第110話 魔人ホイホイ
_:(´д`」∠):_「お知らせですー! この度小説家になろう公式連載『N-Star』にて連載中の『商人勇者は異世界を牛耳る! ~栽培スキルでなんでも増やしちゃいます~』のコミカライズが決定しました!」
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「ここが魔人のアジトか」
僕は魔人のアジトを崖の上から眺める。
それは大きな峡谷に作られた要塞の廃墟だった。
魔人に取り付けたマーカーの反応を追って、僕は魔人のアジトへとやってきた。
最初は転移魔法でちゃっと行ってちゃっと殲滅しようかと思ったんだけど、そこがどんな場所で魔人がどれだけいるかわからなかったから、あえて飛行魔法でやってきた。
もし跳んだ先が市街地で、魔人が沢山いたら即戦闘になって町の人達に犠牲が出る危険が大きかった。
それに転移魔法を使うと、姿隠しの魔法で自分の姿を消していても次元の歪みを見られて侵入がバレちゃうからね。
何よりいいかげん魔人の暗躍に巻き込まれるのはゴメンだ。
だからできるなら魔人を一網打尽にしてしまいたい。
幸いマーカーの反応が止まった場所は僕達のいた町からそれほど離れてはいなかった。
せいぜい飛行魔法で数時間程度の距離だったからね。
探査魔法を使い、要塞内で何十もの生命反応が動き回っている事を確認する。
朽ちて破棄されたことは確実なのに、それでも誰かがいるというのはやっぱり怪しい。
「しかし谷底に作られた要塞とか、おかしな場所に作るなぁ」
この要塞は長い事使われていないらしく、見た目はボロボロだ。
とはいえ、それでも最低限の保存魔法はかけられているらしく、手入れをすれば使えそうではある。
「うーん、前世の僕が生きていた頃の地方要塞に似ているなぁ。壊れてるみたいだし、同じ時代の遺跡なのかな?」
ああそういえば、この間の洞窟の中に作られた研究所は白き災厄っていう魔獣を倒す為の秘密施設だったし、この要塞もそういった目的で谷底に作られたのかもしれない。
「じゃあ行きますか」
すでに姿隠しの魔法を発動させている僕は、臆する事なく廃墟の要塞へと向かっていった。
◆
「やっぱり見覚えのある構造だなぁ」
僕は要塞の中を進みながらも、その建築様式や内装に懐かしさを覚えていた。
英雄時代はよくこういう要塞に送り込まれて魔獣や魔人と戦っていたなぁ。
あれも良い司令官だったら軍と連携がとれて戦いやすいんだけど、メンツや名誉に拘る人だと、自分達で解決しようとなかなか戦わせてもらえなかったりして被害が増えるから大変だったんだよね。
そしてとばっちりを受ける騎士や兵士の人達を守る為に、出撃許可が降りてなくても援護出来るようにハイエリアヒールとかの範囲魔法を作ってこっそり基地内から援護してたりしたんだよねー。
「おっと」
要塞内の基地を懐かしんでいたら、前方から足音が近づいてくる。
勿論、気配の正体は人じゃない。
二人組の魔人だ。
恐らくは要塞内の見回りだろう。
彼等は退屈そうに世間話をしながらこっちに向かってくる。
「そういえば聞いたか?龍帝を襲撃に行った連中が全滅したって話?」
「はぁっ⁉︎ なんだよそれ? あれだけの軍勢を引き連れて失敗したっていうのか⁉︎」
ああ、町を襲ってきた魔人達の事だね。
「なんでも龍帝一人に返り討ちにあったらしい」
「嘘だろ⁉︎龍帝ってそんなに強いのかよ⁉︎」
「いや、ゴールデンドラゴンが龍帝に従った事で、上の連中は竜騎士団が極秘裏に復活している可能性があると警戒してるらしい。今回の件もあえてゴールデンドラゴンの存在を表に出す事で、我等をおびき出したのではないかと考えているみたいだな」
「俺達の方が誘い出されたってのか⁉︎」
「その可能性が高いそうだ。竜騎士団の立て直しが完了し、我等を誘い出す事で大規模な実戦訓練を行ったんじゃないかって話だ」
えーっと、そんな事考えた覚えはないんだけど。
どっちかというと、急いで迎撃準備を整えただけなんだけどなぁ。
「現に町の戦士団は明らかにドラゴンの素材を使った簡素な武器を装備していたらしい」
「なんで簡素なんだ?」
「見た目の貧相さの割に、異常に性能が良かったそうだ」
え?そんな仕込みをした覚えはないよ?
あれはあくまでも装備を整備中だった人達の為の予備装備でしかなかったんだけど。
「なるほど、明らかに偽装だな」
「ああ、みすぼらしい装備のフリをしてこちらの目を欺き、一網打尽にしたわけだ」
ええと、それは幾ら何でも……いや待てよ?
もしかしてそういう事だったのかな?
