第106話 破滅の軍勢
_:(´д`」∠):_「ちょっと更新が開いてごめんなさいです」
_:(´д`」∠):_「そして来週月曜日は二度転生二巻の発売日&コミカライズ連載開始です!」
_:(´д`」∠):_「何とか発売日前後にも更新したいですねぇ(積み上げられた仕事の山を見ながら)」
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「では私もシルバードラゴンと戦いに出ます!」
城壁越しに魔物との戦いが始まって少し経った時だった。リューネさんが突然そんな事を言いだしたんだ。
「シルバードラゴンとですか?」
「はい! 私はシルバードラゴンと契約して竜騎士になりましたから!」
「え? いつの間に?」
リューネさんとシルバードラゴンの接点と言えば僕達と一緒に龍峰に修行に出かけた時だ。
その後はこの町に戻ってくるまでずっと一緒だったし、町に戻ったらみんなぐっすり休んで翌日起きたらこの状況。
一体いつシルバードラゴンと契約をしていたんだろう?
「え? それはもちろんシルバードラゴンと戦った後ですよ?」
シルバードラゴンと戦ったあと?
でも昨日は何か特別な儀式とかして無かったよね?
「龍帝様……いえレクス師匠もゴールデンドラゴンに乗ってこの町へやって来たと言う事は、既に契約されていらっしゃるのでしょう? ドラゴンは契約していない相手を背に乗せる事はありませんから」
ん? あの時は張り倒したゴールデンドラゴンが勝手に伏せて僕達を乗せてくれたんだけど。
「ええと、リューネさんはどうやってシルバードラゴンと契約したんですか?」
「え? なぜそのような事を……? いえ、レクス師匠の仰ることですから、きっと深い意図があるのですよね。ええと、その、私達竜騎士は戦いを経て命を奪う事無く降したドラゴンの角を削り、その身の手入れをする事で契約を結びます。ドラゴンにとって、角や鱗を手入れするのは家族だけですから。つまり人間に手入れをされると言う事は、ドラゴンが私達を自分の身内だと認めると言う事です。後はドラゴンから削り取った角に念じれば、ドラゴンを呼ぶ事が出来る様になります」
へぇー、そうだったんだ。
いやドラゴンが鱗の手入れを家族にしかさせないっていうのは知っていたけど、人間に手入れされる事がそういう意味を持つっていうのは知らなかったなぁ。
「ああ、そう言えばこの間ゴールデンドラゴンに初めて出会った時に、あまりにも角や鱗がボサボサで眩しかったから、張り倒して光量を押さえる為に手入れしたんだよね。そっかー、あれが竜騎士の契約になってたんだ」
「……はい?」
リューネさんが言っている事が良く分からないと首をかしげる。
「どうやら知らないうちに竜騎士の契約を結んでいたみたいですね」
「……え?」
「……と言うか、竜騎士の契約ってそうやってやるんだね」
「……ええと、まさか、レクス師匠、本当に、竜騎士の、契約方法、知らなかった、んですか? その、龍帝様、なんです……よね?」
リューネさんが単語単位で言葉を切りながら、青い顔で質問してくる。
「いえ、今日初めて知りました。そして僕は龍帝じゃないです。本当に無関係なたまたま龍帝流空槍術を習っただけの赤の他人です」
それにしても、まさか竜騎士の契約方法がそんな単純な事だったなんてね。
前世からの疑問が解消されたよ!
うん、転生も悪くないね!
「り……」
り? なんだろう?
「竜騎士の秘奥を喋っちゃったぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あー、あるよねそういうの」
大丈夫、前世と前々世でもそういう人結構居たから。
「ど、どどどどうしよぉー! お父様に叱られるぅーっ!」
とまぁそんな訳で、僕はいつの間にやら竜騎士になっていたみたいだ。
ふむ、折角だし僕もゴールデンドラゴンを呼んでみようかな。
ええと、確か角を持って念じるんだっけ。
「来い! ゴールデンドラゴン!!」
◆
「こ、これはどういう事だ!?」
我は困惑していた。
本来ならば我等が使役する魔物の大群が、人間共の軍勢を圧倒的な数をもって蹂躙する筈だったのだ。
だが、現実はそうなってはいなかった。
「何だ!? 何なのだ人間達のあの強さはっ!?」
そう、人間達は強かった。
我等がけしかけた魔物共の攻撃の悉くを不格好な盾と鎧で受け止め、手にした貧相な剣や槍で魔物共の体を貫いていった。
だが魔物共もただの魔物ではない、アレらは我らが先兵として利用するべく、人間共の基準で言えば最低でもBランクを越える強力な魔物ばかりを選んで従えていたのだ。
だというのに、人間共はほんの100人足らずで我等の侵攻を凌いでいた。
いや凌ぐどころか逆に押し返しているようにすら見える。
いま切り裂かれた魔物など、その鱗の堅さから並みの武器では武器の方が壊れてしまう様な硬さ自慢の魔物だぞ!?
