赤羽桜子は静かに笑う
寝ぼけまなこで洗面所の鏡に映る自分を眺めながら昨日の事をふと思い出す。
あの後結局終始無言で終わったんだよなぁ...
これからあの部はどうなるんだ、そんな事を考えながらいつも通り登校し、放課後がやってくる。
部室に行けばそこには男が鏡の前で半裸になりポージングをとっている
「失礼しました~」
俺はゆっくりドアを閉めそのまま帰ろうとするとドアが勢い良く開き半裸マンが追いかけてくる
「何故帰る!」
「部室に変態がいたら帰るだろ常考!」
「なんだ良臣、お前の事じゃないか」
「お前一回鏡見ろよ」
上を着させ再び部室に戻り無事入室する
「珍しいな、拓が顔出すなんて」
「なぁに、俺はここの部員だからな。当然だろう」
「週に一回しか来ないくせによくそんな減らず口が叩けたな」
一之江拓。
ドMであり一之江千代の兄にして茶道部永世部員として所属している超シスコンの変態だ。
当の本人には虫けらの様な扱いを受けているがめげない鬼メンタルを備えている
ブレザーの中にパーカーを重ね着していて本人曰くこれはアイデンティティだそうだ。
もう一度言う、変態だ。
「折角千代を見に来たというのにまだ来てないのか?全くたるんでるんじゃないのか、この部は?」
「たるんでるのはあんたのその可哀想な思考回路でしょ」
「千代・・・あぁ愛しい妹・・・ポニーテールとは恐れ入った、俺を殺す気か千代」
「そのまま死ねばいいのよ」
いつも通りのやり取りを眺めながらポットのお湯を急須に注ぎ湯飲みにお茶を淹れる
茶道部だからといって毎度毎度立てて淹れる訳ではない、だって面倒だし。
「ちーすっ、おや?シスコンおにぃ来てたの?」
「お前におにぃと呼ばれる筋合いは無いぞ!存在自体が深夜枠の雌犬が!」
はいはいと華麗にあしらう芽衣、扱いが慣れている。
去年俺と千代が入るまでこの部は部長しかいなくて千代が入ったことで皆が望まない部員拓が入ってきて計4人そしてこの前赤羽さんが入って5人になった訳だが。
茶道部とはなっているが実際の所活動という活動はしていない。
強いて言うならば部室に集まり、お茶を啜り、各々趣味に時間を当てる。以上だ。
「それにしてもこうも毎回来るたび同じで面子が変わらないと飽きてくるな、もういっそのこと妹だけの方が断然いい」
「毎回って言うほど来てないだろう」
「そして今ここで皆に告白する事がある」
「何よくそ兄貴」
「お兄ちゃんと呼べと言っているだろう、ここに封筒がある。なんだか分かるか?」
「遺書ね、やっとこの世からいなくなる決心が付いたのね、おめでとうお兄ちゃん。線香は気が向いたら上げてあげる」
「お兄ちゃん、頂きました・・・」
「茶番はいいから早く~」
「これは俺が先月こっそり送ったアイドル事務所の書類審査の結果が入っている」
「拓、お前アイドルになりたかったのか。」
「いや、応募はおれ自身ではない、千代の写真で送った・・・」
「はぁ!?」
「そして結果は合格だ、っふ。流石は俺の妹だ」
「おぉ、しかもこのアイドルプロジェクトって確か全員眼鏡がコンセプトだったよな!千代のアイドル衣装に眼鏡か・・・悪くない、悪くないな!」
「そうだろう、そうだろう。センターに立って眼鏡で妹が踊っている。こんなに最高の事があるだろうか
いやぁ珍しく気が合ったな、良臣」
「あぁ拓、変態だと思ってはいたけどここまでとは。」
あっはっはっはと2人揃って大笑いをする
「シスコンも行き過ぎると怖いねぇ・・・」
他人事のようにお茶を啜る芽衣
「確かに私がアイドルなんてやってしまったら売れまくってしまい、このナイスバディで巻頭グラビアまで出てしまいかねないわね。あぁくそ兄貴のせいで私は全国の男達のおかずにされるのね・・・」
「おかず、だと・・・
それは駄目だ!俺が全部買い占めてやる!」
「じゃあそのグラビアでは眼鏡をかけるのかかけないかを詳しく!」
「黙りなさい変態2人!」
ガチャ。
「どうも・・・」
扉が開き桜子が部室にやってきた
「お~さっくー遅かったね~」
「さっくー?」
桜子は眼鏡をくいっと上げ首を傾げ問う
「それだー!赤羽さん!その眼鏡を上げた後のその仕草が見事だ!
