第116話 ジャイロの華麗なるデビュー
_:(´д`」∠):_「ちょっと東京に出ていたので更新が遅れてしまいましたー」
_:(´д`」∠):_「今週はジャイロのお話です」
_:(´д`」∠):_「本当は他のメンバーのバトルも書こうと思ったけど、思った以上に分量が増えたから分割したんだ!……前回も同じ事言った様な気が……まぁコイツはチームのリーダーだしワンチャン!」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
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◆ノルブ◆
「それでは予選第5試合、はじめっ‼︎」
審判の宣言を受けて、試合舞台の選手達が一斉に動き出す。
背中を向けている選手を狙う人、弱そうな人を狙う人、あえて隙を晒してライバルを誘う人と行動は様々です。
その中でジャイロ君が選んだ行動はとても単純でした。
「いっくぜぇぇぇぇぇ! フレイムダーッシュッッ‼︎」
ジャイロ君が叫ぶと、彼の鎧の後ろにわずかにせり出している二つの突起から炎が溢れる。
炎はまるで翼の様に広がり、一瞬でジャイロ君の体は吹き飛ばされる様に前に押し出されたのです。
「オラオラオラァァァァァ‼︎」
前に突き出された剣が前方の選手達の装備を紙切れの様に破壊しながら突進していく様は、かつて僕達を襲ったイーヴィルボアの群れを思い出させて、ちょっとだけヒヤリとした思いになる。
前方の選手達があっというまにジャイロ君に吹き飛ばされ、彼は集団から飛び出した……んですけど。
「ジャイロ君、前っ! 前っ!」
「へっへーん、どんなも……お? おおっ⁉︎」
僕の声が聞こえたのか分かりませんが、ジャイロ君は目の前の光景に気づいて驚きの声をあげました。
それもそのはず、選手達の乱戦を突き抜けたジャイロ君の先にあったのは、試合舞台の縁だったのですから。
このままだとジャイロ君が場外で失格してしまいます!
「なんのぉぉぉっ‼︎」
ジャイロ君が声をあげると、彼の足の裏から炎が吹き出し、その体を空に押し上げることで場外を免れました。
そして空中で弧を描きながら体を試合会場の中心に向けてゆっくりもどっていきます。
「いやー危なかったぜ。危うく俺だけ予選負けするところだったぜ」
本当ですよ、あんまり心配させないでくださいね。
新しい装備のお陰でなんとかなりましたけど、下手したらあのまま場外だったんですから。
ジャイロ君の鎧から吹き出した炎、あれは純粋にジャイロ君の飛行魔法の炎です。
彼と相性が良かった魔法は火属性な事もあって、彼が飛行魔法で空を飛ぶときは、炎を吹き出しながら飛ぶのがやりやすいみたいです。
けれどジャイロ君はちょっとムラっ気があるので、炎の力で飛ぶ魔法はさっきみたいに勢いは凄いですけど、その分制御が難しいみたいなんです。
そこでレクスさんはジャイロ君の新しい鎧に、飛行魔法の補助機能をつけたんだそうです。
なんでも術者がこっちに行きたいと思った方向を鎧が自動的に察知して、噴出する炎が出る方向を調整してくれるのだとか。
だから自分で炎が吹き出る方向を制御しなくても、思うだけで勝手にやってくれるから凄く楽だってジャイロ君は言っていました。
……うん、本当にとんでもない機能ですよね。
思うだけで鎧が勝手に察知してくれるとかもう訳がわからないですよ。
レクスさんの説明だと、飛行魔法は術者が進みたいと思った方向の反対側に無意識に魔力が放出されるそうなんです。
でもあくまで無意識レベルなので、実際に移動するほどの魔力が放出されるわけではないとのこと。
けれど鎧はその程度の魔力の動きでも術者の気持ちを汲んで、魔力をうまく誘導してくれるんだそうです。
……理屈は分かりましたが、それをどうやって実行しているのかと思うと、そこに使われた技術の凄まじさにちょっと気が遠くなる思いですよ。
僕は僧侶だから神聖魔法以外の術式には詳しくないんですけど、一緒に説明を聞いていたミナさんがちょっと人前でしちゃいけない表情になっていたのが印象的でした……
「な、なんだあの炎は……ありゃ魔法なのか?」
「あんな魔法見たこともないぞ⁉︎」
「しかもあの小僧、空を飛んでねぇか⁉︎」
試合舞台の選手達だけでなく、周囲で観戦していた選手達もジャイロ君の姿に驚きの声を上げています。
