12.「最強魔王の最終審査」
「兄弟だった……のか?」
「はい、ゴメスは私の兄でございます」
「まさかマルファス様のもとにいるとはな、我が弟よ」
二人は親しげに話している。俺はこの世界のことをまだ全くといえるほど知らないが、世界は狭いな。
「おっと、少し無駄話が過ぎましたね。今回はグループ入りおめでとうございます。私が無理を言ったこともありすぐに決まってしまいました」
「そうですか……」
嬉しくないぞ。だって、あなたハードル上げてるでしょ。
「まあ、それでハーデス様が直接お会いしたいとのことですのでお迎えに参りました」
「それは行かなくてはならないものですかね」
「私は行くことをオススメします」
行きたくない。
外に出る必要はないとは思うがこのダンジョンから離れたくない。
それに、最も怖いのは失望されてポイされることだ。殺されはしないとは思うけど……。
それでも行かなかった場合が怖すぎる。
「行きます」
「承知致しました。それでは行きましょう」
「まさか外には出ないですよね」
「あぁ、それは大丈夫です。メゴスがてレポート使えますから」
「そうか、メゴス頼む」
「了解致しました。では、1分ほどお待ちください」
テレポートは、どこにも行けるものなのだろうか。
「マルファス様、これから私が言うことはゴメスとしてではなく、貴方の推薦人としてのアドバイスです。心して聞いてください」
「は……はい」
「これからは最終審査になります。必ず思ったことの反対のことを口にしてください。どんなことでもです」
どんなことでもですか。
魔王がハゲだったらふっさふっさですねとか、強そうでも弱そうだとか……。
そんなことを考えていると、どうやらメゴスの準備が終わったらしくあたりが光に包まれた……。
★☆★☆★
「マルファス様、私はここでお待ちしていますので。それと、ここに来たのは私とマルファス様とメゴスだけですので」
「テレポートご苦労、メゴス」
「この扉の奥にハーデス様がいらっしゃいますので、中にはすでにゴメスが入っております」
――立派な扉だ。軽く8メートルはあるかと思われるその高さ。幅10メートル。すべての場所に装飾が飾られとても美しい。
デカすぎる気もしなくはないが、ほんとに動くのかこれ。
――――ギィぃぃぃぃ。
取りあえず、全力で押してみると意外にもあっさり開いた。
部屋の中はとても広い。まさに、ラスボスのいる部屋といったところだろうか。
「ようこそ、マルファス」
圧巻。
凄すぎる。
そんな言葉が第一印象だ。結果から言ってしまうとハーデスはドラゴンだった。
全身黒。だが汚い黒ではない、美しい黒だ。なんて言えばいいのだろうか、このときばかりは己の表現力の低さを呪った。
「おっと、この姿では話しづらいか……」
――――ポンッ。
「これならいいだろう。それでは推薦人進行を頼む」
「はい、承知致しました」
姿がドラゴンから、人になった。人といってもまだところどころウロコが残っているし、爪などの細部はそのままだ。
おいおい、余計に怖くなったぞ。
「こいつがゴメスの推薦した魔王かぁ? 弱そうにしか見えねえけどな」
「ある意味当たり前だな、彼はまだ魔王になって7日もたっていないのだから」
今まではドラゴンに気を取られていたが、周りにはたくさんの魔王がいた。人型のものもいれば、スライムやマーメイドのような奴もいる。
「ご静粛にお願いします。さて、これからマルファス様の最終審査、そして私のプレゼンテーションをさせていただきます」
――――拍手が上がる。
全く、俺がグループ入りを果たしたといったのは嘘だったのか。
「今回、非常事態のためこのような方法を取らせていただきます。まず、このマルファス様のグループ入りを反対された方々、代表ヨトハ様よろしくお願いします」
「はい」
男が暗闇から出てくる。
見た感じだが、ヴァンパイアっぽい。
それにしても反対ってなんだよ。
そりゃまあ、自分達はしっかりとした審査通ってるのにいきなりグループ入りした奴がいたら反対したくなるのは分かるけどさ。
「反対派代表ヨトハです。まず、私たちはマルファス氏がグループ入りすること自体は反対する気はありません。しかし、行程を飛ばすとなると話は別です。このタイミングでのグループ入りは暗にナンバー2の方の席に将来的に座ることになるということです。そこで私たちはマルファス氏の現段階の実力を見たいと思い、意義を申し立てました」
「ありがとうございます。それではマルファス様この異議申し立てに質問はありますか」
「はい」
ゴトスが、目で質問をして下さいと訴えている……気がした。
確か、思ったことの逆を言うんだっけか。
「質問をさせていただきます。俺はナンバー2の席に座りたいのです。そして、俺はこの部屋にいる誰よりも強い。証明してみせましょう」
意訳⇒俺はナンバー2の席に座りたく有りません。俺はこの部屋で一番弱いです。見たらわかるので証明する必要はないですよね。
「なんだと!」
「調子に乗るなよ新人が!」
次々と罵声が飛んでくる。ゴストさん、これ本当に大丈夫なんですかね。
「皆様、ご静粛に願います。それでは、マルファス様が強いという証明ですが私から提案をさせていただきます」
おぉぉぉぉ。
流石ゴウスさん、次なる一手があるのですね!
「ハーデス様が今出せる最も強い魔物と戦っていただくというのはどうでしょう」
え……。
今なんて言いました。
俺はまだスライムぐらいしか戦闘経験ないのですが、それは。
「異議はないようですね……。ハーデス様よろしくお願いします」
「わかった、魔物をだそう」
ハーデスがそういった瞬間魔法陣が出現する。
『ピギャャャャャャ』
新たに出現した魔物。
鼓膜が破れるかと思うほどの爆音。
一瞬だった。
狼人間だろうか。
そんなことを考える暇があったのが奇跡だったのかもしれない。
気づいたときには俺はそいつに心臓をえぐり取られていた。
あぁ、俺は死ぬのかな。
でも、いい人生だったのかもしれない。5人の仲間もでき、5日だけだがいい時間をすごせた。これで満足なのかもしれない。
「やっぱり、大したことないじゃないか。ホラを吹いた裁きだ。こいつの仲間は皆殺しだな……」
だんだん声が遠のいていく、この声は間違いなく反対派の代表ヨトハのものだ。
――――仲間を殺す。
その言葉は俺の頭の中で死ぬまでぐるぐると反響して、その意味を理解しようとせずまま俺は完全に死んだ。
『う~ん、ちょっと速すぎるんじゃない?』
お前は…………。
次回で、この章は最終話となります。
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