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第113話 龍帝の儀

_:(´д`」∠):_「ゴールデンウィーク疲れから回復してようやく更新です!」

_:(´д`」∠):_「と思ったら久々の一万文字越えーっ!!」

_:(´д`」∠):_「そして明日5/15日はマンガUPさんで連載中のコミカライズ版二度転生の第二話が公開されますので、そちらもよろしくですー。面白かったらお気に入り(星マーク)をタップしてくださると嬉しくて喜びます!」


いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!

皆さんの声援が作者の励みとなっております!

 町を襲ってきた魔物の群れの討伐が終わり、町は平穏を取り戻していた。

 町の被害も最小限で済み、負傷者はいるものの死者は無しという結果に町の人達は大喜びだ。


「ガッハッハッ! 俺の一撃でこーんなデカい魔物を一撃で倒したんだぜ! 見ろよこの立派な角をよ!」


「おめぇその話何度目だよ。それよりも俺が倒した魔物の牙のデカさをだなぁ」


「てめぇこそ、その話何度目だよオイ」


「「ガッハッハッハッ」」


 大量の魔物を狩って懐が暖かくなった冒険者さん達が、上機嫌で自分達の武勇伝を語り合っている。

 そしてご機嫌な人はここにもいた。


「もうすぐ龍姫の儀が開催されますね!」


 リューネさんだ。

 リューネさんは元々龍姫の儀に参加する為にこの町に来たんだもんね。


 魔物の襲撃があった事で開催が危ぶまれていたんだけど、予想外に被害が少なかった事もあって、龍姫の儀は例年通り開催されることが決定して一安心みたいだ。


 そしてその事を何より喜んだのは、町の人達だった。

 突然魔物の群れに町が襲われただけでなく、年に一度の楽しみまで無くなるんじゃないかと、みんな気が気じゃなかったみたいだね。


「優勝できるといいね」


「はい!その為に今日まで厳しい訓練を積んできたんです!絶対に勝ちますよ!」


 そう意気込むリューネさんに対し、リリエラさん達はのんびりとした様子で優しい視線を送っている。


「まぁ気負わなくても優勝は間違い無しでしょ」


「そうねぇ、ドラゴンを投げ飛ばすような人に勝てる人間なんて、そうそういるわけが無いものね」


 とそこでリリエラさん達が僕の方に視線を向ける。


「そのそうそう居ない人も、女性限定の大会じゃあ参加しようがないし、勝利は揺るがないわよねぇ」


「見る方も気楽ってものよね」


「……この儀式の賭けってどこで仕切ってるのかな」


 リューネさんが勝つと確信している女性陣はまったりムードのなか、メグリさんだけは儀式の裏で行われている賭けに参加しようと胴元を探してキョロキョロしていた。


「というか、皆は参加しないんですか?」


 この大会は女性限定だから僕やジャイロ君達は参加できないけど、リリエラさん達なら女性なので参加可能の筈だ。


「やめておくわ。ただでさえこの町では目立っているんだもの。これ以上目立つような真似は避けたいわね」


「おや、それは困るな」


 とその時だった。

 リリエラさんの発言に対し、聞き覚えのある声が反応してきた。


「貴方は……ギルド長⁉︎」


 ️そう、僕達に話しかけてきたのは、この町の冒険者ギルドを管理するギルド長だったんだ。

 そしてギルド長は隣に見覚えのない、恰幅の良いおじさんを連れていた。


「おいあれ、ギルド長じゃねぇか?」


「また何かあったのか?」


ギルド長がギルドのロビーに現れた事で、冒険者さん達がざわめき出す。


「今年の龍姫の儀に龍姫の再来と噂される君が出ないのでは盛り上がりに欠けるというものだろう」


ギルド長の言葉に、リリエラさんがうんざりした顔になる。


「皆さんそう噂していますけど、私は龍姫じゃありませんので」


リリエラさんがそう言うと、ギルド長はうんうんと頷く。


「成る程成る程、君の言い分ももっともだ。しかしだね、君が単独でドラゴンを討伐した事は事実だ。それも町の住人の目の前で。ならば君が龍姫でなかろうと、この時期に町にやって来たのだから龍姫の儀に参加するのではないかと期待するのも当然だろう」


