そして彼は運命と出会う
3月4日卒業式。冬の寒さはもう無く、春の暖かい空気が漂っている。
校舎には桜吹雪がゆらゆらと降る。式が終わりいつもの場所に呼び出され待っている俺。
すると女の子が姿を現す。
「ごめんね、待った?」
「いや、今来た所だよ」
いつも通りの会話の始まり、少し違うと言えば祝いの花飾りが胸に飾られているくらいだ。
「もう今日で最後なんだね・・・」
「うん・・・」
「あのさ、聞いて欲しい事があるんだ」
「何かな?」
俺は彼女の近くに寄り、じっと顔を見つめる
少女は身長は高くも無いが低くも無い。胸はどちらかと言えばある方だと思っているし髪だってボブがとても似合っていてさらにさらさらときたもんだ。
可愛い。ただただそれに限る。
俺は深呼吸をして、考えてきた言葉を選択する
「君と出会ってから毎日が楽しかった、話せば話すほどもっと君の事が知りたいと思うようになっていって、俺は君の事がずっと前から好きだった。俺と付き合って欲しい。」
彼女は驚いた表情をし目尻に涙を溜めながら答える
「ずっと、私も同じ気持ちだったよ。私でいいなら、宜しくお願いします。」
その瞬間桜が舞い散り、まるで祝福をしてくれているかの様に俺たちを包む
恋人となった俺は彼女の片に手を置き呟く
「一生大切にする」
そのまま口と口を合わせキスをした。
congratulations。
4月9日始業式前夜。ゲームの中とはうって変わって少し肌寒い、窓から外の河川敷に目をやると桜がライトアップされていて綺麗だ。椅子の背もたれに体重を乗せ体を伸ばす
「あー終わったー。遂にやったぞ!攻略が一番難しいと言われている春歌ちゃんをクリアした。いやー中々の良作だったな。朝早くから並んで買いに行ったかいもあるってもんだ。」
twitterを開き「良作でした^p^」とコメントをし、公式ページまでとびレビューを書き込む。
ピコン。ピコン。
スマホにメッセージが届き目をやる
「クリアしたの?」
「したなら明日持ってきなさい」
図々しいメールを送りつけられ返信する
「借りる立場でその態度か?」
ピコン
「は?」
いやこっちがは?って言いたいんだけど?
ピコン
「いいから貸しなさい」
どんだけ上から目線なんだよ・・・
「わかった、持ってってやる」
ピコン
「生意気ね、それじゃあ明日放課後部室で」
「おう」
ふー、息を吐きPCの電源を落とす。時計は既に0時を回っていた。
「もう寝よう・・・」
ベットにはいり部屋の電気を消す
制服に着替え寝ぼけている顔を洗いやる気が戻る
朝食をとる為席に座り先に食べている先客に挨拶をする
「おはよう、お前も今日からだったか?」
「ほはよー」
パンを頬張りながら挨拶を返すのは従姉妹の椎名
小柄で茶髪、ゆるふわボブでロリ系ってやつだ。今年から地元を離れ、家で居候をしながらこっちの高校に通うため一緒に住んでいる。
「母さんは?」
コーヒーを淹れながら朝食の準備をする
「叔母さんならもう仕事行った」
そっか、と短く返しパンをかじる。
食べ終わり片付けをし、先に家を出る椎名
「じゃあ先に出るねー?いってきまーす」
コーヒーを飲みながら手をヒラヒラと振り見送る。
さて、俺も行くか。食器を下げ終わらせたゲームを鞄にしまい家を出る
最寄の駅に行き車両に乗り込む、中には新入生だろうか緊張している奴も居れば楽しみなのかわくわくしている奴も居る。
席に座り本を読み時間を潰す。暫くすると近くの女子グループが此方をちらちら見ながらひそひそ話している。
「結構かっこよくない?」
「やばい、かっこいい」