はじめて見た時から何か光るものがあると思っていたけど想像以上だ赤羽さん!」
「良臣、大事な部分が抜けている。何故気付かない、甘え上手な感じな物を訊ねるこの雰囲気。
まさしく、妹属性も備えているに違いない・・・」
「私、1人っ子です・・・」
「あ、そうでしたか・・・」
「良臣とこの馬鹿兄貴はもう絶望的に頭の中がアレなもんだから無視して構わないわ、赤羽さん」
「うん。でさっきのさっくーて言うのは?」
うん。って!納得しちゃった!赤羽さんって結構大物?
「下の名前桜子ちゃんでしょ~、だからさっくー。可愛いでしょ~」
「はぁ・・・」
「それよりも宜しくね、赤羽さん。ところで・・・赤羽さんはゲームとかやるのかしら?」
「ちょっと待ったー!純粋な赤羽さんに何を吹き込む気だ千代。
今の赤羽さんは言うならば生まれたての赤子同然!そんな子にお前が関わるとろくな事が起きない。
いや、起きなかった例が無い!お前の勧めるのなんてどーせ、イケメンがわちゃわちゃ出てくる声優頼みの
糞ゲーだろ。」
「は?」
一瞬で部室が凍りついた感覚がし、そして聞こえるはずも無いのだが千代のピキッっと切れた音がした。
「良臣、それは千代に言ってはならない事だ。完全に悪手だよ。」
とこいつ死んだな。みたいな表情で俺の肩に手を置く拓
「良臣言うようになったじゃない、貴方こそ毎回毎回眼鏡をかけたヒロインが絶対に出て来るゲームばかりしてる眼鏡フェチの童貞野朗じゃない。
それに知ってるのよ?この前の新作のアマガミの公式アカウントに物申してたわよね?
このゲームはとても良く作りこみされていてとても充実したゲームでしたが眼鏡をかけた子がヒロインじゃなかった事が自分としてはとても残念でした。今後は眼鏡ヒロインのゲームをお願いします。
だったかしら?確か。」
「おい、何故それ知っている?」
「貴方くらいじゃない眼鏡にここまで執着する人間なんて。そのせいでブログも炎上してたわよね?
眼鏡6パンスト4で構成されている変態なんですもの」
「俺はそんな中身の無い薄っぺらい人間な分けないだろう!」
「はぁ...」
ため息をつきお茶に手を伸ばしすする
「あら?どうしたの良臣、貴方の顔に考え事なんて似合わないわよ?」
「それを言うなら考え事だろ。
なぁ、千代。」
「何よ?」
「彼女って、どうしたら出来るんだ?」
何言ってんだこいつ?という顔をされるがそんな事はいい、慣れっこだ。
「はぁ、良臣。貴方本当にお馬鹿さんね。
そんなもの、彼女が好きそうなアイテムを事前に買ってデートの時に渡せば後は勝手に信頼度が上がって
おのずと向こうからアプローチが来るわよ。常識よ。」
「だよな、やっぱそれに限るな・・・」
「口出しして悪いが、それはゲームの中であって現実ではそう上手くいくものではないと、
去年お前が実証してるじゃないか。まさか忘れてはいまい。」
「あれは・・・まだ信頼度が足りてなかっただけだと思うの」
「それしか考えられないよなぁ・・・」
「あ、駄目だこいつら、完全に手遅れだ」
お手上げと言わんばかりに拓に見放される
「ふふっ」
!?一斉に皆同じ方向を向く
「今さっくー笑った?」
芽衣が驚いた顔で桜子にじりじりと近付く
「わ、笑ってません」
本で顔を隠しながら反論する
「いや確かに笑ったな、まぁ無理も無いだろう」
「そうね、良臣みたいな哀れな人間を目の前にして笑うのを堪えるのはタモリさんでも無理だわ」
「赤羽さんは哀れな人を見て笑ったりするような人じゃないだろ。
そんな奴は性根が腐った千代くらいだ」
「私の性根が腐っているのは先天性よ」