色々とタイミングが良すぎたって訳だね。

たまたま龍姫の儀が開催される時にやってきて、たまたま町に現れたはぐれドラゴンを討伐して、たまたま町を襲った魔物の群れの撃退に協力した。

うん、普通に考えれば関係性を疑っても仕方がない気がするよ。


「更に先日の魔物の襲撃では、この町を守るかのようにゴールデンドラゴンとシルバードラゴンが戦闘に介入してきた。まるで伝説の竜騎士の様に」


「私はそのドラゴンとは関係ないですよ。地上で戦っていましたから」


「らしいな」


リリエラさんが自分のアリバイを主張すると、ギルド長はあっさりと肯定する。


「だがやはり君が単純に強い事に町の住民は期待しているのだよ。君が龍姫の儀に参加して優勝する姿をね」


「先ほども言いましたが、興味ありませんので」


「なぁなぁ、なんでリリエラの姐さんは大会に出ないんだよ?勝てば有名になれるじゃんか」


と、後ろでジャイロ君が小声でミナさんに質問する。

冒険者になったジャイロ君の目的は一流の冒険者になって名声を得る事だから、リリエラさんが目立つのを嫌がる理由が分からないみたいだ。


「まぁ普通に考えると龍姫と勘違いされてるのが一番の理由でしょうね。冒険者としての活動を認められて有名になるならともかく、自分と関係ない伝説と結び付けられて有名になるのは他人の手柄を掠め取るみたいな気分で嫌なんでしょ」


「ふーん、そういうもんか」


まぁそれについては僕も龍帝が復活したと言われたから、分からないでもないかな。

前世でも英雄として持て囃された所為で厄介事に巻き込まれ続けたし。

だから僕も今回はじっとしていよう。

儀式に参加する事もできないしね!


「では私からの依頼という事でどうですかな?」


とその時、ギルド長の隣にいた男の人が会話に割って入った。


「依頼……ですか?」


「はい、貴女に龍姫の儀への参加を依頼します」


突然の奇妙な依頼に、リリエラさんが首をかしげる。


「……ええと、なんでわざわざそんな依頼を?」


うん、リリエラさんの疑問も尤もだよね。

だって依頼をするって事は依頼料が発生するって事だから。

いくらリリエラさんに戦って欲しいからって、お金を払ってまで戦わせる理由が分からない。

周囲の冒険者さん達も奇妙な依頼に首を傾げていた。


「おっと自己紹介が遅れましたな。私この町の町長を務めるモルニグと申します」


「「「「「町長さん⁉︎」」」」」


依頼主がまさかの町長さんで僕達は思わず声をあげてしまった。


「龍姫の儀は町の重要な儀式ですからな。それも単純な儀式ではなく、町の外から人を呼び込む祭の側面も大きいのです」


以前リューネさんが話していた、龍姫の儀を武闘大会みたいにしてお客さんを増やしたって話の事かな?


「祭の運営に関わるものとして、祭が盛り下がる様な真似は避けたいのです」


「まぁそういう事なら分からないでもないですけど……」


つまり町の人達にとって、ドラゴンを討伐したリリエラさんは特別ゲストみたいな認識なんだろうね。


ゲストだから当然祭に参加するだろう。

そう期待していたのに出てこなかったらガッカリしてしまう。


そして期待が外れてしまったら

来年の祭のリピーターが減ってしまうかもしれないと。


そんな事になったら運営としては大弱りだから、お金を払って事実上のゲストになって貰おうって考えな訳だ。


前世でも知り合いの商人が「たとえ予定になかった出来事だとしても、客が期待しているのならその期待に応えるのが一流の商人だ! でないと売り上げが下がるからな!」って言ってたもんね。


でもだからといってたまたま任務で町に来ていた僕を、無理やり参加させたのはどうかと今でも思うよ。


「うーん、報酬付きかぁ……」


報酬が貰えると聞いてリリエラさんが悩み始める。


「報酬で気が付いたんだけど、龍姫の儀自体には何か報酬があるの?」


とメグリさんが龍姫の儀に参加するメリットは何かあるのかと質問する。


「ええありますとも。龍姫の儀では力自慢を呼び寄せる為に優勝者に金貨200枚を報酬として提供しております」


「おお! 金貨200枚!」


 金貨200枚と聞いてメグリさんが目を輝かせる。


「200枚……報酬の二重取り、宿の家賃に換算して……」


いやいやリリエラさん、今の僕達は家持ちですよ?


