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クライシスゲーム ~引きこもりが世界を救うキセキ~  作者: 若雛 ケイ
一章 引きこもりのお兄ちゃん、出撃ス
20/50

1-12.不登校

 ――フェーズ2――

 ――ターン1 フォア――

 カイト:6 ゲームを制する者:6


 相手は俺達の読み通り、マイティを使ってきた。

 俺は思わずガッツポーズ。

 麻莉亜は大きく一息ついて、力を抜いているようだった。

 相手の尾ノ崎は計算が狂ったのか、かなり悔しがっているようだ。


 ざまぁねぇ。

 出来もしない芝居なんか打つから墓穴を掘ったんだ。

 あんな芝居がなければ、麻莉亜だって自信を持って決断できなかっただろう。


 これで命はギリギリ繋げたが、まだ勝負は決まったわけではない。

 俺は気をしっかり引き締め、これから来る最終局面へと備える。

 

 今回はフォア、相手の構えからだ。

 幾分こちらの攻めも楽になるだろう。


=====

カイト:6

拳8、弓11、無形

強撃、クライシス


ゲームを制する者:6

拳24、弓5、無形

クライシス、(特攻)

=====


「相手は無形かそれにクライシスを付ける手しかありませんね。それ以外の手を出せばこちらが無形クライシスを後出して勝ちが確定します。今までの様子から察するに、そんな馬鹿なことはしてこないでしょう。状況は五分です。実質この回で決着がつきます。慎重にいきましょう」

「…………」


 正直この回で決着がつくとまでは読めていなかったので、一生懸命考えてみる。

 一応麻莉亜の補足をもらいながら考えたが、納得した。


 相手の無形に対してこっちも無形を使った場合、勝負が次の回にもつれ込み、この回で相手がクライシスを使っていた場合は俺達の勝ち、クライシスを温存していたら俺達の負けが決まる。

 なので、相手が無形のみでクライシスを使ってこなかった場合は、この回でこっちが拳ないし弓で確実にトドメを刺さなければならない。

 つまり、この回で相手がクライシスを使っているか使っていないかを読み当て、それが外れたら負けという状態になっている。


 再び相手の様子からヒントが得られないか、相手の様子を探ってみた。

 相手もかなり頭を悩ませている様子だ。

 でも、結局相手が決める手は二者択一。

 無形のみか、無形にクライシスを付けるか、だ。


 今は相手が選択しないとこちらが手を選ぶことができないので、こっちの持ち時間は一切減らない。

 相手はまだ持ち時間も予備時間も十分残っているので、この局面で時間をたっぷり使ってくるだろう。

 相手は操作をしないままかなりの時間を置いた後、不意にこっちに話しかけてきた。


「おかしいとは思ってたんだが、そういうことだったのか……」

「何……?」


 何か勝手に喋り始めたけれども、これはチャンスだ。

 これでまたボロを出してくれるかもしれない。

 麻莉亜も相手の言動には注意を払っているようだし、なるべく喋らせてみる方向で頑張ってみようと思う。


「七原、お前不正してるだろ? 奈良野先生から『七原海人はエボルとは一切関係ない』という説明を受けたが、あれは嘘なんだな?」

「…………」

「よく考えてみれば、それはそうだ。エボルの仲間ですなんて言うはずがない。お前はエボルと繋がっていて、このゲームには負けないようになっているんだ! そうでなければ私の手がここまで読まれている説明がつかない!!」

「何を言い出すかと思えば……くだんね。自分が死ぬ可能性が出てきたら、途端に言いがかりか? 馬鹿馬鹿しい。いいから早くさっきみたいに宣言してみせろよ、クライシスを付けるのか、付けないのか」


