第1話 また転生してしまった
新連載始まりました。
初日は時間をずらして第二話を掲載しますのでお待ちください。
「バブバブ(また転生してしまった)」
私、いや今生では僕と言った方が良いな。
僕、レクスはとある農民の家に生まれた赤ん坊だ。
何故赤ん坊がそんなにはっきりとした自我を持っているのかって?
それは僕が転生、生まれ変わったからだ。
前世の僕は英雄だった。
最強の剣の使い手であらゆる敵や魔物を打ち倒してきた。
元々は剣を極める為に戦っていただけだったんだけど、なぜか周りから英雄ともてはやされてしまったのだ。
そして天寿を全うした僕は、また生まれ変わった。
何故「また」なのかって?
それは簡単。僕の転生は二度目だからだ。
僕の前々世は賢者だった。
ありとあらゆる魔法を極めた魔法使いの頂点。
自然の力である4属性魔法だけでなく神聖魔法や暗黒魔法まで極めた僕は、周囲の人間達から魔法の天才、賢者と呼ばれる様になった。
だから「また」なのだ。
そんな訳で三度目の人生をどう生きるかを僕は母親の腕の中で考えていた。
「バブゥ(うん、今度の人生では地味に生きよう)」
何せ前回までの人生では、賢者や英雄と持て囃された事でいろんな面倒事に巻き込まれたもんなぁ。
大魔獣退治や邪神にそそのかされた魔法使いの破滅の儀式の阻止、魔王と呼ばれた恐るべき魔人討伐と騒動の数は数え切れない程だった。
しかもその大変さの割に、報酬はささやかというか、ものすごくしょぼかった。
英雄としての名声とか貴族の地位とか、面倒なだけで全然ありがたくなかったよ。
それどころか余計なしがらみや嫉妬や妬みがいっぱい出来たよ! 友達百人減ったかな!
「バブバブ(だから今度こそ僕は地味に生きるんだ)」
小さな拳を握り締め、僕は決意を胸に秘める。
「バブー!(そして僕は冒険者になるんだ! あの自由の象徴に!)」
冒険者、それは英雄としてしがらみにがんじがらめにされた僕にとって憧れの存在、憧れの職業。
何をするのも自由。何をするのも自己責任。
僕は、冒険者として地味に生きるんだ!!
◆
そして僕は15歳になった。
この世界では15歳で成人とみなされ、子供達は親の庇護から離れ自分の仕事を探す。
とはいえ、コネが無いのに新しい仕事に就くのは難しいから、大抵は親の仕事を継ぐ。
けどそれでも、町に出て憧れの仕事を志す子供は少なくない。
もちろん僕は後者だ。
「じゃあ行くよ、父さん母さん」
僕は今日まで自分を育ててくれた両親に別れの挨拶を告げる。
「ああ、お前の人生だ。お前の好きに生きるがいい」
「元気でね。つらくなったらいつでも戻ってきていいのよ」
幼いころから冒険者になると公言して憚らなかった事で、両親は僕が冒険者になる事を反対したりはしなかった。
一応小さい頃は反対していたけど、僕があまりにも冒険者になるといって譲らなかったので、両親もあきらめたみたいだ。
うんうん、狩人のおじさん達に無理を言って、魔物狩りを手伝わせてもらった甲斐があったよ。
「行ってきます!」
僕は腰に装備した剣と魔物の皮で作った鎧を纏って家を出る。
荷物は小さな袋ひとつ、これだけで十分だ。
「頑張れよレクス!」
「気をつけてねー!」
村の皆が僕の旅立ちを祝福してくれる。
本当にこの村の住民は皆良い人達ばかりだ。
「ありがとう! 行ってくるよ!」
皆の声援を背に、僕は意気揚々と村を出るのだった。
「さぁ、冒険者になるぞー!」
◆
「一番近いトーガイの町までは走って半日って所か。午前中は成人の儀式があったから、ちょっと遅くなっちゃったんだよね。少し急ごうかな」
