真夏の恋心~そのままでいいよ~
2人の少年少女の「暑い日の熱い会話の記憶」。
ただ、「それだけ」。
数日経ってから、「上書きして加筆修正しました」。
これは「暑い日」の他愛のない、「嬉しい」とか
「悲しい」とかそんなじゃない「感情が噴き出す瞬間」のお話。
夏だから、暑いから、だから「悲しい気持ち」ですら
溶けていくのかもしれないね・・・。
私、「柴咲小糸」来年には
中学に上がる年頃・・・。つまり、今現在は小学6年生。
私には気になる人・・・。「異性」・・・ていうと、
少しばかりか「大人びた印象」になって「背伸び」したくなる、
そんな変な気持ちが私の中でドロドロと渦巻いていた。
短い前髪をくしゃくしゃっと左手でかきむしりたくなってしまう。
「異性」として好きな人・・・。
幼馴染の「尚にい」・・・。
本名は「松野尚くん」。
「尚にい」は私よりも2歳年上の男の子だ。
「ねえねえ!尚にいっ!クワガタ採りにいこーよ!」
真夏だから虫取りにいくのは田舎では基本なような気がする。
「お前・・・。俺もうそんな年齢じゃねえし。」
「尚にい」は最近冷たい・・・。
「昔はよく虫取りとかしてたじゃん~!!」とぶーたれる私。
「尚にい」はソーダ味のアイスキャンディーを半分ぐらい食べていた。
アイスキャンディーが暑さで溶けかかって雫となって零れ落ちる。
「あ~!尚にい!早く食べないから溶けてるよぉー!」
勿体ない気持ちでいっぱいになり、思わず急かす。
「うるせえな・・・。」
心底鬱陶しいと言わんばかりの言い草に若干傷ついてしまう。
「昔はそんなんじゃなかったよね?尚にい・・・。」
「どういう意味だよ・・・?!」
「なんか急に冷たくなった・・・。昔はもっと優しかった。」
嫌な言い方をしてしまう・・・。これじゃあ「我儘な子」みたい。
「じゃあこれ残り半分やるよ。」と卑屈な笑みを浮かべて
私に「食べかけのアイスキャンディー」を渡してくる。
「!!食べくさしじゃん!最後まで何で食べないの?」と
やや怒りをあらわにしてしまう私・・・。
「食べるのがめんどくさくなってきたから。お前が残り食え。」
雑草がいっぱい生えてる道端を踏みしめて小さな小石を蹴りながら
機嫌が悪そうに歩き出す「尚にい」・・・。
取り残された私はその受け取ったアイスキャンディーを・・・。
なんとなく口に含む・・・。
次の瞬間に慌てた。
「・・・間接キス・・・かな?これ・・・。」
子供の癖に微妙に色気づく年齢の私は顔が熱で赤くなっていた。
「尚にいは・・・こういうの・・・どう思うんだろう・・・。」
自分の気持ちに気づいてはくれてない気がしてやや悲しい・・・。
「尚にい」は今・・・。「他に好きな人・・・」つまりは、
「異性として見てる女性」がいる・・・。
よく知ってるよ・・・。知らないふりしてるだけで。
気付かないふりしてるだけで・・・。
「茜お姉ちゃん・・・。何でこんな若い年に・・・
結婚なんかしちゃうんだろう・・・。」
茜お姉ちゃんとは近所に住む綺麗な女の人だ。
髪は黒髪ロングヘアーでサラサラの・・・。
もう少し垢ぬけてたら女優さんみたいな雰囲気の人・・・。
昔から優しかった「茜お姉ちゃん」は私らが小さな頃から
ずっと知ってる人で親切で大人っぽいのにどこか抜けてるところが
可愛らしく、みんなから愛されるタイプの女性・・・。
「大人の女性」・・・。
茜お姉ちゃんは今度、私らの全く知らない男性・・・、
会社員らしいけど・・・。その人が31歳で、茜お姉ちゃんは
まだ21歳の若さで電撃結婚するらしい・・・。
村中の噂の的になっていて近所のおじさん、おばさんも
みんなで大喜びしていた。
「幸せになるんよ~?」とかいつも言われてる。
茜お姉ちゃんは嬉しそうにはにかんで屈託なく笑う・・・。
本当に幸せそうだもん・・・。
でも、そんな茜お姉ちゃんの幸せが「辛い」って目で見てるのが
尚にいなんだよね・・・。
で、その様子を「何とも言えない」自分でもよく「わからない」
複雑な気持ちで見てるのが「お子様の私」・・・。
茜お姉ちゃんがまだ学生の時代に小さかった私らに
微笑みながら優しく声をかけてきてくれたり、
今日ほど暑くはなかったけれども、真夏日に
近所の商店で「かき氷タイプのアイス」とか
「ミルク味のアイスキャンディー」とかアイス以外にも
駄菓子を買ってくれてみんなで一緒に食べた記憶が
私の中では結構鮮明に残っていた・・・。
「優しいお姉さん」・・・。
「大人の女性」・・・。
そんな暖かくも柔らかい、本当に「女性らしい」
