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姫との出会いと生活のはじまり

 ここは戦場だった、当然鎧を着た人たちが剣や杖を交えて戦っている。だがこれは一つの国を落とし制圧するために起こった一方的な制圧戦でもあった。

 この大陸でここまでの大規模な戦闘はここ二十年起きてはいなかった。攻められている側は兵士の数が圧倒的に足りていない。

 戦場となっているのはインヴァネス王国の北側に位置するだだっ広い平原だった。インヴァネス王国は領土は小さくとも王族のカリスマ性があってかとっても発展しているいい国で、国民に対してもちゃんとした配慮がなされており王族の支持率は90%を上回っている。

 対して攻め込んでいたのはアークリー帝国というインヴァネス王国の少し北の方にある国だ。二十年くらい前に行われた大規模大戦で領土をたくさん取りインヴァネスとは違う意味で発展している国だった。

 この戦争が終了したのはすぐだった、一方的な戦闘によるアークリー帝国の勝利だ。貴族や一部王族は戦闘中に倒れたり終わった後に処刑されたりされたりと完全に植民地にされていた。国民は戦闘が始まると同時に半分以上が隣国とかに散らばって逃げたりしていたので死傷者はそんなにいないとの情報がインヴァネスから逃げ出した人たちから各国王族やトップたちの耳に届くのは遅くなかった。


 場所は変わってインヴァネスの東側に位置する大国、フローレンス王国 首都シェフィールド。

 大陸一といわれるほどに発達した技術と文化により世界で一番繁栄しているとされている国であると同時に国防にかなりの力を入れているがために入国審査は厳しく騎士団も人が多く強いらしい。

 軽装で白い学校の制服のようではあるがかなり動きやすそうで腰に帯刀した少年二人はその国の城壁の外側の森を歩いていた。

「インヴァネスにアークリーが攻め込んだって聞いたか?タケル」

 明るめの茶髪に背丈の高い方が黒髪で少しほど小さいほうの少年に問いかけた。

「ああ、そんな感じのことを町で噂しているのが大勢いたな。あそこはエルフがトップだから魔法技術が発展していて凄かったからまた行きたかったのに」

「そういやタケルも一緒だもんな。俺もあそこのエルフは好みだったから行きたかったんだよなぁ」

 そんなことを言っているのはアランというやつだ。率直に言えば俗世にまみれた脳筋野郎だ。

「お前はいつもそんなことを考えているのか?エルフは頭いいし長寿だしな条件は他種族となると条件も厳しそうだな。アランじゃ無理だろ」

「なんだとぉタケルお前は興味ないのかよ、美女揃いの最高の種族に興味もないのかよ」

 確かにエルフは俺らヒューマン並みの身長に耳が尖っているのが特徴だ。美人が多いのは確かだ、俺も一度行ったとき美人の多さに驚いたものだが正直魔導書を求めに行ってたので長居しなかったので比較的近いとはいえ魔法を多用して移動してたので刊行する時間もなく、特にこれといったことはできなかったな。

「女性に興味がないわけじゃないけど、魔導書が一番の目的だったしそれ以外に興味も湧かないよ。今は」

「そうか、タケルお前ほんと魔法研究以外にやることないのかよ。俺は魔法をほとんど使えないからうらやましい限りだよ」

 この世界には魔法という技術が存在する。剣や斧のような刃物を使わず遠距離からの攻撃や、自身の能力強化、即座に行える治療など多様性が取り柄の技術だ。ただ個人の要する魔法を行使する力に個人差があるので多数の魔法を行使するのは一種だけに適性がある場合は難しいというような非常に個人体質に依存する特性を持つ。二種類以上の魔法を行使できるものは重宝されるし、治癒魔術を使えるとそれだけで医療学校に優先的に通えるようになったりするらしい。

「でも身体強化は使えるんだから剣士としては十分じゃあないのか?俺みたいに魔法を多用するなら詠唱が難しかったり覚える数もおかしいくらいに増えていくし身体強化はある意味一番実践向きだよ。俺は剣士の護衛がいてくれた方が楽だしな」

