着地してその背中に鞘の付いたナイフを押し当てる。
「っ!? ……い、いつの間に!?」
うーん、殺し屋にしては迂闊だなぁ。
てっきり八百長試合関連で僕達を襲ってきた裏社会の住人かと思ったんだけど。
「なんで僕を尾行していたんですか?」
「……」
答える気はないか。
じゃあ別にいいや。
「分かりました。では衛兵に突き出す事にしますね」
「っ!? ま、待ってください!」
衛兵に突き出すと言われ、慌ててこちらへ振り返ろうとするけど、僕は背中に押し当てたナイフを軽く押して脅す。
「動かないでと言ったでしょう? 後ろめたい事をしているのなら衛兵に突き出します。違うのなら理由を説明してください」
「ち、違うのです、私は貴方に害をなす気はありません」
うーん、だったらなんで尾行していたのって話なんだけどね。
「私は龍帝陛下をお守りするために来た龍帝派の者です」
「龍帝派?」
ええと、確か龍帝派って言うと、リリエラさんに接触してきたこの国の貴族だったよね。
ただ派閥としてはあんまり強くないんだっけ。
僕は龍帝派と名乗った尾行者から離れると、こちらを向いて良いと許可を出す。
龍帝派の人は、こちらを刺激しない為か、ゆっくりと振り返る。
うん、意外に若いなぁ。
尾行が甘かったのも、弱小の貴族派閥ゆえの人材不足なんだろうね。
というか、この人見覚えがあるような……
「あっ、この間リリエラさんに接触してきた人」
そうだ、この人はリリエラさんを龍姫と勘違いして、龍帝に会いたいって言ってきた人だ。
「はい、私の名はバキン・ワッパージ。爵位は騎士爵です」
「騎士爵?」
え?まさか貴族だったの⁉︎
こういうのって普通家臣がやる事なんじゃ……
騎士爵は貴族の中で一番爵位が低いけど、それでも家臣がいないわけじゃない。
なのにわざわざ当主本人が尾行をしていたなんて。
もしかして龍帝派ってかなり弱小派閥なんじゃあ……
「ええと、貴族の方が何故尾行を?」
うん、流石に不安になってきたぞ。
「お恥ずかしながら、このタツトロンの町に来るまでに反龍帝派の妨害で同志も部下も脱落してしまいまして。たどり着いたのはこの私だけなのです」
「それってもう内乱じゃないですか⁉︎」
いくら派閥争いとはいえ、自国の貴族を皆殺しにするなんて内乱以外の何者でもない。
っていうか、もう派閥争いなんてレベルじゃないよ⁉︎
「ああいえ、流石に死者は出ていません。下級とはいえ貴族に死者が多数出てしまえば、他国の者達が龍帝陛下の即位に協力するという名目で介入してくる可能性が出てきますから。いかに上級貴族達といえど、他国の介入を許すような強硬手段に出る事はありません」
なるほど、せっかく龍帝が居ないのを良いことに好き勝手にしているんだから、やりすぎて逆に龍帝が即位しやすくするようなヘマはしないって事だね。
「とはいえ、我等としても龍帝陛下の即位のために他国に借りを作りたくありません。事が大きければ大きいほど、後々の国家間交渉で弱みになりますからね。まぁそのおかげで双方に共通の利害関係が発生して、私がタツトロンの町へたどり着くことができたのは皮肉としか言いようがありませんがね」
運良く相手の弱みにつけ込めたおかげでこの町までたどり着けた事が情けないと、バキンさんは自虐的に笑う。
「それでバキン……様。話を戻しますけど、貴方は何故僕を尾行してきたんですか?」
結局この話題に戻るんだよね。
リリエラさんは龍姫と勘違いされているからわかるんだけど、僕はただの仲間だからね。
バキンさんも姿勢を正してこちらを見つめてくる。
「では改めてレクス殿……いえレクス様。貴方様に聞きたいことがあります」
レクス様? 貴方様?
なんで貴族の人が僕を相手にかしこまるの?