「あ、あれ? もしかしてライバルが増えるんですか!?」


 メグリさんが準備運動を始め、リリエラさんが真剣に悩む姿を見て、リューネさんが顔を青くしてオロオロし始める。


「いや、でもやっぱりデメリットも……今は仕送りするお金も十分あるし……」


 けれどやっぱり龍姫扱いが嫌なのか、リリエラさんの心が依頼を拒否する方向に傾き始める。

だけどここでギルド長からの援護射撃が入った。


「それについてだが、ギルド側としても龍姫の儀に参加して貰えるなら、それに見合うメリットを提供できる」


とここでギルド長も町長さんを援護する様に交渉に加わる。


「ギルドからですか?」


「ああ、君が龍姫の儀に参加してくれるのなら、君のSランク昇格を確約しよう」


「「「Sランク昇格だって⁉︎」」」


まさかのSランク昇格発言にギルド内が騒然とする。


「そ、それは流石に不味くないですか?」


「いや、君は単独でドラゴンを討伐出来る戦力だ。ならばSランクの昇格に問題はない。多少細かい問題はあるが、儀式の場で君が力を示せば実績の上積みとしても十分だろう。なにせ儀式を見に来た観客の全てが証人になるんだからな」


上手い事考えるなぁギルド長。

メリットが大きいから、リリエラさんも一気に断り辛くなったよ。


「う、うーん……報酬二重取りとSランク確約……しかもギルド長から直接の要請……」


更に追加で報酬を提案されて、リリエラさんが頭を抱えながら、ちらりとギルド長に視線を向けて悩んでいる。


「あわわ……」


ついでに言うと、決断を悩むリリエラさんをリューネさんが顔を青くしながら見つめている。

そしてすこしの間を置いて、決断を下したらしいリリエラさんが顔を上げた。


「……分かりました。その依頼受けさせて頂きます」


「「「「おおーーっ‼」」」」


「ギャァァァァァァッ!!」


ロビー内に歓声と悲鳴が響き渡る。


「いやーありがとうございます。これで私も龍姫の儀に武闘大会を組み込んだ先祖に顔向けできますよ」


あー成る程、ご先祖様が儀式に関わっていた人だったからこんなに真剣に交渉してきたんだ……ね?


「「「「「って、あんたの祖先だったんかい⁉︎」」」」」


うわー、まさか町長さんのご先祖様が龍姫の儀を今みたいにした張本人だったとは……何というか血が繋がってるって感じだなぁ。


「……だって、ギルド長直々のご指名だもの。断るとか無理でしょ」


 成る程、リリエラさんが大会参加の依頼を受けたのはギルド長の顔を立てる為だったんだね。

 確かに僕達冒険者は冒険者ギルドに所属している。

 そんな僕らがギルド長からの要請を断るのは色々と気まずいもんね。


 でもそんなリリエラさんがボソリと口にした呟きは、ロビーの中で吹き荒れる歓声にかき消されてしまい、近くに居る僕達にしか聞こえていなかった。


「話が纏まって何よりだ」


と、ここでギルド長が声と共に手を上げると、ギルド内が再び静かになる。

まだ何かあるのかと皆がギルド長に視線を注ぐ。


「龍姫の儀だが、ある事情から開催日を延期する事となった」


「「「「「ええーっ!?」」」」」


 まさかの延期宣言に、皆が不満の声を上げる。


「やっぱり魔物の襲撃で何か悪影響があったのかしら?」


「いや、今年からある儀式も同時に開催する事にしたんでな。その準備の為に開催時期をズラす事にしたんだ」


「ある儀式?」


「そうなのです! 今年からは女性のみの龍姫の儀だけでなく、男性を対象にした龍帝の儀も開催する事が決定したのです!」


「「「「「なんだって!?」」」」」


 町長の口から、男を対象にした龍帝の儀が開催されると告げられて、ギルド内の冒険者さん達が色めき立つ。


「マジかよ!? 今まで見るだけだった大会に俺達も参加できるのか!?」


「勿論こっちの大会にも賞金は出るんだよな!?」


「勿論ですとも! 何しろ我が国の伝説の龍帝陛下役を選ぶ儀式なのですからね! そして初めての儀式である事を記念し、賞金は龍姫の儀の倍額である金貨400枚とします!」