「確かにそうだな、俺には小難しいのは似合わんな。それより今の魔獣討伐に集中せんと」

 最近城壁の外にフローレンス近郊には見られなかった種類の魔獣が現れるようなったらしい、戦争による生態系異常だと思われると騎士団の方から民間への依頼だ。騎士団は日ごろの訓練や国内の警備など日課がありそれ以外に人材が派遣が難しく対処できない事項も出てくる。比較的危険度の少ない事は民間から傭兵や騎士学生などに依頼が出る。

「別に討伐じゃないぞ。特に攻撃されなければ今までいなかった種類を確認して騎士団に出すだけでいいんだよ。まあ、素材が欲しけりゃ倒してもいいんだろうけど」

 そんなことを延々と話しながら森の中をぶらぶらと歩いてる。いつもの日常だった。俺たちはお小遣い稼ぎによく依頼を受けたりするのだ。

「ここら辺は環境が比較的いいから低ランク魔獣しかいないし正直金にはならなかったんだよな・・・」

 アランが過去の素材の買い取り値段に落ち込んでいる時、近くから魔力を感知したと同時に物音がした。

「おいアラン、話はまた後だ。明らかに魔力値が高いのがいるぞ。しかも魔力を行使し始めてる」

「了解、先行するぜ」

 一瞬立ち止まったあと、速度を変えて走り出す。走り出すと同時に俺は剣を抜き魔力を込めながら詠唱を始める。

「風の精霊よ 我に力を与えたまえ 剣に纏いて全てのものを切り伏せる風刀と化せー風刃エアブレード

 唱え終わると瞬時に剣の周りに風が発生し刃に吸収された。同時に若干緑色の光を放ちだした。 

「ガルルルルルル」と聞こえてきた。

 前方に人ではなく四本足で直立し、首周りに炎を出している獅子に近い体つきをしてる魔獣を見つけた。属性が炎であることは単純明快だがこの周辺では見たことがない種類だった。

「タケル、あれはフレイムレオンだ。以前乾燥した北側の洞窟に生息するようなことを聞いたことあるぞ。それに、奥に人が倒れている。たぶん魔力を感じたのはあの人を攻撃しようとしたからじゃないか」

 そう言われてフレイムレオンの奥側を見ると古い感じのローブにフードを被ってうつ伏せで倒れている人が見えた。だがフードのせいで性別はおろか種族すらわからない。

 フレイムレオンはおそらく肉食だ。以前インヴァネスで見た張り紙に被害などが書いてあった記憶がある。焼いてから食すらしいので焼こうとして魔力をためたところを俺らが感知したのだろう。今は危機を感じたのかこちらに瞳を向けて威嚇をしている。

「とりあえずアランは周囲を警戒していてくれ。ほかに来られると倒れている人が危ない。それに、俺水の魔法そんなに使えないんだよ。治癒は任せてくれていいから」

「了解。属性魔獣だと俺は役に立てそうもないしな。そろそろ属性付与の剣が欲しいところだぜ・・・」

 アランが少し離れたところでフレイムレオンと一対一で対峙する。

 フレイムレオンは姿勢を少し屈めて飛んできたのと同時に今まで溜めていたであろう炎を一気に吐きだした。

 後退しながら剣を振り吐きだされた炎を斬る。瞬間そこに強風が吹いたように炎が勢いよく左右に分断されて木や枝に引火する前に消え去った。

「ふぅ、ランクBクラスの魔獣は久しぶりだがまだ大丈夫そうだ」

 と独り言を喋っていると間髪入れずに迫ってきた。なので今度は左側にステップし胴体に切りかかる。

 すると、「グルォォォォーー」と悲鳴を上げて倒れ体中の炎が霧散する。無事倒せたようだ。倒れるのを確認するのと同時に俺は前に走り出し倒れている人に駆け寄り「大丈夫か」と呼びかけるのと同時に仰向けに抱き起してフードを取った。

「おいおい、エルフの少女じゃないか、なんでこんなところに」

 フードを取ったらとても綺麗な金髪に尖った耳。とかわいいと言うより美人といわれる感じの顔立ちだった。

 もともと小柄に見えたので女性であることは可能性としてあるとは思っていたがまさかエルフとは思わなかった。おそらく、同い年位だと思う。この辺にエルフの里はないしフローレンスにはエルフは数えられるほどしか住んでない。