なんだか嫌な予感がしてきたぞ……
「レクス様、貴方は……貴方様こそが龍帝陛下なのではないですか⁉︎」
「……はぁ!?」
ええ⁉︎ 何で⁉︎ なんでそうなるの⁉︎
僕がゴールデンドラゴンを従えた事を知っているリューネさんならともかく、なんでバキンさんがそんな結論になるわけ⁉︎
「ええっと……なぜそうなるんですか?」
僕は努めて冷静にバキンさんに理由を尋ねる。
「はい、それはレクス殿が龍帝の儀に参加していらっしゃらないからです」
「えっ? えっ? なぜそれで僕が龍帝だと?」
うん、全然わからない。
龍帝が自分の存在を知らしめるために龍帝の儀に参加するって理由なら分かるけど、参加してないから龍帝?何で?普通逆じゃないの⁉︎
「レクス様、龍姫様を始め、龍帝陛下の護衛の皆様は全員が儀式に参加されております」
「ええ、そうですね」
「ですが貴方様だけは儀式に参加しておられません」
「それはまぁアレですよ。全員が儀式に参加していては、何かあった時に対処できない危険性がありますから」
「ええ、私もそう思っておりました」
だったら何で?
「龍姫様に龍帝陛下との謁見を断られた後、私は独自に龍帝陛下を探す事にしました」
「そ、そうなんですね」
まぁそれは当然だろうね。
会わせる事が出来ないからって、それで諦めるわけにはいかないだろう。
「しかし町の中を闇雲に探しても、龍帝陛下にお会いする事は出来ませんでした」
うん、そもそも龍帝なんて居ないもんね。
「それで失礼ながら私はあなた方を見張る事にしました。あなた方と龍帝陛下が接触するのではないかと考えて」
うーん、それもまぁ……分かるかな。僕達が龍帝が誰かわかんないって言っても、龍帝派の人達が信じるとは限らないもんね。
「しかし皆様が龍帝陛下と接触する様子は全くありませんでした」
うん、何度も言うけどそもそも龍帝と僕達の間に接点なんて無いもんね。
「しかし、その中で一人だけ情報を探ることすら出来ない方が居たのです」
え?
「それがレクス様、貴方です」
「ええと、それって一人で調べているから手が回らなかっただけなのでは?」
だってバキンさんの仲間は反龍帝派の妨害でリタイアしちゃってるみたいだし。
「ええ、ですから冒険者ギルドで低ランクの冒険者を雇って、町中に密偵として配置しました」
「ええっ⁉︎」
冒険者さんを雇った⁉︎
「低ランクとはいえ、街中で見張りをさせるだけなら問題ありませんからね」
しまった!まさか冒険者さん達に見張りの依頼をするなんて思わなかったよ!
っていうか僕もその依頼やってみたかった!
大剣士ライガードのパンと牛乳の物語みたいでかっこよさそう!
大剣士ライガードが、暗躍する悪党の尻尾を掴む為に、何日も張り込みをして証拠を掴むっていう話なんだけど、ちょっと地味な内容だから人気はイマイチなんだよね。
でも物語の中でライガードがパンと牛乳を食べるくだりがとても美味しそうなんだよね。
あと犯人を捕まえた時の「剣で戦うだけが冒険者の仕事じゃねぇんだぜ坊主」っていうライガードのセリフが渋くて、地味だけど熱心なファンが多いんだよね。
……いやそうじゃない、そうじゃないよ。
「冒険者からの報告で、貴方様はある選手が試合をする時だけ、宿から出られない事を確認したのです。しかし何故か外出していないはずの貴方様が龍姫様達と食事をしている姿を、別の場所に配置した複数の冒険者達が確認しているのです」
「……」
し、しまったぁぁぁぁぁ!
