プロポーズ
沙耶は慌てて三山に連絡したものの、今日は平日。
平日休みの沙耶とは違い、三山は仕事中だった。
結局、ようやく二人で会えたのは夕刻をすぎ、街の街灯がついてからだった。
今、二人がいる場所は、三山が行きつけのしゃれた洋風レストランだ。
三山がデートのために無理を言って席を取ってもらったようだ。
「ははっ、沙耶さんに呼び出されるなんて初めてだな。」
急な呼び出しにも限らず、三山はいつも通りの人好きのする笑顔を浮かべていた。
しかし、その目に急に真剣さが宿り、真面目な表情になって言葉をつむぎだす。
「でも、ちょうど私も用があったからちょうど良かった。」
急な呼び出しにもかかわらず、こんなレストランまで用意してもらって、恐縮していた沙耶は三山の言葉に聞き返す。
「えっ!何ですか?」
「君も用があるのだろう?君から先でいいよ。」
「いえ、三山さんからで!」
二人で譲り合いを繰り返した結果、先に三山が話しだす。
「じゃあ、私から言わせてもらおうかな。君に受け取って欲しいプレゼントがあるんだ。これなんだけど。」
三山は言いながら指輪ケースを取り出した。
沙耶の目の前でケースを開け、中の指輪を見せる。
沙耶は動揺するばかりだ。
さすがに、その意味は鈍感な沙耶でもわかったようだ。
「えっ!これって…。」
「そう、僕と今すぐでなくていいんだ。結婚して欲しい。そのための婚約指輪だよ。」
三山は相変わらず真剣な表情を浮かべていた。
「そ、そんな!!受け取れません!実は、私、三山さんとのお付き合いをお断りするために呼んだんです!」
沙耶は慌てながらも、きちんと自分の意思を伝えた。
それに対して、三山は落ち着いている。
そして、またいつもの笑顔を浮かべて話し出す。
「ははっ、やっぱり、そうだったのか。」
「えっ!分かってたんですか!?」
沙耶は驚くばかりだった。
「だって、君と彼の間には私の入る隙なんてなかっただろう?ただ、ちょっとかけてみたんだ。君はどうやら自分の気持ちに気づいていないようだったからね?」
最後に三山は軽くウィンクして、いたずらの失敗した少年のように言った。
「うっ!すみません!」
「ははっ、謝るのは僕のほうだよ。早く、彼のところに行ってあげたらどうかな?」
「はい、本当にすみませんでした!!」
沙耶は三山に言われて席を立った。
さらに、レストランの外へと駆けていく。
しばらくの間、三山は沙耶の駆けていった後を見つめていた。
そして、誰に言うでもなく語りだす。
「本当は二人が羨ましかったんだ。」
その瞳は寂しげに揺れている。
三山は仕事人間で過ごしてきたため、まともな友人がいないのだ。
「でも、上手く隙をつけないかと思ったのも本音なんだ。」
そう言って、三山はワイングラスに手を伸ばした。
「彼と彼女の未来に乾杯。」
三山のワイングラスと飲まれる相手を失ったワイングラスがぶつかり小さな音を響かせた。