そうですよね、普通はこういう反応しちゃいますよね。
「へへっ、ビビってやがんな」
皆の反応にジャイロ君はご満悦です。
「くっ、こうなったらあのガキを狙うぞ! おいお前ら、優勝したかったら手を貸せ!」
「ちっ、命令してんじゃねぇよ!」
「だがあいつのいう通りだ。まずはあのガキをなんとかしねえと」
ジャイロ君を脅威に思った選手達が、即席の連携を組んで彼に襲いかかります。
「へっ、雑魚がどれだけ集まっても変わんねぇよ!」
ジャイロ君、僕達も数ヶ月前はその雑魚だったんですから、あんまり調子に乗らない方がいいと思いますよ。
ほら、上には上が居るって僕達は思い知っているんですから。
「舐めるなガキィィィィィッ‼︎」
選手達が一斉にジャイロ君に襲いかかります。
それは彼が回避したらお互いに傷つけ合ってしまうような、連携とも言えない様な同時攻撃。
全方位からの攻撃のプレッシャーはかなりのものの筈です。
外で見ている僕でさえ、思わず手に汗を握ってしまうほどに。
「へっ、纏めてかかってきてくれて手間が省けたぜ!」
けれど、ジャイロ君に焦るそぶりは一切ありませんでした。
それどころか余裕の笑みを浮かべて剣を腰だめに構えると、刀身に魔力が凝縮されていきます。
魔力は真っ赤な炎へと変換され、さらに魔力を圧縮する事でその色が赤から蒼へと変化しました。
「な、なんだ⁉︎ 剣が燃えている⁉︎ 蒼い炎だと⁉︎」
「なんかやばくねぇかアレ⁉︎」
突然燃え始めたジャイロ君の剣に選手達が動揺の声をあげます。
けれど既に走り始めていた彼等の勢いはもう止まりません。
「喰らえ! メルトスラァァァァッシュッ‼︎」
叫びと共に彼を中心に炎の輪が描かれました。
そして次の瞬間、ジャイロ君を襲った選手達全員の武器が切断されたのです。
「「「「「「なっっっっ⁉︎」」」」」
選手達は何が起こったのか分からず、硬直してしまいました。
それもその筈、一瞬で自分達の武器が破壊されてしまったのですから、困惑するのも当然です。
メルトスラッシュ、それは魔法を飛び道具として使うのが苦手なジャイロ君が
レクスさんから教わった武器破壊用の近接魔法。
その内容は剣の刀身に超高温の炎を圧縮して、熱で相手の装備を焼き切るというごく単純なもの。
それだけ言うととても簡単そうに聞こえますが、現実にはそれだけの超高温をごく狭い範囲に集中させた状態で戦闘するなんて至難の技です。
しかも敵の武器を焼き切るという事は、その炎には常に鉄を溶かす工房の炉と同じだけ……いえ、一瞬で溶かし切る為にはそれ以上の熱が必要なのですから。
さらに言えば、術者が火傷しないように気をつける必要もあります。
そんな問題の数々を、レクスさんはとあるマジックアイテムを改造する事で解決してしまいました。
ティンダーナイフ。
それは以前レクスさんが、とある冒険者から譲ってもらったマジックアイテムの名前だそうです。
本来なら野営をする時に火種を起こす程度のマジックアイテムだったそうなのですが、レクスさんはそのマジックアイテムを改造してジャイロ君の剣を作り上げてしまったのです。
ええ、ナイフが剣になったんです。
それはもう改造じゃなくて新品なんじゃないのと思うでしょう。僕も思います。
けれどレクスさん的には、ティンダーナイフに使われている魔術回路の部品を流用しているから改造だよと言っていました。
どうもレクスさんにとって、ナイフ本体ではなく魔術回路こそが本体という認識みたいです。
レクスさん曰く「いやー、手持ちの材料だとどうしてもこの程度が限界だったよ。もっとちゃんとした工房と素材があればより良い物が出来たんだけど、今回はこれで我慢してねジャイロ君」との事でした。
そんな訳で、火種を起こすだけのささやかなマジックアイテムは、敵の装備を焼き切って無力化するとんでもない武器へと生まれ変わってしまったのです。
……ほんと、とんでもないですよねぇ。
「はははははっ! 見たかよ俺の力をよっ! 降参するなら今のうちだぜおっさん達!」
武器を破壊された選手達が動揺した事で、ジャイロ君が満面の笑みを浮かべて勝利を確信した発言をします。
けれど、それがいけませんでした。
「な、舐めんなよ小僧!」
「調子に乗ってんじゃねぇぞ‼︎」
ジャイロ君の挑発に怒った選手達が、破壊された武器を捨てて素手で殴りかかっていったのです。
「うぉ⁉︎マジかよおっさん達⁉︎」