こ、これはやらかしちゃったよ。
試合後に皆と食事をする為に合流した時にバレちゃったのかぁ。
うーん、これは困った事になったぞ。
「レクス様、貴方様は変装をして龍帝の儀に参加していらっしゃるのでは無いですか?」
まずいなぁ、バキンさんは完全に僕を龍帝だと勘違いしているよ。
これはなんとかしてごまかさないと。
◆
「それは面倒な事になったわね」
あの後、なんとか理由をつけてバキンさんから逃げた僕は、皆を集めて事のあらましを説明していた。
「まさかバキンさんがそんな理由で僕を疑うとは思ってもいなかったよ」
「とはいえ、確かにレクスさんだけが何処にいるのか分からないのでは、疑われるのも仕方ないですね」
「いっそ兄貴が誰に変装してんのか教えちまったらどうだ?」
「無意味だと思う。今更レクスの正体を明かしても、レクスが素性を隠して参加している事を疑われる」
ジャイロ君の提案を、メグリさんが無意味だと却下する。
「逆にそれこそがレクスに皆の注意を引きつけるための策だと言ってみるとか?」
「それも今更よね。寧ろそれなら何故最初に教えてくれなかったんだって話になるもの」
うーん、上手くいかないなぁ。
「となると次善の策は、僕達の誰かがレクスさんの代わりに変装して試合に参加する、でしょうか? レクスさんがいる状況で他の覆面選手が全員試合に出れば、あの人もレクスさんはシロだと認めると思います」
やっぱそれしかないかな。
となると、試合を代わってもらう為に皆には僕が誰に変装しているのかを明かさないといけないね。
「じゃあティランの試合にはジャイロ達が変装して出てもらうことにしましょ」
「うん、よろしく頼……ってえ⁉︎何で知ってるの⁉︎」
「「「「「何を今更」」」」」」
えーっ⁉︎もしかして僕の変装、バレてたの⁉︎
「え⁉︎ティランって兄貴の事だったのか⁉︎」
良かった、ジャイロ君にはバレていなかったよ。
変装がバレていた事は凄く驚いたけれど、ともあれこれならなんとかバキンさんをごまかせそうだ。
……と思ったんだけどその目論見はあっさり崩れ去ってしまった。
「だめだ、俺すぐ次の試合だからこっちの試合出れねぇわ」
「僕もその前の試合なので、入れ替わるのは無理ですね」
なんとジャイロ君とノルブさんは、前後の試合の関係で変装が難しい事が判明してしまったんだ。
「そうなるとリリエラ達に参加してもらう? さすがに魔法使いの私じゃ接近戦になった時にボロが出そうだし」
ミナさんは自分が魔法使いである事を理由に代理が難しいと告げる。
「うーん、私じゃティランの鎧は胸がつかえるから無理ね」
「あーそっか、それじゃどっちみち私も無理ね」
とリリエラさんが鎧の構造の問題で身代わりが難しいと辞退する。
「くっ、これだから与えられた者は!」
「嫉妬していいですか龍姫様⁉︎」
何故かメグリさんとリューネさんがものすごい殺気を纏った眼差しでミナさんとリリエラさんを睨んでいる。
「とはいえ、私もスケジュール的に無理」
「す、すみません。私も無理っぽいです、あと師匠とは身長の問題で難しいかと」
なんて事だろう。メグリさん達も試合スケジュールの問題で無理だと判明してしまった。
「キュッ!」
とその時、モフモフが僕のズボンの裾を引っ張る。
「キュキュウ!」
モフモフはまるで自分にまかせろと言わんばかりに自らを指差して一鳴きした。
「いやお前は無理だろ」
「手足の長さが全然足りないものねぇ」
あー、うん。そうなるよね。
「モフモフじゃせいぜいカブトに収まるくらいだろうなぁ」
「いっそ鎧をヒモでくくりつけて引きずればイケる?」
「それただの怪談じゃないの。カブトに引っ張られて鎧が這いずってきたら、町の僧侶が総動員でターンアンデッドかますわよ」
「というかさすがにそれを師匠の変装と認めてもらうのは無理かと……」
「……いや、ありかも」
「「「「「「へ?」」」」」」
うん、メグリさんのアイデアはありだと思う。
「ありがとうございますメグリさん。それ、使えそうです」
「え?本気?」
「はい!本気です!」
よし、それじゃあさっそく準備をするぞ!
「何かとんでもない事が起こる予感が……」
「しますねぇ……」
◆バキン◆
私は困惑していた。
私は今、龍帝の儀を行う会場の観客席にいるのだが……
問題は隣の席に座っている方だ。
「もうすぐティラン選手の試合が始まりますね」
「え、ええ」
そうなのだ、私の隣にはレクス様の姿があったのだ。
だが私の調査ではティラン選手の正体はレクス様の筈だ。
それともティラン選手の正体はレクス様ではなかったというのか!?