それをバターを切るかの様にあっさりと切り裂いただと!?
そして向こうで暴れていた多頭蛇の魔物は、その再生力の高さ故に人間共からは不死の魔物と呼ばれ恐れられていたというのに、何故か人間共によって負わされた傷が回復するそぶりも見せずに倒されてしまった。
ああ馬鹿止めろ! そっちの魔物は我々の主力として捕らえた強力な魔物なのだぞ!?
ああ、死んだ……。
「何なのだ……これは一体何が起こっているのだ……!?」
人間共だけではない、龍帝達竜騎士はドラゴン共を従えて魔物達の包囲網を破壊すべく、仲間が被害を受けない場所を狙ってブレスによる攻撃を行い、包囲網の厚みを確実に薄くしている。
「まずい、まずいぞ! このままでは人間共によって我らの軍勢が壊滅してしまうのではないか!?」
同胞の言う通りだ。これでは人間共の町を滅ぼすどころではないぞ!?
「狼狽えるな!」
そう一喝して浮足立った場を静めたのは、我等同胞をまとめ上げる意思決定の役割を持つ知恵の一族の者だった。
「慌てる必要などない。戦場を良く見ろ、数の差は圧倒的だ。ならばどれだけ連中が善戦しようと、最後には力尽きて倒れるは道理。人間共の体力は我等とは比べ物にならぬ程貧弱なのだ」
「だ、だが連中には龍帝が居るぞ? 龍帝が従えるゴールデンドラゴンがドラゴン共を呼び寄せたらどうなる? その時点で数の差は埋まるやもしれんぞ」
確かに、同胞の懸念はもっともだ。
ただでさえドラゴンのブレスは厄介だ。
先ほどもゴールデンドラゴンのブレスで魔物共の群れの一部が根こそぎ吹き飛ばされたのだからな。
「その心配もいらぬ。ドラゴン共は基本自分を倒した相手にしか従わぬ。ゴールデンドラゴンが戦場に出ているというのに、シルバードラゴンしか仲間が居ないのがその証拠だ。おそらくはドラゴンを従える竜騎士の数が足りぬのであろう」
成程、そう考えると他のドラゴン共が居ないのもうなずける。
「さすがは知恵の一族の末裔か……」
かつて我等魔人は、伝説の白き災厄の出現によって、甚大な被害をこうむった。
人間との戦いでも疲弊していた我等であったが、白き災厄の出現がそれを決定的にした。
多くの戦士達が白き災厄との戦いで命を落とし、ヤツを研究し利用しようとした多くの術者達も白き災厄の怒りを買って滅ぼされたという。
結果我等魔人の勢力は大きく削られ、知識を持つ者も大半が白き災厄との戦いで失われた為に多くの知識と技術が失われた。
だが先人の残した知識が全て失われた訳では無い。
文献やマジックアイテムの形で残った技術を長い年月をかけて蘇らせようとした者達が居たのだ。
それこそが知恵の一族。
そして我等は今、知恵の一族が蘇らせた知識によって魔物を従える術を手に入れ、こうして人間共の町に攻撃を行っているのだ。
知恵の一族の者は我等魔人にとって単なる知識の修復者ではない。
過去の戦いの歴史で培われて来た多くの知識を有するが故に、こうして敵の生態などを考慮した作戦指揮を行う事も出来る。
自然知恵の一族の者が我等の指導者の様な立場になっていったのも当然と言えよう。
「人間共の戦士は魔物共に任せておけばよい。それよりも此度の戦い、我等の狙いは最初から龍帝ただ一人なのだからな。龍帝さえ始末すれば支えを失った人間共などまさに烏合の衆という奴よ」
「そ、そうだな、たとえドラゴンがついていようが妙に人間共が善戦しようが、我等には圧倒的な数の魔物が居る。人間など恐るるに足らん!」
「そうだそうだ!」
知恵の一族の同胞の言葉を受け、動揺していた同胞達が戦意を取り戻す。
まったく、我が同胞ながら単純な連中よ。
だが不安が無くなった事で、我等は安心して戦いの推移を見守る事が出来る様になった。
そう、魔物共の数は圧倒的だ。
普通に考えればこれだけの数の魔物を相手に戦い抜けるわけがないか。
◆
上空から確認すると、門の周辺は激戦だった。
外へと飛び出した自警団の人達と、冒険者さん達が魔物達と激しい乱戦を繰り広げている。
僕は味方を巻き添えにしない様に、魔物の包囲網の真ん中あたりをブレスで攻撃するようゴールデンドラゴンに命じながら、風魔法で地上の音を拾って戦況を確認する。
「ははっ! 凄いなこの装備! 見た目はちょっと悪いが、魔物の攻撃をものともしないぞ!」
「それにこの武器、あのアーマーバッファローの鉄皮を簡単に貫くぞ!?」
「これ! 戦いが……終わったら!! 買取っ! できっ!ないかなっ!?」
「おおっ! それ良いなっと! オラァ!!」