 ふとインヴァネスの戦争の話が思い浮かんだ。外傷は見られないので気を失っただけだろうがここからインヴァネスには徒歩で行き来するには控えめに言っても近いとは言えない。魔法を使わないなら二日かけて馬車で行くような距離だ。

 「我が魔力を癒しの光をへと変え 彼のものを癒したまえーーキュアヒール」

 エルフの少女の周りに白い魔法陣が浮かび上がり彼女を光が纏っていく。肌についていた擦り傷などの軽い傷は瞬時に綺麗な肌はと戻っていった。

「おい、アランもういいぞ」

 すぐに周囲を警戒していたアランが戻ってくる。彼はこちらを見るのと同時に目を丸くしていた。

「おいタケル・・・・エルフじゃねえか。倒れていたのは彼女だったのか?」

「そうだ、とりあえず一回町に戻ろう。一応治癒魔法はかけたけどちゃんとした設備のある所に連れて行った方がいいだろう。アランはそこのフレイムレオンを運んでくれ」

 そういいながら少女のフードを深く被らせたあと走りやすいように足と膝に腕を伸ばしていわゆるお姫様抱っこをする。アランは肩にフレイムレオンを担いで城壁に向かって足に魔力を集中させて走り出す。


 エルフの少女は治癒魔法をかけられて少し回復していたからか。疾風の如く移動しているのを感じると少しばかり目を開けた。そこには髪と瞳が黒いヒューマンの少年が見えた。状況を理解できなかった彼女は助けを懇願しようとした、だが彼女の体はいうことを聞かなかった。まだ回復しきってないのかいつの間にか意識がまた遠のいていた・・・・・


 俺たちは騎士団学校生だ入国審査なんてパスするのは楽だ。先ほど少女は一応急病人であるので正式入国は目を覚ましてからになるが仮入国として騎士団専用の医療施設に運び込んだ。

 彼女は重症ではない上に治癒魔法は一度かけているので騎士団専用を選択したのは監視の意味が強い。なんせエルフだインヴァネス国民である可能性が高い。

 一応に異常はなさそうだ。俺は一応看病という位置づけにしてもらって見守っている。アランは騎士団本部に依頼の報告とフレイムレオンの売却に行っている。

「それにしたってエルフか・・・・・」

 この国の人口比率はヒューマン:亜人種:ドワーフ:エルフで考えると100:50:40:1というぐらいにはヒューマン寄りの人口だ亜人種はヒューマンのように普通に立って歩くが獣の特徴を持っているしドワーフは体が小さいながらも力が数ある種族の中では一番強い。どちらも集団意識など特に持ってはいないので異種族共存に否定的どころか賛成のレベルだ。だがエルフは同族による群れを好む人が大多数らしいので単独や少人数の集団で唯一のエルフの国たるインヴァネス以外で見かけるのは比較的珍しい部類に入る。

 そんな色々を考えているとベッドで寝ているエルフの彼女が目を覚ましたようだ。

「こ・・・・ここ、は・・・」

「目を覚ましたか。ここはフローレンス王国首都シェフィールドにある騎士団専用の病院。俺はタケル・ユングリング。いつもはヒューマンの姿をしているが実はエルフでね。魔法が得意なんだ。見たところ君も純粋なエルフのようだけどお名前は?」

 俺は信用させるために耳にのみかけている変身魔法を解き尖がった耳を露わにした。

 彼女は全く動かずこちらをじっと見ている。数秒経ってから状況を理解したかのように話し出した。

「あなたが私を助けてくださったのね。ありがとうございます」

 と、お辞儀をした。かなり教育を受けているような佇まいだ。それにしても見たこともないような美人だ。

「私は、シルヴァーナ・ロベルタ・インヴァネス。インヴァネス王国第二王女?だったかと」

 ・・・・は?