 そう言って相手を挑発してみる。


「ほらみろ!! これは不正だ!! お前には私の出す手が見えているんだろ!? こんな試合受けてられるか!! 試合を終わらせろ!!」

「……麻莉亜、どう見る?」

「……馬鹿としか見えませんね」


 同感だ。

 尾ノ崎はとにかく「試合は終わりだ」と叫びまくるが、こっちは無視。

 というか、不正でない証拠なんて出せるはずもないし、そんなこと勝手に叫ばれても相手にしようがない。

 不正でも何でもいいから、試合を終わらせることができるのであれば俺だってそうしたい。

 まだ俺だって死ぬ恐れがある訳だし、勝ったとしても人殺しはゴメンだ。

 何とか話を長引かせて墓穴掘らせようとしたが、相手が馬鹿すぎて無理だった。


 ずっと無視していると、いくら叫んでもどうしよもないことに気がついたのか、今度は切り口を変えてきた。


「不幸を振りまく人間って、いるんだよなぁ……。その人と仲良くなると突然川で溺れて死んだり、交通事故にあったり、不良に絡まれたりしてさ。その人に親身になって相談にのると、突然懲戒解雇を貰ったり。七原……心当たりないか?」

「…………」

「一方で、勉強もできないクズの当人はそんなの関係なしに、今日も楽しく友達と笑ったり、妹の前でカッコつけてみたり、綺麗な女性の隣でゲームしていたり。挙句の果てには世界を恐怖に陥れるようなロボットを世に放ったり、好き放題している。それって不平等だと思わないか? 桂木という名前だったかなぁ……川で溺れて死んだ生徒。あいつは頭良かったなぁ……若くして可哀想に。諸積先生は熱心で良い先生だったなぁ……。何で学校辞めることになっちゃったのかなぁ……」

「……何が言いたい?」

「分からないかなぁ……お前みたいな出来損ないのクズは死んで当然だって言ってんだよ!!」


 突然尾ノ崎が口調を変えて俺にそう言い放った。

 授業ではどんなに生徒に騒がれても怒らないし、オロオロ困ったような感じになる奴だったのに、こんな表情と口調が出来るんだなと、何だか感心してしまった。


 めんどくせぇ。

 それはもう終わったこと、今更どうでもいい。

 全部考えないことにしてんだ。

 ビバ! 現実逃避!!

 俺にそんな揺さぶりは効かない。

 こいつの今の話は、単に相手が焦っているってのが丸わかりになっただけだ。


「世間ではお前を恨む声が上がっているなぁ。無責任な七原研究所には非難轟々だ。エボル出現の責任は誰が取るんだ? 世の中がこんなに混乱したことの責任を誰が取るんだ? あぁ? 七原ぁ!!」

「…………」

「お前だよお・ま・え!! お前は今ここで死んで責任を取るんだよ!! 何のうのうと遊んでやがんだ疫病神!! さっさと死んで諸積先生に、桂木に、世間に詫びを入れろっつってんだよ!!」


 顔を真っ赤にして怒鳴り散らす尾ノ崎。

 その勢いはゲームが終わる前に血管破裂でそのまま死にそうな程だ。

 色々胸にグサグサ来たんだが、俺には関係ないと首をブンブン振って何も考えないようにした。

 またあいつの作戦だ。

 こんなことで動揺させられてたまるか。


 そうしていると、麻莉亜が俺の前にスッと手を出して俺を制止させ、尾ノ崎と対峙するように前に出た。


「海人さんを侮辱することは、断じて許しません。訂正してください」

「麻莉亜……」


 っつーかお前ジョークであってもいっつも俺を侮辱してんじゃねぇーか!!

 一瞬「きゃ! 頼もしい!」とか思っちゃっただろ!!


「あぁ……? さっきから誰だいお前さん? 七原の知り合いなのか?」

「私は海人さんの姉です。一連の話を全て訂正して下さい。海人さんがその言葉を許しても、私が断じて許しません。訂正してください」


 ……許すっつか、無視なんだけどな。


「姉……? だったら知ってるだろうが!! 七原が人を死に追いやったことも、教師を解雇に追いやって人生狂わせたことも、七原製のエボルが世の中を混乱させていることも全部知っているだろう!! 知らないとは言わせないぞ!」

「海人さんはエボル開発とは一切関係ありません。もちろん、私もです。七原研究所の情報は一切持ちあわせていませんので。海人さんの友人の桂木さんは事故だと聞いています。退職された諸積という教師は、女性の下着を盗んだ為解雇処分を受けたと聞いています。海人さんは何ら関係はありません」


