4.日々
街に着いてからもう一月経った。
冒険者登録も宿の確保も恙無く済み、懸念していたユイが戦えるかという不安は杞憂に終わった、流石は村一番の強者だと褒めたら、いつものように不満げな顔をされたが。
冒険者としての日々が取り敢えずではあるが安定してきていて、宿屋暮らしとは言えそれなりの生活を送れている。
「お兄ちゃん、今日はどうする?」
「そうだな……」
安定してきたと言っても所詮俺たちは新人、受けられる依頼は少ない。別に依頼しなくても自分で何とか出来るような物が多いのだから当然だ。
「討伐にでも行くか?」
「ん、分かった」
とはいえ新人が受けられるような依頼の中にも魔物の討伐はある。
勿論、基本新人が当たるだけあって弱い。流石にただの一般市民が勝てるほど甘くはないが、それでも少し特訓すれば簡単に倒せるだろう。
魔物であっても生物は生物、個人的には老人が依頼しているお使い系の方がやりやすいがたまにはそれなりの稼ぎが出る魔物が絡む依頼を受けなくては懐に余裕は生まれない。
世の不条理を嘆く俺を見て勘違いしたらしいユイはニヤけた顔をしている。
「ぷぷ、また泣いちゃうの? お兄ちゃん?」
「……調子に乗りすぎだ」
取り敢えずゲンコツを喰らわせておく。
あの日ユイに縋り付いたのは間違いだったと思わせるくらいには同じネタで俺を何度も揶揄ってくる。
我が妹ながら見事な煽りだ、ムカつくのでもう一度ゲンコツをプレゼントしておこう。
こんなに調子に乗って揶揄うような性格だったかと疑問に思いつつユイからの文句を聞き流し、街を出る。
***
街から出て少し歩けば森に着く。
そして森に着けば向こうから勝手に寄ってくる。
ユイは敵から見やすい比較的開けた場所に、俺は姿を隠せる程度に育った茂みに身を隠し待つ。魚釣りならぬ魔物釣り、と言ったところか……釣りなどしたことも見たこともないが。
自分たちから探すこともなく獲物を待っていると漸く釣れたようだ。
ユイと目配せをして、互いに準備に入る。当然相手は待たないしこちらも待たない。
ユイだって、ただ撒き餌としてぶら下がっていただけではないのだ。いつ現れてもいいよう発動待機させていた魔法をゴボリン一団に向け放つ。
ユイが魔法を放ったその瞬間に射線外にいる残りのゴボリンの首を俺が刈り取る。相手がゴボリンだからこそ成立するゴリ押しの奇襲。
ハッキリ言ってここまで慎重になる必要などない、正面から斬り捨てた方が楽だろう。
奇襲に拘っている理由も特にない、強いて言えば師匠に『敵が何であれ油断はするな』と言われていたくらいのもので、もう一つ言うとすれば俺にとって最もやりやすい方法だからだろうか。
まあ、確実性を採っていると妥協点を作っておこう。
【ユイ左からもう10体ほど来てる】
【分かった】
流石は兄妹と言うべきかアイコンタクトの意思疎通は完璧で、手短に必要最小限の情報を伝え再び待機状態に入る。
この釣り戦法は意外と効果的で、知能がないゴボリンはひたすらに引っかかり俺たちはホクホクである。
***
「今回の報酬はゴボリン討伐31体で–––––」
討伐報告をして、一体1000ゴルンの討伐報酬を受け取る。
命を賭けるだけあって報酬も討伐以外の依頼と比べると割高になっている。だからこそこうして時たま受けざるを得ないのだが……まあ、こういうものだろう。
「しかしゴボリンは群れて行動するとは言え四時間でよくこれだけの数を討伐出来ましたね……何かコツでもあるんですか?」
換金窓口の受付係が不正を疑うような目で尋ねてくる。何か汚い手を使ったのだろうと隠す気もなく顔に出ているが––––そうだな、正直に答えるとしよう、結果は見えているが。
「あー……まあ、我慢も大事ということで」
そう告げるとより一層疑惑の目を強める。基本的に10体狩れれば御の字な討伐依頼で倍以上の数を出しているのだからそう思うのも致し方ないことではある。
「そうですか、あなた方の記録は全て白と出ています……言えないというのでしたら詮索はしません」
既に詮索しているのだが、それは言わぬが花というものだろう。どのみち彼は隣の窓口で青筋を浮かべている上司に怒られることになりそうだが。
形だけの礼を述べユイを連れ立ち扉を出る。
「……そう剝れるなよ、あれはあれで正しい対応でもある、ここでは不正は最も許されないらしいからな」
師匠の受け売りだが。
「それはそうかもしれないけど……」
あの受付に当たった時はいつもユイはこうなる。
あんな対応をされれば当然と言えるが、もう少し我慢と忍耐を覚えなければ嫁の貰い手も減るだろうに。
とはいえユイがこんなに明るくなったのはここに来てからだ。恐らくこっちが素なのだろう。村に居た時が嘘だったとは言わないがユイなりに重圧でも感じていたのだろう。
労う意味も込めて頭を撫でる。
「むふふ〜」
お気に召したようで機嫌も直った。
元より大して怒ってもいなかったのだ。要領が悪いところはあるが基本物分かりはいい方で直接言いはしないが自慢の妹なのだから。
少し色味を帯びて来た日に照らされる俺たちは村に居た頃より兄妹らしく見えたことだろう。
そういった意味では妹が付いて来て良かったと言えるかもしれない。
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暗闇に不気味に光る双眸は恐ろしく、寒気を催すことだろう。
不気味な怪物は歩を進める。
準備は整ったと頬を上げ悍ましい笑みを浮かべる。
「ふはははは! 愚か! 愚か!! 実に愚か!!! 人間とはこうも容易いものか! はははは!」
笑う嗤う嘲笑う。
全て怪物の思う通りに動いた。仕上げだって愉快に不愉快なショーとなるだろう。
怪物は怒りか笑いか震える。
その姿を獣に見られているとも知らないで。
ゴボリン先輩はゴブリン的な雑魚的な感じの方です。
素人に毛が生えた程度では勝てませんがそれなりに特訓したらいつの間にか倒せるようになってる感じの雑魚です。
勢いと思いつきで出てきたけどゴボリン先輩好き。殺されてるけど。