周りの意見からして俺はモテる部類らしい。顔だって悪くない方らしいし、確かに告白だって何度かされている。けど彼女ができた事は一度も無い。いつも皆俺の趣味を知ると態度が変わる。
時が経ってもこういう趣味は受け入れてもらえないんだよなぁ。
そもそも3次元の女の子と恋愛をしたいとも思わないし、ギャルゲーでしか恋愛をしたことがない。
経験値はあるがそれはあくまでゲームの中での話である。
第一に俺の好みは眼鏡の似合うボブ髪の美少女だ。
はっきり言ってそんな女の子は現実には少ない。
その少ない中で俺がそんな子と出会う確率はかなり低い。
そんな低確率の中で俺は運命的な出会いを果たす。
いつも通りの駅で下車し改札を抜ける、途端まだ春に成りきっていない肌寒い風が吹く。
下を俯き寒さに耐え、駅を出て歩き出そうとした時だった。
目の前に眼鏡をかけた、背は自分より数十センチ低いだろうか、スカートから伸びた足には彼女の細い足を際立てる黒いタイツ、そして黒のボブカットの女の子がそこには居た。
「まじか・・・」
俺は彼女の一挙手一投足に見とれてしまった。
本を読みながらも器用に物を避けながらゆっくりと、けれどしっかりとした足取りで進むその姿に。
それはほんの数秒の出来事だったが俺にとってはとても長い時間に感じた。
暫く駅のホームで立ち止まっていてふと我に返る。
時計を覗くと時間は既に8時40分を超えている
「やべっ」
俺はあわてて走り出し学校に向かう。
俺の教室は玄関から一番遠い教室でありとてもじゃないが間に合わない。
「仕方ないあれを使うか・・・」
過去に数回だけ使った事がある奥の手、玄関を経由せずに直接窓から教室に入ろう!
そうと決まれば即実行だ!
俺は窓が開いていることを確認し窓に飛びつき中に進入する。
同時に予鈴がなり無事遅刻せずに済んだ!と思ったのだが・・・
既に教室には担任が到着していて最悪の場面を見られてしまった。
「あはは、おはようございます。先生。」
引きつった笑顔で挨拶を済ましそれに担任も笑顔で答える。
「おはよう汐留、後で私の所に来るように。言いたい事は分かってるな?」
笑顔なのは確かだが担任の背後に悪魔のような気配を感じたのは決して俺だけではないだろう。
「はい・・・」
自分の行動を後悔しながら席へつく
「よろしい。えー早速だが転入生を紹介する。こっち来て挨拶してもらおうかな」
転入生か・・・
まぁこの時期に来るのは別に珍しくないし特に興味が無く視線を少しだけ前に向ける
「あ」
「はじめまして、赤羽桜子です。宜しくお願いします」
教卓の横で礼儀正しく、綺麗なお辞儀をする赤羽桜子こそ俺が朝駅で見かけたあの女の子だった。
始業式が終わり約束通り部室へ向かいある人物に会いに行く。
俺は一応茶道部という形での部員なのだが活動は特にしておらず各々好きな事をしている自由な部活なのだ。
ドアを開き部室に入ると既に部員が1人くつろいでいた。ていうかくつろぎ過ぎでは?
「ああ、良臣君かごきげんよう」
「どうも、部長」
この畳の上で寝転がってくつろいでいる人こそ部長江古田芽衣
ポニーテールがトレンドマークの美人な3年の先輩で畳愛が半端なく強い。お茶の事は大して詳しくなく飲めれば何でもいいらしい。
見た目に比例せず中身は最早おっさんであり、見てくれに騙され彼女を想う男達が後を絶たない。
成績優秀だが少し頭のねじが完璧に飛んでいて、いわゆる変人で現役の官能小説作家だ。
因みにペンネームはエロ貝。
今日も寝転がりながら小説の案を考えているみたいだ。
寝るのは良いんだけどただもうちょっと足とか隠して欲しい・・・
「千代は居ないんですか?」
「ちーは委員会で少し遅れるそうだよ~」
呼び出しておいて遅れる連絡も無しとか舐めてんのかあの女!