「おいおいおいおい、王女様とはまた面倒な。いいかその名前はここでは使わない方がいいですよ。あなたはは狙われるし他に生かされている王族たちを人質に取られたらあなたを守れない。どうしてこうなったかは大方予想はつくのだがここでは決して知られない方がいいです」

 疑問形だったことはさておき。正直動揺しかないがこのことを彼女のためにも周りに知られるわけにはいかないとも瞬時に思った。

「はあ。ではなんと名乗ればよいのでしょう?私の国では第一王女以外は保身のため基本隠されるらしいので私の知名度はゼロに等しいはずなので心配ないと思ってましたが」

 彼女はとても不思議そうな顔をしている。天然なのだろうか。

 インヴァネス王国では確かに第一王女しか見たことがなかった(名前知らない)が保身のためとは・・・

「では今までどんな暮らしを?」

「私は首都ではなく郊外でメイドと共に一応は貴族という形で暮らしていました。そもそも人と会うことがないような場所ではないので気にすることもなかったのです」

 確かインヴァネスはほとんどが森林だ、首都だけが特別家屋だらけの印象がある。もともと森に棲んでいた種族なのだし確かにその保身方法は理にかなっているだろう。現にそれで助かっているのだから。

「とりあえずこのことを信用できる大人一人とあなたを助けたときの友人にのみ教えます。それ以外ではとりあえず名前のみを喋ってください」

 一応俺もエルフの端くれだ。王族の名前は知らなくとも大体の決まりごとは知っている。家名を好んで名乗らないエルフはそう珍しいものでもない。それを利用すればいいと。

「お~い報告と換金終わったぞ~」 

 そういいながらアランが病室に入ってきた。大声では言うわけにはいかないので一応こっそり耳打ちするように言った。

「ああ、お帰り。早速で悪いんだが少々事情が事情でね。医院長室から師匠を呼んできてくれ彼女についての話を隠密にしなければならない」

 アランはこちらは少しじっと見た後振り返り少し早歩きで病室を出て医院長室に向かったようだ。

 少し待ち数分後。アランが病院の医院長を連れて部屋に入ってきた。

「いきなりお呼びしてすいませんマスター、彼女のことで少し手伝っていただきたいことがありまして」

 医院長はとても眠そうに答える。

「ん~タケルの言うことなら間違いはないだろうしどんなのでもどんとこい」

 これまた眠そうに右手を胸にえっへんと言わんばかりに答える。彼女の身長はここにいる誰よりも小さい。本当に年上なのか時々不安になったりもするレベルだ。

「あの~そちらはどちら様で?」

 またまたシルヴィーナは首をかしげながら疑問形で聞いてくる。

「ああ、紹介しますね。こちらはこのシェフィールド騎士団病院医院長のロゼッタさん。俺とおんなじエルフで、治癒魔法の師匠でもある。そしてさっき言ったもう一人の方」

 ちっすと右手を挙げながら軽く返事をする師匠。

「それでタケル~大事な話ってこの子のことでしょ。私は何をすればいいの?入国審査は私が提出すれば大丈夫でしょうしそんなことじゃないんでしょ?」

「ええ、師匠には役所に彼女のことをここに住まわせるよう書類を作っていただきたいのです。名前を変えて」

 アランはびっくりして頭の処理が追い付いていないようだ。師匠はほぉーと少し驚いた感じでシルヴァーナさんの方を見ている。

「タケル~それはどうしてだい?ここに住むくらいなら普通の名前で届け出を出せばいい。それは君の助言ですら通る案件だ。それでも変えなければいけない事項があるのかい?」

 人払いはさっき師匠が入ってきた時点で結界が作動して完了しているはずだが大声をあげれば聞かれる危険性があるのでアランも近くに来いとジェスチャーをし、少し静かに答える。

「くれぐれも内密にしておきたいので大声だけは驚いてもあげないように。彼女シルヴァーナはインヴァネス国民であることは時期を見ても師匠ですらわかることでしょうが彼女はその王族に名を連ねています」