茜お姉ちゃんに尚にいは気恥ずかしそうに照れていたり。
全部全部いつもいつも「見てた。私・・・。」
あんなに小さい子供だった私ですら「彼女」を
「素敵な女性」だと思いつつ見ていた・・・。
そして・・・、尚にいの恥ずかしくも嬉しい、
そんなドロッとした感情を抱く「男」の横顔も。
考えれば考える程に醜い嫉妬に駆られそうに
なるのですら、自分でも呆れる・・・。
長い沈黙を汗かきながら押し黙り固まっていて、
ふと下を向いた・・・。
アイスが溶けてだらだらと落ちていくのを見て、
「あっ!」となっていた・・・。
溶けたアイスに群がる蟻んこ。
その行列を見てる・・・。
アイスがべたべたしていてネチャッとしてるから、
蟻んこがべちゃべちゃになって何匹か死んでる・・・。
その光景を見ていて自分の心の中を現すかの様で
嫌な汗をかきながら、ずっと目を離せずに見ていた・・・。
「あつい・・・。」
呟く・・・。暑さであついのか、はたまた熱さであついのか・・・。
別に茜お姉ちゃんのことを怒ってるとかそんなじゃないんだ。
寧ろ幸せになってほしいんだけど・・・。だけど・・・。
それで「幸せになれない」尚にいの事ばかり頭に浮かんで消えない。
茜お姉ちゃんは今度都会に引っ越すそうだ・・・。
ある日の夕方に尚にいの姿が見えた。
思わずこっそり後を付ける。
夕暮れ時、空が段々と薄暗くなり、夜へと変わるまで
そうは時間がかからなかった気がする・・・。
尚にいは「遠く」を眺めていた・・・。
「何処か知らない遠くを・・・。」
「小糸。お前何さっきから俺の事見てんだよ。」
振り向きもせずに後ろに隠れていた私の名前を呼んだ。
なんでばれたのかな・・・?と考えて俯く・・・。
「お前。今なんでばれたか。とか考えてたりする?」と
笑ってからかうが、何処か虚ろで乾いた笑い方だった・・・。
「もう夜だよ・・・?帰らないの?家に・・・。」
・・・まあ。私もこんなところでじっとしてないで
勝手に帰ればよかったけど・・・。
「お前の方こそ帰れよ。夜なんだからさ。子供は帰って寝ろよ。
親が心配するだろーが・・・。」
そう言われてカチンときた。
瞬間湯沸かし器の如く、熱いものが込み上げてしまい、
「子供子供って、私もう子供じゃないもんっ!!」と
叫んでしまう・・・。自分でもびっくりしてしまうぐらいだ。
当然尚にいは驚いた顔で・・・。
「そか。もう「子供じゃない」んか。」
からかわれるかと思ったのに真顔でふと呟く・・・。
「俺も「子供じゃない」よ。だからなんかわかる気がする。」
真っ暗な夜の闇に映える尚にいのサラサラの黒い髪の毛・・・。
睫毛が長くて目が綺麗・・・。暗闇なのにそう見えてくる・・・。
「ねえ。いつから「子供じゃなくなった」の?」
ふと口をついて出た言葉だった・・・。
「わかんねーよそんなん・・・。「いつの間にか」だろ。」
私は思わずこう言ってしまう・・・。
「私、来年中学生じゃん?だから前髪もっと伸ばして、
もっと髪の毛サラサラのストレートヘアーにしようかな・・・。」
私は自分の子供っぽい髪型がいつしか嫌いになっていた。
「大人じゃない」から・・・。
「子供みたい」だから・・・。
「茜お姉ちゃんみたいな髪型にしてしまいたい」そう思い、
ついいつもの癖で短い前髪を指で覆い隠す様にして
くしゃくしゃにする・・・。
「別にいんじゃね?そのままで・・・。俺はそのままのお前の
髪型いいと思うけどな・・・。無理して大人びたりしないで
いんじゃねえの・・・?「今」は無理しないでも・・・。」
どこか、自分に「言い聞かせてる呪文」みたいな感じに言う。
その姿が「心」にめり込む様に脳内に一瞬で焼き付けられ、
なんだか可笑しくなってしまう・・・。
ふふっと笑う私に、尚にいは・・・。
「なんかお前・・・。大人っぽくなったな・・・。」
臆面もなく言い出すからびっくりした。
「何を突然・・・!」思わず慌てた・・・。
褒められた気がして嬉しかったのか恥ずかしかったのか・・・。
プッと笑いだす尚にい。
「うそだよ~!」
「・・・ハアー?!」思わずキレた私。
「大人なんて今はならなくていいんだろうな。きっと・・・。
いつか、お前が大人になった時にまた考えてみるか・・・。」
ボソッと聞こえよがしに言うからタチが悪い・・・。
代わりにでもしてしまいたいのか?と思うけれども
私としては「代わり」でもなんでも構わない気持ちだった。
少しでも「振り向いて見てくれるなら・・・。」
そんな事ばかり考えてしまう私ら「子供」は、
その時だけは「もう大人」なんじゃないかな・・・?
