8.「最強魔王様の使者ですか?」
「だれでちゅ……。ですか?」
盛大にかんだ。
これは第一印象最悪だな。面接だったら死にたくなる。まあ、実際には今のほうが死ぬ可能性が高いのだが。
「ハーデス様の部下にしてメイド総括のゴストです。以後お見知りおきを」
ハーデス……。この世界でダンジョンが一番でかいっていう。何をしに来たのだろうか。初心者狩りだろうか。
「一体何用でしょうか」
「本日はハーデス様のグループに入っていただけないかとご相談に参りました」
「同盟ということでしょうか?」
「まあ、だいたいそういうことです」
同盟か。よくわからなくなってきたな。ダンジョントレジャーよこせとかのほうが、まだ理由としてはしっくりくるが……。
まあ、そうではなくて良かったとは思うが。
「なぜ、私のような弱い魔王のもとに来たのでしょうか」
「それも含めて今からご説明させていただきます」
それからゴストと名乗る紳士――今のところの印象だが――の説明が始まった。
概要はこうだ。
まず、こっちのメリット。
・ハーデスの名前を出せばある程度の冒険者避けになる。
・グループに入った感謝金とやらで毎月10000金貨をくれる。グループに貢献があった場合追加報酬あり。
・ハーデス様のダンジョンでは使い切れないアイテムなどをくれることもある。
・ハーデス様側からある程度の情報提供がある。
・グループはいつでも抜けられる。ただし、抜けたあとお互いに一年間は関与しない。
で、こっちのデメリット。
・ハーデス様の傘下にあるダンジョンを襲わない。
・他勢力どの抗争になったときに先頭には参加しなくとも構わないが、相手側にはつかない。
・ダンジョントレジャーの情報提供。
・定期的なダンジョン主の能力情報提供。
・半年に一度の会議には絶対参加。
こんなところだ。正直他勢力がいるとかいろいろと初耳だが、悪い話ではないかもしれない。
特に10000金貨が、一番大きいかもしれない。そんだけあればだいぶダンジョンも大きくなるし、新しい卵も買えるかもしれない。だが……。
「お断りします」
「へ?」
紳士が初めて顔を崩した。なぜですか、と顔で訴えてくる。それはもちろん。デメリットの最後のやつだよ。
「理由ですが、私は外に出れないため半年に一度の会議にでれません」
「あぁ、なるほど。ダンジョンが心配ですか? 大丈夫ですよ。会議時にはハーデス様より部下を各ダンジョンに送られますし、ワープでのお向かいにも参りますので」
「つまり、外には出ないということですか!」
「はい、お手数はとらせません」
「入ります。いや、入らせてください」
そんなに手厚いとはおもわなかったぜ。まさか会議を外でやるわけじゃないだろうしな。そうと決まったらこんないい条件はない。いつでもやめられるというのも素晴らしい。
「ありがとうございます。それでは、さっそくお近づきのあかしに金貨10000枚と、こちら経験値のポーション2本です」
「おぉ、ありがとうございます」
これが金貨10000枚の重さ……。
こんな量の金を各ダンジョンに配れるハーデス様、世界一位の名は伊達じゃないな。
「ポロン。1本ポーション飲むか?」
「え! そんなわけにはいかないですよ。両方とも魔王様が飲んでください!」
「俺は部下であるお前と一緒に飲みたいのだが」
「ありがとうございます……!」
今までは固まっていたポルンは突然の提案に涙目になりながら喜んでいる。スライムだから涙目のように見えるという感じだが。
「では」
「はい!」
――――ゴクッ。
何とも言えない味だ。だがこれだけは言える、今まで食べてきたりんごより数百倍も美味い。
――――ピロン。ピロン。ピロン。
〔レベルが3上がりました〕
おぉぉぉ。ホントにレベルが上がった。しかも、あれだけ敵をぶっ殺しても全然上がらなかったレベルが上がったぞ。
「ポルンお前はいくつ上がったか? 俺は3上がったぞ」
「はい、魔王様! 僕は7上がりました!」
同じ経験値のはずなのに、なんでこんなに差がつくのですか。おかしくないですか。
「そういえばゴストさんは今何レベルなんですか?」
「へ? あぁ、私ですか。そうですね。立場上詳しいことは言えないので……」
俺たちの会話を呆然と聞いていたゴストさんに突然のポロンが話しかけた。
「では……。感じ取ってもらいましょう」
「『絶望のオーラ』レベル30」
ゴストさんの指先から黒い、漆黒の小さな球が出される。その黒い球はやがて、ポルンの体に入り込み俺の体にも入り込む……。
「ん? 特に何もなんないが……」
そう言いながら、隣を見るとポルンは気絶していた。
「おや? マルファス様には影響がないようですね。普通は気絶するレベルのオーラだったのですが」
「すいません。ポロンを直してくれませんか?」
「あぁ、すいません。『ヒール』」
ゴストが魔法をかけると、すぐにポルンは回復した。何が起きたのか分からない、といった表情をしている。
「それでは、私はこれでそろそろ返らせて頂きます」
「え? 能力の情報提供とかはいいのですか?」
「申し訳ございません。勝手に見させていただきました。それでは詳しい情報はまた後日ということで」
それだけいうとゴストさんはものすごい速さで階段を登り何処かへ行ってしまったのであった。
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