 アランが顔を青くして声を荒げそうになったので手で押さえる。彼からすればとんでもない客人を自国に勝手に入れたことになるのだいくら脳筋でも瞬時に分かったようだ。

「ふむふむ、でもシルヴァーナなんて王族聞いたことないぞ」

「あの国は特に男女どちらも継承権を持ちます。現状の第一王女しか表に出さないというのが方針らしくて。彼女は幸いにもインヴァネスでの認知度はほぼゼロに等しいと言っています。ですがこのフローレンスでエルフは目立ちますし名前を深く問われればこちらではインヴァネス王族として認知されかねません。先日の戦争で多少はエルフが増えてるかもしれませんが意味をなさないでしょう。それに私が運び込んだ責任もあります。この国を危険にさらすわけにはいきません」

 いたって真剣にすべての事情を話す。アランは終始静かにしようとしている。雰囲気をぶち壊す発言が出ようとはロッゼッタ以外の三人は知らずに。

「彼女のこととタケルの話はよ~く分かった。私にできることならなんでもしよう。ところでシルヴァーナさんご年齢は?」

 なんでそんなことを聞くのかはわからないが。彼女は慌てたように答える。

「ええっとええっと18歳です」

「タケルとおんなじか~ちょうどいいや。私の知り合いに役所勤めがいるんだよ。そこを頼ればいいだろう。そんな時間もかからんだろう」

 師匠以外は年齢の下りから依然として疑問が残るが手があるならば頼るしかない。

「それで名前の改変に彼女籍も確保できる方法はどんなもので?そんな簡単なものではないと思うのですけど」

 正直知識がなくとも住む許可が下りるのに時間がかかるというのくらいは知っている。たとえ師匠の知り合いを頼ってもそれを早くするのはきつそうではある。

「ダイジョウブダイジョ~ブ、簡単な書類書くだけで済むような簡単な奴だよ。それさえ受理されれば名前も住民権も手に入るよ」

「それはどんなもので」

「うむ、婚姻届だ」

 は?今師匠なんて言った?

「あのぉ~婚姻?とはどんなものなのでしょうか?」

 隠されていた身としては当然の質問だろう。俺はどういてその結論に至るのかの方に疑問を持っているが。

「姫様は聞いたことないのか~まあ、隠居のような生活をしていたなら縁談が来ないのも普通か~。婚姻ってのはね男女が夫婦として認知されるためのものさ。あなたのご両親のようにね」

 おい、彼女の両親はもう存命でない可能性が大いにある。傷心してしまっては元も子もない。

「すいません。両親には会ったことはあるんですけど小さいころからメイドたちと暮らしてたので正直そこまで覚えてないんですよ~。正直ここに来たのも東か南に逃げろと言われて家を出て道もわからず東へと進み続けて行き倒れた感じでして」

 本物の天然だなこりゃ。にしても特殊な王族なんだな同族の国は。それにしても以前アランは若干身を引いて静かに黙っている。そこに師匠がが耳打ちして彼は一度病室を出て行った。なんだろう。

「婚姻ってのは一生相手と暮らし続けるという同意のもとで書かれる書類で、あなたはそれを書いた瞬間俺の姓とここに住む権利を手に入れると同時に俺と暮らすことになるし一部の自由もなくなる。それにインヴァネスに帰るのは不可能になるだろうよ」

「そうなのですか~私は別に構いませよ。少なくともタケルさんは悪い人ではないと思いますしインヴァネスにもそれほど思い入れはないんですよ。もともと普通に暮らせるとは思ってはいませんでしたし、屋敷を出ることもほとんどなかったので町とかで暮らすのが夢だったのですよ」

「なら、一緒に住む人がいれば安心だね」

 なんでそれが異性で大丈夫なのかはさておき。

 今までは普通の暮らしができてなかったのは話を聞くだけでも伝わってくる。王族として国賓のように過ごしたり、追われる身としてひっそり暮らさせるのは今更ながらさせたくはない。だからと言って人妻ってのもなぁ・・・・

「俺もまあ同族としてこの国で暮らしたいのならあなたを守らないわけにはいかない。騎士学校は幸い宿舎でも寮制でもないし俺は今一人暮らしだしな。保護者はここに住んでるみたいですし」