そう考えてしまう・・・。
というか、そう感じたい・・・。
田んぼの傍だったのでぬかるみにつるっと足を滑らせてしまう。
「おっと!」私の体を掴んで抱え上げる尚にい・・・。
「なんでだろう・・・。ドキドキする・・・。」
尚にいが照れた様に言う。
私も頷いて・・・。小さく「ありがとう・・・。」て返した。
会話としては成り立たないのに・・・。
変な空気になって・・・。今だけは「大人の時間」みたいで
境界線が曖昧になる・・・。
全てが曖昧になって・・・。
あの時貰ったアイスが溶けた様に・・・。
私と尚にいの「心」は「熱で溶けていた」。
そう思いたい気持ちが堪えきれない。
だって既に「私の心」は「これだけ」でもう
「溶けていくアイスの雫」みたいだった・・・。
「もう・・・子供扱いしない・・・。」
尚にいが何を考えてるのかがわからない筈なのに、
またしても頷いてしまう・・・。
子供だとか大人だとかもうそんなの「どうでもいいよ」。
どうでもいいと思えてきた・・・。
私から体を離した尚にいは「夜道・・・危ないから送ってく。」
照れながらそう私に言う「彼」、尚にいはいつの間にか・・・。
「大人びて見えた・・・」
真夏の暑い日、「暑くて熱い夜」の一瞬は二度と忘れない・・・。
「茜お姉ちゃん・・・。昨日引っ越したそうだよ?」
私が数日後に彼に告げた・・・。
一瞬動揺した様子を必死に隠そうとする尚にい・・・。
「そうか・・・。」
その彼の視線の先は・・・。何処に今度から向くのだろうか・・・。
続きはどうなるかなんて誰にもわからない・・・。
ただ、今は「わからなくていい」。そう思うよ私・・・。
真夏の風鈴の音が・・・。
2人の間に流れた「熱の余韻」を思い起こさせる・・・。
あんなに五月蠅かった「蝉の鳴き声」が・・・。
段々と遠ざかっていって、
「恋心」みたいな感情が「まるで無かったことの様に」
消えて霞んでいきそうで胸が苦しい・・・。
「私を見てほしい・・・。」
そんな身勝手な感情が薄汚いものみたいで
言わずに黙って・・・。
心の中からも消し去ってしまいたくなっていた。
涙が零れ落ちそうになり、尚にいの顔が見れない・・・。
いや、「見えない」・・・。
「子供なのに子供じゃない。でも、大人でもない。」
何処までもゴールがない道のりを走っているみたいな。
気持ちだけが最優先されるが如く、「熱いもの」が、
まるで「情熱」の様なものがぐるぐると体中を
駆け巡り、悲しいのか情けないのか・・・。
そんな「感情」ですら「大事なもの」みたいで、
打ちひしがれているのか下向いてうな垂れて
縁側に座る「彼」の姿をただ見ているだけでも
心が砕けそうなのに・・・。
それさえも「愛おしい」と思った。
何年経ってもけして忘れない「夏の記憶」は・・・。
私が大人になっても「消えないよ・・・。」て
呟きたい衝動を必死で堪えて我慢する・・・。
あの日の夜の暗闇で見た「憂いを帯びた横顔」とか
今現在見ている「情けない後ろ姿」とか・・・。
ずっと残るんだろうな・・・。
「記憶」として・・・・・・・・。
「恋心」という名の「心の記録」を誰しもが
時々忘れたり霞んだりしていても・・・。
消えることだけは「ない」んだよ・・・。
もう少し掘り下げて描写できたら良かったのですが、
どうにもこの話は「生々しく」するのが嫌だったので
「そのままで」スルーみたいな・・・。
でも夏の余韻としては永遠に残る記憶・・・。
そんな感じで終えました。
自分の中の「こだわり」が、ふいに出てきて、
手が止まらなくなり、脳内で思い起こした「情景」や
「心情」を更に細かく(ややくどくなりましたが)
書き足しました・・・。