「「「オオォォォォォォォッ!」」」
周囲の観客達が声を上げる。
見れば試合会場には三つの影。
一つは審判、そして残り二つはこれから試合を行う二人の選手の姿だ。
一人は長剣使いのカティン選手、そしてもう一人は、黒い鎧を纏ったティラン選手だ。
「うわー、二人とも強そうですねぇ。どっちが勝つんだろう?」
隣に座るレクス様は、これから始まる試合を楽しげに見つめている。
見張りにつけた冒険者達の報告で、龍姫様達が控え室や別の席にいる事は確認してある。
それゆえ、あの方達がティラン選手に入れ替わる事は不可能だ。
「……」
「それでは、試合開始!」
そうこうしている間に、ティラン選手とカティン選手の試合が始まる。
そして試合はあっさりと終わった。
結果はティラン選手の圧勝だ。
ティラン選手は向かってきたカティン選手の攻撃を紙一重で回避すると、まるで踊るかのような流麗な動作で相手の背後に回り込み、一撃で意識を刈り取った。
あまりにも自然な流れに、試合場の誰もが勝負が決した事に気づかないでいた。
審判ですらいまだ気づかずにその光景を眺めている。
『……』
ティラン選手はゆっくりと審判に近づくと、その肩をポンと叩き倒れたカティン選手を指さす。
「はっ!?」
そして我に返った審判がカティン選手の状態を確認すると、すぐに手を振る。
「カティン選手戦闘不能により、ティラン選手の勝利!」
「「「お……おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」」」
文字通りの瞬殺に、会場が湧き上がる。
今回の試合はこれまでのティラン選手の試合の分かりやすい異常さと異なり、極々普通の戦いであったがゆえにその凄まじさが際立っていた。
文字通り格の違う戦いだ。
ただ強いだけではない、あれは間違いなく武術に人生を賭けてきた者が積み上げてきた技術の結晶だろう。
30……いや40年だろうか? どれ程の情熱を以って鍛錬を積めばあそこまで美しく、いやあの技術はそんな安易な言葉では言い表せない。
自然、そう自然なのだ。
だた歩くかのように、手を伸ばすかのように、武器が体の一部であるかの様に自然に動いていたのだ。
それも武器の使い手の認識がではない、それを見ている他者の目が武器を武器と認識できなかったのだ。
「これが武術の極みというものか……」
はっきりと分かった。
レクス殿はティラン選手ではない。
龍姫様と共に行動している以上、レクス殿も強いのだろう。
だがティラン選手は……あの御仁の強さは格が違った。
レクス殿を軽んじる訳では無い。
ただ、積み重ねてきた時間の重みが違うのだ。
どれだけ才があろうとも、時間によってしか熟成しない物事というものは確かにあるのだ。
「これは、龍帝陛下探しはやり直しだな」
だが、私は確信していた。
龍帝陛下の正体はレクス殿ではなかった。
私の視線は試合舞台に佇む黒き鎧の戦士に吸い寄せられる。
龍帝となる者はこの国で最強の竜騎士。
そして竜騎士になる為には、ドラゴンを倒してその力を認めさせなければいけない。
最強の、ゴールデンドラゴンを倒す程の力を。
「あの強さ、間違いない。貴方が、貴方様こそが、龍帝陛下だったのですね」
そう、ティラン選手こそが龍帝陛下その人なのだと、私は強い確信を抱いたのだった。
。
◆
「で、あれって一体何をしたの? 誰か別の冒険者でも雇ったの?」
試合が終わった後、僕はリリエラさん達にティランの正体は誰なんだと詰め寄られていた。
うーん、試合前はバキンさんに詰め寄られて、試合が終わったら皆に詰め寄られるかぁ……
「あのスゲェ戦い方、アイツは一体誰なんだよ兄貴!?」
「あれだけ鮮やかな戦い方は見た事がないわ。少なくともAランク冒険者じゃ無理ね」
「という事はSランク冒険者の方ですか!?」
リリエラさんの推測にリューネさんが驚きの声を上げる。
「確かに、Sランクの冒険者と言われれば納得ですね」