僕は両足に魔力を練りこみ、地面を勢い良く蹴り飛ばす。
そのとたん体が宙に浮き、瞬く間に雲を突き抜ける。
これは飛行魔法ではなく、足に纏った魔力で地面を思いっきり蹴り上げただけだ。
「えーっと、トーガイの町はっと……ああ見えた見えた」
僕は山を二つ越えた先にあるトーガイの町の姿を確認する。
「短距離転移魔法で行こうかな……あっ、やっぱやめておこう」
転移魔法で一気にトーガイの町まで行こうとした僕だったけど、その途中にあるものを見つけてそれをやめる。
「せっかくだからアレを狩っていこう。冒険者は魔物を狩るものだしね!」
そう、僕の視線の先には、ちょうど手ごろな魔物が居た。
「あの色は……グリーンドラゴンか。ドラゴンとしては普通だけど、地味に生活するなら、あの程度のドラゴンくらいがちょうど良いよね」
そうそう、僕が冒険者になりたいのは、冒険者が自由の象徴だからというのもあるけど、何より地味に生きて面倒事に関わりたくないからだ。
あれが最強のゴールデンドラゴンあたりだったら、新人が狩るのは不自然だと訝しがられる可能性がある。
だからグリーンドラゴンくらいで丁度良いんだ。
「それじゃあ、さくっと狩りますか!」
僕は腰に下げたブロードソードを抜刀して構える。
見た目はただのブロードソードだけど、この剣には僕が前々世で開発した永続エンチャント魔法で耐久性、耐腐食性、切れ味、各種属性付与、不死殺しと様々な効果を付けているから、グリーンドラゴン程度なら楽勝だ。
でもパッと見ただのブロードソードなので誰もその真価には気付かないって寸法さ!
まぁ本当は田舎の鍛冶屋じゃ碌な設備も素材も無いし、高品質の武器も売ってなかったから、エンチャントするくらいしか出来る事がなかっただけなんだけどね。
前世の僕の鍛冶の腕もたいした事ないし。
「いっくぞー!」
僕は飛行魔法で自分の体を動かし、グリーンドラゴンに矢よりも速い速度で突撃する。
上空から迫り来る僕の姿にグリーンドラゴンは未だ気付かない。
人間が自分よりも上空から襲ってくるなんて考えもしていないんだろうな。
ドラゴンってそういうおっちょこちょいな所あるよね。
「あれ?」
と、いうかグリーンドラゴン、何か別のことに気をとられてるっぽい?
まいっか。
「てりゃあぁぁぁぁ!!」
僕は斜め上、空からグリーンドラゴンに切りかかる。
「っ!?」
こちらの雄叫びにようやくグリーンドラゴンが僕の存在に気付く。
でももう遅い。
その時には既に僕の剣はグリーンドラゴンの首を真っ二つに切り裂いていたのだから。
「そして収納!」
僕は懐から小さな袋を取り出すとその中にグリーンドラゴンの頭を放り込む。
2mはあろうかという大きなグリーンドラゴンの頭が手のひらほどの大きさしかない袋の中にするりと入る。
そう、これは僕が作った魔法の袋だ。
見た目はただの袋だけど、中は魔法で空間を拡張しているので、見た目よりもはるかに大量に荷物が入る。
だからこそ僕はこんな軽装で故郷を旅立ったのだ。
「そしてこっちも」
ついでグリーンドラゴンの胴体も魔法の袋に入れる。
10m以上ある巨体もするりと魔法の袋に入った。
「よし、討伐完了! それじゃあ暗くなる前に行きますか!」
僕は飛行魔法で再び上空へと飛び上がる。
「……!!」
ん? 何か聞こえた様な? 気のせいかな?
うん、凶暴なドラゴンのそばに人が居る訳ないもんね。
「ま、いっか」
再び空へと舞い上がった僕は、日が暮れる前に目的のトーガイの町へと向かうのだった。
早く冒険者ギルドにいって冒険者登録をするんだ!
