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異世界で生を受けたなら  作者: 蓮嫁 ルイ
一章 【目覚めと別れ】
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3.再会

 


 村を発ってから二度目の夜が来た。

 村から街までの間には鬱蒼と茂る森があるだけで宿など見込めそうにもない–––最短距離で進むなら、の話だが。

 基本的に旅や数日かかる移動では安全を考慮して、少し遠回りでも村や街に寄るものだ。



 馬車の行き交いで多少踏みならされ、道と言えなくもない場所になってはいるが悪路であることに変わりはなく、つまり普通の馬車の移動より体が痛い。

 どうしてこうなってしまったのか。結局付いて来てしまった妹も隣で不貞腐れている。

 まあ、乗せてくれた商人が急いで帰りたがったからに他ならないのだが……聞く限りでは急な取引が出来たわけでもなく、ただ納品日まで時間があると時間をかけて移動していたらしい。その割に冒険者を雇っているのだからマヌケなのかしっかりしているのか分からない。

 (もっと)も、雇った冒険者は良くてハズレだったみたいだが。


「お兄ちゃん……こんなに遠かったの?」

「これでも比較的近場にある村だったんだ、本来ならもう二、三日目かかってもおかしくはない、諦めろ」


 そう、これでもまだマシな方だ。

 もっと遠くから移動する者もいて、もっと酷い道を通ってくる者もいると聞く。

 それにあと少しの辛抱だ。


 街へは後半日も進めば着く。

 やっとこの馬車から解放され、冒険者として活動できる。妹が一緒に来たのは予定外だったが。


 ともかく、明日も早いのだし、もう寝てしまおう。

 疲れた様子でまだ着かないのかと聞いて来たユイもいつの間にやら眠りについたようだし。



 ––––ふと、外で動く気配を感じた。

 誰かが用を足しにでも行ったのかと思ったが、それにしては様子がおかしい。

 気配はこちらににじり寄るかの様に近寄ってくる。その動きはこちらに気取られないよう注意している。

 そしてそれは––––––昔教わった、盗賊や崩れが奇襲をかける動きでもある。


「ユイ、起きろ」


 旅の心得も知らず、無警戒にもグッスリと眠っているユイの体を揺すり、起こそうとするが一向に起きる気配はない。


「おい、ユイ、起きろ」


 普段は俺を起こして、しっかりしろと言わんばかりだというのに。

 これでも村で一番強かった(・・・・・・・・)というのだから、あの村がどれだけ平和だったのかが分かるというものだ。

 刻一刻と敵は迫る一方、起きるまで付き合っている暇は–––ない。

 なら一人でヤるしかない。


 (ターゲット)二つ(・・)

 三つあるテントの内、一つからは何も感じない、もぬけの殻だ。

 つまり、冒険者と名乗った男たちは予想通り黒、そしてこの稚拙な動きから崩れで間違いない。

 意外なことに商人の男はグルではないようだ。

 この手の話は実は御者の男もグルで実は違法な奴隷商人だった、というのがよくある話なのだが……そんな商人は我関せずと言わんばかりにグースカと眠っている。

 随分と呑気なことだ。商人としての質を疑う。まあ、そのマヌケさのお陰で直ぐに村を発てたし、妹を乗せることも出来たのだから感謝するところなのだろう。



「……ふぅ…………スッ!!」

 頭が冴え、中身が無くなったかのような錯覚さえ覚える軽さを感じる。

 ––––いつも通り。

 (ターゲット)を始末するのに最適な得物は既に手の内にある。

 ––––変わりなく。

 テントから飛び出した体は冷静に命を捉える。

 ––––先ずは一つ。

 茂みに一瞬だけ身を潜め二つ目の命も刈り取る。

『–––実に、つまらないな』



「……はぁぁ…………」



 長く、深く、息を吐く、心を落ち着かせ、身体を鎮める。

 少し時間をかけた後、辺りを見渡すと綺麗な頭と体が四つ落ちている。あまり血が出ないように気をつけたがそれでも出てしまうものは出てしまうのだから仕方ない。


 そうも言っていられないのがこの世界、このまま放っておけば数分とかからずに魔物が寄ってくるだろう。つまり非常に危ない。

 先ずは死体をどうにかしなければいけないのだが–––ッ! 視線を感じる、人ではない、獣のそれだ。

 しかしそこに何も感じられない。ただ見ているだけだ。

 一か八か視線を向ける。

 そこには––––––獣がいた。

 どこまでも真っ黒で、闇に紛れていて全体像は分からないが、血のように赤い目だけは発光しているかのように明るく、その視線はハッキリとこちらを捉えている。

 こんな獣は知らない。

 こんな魔物も知らない。

 震えが止まらず、歯がカチカチと音を鳴らし、冷や汗が際限なく噴き出す。

 思考が停止し、心は怯え、終わりすら感じる中で不思議と何をすれば獣が去るのか、その答えが頭を埋め尽くす。

 (すなわ)ち、死体を寄越せ、と。


 何かを思うより先に体は勝手に動いていた。その瞬間だけは震えが止まっていた気さえする。

 二つの頭と二つの体を獣がいるであろう闇に投げつけると獣は最初からそこにいなかったかの様に去っていった。



 震えと思考が正常に戻る頃には森が少しずつ明るさを取り戻していた。

 ハッとして辺りを見渡すと地面に流れていた血、そして三つあったテントの一つが無くなっていた。

 まるで、ここで何も起こらず、初めからあの二人組が存在していなかったように。


 ***


「大丈夫、お兄ちゃん? かなり辛そうだけど……」

「……大丈夫、だ」


 あの後、眠る暇もなく出発の時間になったから睡眠不足でクマでも出来ているのだろうか? それで心配されているのなら良いのだが……まあ、流石にそんな訳にもいかないか。

 何せ起きてテントから出てきたユイを見た瞬間、俺は無事を確かめる様に、あるいは、幼い子供の様に抱きついていたのだから。

 情けない姿を見せたと羞恥する一方で、俺は恐怖も感じていた。

 ユイにではない、あの獣にだ。



 昨日まで一緒にいた冒険者崩れの二人組のことをユイ、そして雇い主の商人ですら全く覚えていなかったのだから。

まさかの獣さんの登場。

出てこないはずだったのになぁ。

レイ君の前世の記憶は完全に消えてますが汚れの如くこびりついて残ってもいるので強い興奮状態になると思わず出ちゃいます。

ここの話だと『クマ』とか。

滅多に出ませんけどね!



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