第104話 銀の戦慄 黄金の機転
_:(´д`」∠):_「こ、これが最後の書き溜め原稿だって!? 嘘だと言ってよゴールディ!?」
いつも応援、誤字脱字のご指摘を頂きありがとうございます!
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何が起きたのだ!?
気が付けば私は宙を舞っていた。
黄金のを辱めた人間を八つ裂きにする為にやって来たと言うのに、当の黄金は一切のやる気を見せずに人間相手に好き放題されるという無抵抗振り。
余りに見苦しいその姿に耐えられなくなった私は、その原因となった人間に襲い掛かる。
人間ごときがドラゴンの腹の上に乗るなど、おこがましいにも程があるわっ!
私の爪が人間を引き裂くべく振り下ろされる。
一緒に黄金のも巻き添えを喰らうかもしれんが、堕落した罰だと思って巻き添えになってもらうとしよう。
なに心配はいらぬ。
つ、つがいに行けない傷が出来ても、わ、私が貰ってやる故にな。
う、うむ、だからたとえ傷ついても心配はいらぬぞ。
傷が癒えるまで私が食事の用意もしてやるからな。
そんな希望に満ち溢れてた未来予想図を描いていた私の視界が反転する。
な、何が起こった!?
そして気が付けば、私は地面に叩きつけられていた。
始めは黄金のが私の攻撃を弾いたのかと思った。
だが違った。
黄金のは相変わらずやる気のない様子で、その上には先程の人間が平然とした様子で立っていた。
まさかこの人間が私を投げたとでも言うのか!?
あ、ありえん! 人間ごときにドラゴンを投げる事など出来る筈がない!
何かの間違いだ!
立ち上がった私は、己を鼓舞する雄たけびをあげると、今度こそあの人間を八つ裂きにする為に跳んだ。
そして、今度は己が投げられている事をはっきりと理解できた。
いや、これは本当に投げられているのか?
自らの体がクルクルと、吹き飛び続けているのだ。
本当に何が起きているのだ!?
何度も投げられ続けた私は頭の中がかき回される様な感覚に困惑する。
そしてようやく意識がはっきりしてきた私は、己のあまりの醜態に我慢が出来なくなっていた。
おのれ人間め! 黄金の前でこれ程の恥をかかせるとは許せん!
私は手加減を止め、相手を肉片にするつもりで襲い掛かる。
なにやら新しい人間が出てきたがかまうものか、纏めて肉片にしてくれる!
新しく出て来た人間を右の爪で叩きつけ、間髪入れず憎き人間に左の爪を叩きつける。
だが人間は私の攻撃を避けると、逃げるように跳躍した。
ふん、本気の攻撃に恐れをなして避けたか。
だがもう遅いぞ!
私の攻撃を人間が必死で回避する。
その度にさっきの人間がちょろちょろと目の前に現れるが私は気にせず吹き飛ばし切り裂き、人間への攻撃を続ける。
……ん? 何かおかしい気がする様な?
何故さっきから吹き飛ばしたり切り裂いた筈の人間が目の前に現れ続けているのだ?
我は肉片にするつもりで攻撃を加えている筈なのだが?
などと思いながらも似たようなやり取りを数十回と繰り返す私であったが、いい加減このやり取りがうっとおしくなってきたのも事実だ。
理由は分からぬが、人間共は私達の攻撃に耐える力を持っているらしい。
だがあくまで耐えるだけだ。
先ほどの我を投げ飛ばした人間の攻撃も私に致命傷を負わせることはできなかった。
ならば、相手に私の攻撃を察知できなくしてやればよい。
人間から距離を取った私は、溜めを行わずにブレスを放つ。
もちろんこれで倒せるとは思っていない。
目くらましのブレスだ。
よく分からぬが、この人間共は今まで戦った相手とは何かが違う。
私はブレスによって人間が私を見失った瞬間を狙って爪を振るった。
これで終わりだ。
寧ろここまでよく粘った。
敵として、認めてやろう。
爪の先が人間に触れる感触がする。
終わると思った。
決まったと思った。
だが、その瞬間私は先程味わった宙を回る感覚を再び味わった。
気が付けば私は再び地面に叩きつけられていた。
何が起こったのか分からない。
だが目の前に見える人間達が喜んでいる姿が見える。
憎き人間が私を指さすと、私を投げたもう一人の人間がこちらを見つめた。
その小さな瞳に、おぞましい笑みを浮かべながら……
私の背筋にヒヤリと今まで感じた事のない感覚が走る。
そう、今思えば、それこそが私の龍生において初めて味わった恐怖という感情だったのだろう。
自らの感情の名すら知らなかった私は、無意識のうちにその感情を外部へと発していた。
いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁっ!