「諸積先生は七原の味方をしていたな? 桂木も七原と一番親しくしていた友人だったと記憶しているが?」

「そう私も聞いています。だから海人さんは誰よりも事件を悲しんだことでしょう。ただ海人さんは事故を起こす疫病神ではありません。恐らく黒波空吾がけしかけたことでしょう。彼は七原重蔵の息子である海人さんを無条件に敵視しています。事件の多くは海人さんの味方を潰すことに躍起になった黒波空吾の仕業と見て間違いないでしょう」


「それが疫病神だっつってんのが分からないんですかぁ!? 七原のせいでどんどん人が不幸になって、果てには命を落とす人間が現実に出ているんだよ!!」

「理解不能です。責められるべきは事故を起こしたなら不注意を犯した本人、犯人がけしかけたことなら犯人です」

「黒波を挑発したのは七原だろうが!! 黒波を怒らせ、理事長を――っ!!」


 そこまで言うと、尾ノ崎ははっとなったような顔して口を紡いだ。

 やはりか。

 麻莉亜も同じことを思ったに違いない。


「やはり理事長が黒波と繋がっていましたか。それでは、海人さんの肩を持つわけにもいけませんね。黒波を野放しにしている訳です。もちろん、海人さんは黒波を無駄に挑発するような人間ではありません。私が保証致します」


 一応噂にはなっていたんだよな。

 学校の理事を務める人間が立尾から来ているとか、立尾に多額の援助金を貰っているだとか。

 学校側は否定していたし、黒波も「そんなわけない」と言っていたんだが、尾ノ崎は知っていたか。

 教師の面々も黒波には弱いところが若干あったしな。


 俺も理事に会ったことがあるのだが、その理事長の俺を見る目は他の人が見る「こいつが七原かぁ」という感じと若干違って「こいつが七原か!」という感じで、敵意があったような印象を受けた。

 その時はどうでもいいと思ってすぐに忘れたのだが、立尾の関係者だというなら理由は今はっきりした。


「その理事長が噛んでいる為黒波を誰も止めることができず、不幸になる人も止められなかったと、そういうことですね。それを海人さんのせいにしているとは、勘違いも甚だしいです。そのせいで海人さんは自ら学校へ行くことを止めました。海人さんは優しく、人望もある方でした。味方をしてくれる人も多かったはずです。ですが、自分のせいで不幸な人が出てくるのが耐えられなかったのでしょう。自分の味方をしてくれる人が不幸な目に合うのが、耐えられなかったのでしょう」


 俺はもういいからと麻莉亜の腕を引っ張るが、珍しく麻莉亜もキレているらしく、いくら止めようとしても興奮した様子で話を続けていった。

 正直、もうあんまり考えたくない所なんだ。

 全てを宇宙の彼方に追いやって現実逃避したいんだよ。


「海人さんは自ら関係を絶つことで、その不幸を止めました。それが海人さんにとってどれだけ辛い決断だったか、あなたには分かりますか? 部屋で1人泣いていた海人さんの辛さがあなたには分かりますか? それでも誰のせいにもせず、黒波空吾すら責めない海人さんの優しさがあなたには分かりますか? 海人さんがのうのうと遊んでいる? のうのうと遊んでいるのはあなた方教員の間違いではないですか? 本来なら学校が責任を持って事故や事件の原因を解明し、説明し、適切な人間に処分を下すところです。権力に屈して守るべき生徒を見捨てたあなた方教師が責められることはあっても、海人さんが責められる筋合いは一切ありません」