「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」」」」」


「儀式の開催は一ヶ月後! 龍帝陛下役を選ぶ初の儀式と言う事もあって、王都に住まう貴族の方々もいらっしゃるそうです! 活躍次第では騎士として登用される可能性もありますよ!」


「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」」」」」


「マジかよ!? 金貨400枚だけでなく騎士にまでなれちまうのか!?」


「ばっか、お前に優勝なんて無理だっての。金貨400枚と騎士の座は俺のモンだ!」


「ふざけんな、優勝するのは俺だ!」


 町長の立て続けの発言に、冒険者さん達がギラギラとした目になって興奮している。

 そういえば大剣士ライガードの冒険でも、冒険者が貴族に認められて騎士になるお話は、平民が立身出世する物語として人気が高いからね。


その物語では仲間と貴族を救ったライガードが騎士に推薦されるんだけど、ライガードは自由を選んでその話を辞退するんだ。

でもその代わりにライガードは自分の仲間の剣士を騎士に推薦したんだ。

皆はライガードの仲間が騎士になった所が好きっていうけど、僕は栄誉を捨ててでも自由を選んだライガードに共感を感じたんだよね。


「兄貴兄貴! 俺達も参加しようぜ!」


と、そんな事を考えていたら、ジャイロ君が興奮した様子で僕を大会に誘ってきた。


「え? ジャイロ君って騎士になりたかったの?」


 いやでもジャイロ君の目的は有名になる事だから、優勝して騎士になれば目的を達成できるのかな?


「騎士とかはどうでも良いよ。何か堅苦しそうだし。それよりも俺は大会で戦いたいんだよ! なんせ国で一番強い王様役を選ぶんだぜ! しかも金貨400枚の賞金付きで! 絶対すっげぇ強い連中がわんさかやって来るに決まってるぜ! んで俺はソイツ等と戦って確かめたいんだ! 兄貴に鍛えられた俺は、強くなったってよ!」


成る程、賞金と騎士の座を求めてやって来た猛者と戦うのがジャイロ君の狙いなんだね。

 確かに人間と魔物じゃあ同じランクだったとしても知恵の有無で思わぬ苦戦をする事もあるからね。


「だからさ、兄貴も一緒に出ようぜ!」


「ええっ!? 僕も!?」


 いやいや、僕はあんまり目立ちたくないから、こういう大会には参加したくないんだよね。


「そんな事言うなよ兄貴ー、俺は兄貴とも戦いたいんだよ! ノルブも参加させるからよー」


「ええっ!? 僕も参加するんですかっ!?」


 うう、ジャイロ君がキラキラした目で僕を見つめて来る。

 本当に強い相手と戦いたいんだなぁ。

 あとノルブさんごめんね。


「それについては私からも要請したい所だな」


と、そこにギルド長が加わって来る。


「ギルド長まで……」


「部下からの解体場での経緯は聞いているよ。君達はドラゴンを討伐する事が出来る冒険者だそうじゃないか。しかもその内の一人はSランク冒険者ときたものだ」


 あー、ギルド長だもんね。所属する冒険者の素性くらい分かるか。


「彼女、リリエラくんにしてもそうだが、やはり祭にはゲストが必要だ。特に龍帝の儀は今回が初の大会と言うだけでなく、龍帝という我が国において最強の代名詞を決める栄光ある大会でもある。そんな時にSランクの冒険者がこの町にやって来た事には、何かしらの運命を感じてもおかしくあるまい?」


 いえおかしいですよ! 偶然です、本当に偶然なんですよ!


「あはは、でも僕は賞金にも騎士の座にも興味はありませ……」


「良いじゃない、受けましょうよレクスさん」


 と、そんな時だった。

 突然後ろからリリエラさんが会話に参加してきたんだ。


「私が参加する事になったのも、もとはと言えばレクスさんが街中で私達だけでドラゴンと戦えって言ったのが原因じゃない。だったら、レクスさんもこの大会に参加する義務があると思うわぁ」