 冷たい目を師匠に向けながら。師匠はてへっとしか反応しないが。

「それじゃあ同意もなされたところで、アラン君入ってきて」

 そういうと、さっきこそこそと出て行ったアランが入ってくる。何しに出て行ってたのだろうか。

「はい、先ほど言われたことをロゼッタさんの知り合いの方に言ったところこの封筒を渡されました」

 アランはぐったり疲れているようだ。確かあいつは師匠のこと苦手だったな・・・何があったかは知らないが。

「もう同意は間違いないことを見越して婚姻届持ってきてもらいました」

 デデン。と効果音がつくんじゃないという勢いで上にピンク色の封筒を掲げる。

「手回し早すぎるだろ。まあこれでシルヴァーナさんの安全な暮らしが保証できるなら。俺としてはヒューマンなんて選択肢はないようなものだし今後する予定もないから。ちょうどあなたのようなエルフと出会えてよかったとも思うけど・・・」

 こうなったら師匠はテコでも動かないので書類に必要事項を書き込んでサインする。十八で婚姻って長命であるエルフだといくら何でも早すぎるよなあ(泣)

「助けられた身としては何もできないと思いますが、あなた方のご厚意を謹んでお受けさせていただきます。タケルさん。これから末永くよろしくお願いいたします」 

 彼女はお辞儀をした。礼儀作法は流石王族だな。

 そのあと師匠に教えられながら婚姻届を書いていた。

「あとは私がチャチャっと書いて出して片付けちゃうから。タケルは彼女を連れて帰りなさいな。アランもいろいろとよろしくね~」

 師匠は封筒を持って病室を出ていく。それと同時に退院通告もされた。シルヴァーナさんはベッドから降りる。

 彼女シルヴァーナさんは相変わらずローブ姿だ。変身魔法では体の形し変えられないので服装はどうしようもない。

「それじゃあ、一応エルフというのは隠しておかないといけないから魔法かけさせていただきます」

 俺はそういうと彼女の耳に手を伸ばして唱えた。

「生命をつかさどる神よその恩恵を我に与えていただきたい 身体変態」

 耳を対象として俺と彼女の耳がヒューマンに近いものに変わる。

 彼女の顔が心なしか赤い気がするが体は本当に大丈夫なのだろうか。

 時間を空けずに病院を出ていく。

「なあ、アラン。これからどうするよ。報告に換金も終わったのでしょ。俺としては彼女の生活必需品を買っておかなければいけないんだけどアランはどうする?」

「う~ん、どうするかなぁ。そろそろ属性付与された剣買おうかなって思ってるくらいで生活用品は困ってないかな」

 属性付与の剣とは魔法を使用するときに出る魔力を剣の素材に練りこみ。使用者に属性の変換資質がなくとも剣に練りこまれた一つの属性を使えることができる。

 病院は市街地ではなく少し閑散としたところにある。今は市街地の方に向かっているところである。

「それならいい魔道鍛冶師知ってるから教えるよ。シルヴァーナほとんどの物は師匠のがあるからいいんだけど・・・・服は絶対使えないかなって」

 そう、師匠とシルヴァーナでは体格が正反対とまでは言わないが身長とかが全く違う。師匠の服は全く使えない。

「すいません。突然の出来事だったので服が一着しかなくて」

「いや、別にそんなこと気にしなくていいよ。たぶん持っていたところでこっちとは文化に差があるからインヴァネスの服は着ない方がいいだろうしね。それに一応短刀くらいは装備した方がいいし」

 この国は城壁で囲まれているような感じだがたまに飛び越えたりして危険な魔獣が入り込むことなんてざらだ。それに彼女を今の状況で丸腰にさせておくわけにはいかない。

「そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきます」

「そんなに硬くならなくてもいいよ。かえって不自然だ。僕のことも呼び捨てでいいからさ、シルヴァーナ」

「はい、タケル」

 やばい、かわいい。一生守ろう。予想外の出来事ってこんなにも人を変えるものなんだな。

「ハイハイ、出会ってから数時間なのにお熱いことで。早くしないと日が暮れるぞ」

 アランがあきれた感じで催促してくる。

 そんなこんなで市街地に到着すると早速服屋で今まで着てた刺しゅう入りの高そうなローブを更新すべくローブやら部屋着を多数見繕った。とりあえず数をそろえてから選んでもらう形でいいだろう。