◆
銀色のが悲鳴をあげた。
どうやらようやくあ奴もこの人間達の恐ろしさを理解したと見える。
銀色のが吹き飛ぶ。
クルクル回りながら吹き飛ばされる。
「いやっ、やめてっ!」
銀色のが許しを請う。
「お願い! もう無理っ!」
だが悲しいかな。
人間に我等の言葉は通じぬのだ。
「た、助けっ!」
銀色のが我等に救いを求めるが、誰も手助けに行こうとはしない。
行けば巻き添えになる事が分かっているからだ。
先ほどまで銀色のと一緒に人間達に襲い掛かってた者達も、既に攻撃を止めて上空へと避難している。
うむ、誰もお前を助ける者は居ないのだ。
ぶっちゃけ助けるとかM・U・R・I
「……っ!?」
誰も助けてくれない事を理解したのであろう。
銀色の瞳が絶望に染まる。
そうして、どれだけの間銀色のは投げ飛ばされただろうか。
ほんのわずかな時間だったか、それとも何日も投げられ続けていただろうか?
しかしそんな恐ろしい時間も、銀色のを投げていた人間が疲れを見せた事で終わりを迎える事となった。
うむ、人間も疲れるのだな。
……あっ、なんかあのヤバイ人間が疲れた人間に魔法をかけたら元気になった。
あとぐったりしていた銀色のにも魔法を掛けて傷を癒した。
ああ成る程、傷を癒したら投げるのを再開するのだな。
うむ、皆見守りを再開するぞ。
(((((了解!)))))
同胞達が目で返事をしてくる。
成程、これが地獄という奴か。
「死、死ぬ……今度こそ死ぬ……」
大丈夫だ、相手は絶対にお前を殺すつもりはないみたいだぞ。
殺さずに生かし続けるのがこれほど恐ろしい事だとは思わなかったがな。
そして更に長い時間銀色のは投げ飛ばされ続け、陽が山に沈みかけた頃ようやく銀色のは解放された。
生きててよかったな銀色の。
と思ったら今度は休憩していた仲間の人間達が前に出て来た。
どうやら次はこの人間達が銀色のを投げる番のようだ。
「いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁあぁっ!!」
銀色の悲痛な叫びが我等の縄張りに響き渡る。
……しかたない、助け船を出してやるとするか。
我は起き上がると人間達と銀色との間に立ちふさがった。
「お、黄金の?」
銀色のが驚いた眼で我を見つめる。
周囲の同胞達も我があの人間達の前に出るという命知らずの行為にざわめいている。
正直我も心臓がバクバクいっている。
人間達が我の突然の行動に困惑する。
あの人間以外は一体何をするつもりだと警戒気配を漂わせる。
ならば教えてやろう。
それはな、こうだっ!
ゴロン。
我は仰向けに転がって腹を見せた。
そう、これぞ全面降伏だ!
一切反抗はせぬぞ!
無抵抗だぞ!
「……え? ちょっ、えっ!? 黄金の?」
「黙って見ていろ銀色の。これが我の責任の取り方だ」
人間達は再び全面降伏の姿勢を見せた我に何やら相談を始める。
そして相談が終わったのだろう。
人間達から戦意が消えた。
くくくっ我の推測通りであったな。
敵意を示さなければこの人間達は積極的には襲ってこない。
ホント襲ってこなくてありがとうございます。
「黄金の……」
「見たか銀色の。我がこの人間と戦う事をよしとしなかった理由を」
「うっ……」
人間達の実力を思い知った銀色のが呻く。
「さぁ、お前はどうする?」
我は強制しない。
この先はドラゴン個龍が決める龍生の決断なのだから。
「……」
しばらく考え込んでいた銀色のだが、最後には覚悟を決めたのかふらつく体を起こして人間達の前へと向かった。
そして体を伏せると、その角を人間達の前へと差し出した。
「人間よ、我の角を捧げよう」
角を捧げる。
それはドラゴンが他種に従う誓いの儀式。
自らを降した強者に仕える戦士の宣言なのだ。
角を捧げる意味を知っていたのだろう。
先ほどまで銀色を投げ飛ばしていた人間が反応する。
そしておずおずと細い爪を取りだすと、銀色の角を削った。
「これにて儀式は成立した。我はお前に従おう」
銀色の宣言に同胞達からどよめきが走った。
うむ、ここ数百年、他種族に角を捧げる者など一人も居なかったのだからな。
「かつて、我等は人間と力比べをし、その力を認めた人間を背に乗せたと言う」
宝石のがかつてあったという古の時代の話を口ずさむ。
「黄金の、そなたはその時代を再現する事で、あの人間達から銀色のを守ったのだな」
いやそこまで深い事は考えておらんかったがな。
「流石は黄金のだ。腑抜けたと思っていたが、あの恐ろしい人間達との間に不戦の条約を締結する為の策だったとはな!」
いやホントにそんな事考えておらんぞ?
「人とドラゴンが手を取り合う。そんな時代が、再び来るとは」
「新たな龍と人の時代か……」
いやお前等恰好つけてるけど、さっきまで一緒になって銀色のを見捨てたのは事実だぞ?
絶対あとが怖いからな?
まぁ我は銀色のをフォローしたから、そのへん心配はいらぬのだがなっ!
ふはははははっ!!
なおその後、何故かやたらと銀色のが我の世話を焼きにくるようになるのはまた別の話である。
シルバードラゴン(;゛゜'ω゜'):「生きてる、私生きてる……」
ゴールデンドラゴン(:3)∠)_「ふはははっ!! 我に感謝するがよい!」
シルバードラゴン(:3)∠)_「トゥンク……しゅきぃ」
ゴールデンドラゴン(:3)∠)_「え?」
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