 ニンマリと僕の腕を掴むリリエラさんの表情を見た僕は、何故か暗い土の底に犠牲者を引きずり込もうとするアンデッドを想像してしまった。

 まるでお前だけ暖かな太陽の下に居させるものかとでも言わんばかりのどんよりとした眼差しで。


「いやー、僕はお金にも困ってませんし、名誉にも興味ありませんから」


 というか、本当なら適当に魔物を狩ってその日暮らしをする地味な冒険者活動をするのが僕の目的だしね。

 今度の人生じゃあ名誉なんかとは無縁の生活をしたいよ。


「ああ、それなら大丈夫よ。私に良い考えがあるわ」


「……」


何故だろう、とっても良い考えの気がしないんですけど。


 ◆


「予定通り国中に龍帝の儀の開催が伝わっているようだな」


「うむ、これで予定通り大会の名目で新たな龍帝を燻り出す事が出来るというものだ」


 屋敷の一角、使用人を遠ざけたサロンで私達はある策略の為に集まっていた。

 この時代に蘇ったという新たな龍帝を人知れず葬る為の陰謀を成功させる為の集まりが。


 タツトロンの町を襲った魔物の群れが、()()()()()()()()()()()()()()()()の活躍によって殲滅されたと聞いた我等は戦慄した。

 なぜなら最強のドラゴンであるゴールデンドラゴンを駆る竜騎士とはすなわち、ドラゴニア最強の竜騎士、龍帝である事を意味するのだから。


 偉大なる皇帝の復活、それは我等ドラゴニアの民として祝福すべき慶事……ではなかった。

 少なくとも我等上級貴族にとっては。


 かつて龍帝は魔人との決戦で帰らぬ人となり、ドラゴニアは龍姫との間に生まれた皇子が受け継ぐこととなった。

 しかし後の時代に起こった流行病によって、当時の竜騎士達は1人残らず命を失ってしまったのだ。

 何より問題だったのは、犠牲者である竜騎士の中に、当時の龍帝が居たことだ。


 更に最悪だったのは、当時の龍帝の血縁者が皆竜騎士だったということだ。

 ごく僅かな間に龍帝の血縁者が1人もいなくなってしまったという恐るべき事実。

 これで国が割れないわけがない。

 

 指導者を失ったドラゴニア上層部は荒れに荒れた。

 一時は国が二分される寸前にまでなったのだ。


 最終的には当時の宰相がいつか龍帝が帰ってくるという伝説を利用して、貴族達の中から最も優秀な者を選出し、その者を代理の皇帝とする事で国は落ち着いた。


 それは代替わりする度に新たな皇帝代理を選出するという椅子取りゲームでもあり、優秀でさえあれば自分達に事実上の皇帝の座が回ってくるかもしれない希望に満ちたシステムに多くの貴族が賛同した。


 まぁ実際には十分な教育を受ける事の出来る大貴族が、皇帝代理の座を独占する仕組みではあるのだがな。

 とはいえ、それでもこの仕組みは上手くいっていた。


 何しろ誰にでもチャンスがあるというのは形ばかりとはいえ、貴族達が優秀な後継を育てる事に躍起になっているのだから、新たな皇帝代理にこそなれずともその家臣として取り立てられる可能性が高いのだ。