あのギルドからの依頼、本当にそういう用途で頼まれたんじゃあ。
町には本命の偽装した装備が用意してあって、それに信憑性を持たせる為に僕に数を揃える事を頼んできたんじゃないかな。
成る程、納得したよ!
冒険者さん達が急場凌ぎで作った装備を絶賛していた理由も、実はあの人達は本命の装備を身につけた町を守る守備隊の兵士達の変装だったんだろう。
さすが龍国ドラゴニアの守備隊だね。
竜騎士が居なくなっても外敵に対する準備を進めていたんだ。
うん、龍帝が居なくなっても、その意思は受け継がれているんだね。
などと考えていたら、世間話をしていた魔人達は僕の横を通り過ぎて行ってしまった。
「さて、僕も要塞の中を確認しないとね」
要塞はすでに朽ちているから、人間を巻き込む心配はないと思うんだけど、もしもどこかから誘拐されてきた人質が居たらマズい。
それに魔人達の本拠地に移動できる転移ゲートもあるかもしれない。
それが見つかったら、暫くは僕達人間に手出し出来ない様にダメージを与えておくべきだろうね。
と言うわけで僕は要塞内部を歩き回る。
探査魔法で要塞内に何人居るかはわかるし、人間かそれ以外かもある程度は判別できる。
でも万が一の為に自分の目で確認しておく必要があるのは間違いない。
「それにしても、魔人は僕達の遺跡を利用するのが好きだなぁ」
新しく建てるのが面倒なのか知らないけど、いいかげん家賃を取ってもいいんじゃないかな?
「……あっ」
家賃という単語で、僕はある考えを思いつく。
「うん、良いかもね、それ」
そうと決まれば早速行動を開始する。
幸いこの要塞の構造は前世の一般的な要塞と大差ない。
「多分こっちの方に……ああ、あった」
そう時間もかからずにお目当ての場所にたどり着いた。
場所が場所なので、探査魔法には魔人の反応もしない。
そこは大きな部屋で、中央には細い柱の上に巨大な球体が乗っており、球体から何本もの細い柱が部屋の各所に伸びていた。
そしてこの丸い球体の正体、それは魔導動力炉だ。
言葉通り魔法の力で動く動力源なのさ。
前世の時代は強力な魔人や巨大な魔人に対抗する為に要塞備え付けの防衛用マジックアイテムを動かす為の動力源を必要としていた。
人間の魔力だけじゃあ常時防衛設備を動かせないからね。
「うん、これなら修理すれば使えそうだ」
大分前に朽ちた要塞だけど、内部は状態維持の魔法が最近まで効果を発揮していたらしく、あまり傷んでいない。
この辺りは要塞の心臓部だから、外部に比べて保全に力を入れていたんだろう。
「では修理を開始しますか」
念のため部屋の外に音が漏れない様に消音魔法を室内に張ってから作業を開始する。
「こっちの部品は手持ちの素材で代用できるね。こっちはマジックアイテムで代用すれば行けるか」
僕は手持ちの素材やマジックアイテムを流用して魔導動力炉を修理していく。
更に制御装置も使いやすいように改造しておこう。
「それにしてもこの要塞、使われていたのは最後の龍帝の時代なのかな?」
リューネさんが語った龍帝と龍姫の物語では、全ての竜騎士達を引き連れて戦いに出向く話が語られていた。
だとするとこの要塞の兵士達もその戦いに出向いたかここで最後まで戦ったんだろう。
それが魔人達のアジトとして利用されるなんて、皮肉だね。
「けど、この装置の構造、前世の時代とあんまり変わってないなぁ」
前世の記憶を思い起こしてもこの要塞の事を知らなかったって事は、多分この遺跡は僕が死んだ後に作られた物の可能性が高い。
でもその割にあまり設備に進歩が見受けられないって事は、龍帝の時代は前世のボクが死んだ時代とあまり変わらないのかな?