良かった、急場しのぎで作った装備だったけど、それなりに役に立っているみたいだ。
「はぁ……はぁ……とはいえ、魔物の数が多い。一体どれだけ倒したんだ?」
「少なくとも20は倒したぞ。はははっ、すげぇな俺。今ならSランク冒険者になれるぜ」
「甘いな、俺は30を超えたぞ。それにしても上位の付与魔法と言うのは凄いな。ここまで強化されると、まるで別人になった気分だ」
うん、冒険者さん達には戦いが始まる前に範囲付与魔法で一時的に肉体を強化している。これで数の不利をある程度は軽減出来ている筈だ。
「でも何で冒険者さん達はグリーンドラゴンやブルードラゴンみたいな下級のドラゴンの素材で作った急場しのぎの装備を喜んでいるんだろう?」
駆け出しの冒険者でもない限り、冒険者さん達ならもっといい装備を用意できると思うんだけど。
「あっ、もしかして戦いの前に装備を手入れに出していて、すぐに使える装備が無いか、質の低い予備の装備だけだったとか?」
それなら僕の用意した有り合わせの装備を喜んでもらえたのも理解できる。
と言うか、そんな装備でこれだけの数の魔物を圧倒できるんだから、やっぱり冒険者さん達は凄いね。
不利な状況でも戦う術に長けているって事なんだろうね。
「つっても、これだけ倒したってのに全然数が減った気がしないな」
現状、外に出て戦っているのは大体100人くらいだ。
防壁の上から弓や魔法で攻撃していた人達や上で指揮をしている人達も入れれば140人くらいかな?
もちろんそれで全員じゃない。
門から離れた位置に居る魔物の数を減らす為に、門から離れた位置にある防壁の上から攻撃している人たちも居るし、全員で一斉に出ると皆の疲れが溜まった時や想定外のトラブルが起きた時に対処する交代要員も居る。
「とはいえ……だいぶ疲れが溜まってきたし……そろそろ交代した方が良いな」
おっと、皆の体力が限界に近いみたいだ。
「回復しますよ! エリアリフレッシュ! エリアヒール!」
僕はゴールデンドラゴンを皆の上空まで降下させてから、範囲体力回復魔法と範囲治癒魔法で冒険者さん達と自警団の衛兵さん達を治療する。
「お、おお!? 何だ!? 疲れが消えたぞ!? あのドラゴンが回復してくれたのか!?」
「回復どころか寧ろ力が溢れて来るかのようだ!? 龍帝陛下はこんな魔法をお使いになられるのか!?」
いえ、僕は龍帝じゃないですよお。
「これでもう暫くは戦える筈です、頑張りましょう!」
「「「「「承知しました龍帝陛下っ!!」」」」」
自警団の皆さん、戦場で敬礼してないで戦って!?
とその時、防壁の上から攻撃魔法と大量の矢が放たれた。
「おおっ!? 援護か!? だが矢も魔力も尽きたんじゃないのか?」
と、味方の援護が再開された事に冒険者さんが驚いている。
「どうやら予備の矢が完成したみたいだね」
うん、皆の予備の武器をある程度の数作った僕は、今度は消耗品である矢も作って欲しいと頼まれたんだ。
で、盾の時の様に組み立てまで自分でやると時間がかかるから、組み立て前の材料を揃える事にしたんだ。
すぐに材木屋さんに行って、店にある全ての薪や建材として使う予定だった木をカットして矢の本体部分を数千本用意し、そのついでに羽根飾りもささっと作る。
後は材料をもって鍛冶場に戻ったら、急ぎで矢じりを作った。
まぁ鉄の数が足りなくて、途中からドラゴンの鱗の破片を再利用して矢を作ったんだけど、何故か鍛冶師さん達がもったいないと青い顔をしていたなぁ。
でもグリーンドラゴンやブルードラゴンの鱗程度ならタダみたいなものですよって言ったら、凄い顔されたのは不思議だった。
ただ、急いで作ったからちょっと質が低いのが不満なんだよね。
まぁ魔物の数は多いし、牽制用として使えれば十分だよね。
それに今回だけの緊急措置として、付与魔法で命中補正の術式もかけておいたし命中率に関しては問題ないだろう。
◆
「おいおい何だよこの矢!? 魔物に当たったら羽根の根元まで突き刺さったぞ!?」
「うおぉ!? なんかこの矢を使い始めてから狙い通りの場所にバンバン当たるんだが!?」
「スゲェ! 俺いま連続で魔物の眉間に一発命中で仕留めてるぞ!?」
「ちょっ、この矢良い! 100本単位で買いたい! 一体どこの店の矢だよ!?」
◆
「人間共息切れしないなぁ……」
「あっ、またブレスで包囲網が吹き飛んだ」
「おいおい、防壁から魔法と弓の掩護が再開されたぞ。魔力も矢も尽きたんじゃないのか?」
「……」
何やら知恵の一族の者が変な汗をかいているんだが、本当に大丈夫なのか?