なんだか皆ティランの正体をSランク冒険者だと勘違いしちゃってるよ。
まぁ、ある意味Sランク冒険者なんだけどね。
「いや、あれは誰かに代わってもらったわけじゃ無いですよ」
「え? でもレクスさんは疑いを晴らすためにバキンさんと一緒に居たんでしょ?」
「はい、その通りです」
「じゃあやっぱりティランは別人なんじゃない。一体あの鎧の中身は誰なの?」
うーん、これは直接見てもらった方が早いかな。
「皆後ろを見て」
「後ろ?……って、ええっ⁉︎」
僕に促されて後ろを見た皆が、そこにあった光景に目を丸くする。
「ティラン!?」
そう、そこには黒い鎧のティランが立っていた。
「いつの間に部屋の中に!?」
『……』
驚く皆に対し、ティランは無言だ。
まぁ喋るわけがないんだけどね。
「兜を外して」
そう命じると、ティランは無言で自分の兜に手を伸ばす。
そして中から現れたティランの素顔を見て、皆が驚きのあまり固まる。
「「「「「「っっっ!?」」」」」」
ティランの頭には、何もなかった。
というよりも、言葉通り頭が無かった。
「え? 頭が無い? え?」
からっぽの頭部を見て、皆が目を丸くしている。
「ど、どういう事なのこれは!?」
「リリエラさん、ティランの鎧の中を見てください」
「鎧の中?」
僕に促され、リリエラさんがおっかなびっくりティランに近づいてゆく。
「っ!?」
そして言われた通り首から鎧の中を見たリリエラさんが再び静止する。
「ちょっとどうしたのよリリエ……ラ?」
皆も一体どうしたのかとティランの鎧に群がっていき、同じように中を見て凍りついた。
「からっ……ぽ?」
そう、ティランの中身は空っぽだ。
「これは、どういう事なの?」
僕と空っぽの鎧を交互に見ながらリリエラさんが説明を求める。
皆もこっちを見てリリエラさんの意見に同意のようだ。
「ええとね、このティランは僕が魔法で操っていたんだ」
「「「「「「魔法!?」」」」」」
魔法で操っていたと知り、皆が目を丸くする。
「そう、パペットアバターっていう魔法でね、術者の思い通りに対象を動かす魔法なのさ」
「これが魔法で動いているの……?」
リリエラさんは信じられないとティランの鎧を色々な角度から観察する。
「そう、こんな風にね」
「うわっ!?」
僕の意思を受け、ティランの鎧がひとりでに踊り出す。
「中身が空っぽなのに動いてる……」
滑らかに動くティランの鎧に、メグリさんが驚きの眼差しを送る。
「とまぁこんな感じですよ」
鎧に魔力を送るのを止めると、ティランの鎧が結合を失って床に落ちていく。
「……はぁー、まさか魔法で動かしていたなんてねぇ」
「驚きました。魔法でこんなに自然に鎧を動かせるなんて。まるで中に人が入っているみたいでしたよ」
ミナさん達が床に落ちたティランの鎧を見つめながらため息を吐く。
「普通の魔法だけじゃなく、こんな魔法まで使いこなすなんて……一体どれだけの魔法を使う事が出来る訳?」
「いやいや、鎧を動かす魔法なんてそうたいしたものじゃないですよ。この程度の動作、魔法使いならだれでもできますって」
「「「「「「いやそれは絶対無理」」」」」」
「あんなSランク冒険者並みの動きなんてとても再現できそうにないっての」
「よねぇ」
あれ? なんで皆して諦めちゃうの?
ミナさん達ならちゃんと修行すれば、操作系の魔法も十分扱う事が出来るようになると思うんだけどなぁ。
バキン(:3)∠)_「きっとあの方こそが龍帝陛下に違いない!」
モフモフΣ(:3)∠)_「まぁ外の人的には間違いではないな」
ミナ(:3)∠)_「ウゴゴ、また知らない魔法が……っていうかマジで聞いた事もない技術体系なんですけどぉ!」
レクス(:3)∠)_「大丈夫大丈夫。簡単な魔法だから」
ミナ(:3)∠)_「嘘だぁ!」
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