「よし修理完了!」
割と簡単に修理が完了したので、僕は早速魔導動力炉を起動させてみる。
すると僅かに要塞内に振動が走る。
作業も終わったので消音魔法を解除すると、大きなサイレンの音が耳に飛び込んでくる。
これは敵の侵入を知らせるサイレンだね。
勿論サイレンが知らせる侵入者は魔人の事だ。
遠くから魔人達のものと思しき悲鳴が聞こえてくる。
同時に探査魔法で察知していた魔人達の反応が次々と消えていく。
「うん、防衛装置はちゃんと生きていたみたいだね」
前世の時代、こうした要塞は魔人の侵入を最も警戒していたんだ。
だから魔人特有の波長を防衛装置の警戒対象に組み込むのは最優先事項だったのさ。
そんな訳で要塞の動力が復活した事で、まだ壊れていなかった防衛装置が再稼働し、要塞内に侵入した魔人達の退治を始めた訳だ。
魔人達ももう壊れたと思っていた要塞に突然襲われてびっくりした事だろうね。
「毎度毎度僕達の時代の遺跡を利用していたんだ。たまには痛い目をみるのも良い経験になると思うよ」
そうして、しばらくすると要塞内から全ての反応が消えた。
「どうやら人間は居なかったみたいだね」
そう、この要塞が軍事施設で侵入者に厳しいといっても、同族である人間をいきなり殺したりはしない。とりあえず捕まえて素性を調べるものだ。
だというのに基地内の反応が一人残らず消えたって事は、この要塞内に人間は居なかったって証拠だね。
そして魔人の反応が消えると共に、サイレンも鳴り終えた。
「これで要塞内の魔人は一掃だ!」
家賃も支払わずに無断で住み着く様な連中は、力づくで追い出されても文句は言えないよね。
ちなみに、要塞の防衛装置が関係者でない僕に反応しないのには理由がある。
それはさっき魔導動力炉を修理していた際に、近くにあった制御端末から要塞内の防衛装置の中枢に潜り込んで、僕をこの基地の関係者だと登録しておいたからなんだよね。
いやー、制御装置の術式セキュリティが甘くて助かったよ。
何故そんな事が出来たのかって?
それはね、マジックアイテムを建物に組み込み管理する魔導建築を最初に作ったのが前々世の僕だったからさ。
前々世の僕は、当時の王様に少人数でも大要塞並みに運用できるマジックアイテムを組み込んだ半自動要塞作りを命じられたんだ。
そんな事情もあって、魔導建築の基礎を知っていた僕には、すぐにそれがかつて僕が作った制御装置の発展系だと気づけたのさ。
基本がわかればあとは簡単。
予想以上に前々世の僕が作った装置と構造が酷似していた装置は理解が簡単で、すぐに要塞の管理権限を当時の管理者から僕に変えたわけだ。
「さて、それじゃあ要塞内部の探索を再開しようかな。魔人の本拠地につながるゲートがあると良いんだけど」
◆
魔人達を全て討伐する事にした僕は、要塞内を隅から隅まで探索した。
けれど残念な事に、魔人の本拠地へ行く事のできる転移ゲートは存在していなかった。
「さすがに最重要施設は別の場所かぁ」
ちょっと残念だけど、当然か。
ここは魔人達が仮の拠点として使っていた場所だ。
本拠地に行く為のゲートを設置するなら、もっと防衛設備に力を入れた本命の要塞にあるのが普通だろうね。
「しょうがない。今回は要塞内に居た魔人達を殲滅出来ただけでも良しとしよう!」
ちなみにマーカーを仕込んでおいた魔人も基地の中で倒れていた。
逃げられることなく、普通に倒しちゃったなぁ。
「それじゃあ一旦帰るとしようかな」
僕は転移魔法を発動して皆の待つ町へ戻る。
「後の事は魔人ホイホイに任せるよ」
◆
そこは地獄だった。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
俺達は連絡の取れなくなった同胞達の安否を調べる為に、ドラゴニアの朽ちた要塞へとやってきた。
「コルデルがやられたぞ!」
そして誰も見つからぬままに奥へと進んで行くと、突然背後から悲鳴が上がったのだ。
それが地獄の始まりを告げるゴングだった。
「ぐわぁぁぁ!」
「ラザームッ!!」
なんと朽ちて動かなくなったはずの要塞の防衛装置が活動を再開しており、突然俺達に襲い掛かってきたのだ。
「くそっ! くそっ!」
同胞が防衛装置に攻撃を仕掛けるが、なんとこの装置には防御魔法を発動するマジックアイテムが組み込まれているらしく、まともにダメージが通らなかった。
「に、逃げろ! とにかく外に逃げるんだぁぁぁっ!」
そうか、これは罠だったんだ。
要塞の奥まで入り込んた愚かな侵入者が油断した瞬間、後ろから思いっきり殴りつけてくる恐ろしい罠。
「一体誰がこんな悪趣味な罠を!」
行きは何事もないかの様に見逃しておきながら、逃げる際には驚くほど多くの防衛装置が我々を逃すまいと迎え撃つ。
こうして我々は出口にたどり着く事無く全滅し、その後も調査に来た同胞達が我等と同じ末路をたどった。
そして数度の調査を失敗して、ようやく同胞達はこの要塞が何らかのはずみで機能を復活させたのだと判断し、それ以上の調査を諦めて要塞を放棄するのだが、既に死んでしまった俺達には遅すぎる決断だった。
魔人(;゛゜'ω゜'):「ぎゃぁぁぁぁ!? 一体何事ー!?」
防衛装置(:3)「退治するでぇー」
魔人(;゛゜'ω゜'):「あだだだだだっ!?」
防衛装置(:3)「魔人は消毒やー」
魔人(;゛゜'ω゜'):「おうち帰るー!」
防衛装置(:3)「お前らの悲鳴が家賃やでー」
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