 その中の一着をその場で着せてもらったがとても似合っていた。今まで着てたローブに形は近いけれど街中で目立たないようなデザインだ。たぶんちらほらおんなじのを着ている人がいそうな感じなのだ。気にしたとこはないけど。

「じゃあ行こうか、鍛冶屋」

 服の袋がこんもりしているが全部俺が持ち街道ではなく中通りに案内していく。

 ワイワイやっていく場所でもないので自然と静かになってしまっていた。そんな遠くもないのでこのままでいいんだが。

 店はポツンと看板を出していた。いかにも職人らしい立地の場所だ。人がほとんどいなく静かな場所だ。家も心なしか少ない。

「ここだよここ。今日中に終わるわけじゃないから要望だけ伝えておこうか」

 俺が静かに民家にしか見えない店のドアを開けながら話す。二人はそぉーっと足音を立てずに入店する。

 今は冬季が終わって少し暖かくなってきたところのはずなんだが室内は灼熱だった。

「おじさーんまた来たよー」

 そう呼びかけると奥からザ・職人という感じのドワーフのおじいさんが出てきた。

「おう、また来たか。何か壊したのか?」

「いやいや、違うよ。新しいものを頼もうと思って。属性付与の剣が欲しいってやつ連れてきたからそれと軽めの短剣をお願いしようと思って」

 おじさんは俺からアランに目を移す。シルヴァーナにはさほど興味を示さない。つくづく仕事屋だなあと思っていた矢先。

「お主が魔法剣を欲すのは何のためじゃ」

 いきなりだった。アランはびっくりしているし、シルヴァーナは呆けてる。

「お、俺が剣を欲しいのは守る対象を守れないのが嫌なんです」

 守る対象とは俺だろう。フローレンス騎士団では魔法使い一人、すなわち俺のポジションは詠唱を安全に行うその時間を稼ぐために剣士として守りにつく一人での二人組戦闘が基本だ。俺はもともと魔法に特化したエルフではあるが小さいころから剣術も使用してきたため剣術を使用しながらの魔法の行使が可能だ。今の状態だと俺が一人で戦っても充分という形になってしまっている。

「うむ、理解した。属性は何がいいか?剣でも斧でも槍でもなんでも作ろう」

 どうやらおじさんのお眼鏡にかなったようだ。最初は俺も受けたなぁ、何年前だからもうそんなはっきりとではないけど。

「では、さっき残しておいたフレイムレオンのたてがみを使った眺めの剣をお願いします」

 さっきから持っていた袋はそれを入れていたのか。俺が倒した奴だけどいらないしな。

「こんなものを使うのは初めてじゃが炎の剣でよろしいな。タケルは短剣だったか?」

「ありがとうございます!」

 アランは頭を下げてた。

「ああ、彼女に持たせようと思って」

 と後ろにいるシルヴァーナに振り向いた。

「彼女はなんじゃ?この国のものではないだろうし戦闘する感じでもなかろう」

 さすが観察眼が鋭い。

「少し訳ありでね、詳しくは話せないんだが狙われるかもしれない危険性が少なからずあるからね。シルヴァーナ、剣術とか魔法とか習ってたものある?」

 いきなり話が振られたので最初ビクッとしたが彼女はすぐ答える。

「一応魔法は一通り習いました。でもまともに使えるのはそんなでもないかなぁという感じです。あと護身用の剣を多少教えてもらったくらいですね」

「ならちょうどいい。柄に俺と同じような世界樹の結晶を埋め込んでくれ。また持ってくるからさ」

「あいよ、魔法剣は時間がかかるんでねしばらく時間をくれよ」

 とりあえず予約は完了したようだ。俺ら三人は店を出て歩き出し、街中に出たところでアランと別れて家に帰ることにした。

初めまして、源桜花みなもとさくらと申します。

これが初作品です。

特に学ばず書いていますのでところどころ至らないところもありますが、読んでいただいてありがとうございます。

これからもちまちま書いていきます。


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