まさかの素手での突撃に虚を突かれたジャイロ君でしたが、すぐに笑みを浮かべます。
「へへっ、根性あるじゃねぇの!」
そういうや否や、ジャイロ君は選手達の攻撃を回避しながら剣を鞘に収めると、自らも素手で戦い始めたのです。
「……って、なんでですかぁぁぁぁ⁉︎」
せっかく選手達の武器を破壊したのになんでわざわざ不利になるような事をしてるんです⁉︎
「へっ、武器の力で勝ったなんて思われるのは癪だからな! ちゃんと俺の実力を体に叩き込んでやるぜおっさん達⁉︎」
「しゃらくせぇ! 大人の力ってやつを思い知らせてやんぞこのガキャアァァ‼︎」
なんという事でしょう、試合舞台は一瞬にして酒場の乱闘に姿を変えてしまいました。
流石のジャイロ君も、武器を使わずにこの人数と戦うのは無謀で、何発も良いパンチを喰らってしまっています。
「っていうか、いつのまにか鎧まで脱いでる⁉︎」
いったいいつの間に⁉︎
「はははっ! オラァァァッ」
「んなろぉっ! ウラァッ!」
一発殴っては一発返され、1人殴っては1人殴られ、気がつくと乱闘はジャイロ君だけでなく、周囲の選手達同士でも繰り広げられていました。
そうして、選手達が1人、また1人と倒れていき、最後の5人になるまで減ったところで、審判の試合終了の宣言が鳴り響いたのでした。
「……本当に何やってるんですかジャイロ君」
「いやー悪ぃ悪ぃ。ついノリでな」
なんとか勝ち残ったジャイロ君に回復魔法をかけながら苦言を呈すると、ジャイロ君はちっとも反省してない様子で謝ってきました。
「あ、悪ぃんだけどよ、あのおっさん達の怪我も治してやってくれよ」
と、治療が終わったジャイロ君が他の選手達の治療も頼んできました。
「いいんですか? いままで敵だったんですよ?」
「別に殺しあってたわけじゃねぇから問題ねぇだろ?」
「……分かりましたよ」
ジャイロ君のこういう所、凄いと思いますよ。
喧嘩が終わったら、勝っても負けても何もなかったかのように相手に接するんですよね。
本人曰く「喧嘩してシロクロつけたから良いんだよ」って。
そういう人だから、僕達のリーダーなんてやってるんだろうなって、ちょっとだけ思います。
「おーいオッサン達! 怪我治したら飯行こうぜ飯! 美味い店教えてくれよ!」
……うん、ちょっと割り切り良すぎじゃないでしょうか。
◆王都の貴族◆
「予選で凄まじい実力の選手が現れたらしい。剣の腕だけでなく魔法も操り、更には強力なマジックアイテムを所持していたとの事だ」
試合会場に送り込んだ刺客からの報告を聞き、我々は驚きの声をあげた。
「たった1人で数十人を相手に互角以上に渡り合うとは、よもやその者が龍帝なのでは?」
「まだ断定は出来ぬ。試合は始まったばかりだ」
「そうだな、旅の実力者の可能性もあるし、我等に敵対する勢力が送り込んだカウンターの可能性もある」
確かに、まだ大会は始まったばかりだ。
ここで断定するのは早計というものだろう。
「それとな、その選手実力者ではあったのだが、どうもお調子者でもあったらしい」
「お調子者? どういう意味だ?」
「なんでも他の選手達の武器を破壊した後、なぜかトドメを刺す事なく素手で全員と殴り合って決着をつけたらしい」
「「「「はぁ!?」」」」
なんでそんな事をしたのだその男は!? 馬鹿なのか!?
「何でも、武器の力で勝ったと思われるのが気に入らなかったらしい」
報告書を読む同志が、理解に苦しむと言いたげに眉を顰める。
その気持ちはよく分かるぞ。
せっかく有利な状況に立ったというのに、何故自らそれを捨てるのか。
きっとその選手は馬鹿だったのだ。
それ以外に説明できる理由が無い。
「まぁ……その男は龍帝ではないだろうな」
「うむ、そうだろうな」
常識的に考えて、そのような愚か者が龍帝であるはずもなかろう。
なにせ負けてしまったら元も子もないのだからな。
「ではその選手は龍帝候補から外す事にしよう」
「「「「異議なし」」」」
また1人、龍帝候補が減った瞬間であった。
ジャイロ(:レ)∠)_「いやー、ちょっと活躍し過ぎちゃったかな。もしかして俺が龍帝と勘違いされちまったりしてな!」
貴族A(:3)∠)_「コイツはないな」
貴族B(:3)∠)_「うむ、ないな」
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