 結局、麻莉亜は俺の制止も振り切って全て話し終えてしまった。

 でも、俺の不登校に関して麻莉亜が思っていることを初めて聞いた。

 俺も愚痴のように麻莉亜に事情を話したことはあったんだが、麻莉亜はただただそれを聞いてくれるだけだったんだが、こんな風に思っていたとは。


 初めて聞いて分かったが、麻莉亜は随分と俺を過大評価しているみたいだぞ。

 マジでそうだったら俺は聖人もいいところだろ。

 俺に夢を見すぎるな。

 学校に行かないのは、そっちの方が楽だから。

 別に辛い決断をしたという訳ではなく、行く気がなくなっただけだ。

 黒波を責めないのは、責めても何も起こらないから。

 一応蓮華の兄貴っつーのもある訳だしな。


 結局俺は、悪いやつを懲らしめる勇気もなければ、小夏のようにそれでも頑張っていく気力もないし、全てから逃げて全てを麻莉亜に任せているクズだぞ。

 まぁ、俺がいなくなれば全て丸く収まると思って身を引いた……というのが引きこもり始めた最大の理由なのは事実だけどな。

 結局引きこもりは快適だと分かって今までずっとそうしてきたんだから、それもどうでもいい。

 ただの言い訳にしかならねぇだろ。


 でも、麻莉亜が少しでもそう思ってくれているって知れて、何だか嬉しい。

 さすが、俺の理解者だ。

 せっかく熱く俺を擁護してくれているのだから、真意は黙っておこう。


 ちなみに、死んだ桂木は黒波関係なく本当に事故だって聞いた。

 マジで黒波が殺したんだったら、そればっかりは本気で許せない。

 諸積先生の件は黒波が動いているような話も聞いたが、ああ見えて本物の変態だったかもしれないし。

 結局のところどれも闇に葬られているから、真相は分からないんだよ。


「私はそんな海人さんを知っているから……そんな学校の対応を知っているから、これからも海人さんには無理して学校へ行って欲しいとは思いません。あなた方のような教員に、海人さんを任せることはできません。私が、海人さんを守ります」

「麻莉亜……」


 これほどまでに麻莉亜を頼もしいと思ったことはない。

 いや、今までもずっと頼もしいとは思っていたのだが、それがこの場面でその思いが溢れかえった感じがした。

 本当に……本当に麻莉亜がいてくれて良かった。

 いつも俺の傍にいてくれて、俺を理解してくれて、俺を助けてくれて……本当にありがとうな、麻莉亜。


 麻莉亜は更に「訂正して下さい」と続けたが、尾ノ崎はその熱弁を屁とも思っていないようだった。


「エボルを生み出し、世界を混乱に陥れた家族の姉弟が何を偉そうにほざいているか!」


 お前はそのエボルを崇拝してただろーが!


「お前らは敵!! 人類の敵!! 今ここで死ぬべきなんだ!! 私が今ここで葬り去ってやる!! そうすれば私は人類を救った英雄だ!!」

「あなたには何を言っても無駄なことが分かりました。海人さんを侮辱した罪、ゲームのルールに則り、死をもって償っていただきます」


 麻莉亜と尾ノ崎は、互いにそう言うと鋭い目つきで睨み合う。

 しばらく無言の睨み合いが続いた後、両者共にパネルの方に戻っていった。


「……なんかすまんな。俺が買った喧嘩なのに、麻莉亜を巻き込んじまって」

「いいえ、私はあの男を許しません」

「でもお前だっていつも俺を侮辱してんだろうが……ったく、よくもあんなことが言えたもんだ」

「私の言葉は愛情表現です。海人さんはそう言われるのが好きなドMだと思っていましたが、違いましたか?」

「……そうです。ドMです」

「そういうことです。それに、家族を侮辱されたら誰だって怒ります」


 その気持ちは分かる。

 俺の家族は侮辱されるような奴が俺以外いなかったけれども、俺だって麻莉亜を馬鹿にされたらブチキレるわ。

 そんなこと今まで一度たりともなかったけれども。


「さて、俺が死ぬかあいつが死ぬか、最後の勝負だ」

「無論、相手が死にます。海人さんが負けるはずもありません」


 話もそこそこに、俺も麻莉亜も戦闘に戻る。

 麻莉亜は冷静な感じで俺と話していたが、相当頭にきているみたいだ。

 相手を睨むように見ている。


 その尾ノ崎も興奮を抑えきれない様子でパネルを操作していた。

 話を終えて割と早く決まった相手の手は……無形だ。

 そこにクライシスがついているかは当然分からない。


「はーっはっはっは!! さぁ、無形だ。クライシスはついているかな? それともついていないかな? 読み間違えたら死ぬぞ!? 死んじまうぞ~?」

「無視しましょう。相手は9割以上の確率でクライシスを付けています。こちらが何を出すかは……すみません、海人さんにお任せします」

「冷静だな。何で分かる?」

「相手は興奮し、攻撃的になっています。クライシスが手元に残っているのにも関わらず、冷静に無形だけを出せる状態にはないと読みます。先に無形だけを出すのは好きなだけ殴って下さいと言っているようなもの。今の相手が冷静にそれを選択できるとは思えません」

「……よし、分かった。俺はいつだってお前を信じる」

「それは私も同じです。海人さんは私の命に代えても守ります」


 俺と麻莉亜は互いに頷く。

 手は決まった。

 こっちも無形。

 クライシスは付けない。

 さぁ、運命の勝負だ!!