細くて白い腕を腰に沿え、もう一方の腕を前に伸ばし良臣に向かい指を挿す
ポニーテールが綺麗に揺れた。後胸も・・・
「自信満々に言う事かそれは!」
「っふ」
「ほらまた!絶対今のは笑ったよね!」
うりうり~と肘で桜子の腕をつつく
「笑いましたよ、確かに笑いました。」
観念したのか笑った事を認める桜子
読んでいた本を閉じ、さらに口を開く
「だって、こんなの笑っちゃうじゃないですか・・・」
「分かるわその気持ち。
良臣みたいな哀れな人間を目の前にして笑うのを堪えるのはタモリさんでも無理だわ」
「それはさっきやったろ、タモさん好きか!お前は」
「違います、とんでもない部活に入っちゃったなって思って。
そしたら自然と笑っちゃって。」
「ありゃ?後悔してる?」
「してません。と言ったら嘘になります。
けど、皆本音を言い合っていて、いいメンバーだなって思います」
「さっく~!」
感動し芽衣が桜子に抱きつく
「い、息が。脂肪を押し付けないで下さい。苦しいです。」
「おりゃおりゃ~何なら揉んでも良いんだよ~」
ガタッ
咄嗟に立ち上がる拓
「言っておくけど、お前は揉めないからな?」
「当たり前だ、俺は妹の胸にしか興味はない」
そう言いながら再び座りなおす
じゃあ何で立ったんだよ・・・
俺はその言葉をそっと心の中にしまった
「そんな事よりも、改めて宜しくね。赤羽さん。」
「うん、宜しくね。一之江さん」
「そこの変態2人に何かされたら直ぐに言ってね」
「おい、拓はともかく俺の事をなんだと思ってるんだ」
「性欲に満ちたオークみたいなもんでしょ?」
「人間ですらない!」
再びバチバチと口論しだす
「あのー?ここって茶道部であってますか?」
そこにいたのは学校指定ジャージを着た推定身長160後半、体格は華奢、金髪碧眼ショートカットで顔が整っているとても可愛らしい顔をした美少女が立っていた
皆顔をそろえて誰?という顔をする
「薫?薫か?」
声の主を見つけると一気に笑顔になり、まさにこの部室に充満する陰湿なオーラが浄化される様である
「良臣先輩!」
美少女は良臣の名を呼ぶと向かっていき抱きついた
!?
「おいあんまくっつくなって」
「あー1年ぶりです。先輩を追いかけて来ちゃいました」
「良臣、説明してもらえるかしら」
何故か機嫌が悪い千代。いや本当に何で?
「市ヶ谷薫です、良臣先輩とは中学が一緒でした」
「紹介するよ薫がさっき言った通り、後輩です」
「お前・・・抱きつくほどの間柄の人物がいるくせに彼女が欲しいとか言ってたのか・・・」
「流石に私も驚きだね~」
「屑・・・」
「最低」
次々と罵倒されるが全く見に覚えが無い何故そこまで言われるのか
「皆何か勘違いしてないか?男だぞこいつ」
『OTOKO?』
皆の声が重なり静寂が訪れる
「どうしてこの部活って特殊な人しかいないのかしら。
美少女、官能小説家、変態1、変態2、そしてこの私ゲーマーアイドル。
この時点でもう十分な筈なのに・・・今度は男の娘?フフフ、この部活は物凄い事になるわ!」
いや既に校内変人3巨頭って言われてるのが集まってるんだけど
「まるで10年に一度くらいの確率の奇跡じゃないか?
これはもう、俺たちはあれだな。
キセキの世代だな」
奇跡過ぎるだろ・・・
「は~良かった~取り合えず危機は脱したね~」
「危機?何ですか危機って部長?」
「いや、6人になったから部活存続できるな~って」
「聞いてないよ、そんな話!そんな事になってたのうちの部活って!?」
「あ、言うの忘れてた。許して」
頭に拳をこつんと当て舌をペロッとだし謝る芽衣
こうしてキ〇キの世代が誕生し、この濃いメンバーで過ごすことになる