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異世界で生を受けたなら  作者: 蓮嫁 ルイ
一章 【目覚めと別れ】
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5.異変

 


 宿から出た瞬間、違和感を感じる。

 それほど大きなものでもない、平時なら気付かないほどのものだ。

 なら今見て感じている街が平時ではないのかと問われればいつも通りだと、そう言わざるを得ない。事実ユイは急に立ち止まった俺を訝しげな目で見ている。

 周りを見渡せばここに住む人々も往来で突っ立ってる俺たちを鬱陶し気に見ては去っていく。恐らく誰も気付いてはいないのだろう。

 何だ? この違和感は一体––––


「……おに……ゃん! お兄ちゃん!」

「……ああ、悪い、どうした」

「どうしたじゃないよ、急に立ち止まって俯いちゃってさ」


 どうやらユイに何度も呼ばれていたようだ。

 確かにさっきの俺の行動は不自然極まりない。いつの間にかユイの声さえ聞こえなくなるくらい集中していたようだ。

 悪い、とユイに謝りギルドへ向かう。

 胸に(つか)えていた違和感は消えていた。俺にはそれがどうしようもなく不快で新たな違和感を齎した。


 ***


「冒険者が減っている?」

「はい、依頼達成の報告や依頼を受ける数が目に見えて減り、ギルドに訪れる冒険者の数も同じように少なくなっています」


 ギルドに着いた俺たちを待っていたのは、暗い顔をした職員の喜べない話だった。

 ひょっとすると今朝感じた違和感はこのことだったのかもしれない。

 そう思う一方で、そうではないと第六感とも呼ぶべき本能のようなものが否定する。


「当ギルドではこれをギルド外の第三者による失踪と見ています」


 職員は言い切るように言ったがこれには俺も同意見だ。ユイは首を傾げて不思議そうに聞いている。


「更に一般市民にも被害が出ているという報告もあります、ギルドはこれを解決すべく冒険者の方々へ依頼を受けていただきます、この依頼の拒否はできません」


 厄介なことになった。まさか冒険者になってそう経たないうちに強制依頼を受けることになるとは。

 ユイも驚いて声も出ないようだが受付との会話を俺に一任しているため黙っている。ユイが驚いているのは拒否できないという部分だろうが。


 ***


 最近知ったことではあるがこの街は首都から離れているらしい。近くに住む魔物も強い種類はいないため、冒険者が集まり辛いそうだ。

 そのためここには中堅層はいても上位層はおらず、新人が半数以上を占めている。

 そんなギルドで他の冒険者を意図的に蹴落そうとする者は余程の馬鹿以外はいない。

 冒険者は報酬もある程度高く設定されているがだからと言って依頼を受けていれば安泰というわけではない。一度の収益は確かに多いが回数は圧倒的に少ない、更に言えば武器や道具への出費も多い。

 結果的には冒険者はそれほど実りのいい仕事とはとても言えず、冒険者の大半は懐が寂しいことになっている。

 つまり、他人に構っている余裕なんてないし、自分のことだけで手一杯でそんな暇はない。

 –––という話をギルドの近くにある酒場で俺はユイに説明していた。どうやらユイは理由を聞いても全く分かっていないらしい。


「ふーん、じゃあその余程の馬鹿がやってるんじゃないの?」

「まあ、その可能性も否定できないが、極めて低いだろうな」

「なんで? 意外といるよ? そういう馬鹿って」

 なんとも含蓄のある言葉だ、さぞかし村では苦労していたのだろう。

「新人が多いって言ったろ、聞いた話だと中堅層の冒険者も姿が見えないらしい。新人じゃあそれだけの実力はないし、殊更強い新人がいるって話も聞いてないから中堅層も消えてるってのは新人がやったにしては不自然だ」

「この手の馬鹿って威張るだけで中身がないもんね〜」

 ユイは一体あの村でどんな体験をしていたのだろうか、気になるが聞くのが少し怖いな。

「中堅の人たち……はないか」

 ユイは中堅層も疑ったようだがすぐに否定した。それくらいは流石に分かっているようだ。

 中堅の人たちはこのことを知ってるし、余裕も生まれてくるとは言えそこまで手が回るほどではない。

 まあ、登録した当初に口酸っぱくおっさん達に何度も教えられたしな、それを思い出したのかユイもどことなく苦い顔をしている。


「……ユイ、これから気をつけろよ」

「どうして?」

「俺たちは新人の中で飛び抜けた強さを持っていると噂しれているらしい、理由は置いておくが……つまり冒険者側としては俺たちを疑っているんだよ」

 ギルドに近づくにつれ刺すような視線を其処彼処で受けている、今もチラチラとこちらを窺っている人が何人か確認できる。

 そう遠くないうちに捕縛、運が悪ければ殺しにくることだってあるだろう。

 ギルドは俺たちを疑っていないようではあるが理由は分からないし、当面の間首謀者に仕立て上げることだったない話ではない。

「……うん、分かった」

 ユイもその視線に気づいたらしい。悲しげに顔を歪めて頷いてくれた。


 ***


 結局顔を突き合わせて考えてみたものの何も分からず、より疑いを深めてしまった結果に終わった。

 このままでは俺もユイも捕まってしまうかもしれない、最悪ユイだけでも生かす方法を考える必要がある。

 宿の中で最悪の事態だけでも避けようと頭を働かせていた時だった。



 唐突に違和感の正体に気づいた。

 魔法を扱う者なら誰でも知っている魔力だ。

 その魔力が薄く(・・)なっている。普通人が密集すれば濃くなっていく魔力が、かなりの数の人が住んでいるこの街で薄くなるなどあり得ない。確かに人は消えているが数十人消えたところで変わりはしない。

 窓から街を見渡せば、最近買い手がついたと言う大きな屋敷がある場所から魔力が薄くなっているこの街では異常なほど濃くなっている場所があった。


 何故この街の住人は気付かない?

 何故冒険者は誰一人として違和感に気付かない?


 何故、魔力を感じることに人一倍長けたユイがこのことに気付かない?


 感じる違和感は次々と溢れ現状の異常さを認識させる。

 認識阻害魔法があると師匠が言っていたことを思い出す。これもその類なのだろう、しかし街一つ騙すほど強い物ではないと言っていたはずだ。精々攻撃の隙を一瞬作る程度だと。


 何かがいる。疑念は違和感と結びつき一つの結論を出す。

 汗が背中を伝い、唾を飲み込む。


 ––––––竦む足を抑え、俺は宿を出た。


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