 選択を終えると、俺の擬戦体、弓兵の格好をしたゴミクズは無形の形を取った。

 相手はそれをしっかり確認しているようだった。


「いっけぇーーーー!!!!」


==========

カイト

HP:6

無形

【なし】

引き分け


ゲームを制する者

HP:6

無形

【クライシス】

引き分け

==========



 ――ターン1 リア――

 カイト:6 ゲームを制する者:6


 「っしゃあ!!」


 バシン!!


 思わず麻莉亜と力強くハイタッチ。

 麻莉亜の予想は見事に的中し、相手はクライシスを使ってきた。

 これでこの回で拳とクライシスを出せば、相手が何を出しても勝ち確定だ。


=====

カイト:6

剣8、拳8、弓11

強撃、クライシス


ゲームを制する者:6

拳24、弓5、弓5

(クライシス)、(特攻)

=====


「ば……馬鹿な……」


 相手は鳩が豆鉄砲くらったような顔して、ガクガクと震えていた。


「い、いやまだだ!! まだ私の勝ちはある! まだ勝負は終わってないんだ!!」

「終わってんだよ。俺が拳とクライシスを出せば、あんたは何を出しても負けだ。あんたがゲームの実習プログラムを作った人間なら、それくらい分かるんだろ? もう諦めろ。お前が殺したみんなが味わった恐怖、小春が味わった絶望を十分に味わえ!!」

「いやだ……いやだぁーーー!! 死にたくない、死にたくないぃっ!! 頼む……頼む!! 殺さないでくれ!! 頼む!! この通りだ!! 七原!! 七原様!!」


 尾ノ崎はパネルの前に出て土下座を始める。

 そして、トチ狂ったかのように何度も何度も頭を上下させてきた。


「……俺だって……別にあんたを殺したい訳じゃねぇよ。試合を放棄できるんなら、放棄したい。このゲームは間違ってる。でも、あんたはそれを知ってて何人もの人間を殺したんだろ!? そいつらが死ぬ前どんな思いだったか分かるだろ!?」

「分かる!! 分かるからこの通りだ!! もう二度とあんなことはしない!! 深く反省している!! だから今回だけは見逃してくれ!! 頼む!!」

「この調子だと、相手は時間切れまでこれを繰り返しますね。海人さんは耳をふさいで逆側を向いていて下さい。あんな下らない命乞いでも、海人さんなら心を動かされかねません」

「動かされねぇよ!! 第一負けたら死ぬんだ、いくら何でも勝ちを譲るようなことはしねぇ。現実では小春が待ってるんだ、小夏が怖い顔して待ってるんだ。そして、麻莉亜……お前もな」

「……はいっ!」


 俺がそういうと、麻莉亜はにっこりと微笑んでくれた。

 そしてゆっくりと拳とクライシスを選択し、相手の選択を待った。



 結局尾ノ崎は最後の最後まで頭を下げ続け、俺は時間切れによる勝利を収めた。

 その間ずっと尾ノ崎の命乞いを聞いていたのだが、麻莉亜の言うとおり少し可哀想かなとか思ってしまった。

 でも、その度に小春の泣き顔を思い出して「いやいやイカン」と思い直した。

 真剣勝負を俺に仕掛けてきたこいつが悪い。

 何人もの人を殺し、小春を恐怖のどん底に陥れたこいつが悪いんだ。


 だが、そういくら思っても非常にもどかしい後味の悪さが残ってしまうのだった。

 【Next】

 →外伝:リフレイン ――sight of Konatsu――


 【Tips】

 予備時間を使い果たした場合、どんな状況でも自動で負けになる

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