◆
戦いが始まるまでは鍛冶師の皆さんはドラゴンの素材で作った盾を組む事に専念していたけど、今は矢を切らさない様に組み上げる事に専念しているみたいだね。
けど僕が提供したマナポーションは門から離れた位置にある防壁を守る魔法使いさん達の為に優先して配るって話だったけど、戦力が充実している門側にまで配って大丈夫なのかな?
◆
「おっほぉぉぉ! 何このマナポーション!? 一口飲んだだけで魔力が全快したんですけどっ!?」
「つーか、このマナポーション、なんか魔力回復以外の効能もねぇ? 何か魔法の威力が上がってる気がするんだが」
「ははははっ! 魔物がゴミみたいに吹き飛ぶぞぉぉぉ!」
「このペースだとマナポーションが余るんじゃないか? 少し前線に回しておくか」
◆
「くっ、門の無い場所でも反撃が再開されたぞ? 魔力が尽きたんじゃなかったのか?」
人間共の反撃が強くなった事で、再び仲間達が動揺を見せる。
「落ち着け、たとえ連中が息を吹き返そうとも、どうしようもできないものが一つある」
しかし知恵の一族の者は冷静に告げる。
「それは何だ?」
「町を守る防壁だ。人間共は町の出入り口である門を必死で守っているが、魔物達の攻撃が続けば防壁もいつかは壊れよう。そうなれば魔物が町の中へとなだれ込み、門を守る意味がなくなる。そして壊れた壁から入り込んだ魔物に慌てふためいて対処している間に防壁の別の個所を破壊されれば、更に守りが薄くなる。そう、この町を守るには圧倒的に人数が足りぬのだ!」
「そうか、初めから狙いは門ではなかったのだな!」
「その通りだ」
人間は門を守らざるを得ない。
だが知恵の一族の者の真の狙いは、町を守る防壁そのものの破壊だったというわけか。
策は一つではない、二重三重に策を張り巡らせてこその知恵者か。
まったく、恐ろしい男が味方に居たものだ。
「……っていうかあの防壁頑丈過ぎないか? いくら何でも硬すぎだろ? 全然壊れる気配が無いぞ?」
と言うか魔物共が壁を攻撃するのを諦めてウロウロし始めたのだが……。
中には壁を叩き過ぎて手を怪我したりして、魔物共の腰が引けている様にも見えるのだが。
「おい、どうするんだ?」
「……」
おい答えろ知恵者、余裕ぶった顔していても汗が止まってないぞ。
◆
「しかしこれだけの魔物に攻撃されていると言うのに、防壁が壊れる様子も無いな。意外に頑丈だったんだな」
「だな。どうせ空を飛べるドラゴンが攻めてきたら無駄なんだし、そんな所に金をかけている暇があったら別の所に使えよって思っていたんだが、まさかこんな所で役に立つとはな」
衛兵さんが町を守る防壁が予想外に役立っている事に感心の声を上げる。
うん、念の為自警団の隊長さんの許可を貰って、戦いが始まる直前に町の防壁全てに防御魔法を掛けておいたのが少しは役に立ったのかもね。
「さて、上空から戦場を見て守りの薄い場所も確認出来たし、僕も本格的に戦いに参加しようか! チェインウォール!」
僕は町を包囲する魔物達の群れを分断するべく、更なる壁を群れの中にいくつも出現させた。
レクス(:3)∠)_「少しは準備が役に立ったかなぁ?」
知恵の一族の者(´;ω;`)「お願い! これ以上余計な事しないで!」
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