 だがこの仕組みにも一つ大きな穴があった。

 それは、誰かが皇位を独占しない為に、あくまでも自分達は皇帝の代理だと宣言する事だ。


 その宣言は、あくまでも自分が龍帝の代理だと宣言するものであり、この宣言を反故にすれば、国内の敵対派閥だけでなく、他国の介入すら招きかねない制約だった。


 その内容とは『龍帝陛下がお帰りになられた暁には、皇帝代理は龍帝陛下に皇位をお返しする』というものだった。

 そして今、ゴールデンドラゴンを従えた竜騎士という否定しようのない証拠を伴って、龍帝がタツトロンの町に現れたことで王都の貴族達は大騒ぎになっていた。


 だが……


「蘇ったという龍帝は、未だ名乗りも上げず、帝位の返還の要求もしてこないでいる。これに何らかの意図があるのは間違いあるまい」


 そう、ゴールデンドラゴンに乗って戦いに参戦したと言うのに、龍帝はそれ以後姿を消してしまったのだ。

 まったくもって不気味な沈黙である。


「我々が帝位を返還する気が無い事を察しているという事か?」


「我等上級貴族が皇帝代理の座を独占している事を面白く思っていない下級貴族共が龍帝に味方しているのやもしれんな」


 その可能性は高いな。

 下級貴族共はどれほど優秀であっても、我等上級貴族が上の役職を独占している為にそれ以上の出世が難しい。

 それを不満に思っているからこそ、龍帝を迎え入れて立場の向上を目指している可能性が高い。


「ふん、今更過去の亡霊なぞに帝位をくれてやる事など出来るものか」


 その通りだ。どの様な意図があったとしても、今現在この国の政を取り仕切って来たのは我々上級貴族である事は揺るがない事実だ。


 何より、いずれ蘇る龍帝に帝位を返還するなどという宣言なぞ、我等が玉座を手に入れる為の方便に過ぎぬ事は誰もが知っている事。


 だからこそ、我等は龍帝復活を名目にタツトロンの町の町長に命じて龍帝の儀の開催を命じたのだ。

 その裏で、龍帝暗殺の企みを実行する為に。


「既に大会参加者と偽って暗殺者達を差し向けている。龍帝の正体が判明次第始末させる予定だ」


「いかにゴールデンドラゴンを従わせる竜騎士と言えど、街中でドラゴンを暴れさせる事など出来まいて」


「くくく、帝位に返り咲く前に消えて貰うぞ龍帝よ」


 これまで我等の支配を盤石とする為に暗躍してきた選りすぐりの暗殺者達が、たった一人の人間を殺すためだけに一つの町へと集結する。

 手段を選ばず目標を始末する狂犬の群れに襲われれば、いかに龍帝といえど無事では済むまい。


「龍帝の儀の開催を宣言した事で、町から出る人間の数も大幅に減った。予定通り流れの傭兵や冒険者達も大会に参加する為に町に滞在する事を選択したようだ」


 うむ、龍帝の儀の開催を決定したのも、町に潜伏している可能性がある龍帝の足止めが目的であるからな。

 皇帝自らが竜騎士として国を治めていたドラゴニアは、強き者に敬意を示す。


 それ故に、儀式で自らの役を決める初の大会で龍帝本人が現れなければ、その強さに疑問を抱かれてしまいかねない。

 むろん事実はどうでも良い。

 民がそう思い込むように噂を流せば良いのだ。


「それと冒険者ギルドから、タツトロンの町に滞在している男の冒険者の名簿を用意した。騎士として登用する可能性のある冒険者を吟味する名目でな。その中で一人、気になる者が居る」


「ほう?」


 同志であるジホウ伯爵がテーブルの上に名簿を広げ、一人の冒険者の名前を指さした。


「大物喰らいのレクス。冒険者として登録して一年と経たずにSランクに昇格したという凄腕の冒険者だそうだ」


「一年でSランクだと!?」


 ジホウ伯爵の言葉に、その場にいた全員が驚きの声を上げる。

 それもその筈、我等にとって冒険者とは平民が一攫千金の為になる山師の如き下賤の職業。


 だがその中において、Sランク冒険者だけは別格の存在として認識されている。

 正規の騎士団を以てしても討伐する事の叶わぬ魔獣を討伐し、伝説と言われる財宝を迷宮の奥深くより持ち帰るSランク冒険者は、近衛騎士にも等しい実力者として各国の上級貴族達のあらゆる難題に貢献しているのだ。


 文字通り、人の姿をした化け物、それがSランク冒険者だ。

 更に連中は真っ当な性根を持ってはおらず、気に入らねば貴族であっても構わず噛みつくと言うではないか。

 その強さと扱いにくさもあって、我々上級貴族であってもSランク冒険者は対応に気を使わねばならぬ存在だ。


「……あー、確かにその様な大物が滞在している事には驚いたが、その者が龍帝という事はあるまい」


 しかし今回に限ってはその心配もあるまい。


「そうだな。これまで名乗りを上げていない以上、龍帝がSランク冒険者などという目立つ立場になるとは思えん」


「うむ、やはりそうか。ただまぁ……ランクがランクであったのでな、少々気になったのだ」


「まぁ実力者が一人候補から外れたのだ。悪い事でもなかろう」


「うむ、そうだな。こんな化け物が龍帝であったら暗殺もへったくれもあるまいて」


「「「「「ははははははっ」」」」」

上級貴族A(:3)∠)_「はっはっはっ、Sランク冒険者が龍帝の筈が無いよね(笑)」

上級貴族B(:3)∠)_「だよねー心配し過ぎだよー」

上級貴族C(:3)∠)_「そ、そうだよねー(ホッ)」

モフモフΣ(:3)∠)_「あっ(察し)」


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