不意にドアが開き一之江千代が立っていた。
「今来たわ」
「見れば分かる」
一之江千代、1学年の時同じ組でかなりの変わり者。
ギャル、乙女ゲープレイヤーで発売日に秋葉で徹夜するくらいの猛者。
あるきっかけが元で仲良く?なり性格は全然合わないがゲームの趣味趣向が同じでゲームだけは気が合う。
茶髪ロングでTHE清楚系のドS女彼女に罵られたいが為に話かけに行く変態さんも少なくない。
「一体何をそんなに怒っているの?これだから童貞は嫌なのよ・・・余裕が無いという感じが特に」
「おい!誰が童貞だ!謝れ!」
「あら?じゃあそれを一度でも使って女の子を満足させた経験があるとでも?」
鋭い視線で俺の下半身を睨む一之江
「ぐっ、ありません・・・」
つい手で自分の息子を隠してしまった、だってこいつ服着てるのに見えてそうなんだもの。
「それで、例のも物は持ってきた?JKの眼鏡とパンストが大好物で脱ぎたてのパンストで三日三晩妄想できるギャルゲーマの汐留良臣君」
「その前半のパンストの件要らないだろ!しかもその態度お前もう借りる気無いよな!しかも妄想した後俺なら確実にそれを家宝にするね!」
「戯言はいいから早く渡しなさい、さもないとその粗末なもの一生使えなくするわよ」
結局いつも通り負けて渋々約束の物を渡す
「あ~ん全然創作意欲が出てこない。そうだ!2人ともちょっとそこで服脱いでおっぱじめてくれない?」
『お断りします!』
一斉に言葉が被り江古田はしょんぼりする
「え~ふりでいいからさ~」
「妥協してそのレベルとかあんた頭おかしいだろ!」
「そうです先輩!童貞にはハードすぎます!」
ぐっ!
【良臣は精神に5のダメージを受けた】
「それより良臣、あなた今日機嫌が良いわね?何かあった?」
「え?ああ、今日駅で眼鏡の似合うパンスト女子を見かけてさ」
「もしもし警察ですか?今目の前に犯罪者が・・・」
「まてまて!まだ何もやってない!冤罪もいいとこだ!」
「しかし不自然に良臣君にドストライクの子が居たもんだね~」
「そうね、不自然すぎるわ・・・まさかあなた!現実と妄想の区別も出来なくなったというの!?重症ね・・・」
「重症なのはお前の思考回路だよ」
「一目惚れしたの~?」
「したと言うか、見とれたと言うか・・・」
「呆れた、あなた去年のあれを忘れたの?あれから成長したとは思えないし、学習していないのならただのドMね」
ぐぅの音もでない!
確かに俺は去年ギャルゲーで培った間違えた恋愛知識であらゆる子達に実践した結果ただの変人扱いされてイベントも何も起きず終わってしまった。そう戦わずして負けたのだ。
この事は後に汐留良臣無血開城として語り継げる程の出来事として噂になった。(部室内で)
「とにかく!俺は今年こそ攻略本が存在しないこの恋愛という化け物と真正面からぶつかっていく事を決めたんだ。まずはあの運命の眼鏡っ子と仲良くなる!」
「良臣」
「何だよ今俺が熱く自分語りしてるんだから黙ってろよ」
「いやその本人居るんだけど」
「あ?え?はぁ?何でここに!?てか聞かれて!!」
「悪いな汐留、ノックはしたんだが・・・」
「先生、俺にタイムリープを教えてください」
「生憎今ラベンダーを切らしていてな。諦めろ」
「ラベンダーって先生小説派なんですね、あっはっは」
「その感じ、汐留は映画派だな?あれは良作だった!」
2人で盛り上がり笑いあう
「って違ーう!!話が脱線してる!なんで赤羽さんがこの部室に来るんですか!?」
「あぁ、それそれ!この部の顧問として、何よりこの部のOBとしてそろそろしっかりしないと駄目だと思ってな。赤羽は前の学校で茶道部だったらしくて丁度いいから勧誘したんだ。」
「三鷹先生、勧誘はいいですけどこの部ほとんど本来の活動として機能してませんよ。いきなりガチ部員が入ってきても呆れて直ぐに辞めてしまうのでは?部員も美女2人と童貞1人しか居ないわけですし」
「私は歓迎だよ~良いネタになりそうだしね~」
えぇ、反対派なのは俺だけなのか・・・
「いやまず、この現状を見て赤羽さんはどう思ってるか問題ですよ」
「私は、構いません。特に好きで茶道やっていたわけではなかったので」
「そう?じゃあこのまま入部届け貰っちゃうわね。皆後は宜しくね。三鷹鈴音はクールに去るわ」
三鷹先生はそう言って去っていき部長は執筆、一之江は借りたゲームのルート決め、赤羽さんは端のほうで本を読んでしまっている。
はぁ急なチャンスはうれしいけどこれからどうなるんだ?
こうしてギャルゲー脳恋愛初心者の恋の物語りが始まる。