◆
それは一瞬の事だった。
私達は旅の最中に運悪くドラゴンに襲われた。
しかも相手はグリーンドラゴン。
一国の軍隊が万全の状態で挑まなければ勝てない、強敵という言葉すら生ぬるい恐ろしい魔物だ。
それは突然上空から現れ、口から炎の息、ブレスを吐いた。
その炎に馬がパニックを起こし馬車が横転する。
「こんな場所でドラゴンだと!?」
馬車の中におられる方の身を案じたが、今はそれどころではない。
あのお方の無事を信じつつも、今は目の前の敵に集中しなければいけなかったからだ。
想定もしていなかった強敵の出現に部下達が浮き足立っている。
だがそれでも我等は使命を果たさねばならぬのだ。
「ドラゴンの狙いは馬だ! 馬を囮にして脱出するぞ!」
私の一喝で部下達が我にかえる。
こんな所で馬を失うのは相当の痛手だが、それでも命には代えられない。
なんとかドラゴンの意識を馬に集中させ、そのあいだにあのお方を馬車からお助けして森の中に逃げ込まなくては。
だがドラゴンは獰猛で食欲旺盛だ。
馬の一頭を差し出したところでどれだけ保つものやら。
最悪この老骨の体をドラゴンに差し出してでもあのお方の身をお守りせねば。
でなければ騎士として生まれた意味がない!
「こっちだドラゴン!」
私は決死の覚悟でドラゴンの意識を自分の馬に向かせる。
私の愛馬は軍馬だったおかげでドラゴンのブレスにもパニックを起こさなかった。
だというのに私はいま、守るべきお方のために大切な相棒を見捨てようとしているのだ。
「すまないヴォルハン」
我知らず相棒たる馬に謝罪の言葉を投げかける。
「ブルルン」
だがなんとけなげな事だろう。ヴォルハンは私に恨み言を聞かせるでもなく、堂々とした態度でドラゴンの前へと進んでいく。
騎士の使命を分かってくれるのか。
ああ、お前もまた騎士なのだな!
もはやヴォルハンだけ死なせはしない。
私も決死の覚悟でドラゴンに挑むぞ!
みな、後の事は頼む!
ドラゴンは私達が足止めする!
そう思った時だった。
「てりゃあぁぁぁぁ!!」
若い声が聞こえた。
最初、部下の誰かが耐え切れなくなって勝手にドラゴンに攻撃を行ったのかと思った。
なんと馬鹿な事をと、思わず叱責しそうになった程だ。
だが、そう思った私の前に、突然見た事もない少年が現れた。
ほんとうに突然だ。
数瞬かかってようやくその少年が上から降ってきたのだと気付く。
その手には一見地味だが、間違いなく業物と分かる剣を握っていた。
この少年はドラゴンと単身戦おうというのか!?
義憤に燃えて我等に加勢しに現れたのか!?
「無謀だ!」
そう言おうとした。
だがその時にはすでに全てが終わっていた。
突如上から降ってきたドラゴンの頭が少年の取り出した袋に吸い込まれ、さらに次の瞬間、ドラゴンの体までも少年の袋に収まってしまったのだ。
常識的に考えてありえない。
唯一脳裏を過ぎったのは、マジックアイテムという言葉だった。
こんな少年がマジックアイテムを!?
ありえない。
そして少年は文字通り飛んで行ってしまった。
まるで鳥の様に。
「待ってくれ!」
そんな私の言葉に答える訳もなく、少年の姿は空のかなたへと消えてしまった。
一瞬の、本当に一瞬の出来事だった。
一瞬で全てが終わっていたのだ。
世界がまるで最初からドラゴンも少年も居なかったかのような静けさに戻る。
かろうじて少年に退治されたドラゴンの血と横転した馬車だけが、これは現実に起こった出来事だと告げていた。
「っ!? そうだ姫様!!」
我に返った私は横転した馬車に乗っている我が主の事を思い出して、あわてて馬車へと駆け寄るのだった。
「ご安心くださいバハルン卿! 意識を失ってはおりますが姫様はご無事です! メイドが身を挺して姫様をお守りしておりました!」
「そうか! でかした!」
ふぅ、姫様の身は無事であったか。
あとでそのメイドには褒美をやらんとな。
安心した事で、体がどっと重くなる。
ドラゴンとの戦いは相当に精神を消耗したようだ。
老骨には本当に堪えるわい。
「何が何だか分からんが、ともあれ我等は助かったのだな、ヴォルハンよ」
「ブルルン」
私の独白に、共に生き残った馬だけが答えを返す。
「一体何者だったのだあの少年は」
おもしろい、続きが読みたいと思ってくださいましたら、感想、ブックマーク、評価をしていただけると嬉しいです。
凄く喜んでやる気が漲ります。