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クライシスゲーム ~引きこもりが世界を救うキセキ~  作者: 若雛 ケイ
一章 引きこもりのお兄ちゃん、出撃ス
18/50

1-10.後悔

 殺風景なVR空間にやってきた。

 レベル上げの時に何度もこの空間は経験しているので、さすがにもう慣れた。

 だが、さっきまでは平気だったのにここに来て俺の体はガクガクと震えていた。


 こんな形でゲームをやるとは思っていなかったので、俺もここにきて動揺しているのだろう。

 しかも相手は無機質なアンドロイドではなく、生身の人間だ。 

 隣に麻莉亜の姿はないし、レベル上げの時のようにはいかないと思うと、自然と体が震えてきた。


 レベル上げの時はほとんど麻莉亜の操り人形だったとは言え、俺も相当な数をこなしてきた。

 そうしているうちに自然と定石のようなものは身についてはいる……はずだ。

 麻莉亜の言う通り、少しでもレベル上げをしておいて良かったと心から思った。


 戦闘準備を含めて、持ち時間は1手に付き5分。

 それとは別に30分の予備時間がある。

 1手につき5分以上考えたら、そこからは予備時間が差し引かれていく形式になっている。


 レベル上げの時は全く時間なんて使わなかったのだが、今は思う存分使わせてもらおう。

 麻莉亜は恐らく30分もすれば到着してくれるだろう。

 小春の前であんな大見栄張っておいて結局麻莉亜頼みというのも情けないが、レベル差も有り、相性も悪い相手を前に、負けたら死ぬ戦いを自力で挑むのは無謀という他ない。

 相手も殺しにかかってきているんだ。

 ここは遠慮なく俺の最終兵器を使わせてもらうことにする。


 そういうことなんで、まずは戦闘準備の時間に元々ある5分に加えて予備時間も10分程度を使わせてもらおうと思う。

 あまり使いすぎると後々困ることになるので、少しは残しておかないといけいない。



 ――戦闘前準備――



==========

カイト

職業:弓兵

レベル:4

HP:33/33

剣:8 拳:8 弓:8+3

サポートデッキ(2):

・強撃

・クライシス

・博打

・弓見切り



ゲームを制する者

職業:格闘家

レベル:8

HP:26/38

剣:5 拳:18+6 弓:5

サポートデッキ(2):

・強撃

・クライシス

・同化

・拳見切り

・特攻

==========


 まずは相手のステータスの確認。

 見慣れないSSが見受けられるが、ヘルプを見れば安心だ。


『特攻:勝負手で負けても本来のダメージの半分が相手に入る』

『同化:使用した回自分のパラメータが相手と全く同じになる』


 大丈夫だ。

 あまり危険な感じではないスキルなので、しっかり頭に入れておけば対処はできるはず。

 同化は何度か見たことあったな。

 こっちのステータスの方が高い時はやっかいだが、相手より俺のほうがレベルが低いので問題にならないだろう。

 特攻も大したダメージが入らなので、これをもらったら死ぬというタイミングだけ気をつければいいと思う。


 っつーか、何だこの名前!?

 任意に変更できるのはいいにしても、『ゲームを制する者』ってなんだよ。

 ホント、いい年してしょうもない名前つけんな。


 あと、拳のステータスがやばいな。

 一極集中型か。

 レベルが近い場合は恐れることはないと麻莉亜は言ってたし、そもそもこれはマイティが弱くなるのでやめたほうが無難だと、レベルアップでステータスを振ろうとした時に言われた。

 でも、実際ここまで極端なのは初めて見る。

 ダメージ24って、一発食らったら瀕死だぞ。

 しかし、これも拳しかないのだからこっちは弓さえ変に出さなければ大丈夫……なはずだ。


 自分が持ち出すSSはクライシスと強撃。

 基本的にこれで何も問題ないはずだ。

 今まで麻莉亜と一緒に何回も戦ってきたんだ。

 この辺りでつまずくことはない。


 自分の持ち出すSSを決めると、俺は確認を放置してその場に腰を下ろした。

 相手も選択を終えていたようだったので、戦闘が始まらないことにおかしいと感じているようだ。


「サポートスキル持ち出しの選択をまだ終えてないようだが、どうした? 怖気づいたか?」

「…………」


 とりあえず、無視。


「時間切れは知っての通り負けになるぞ? 負ければ死ぬぞ? それとも動揺でも誘っているのか?」

「…………」

「まぁ、いい。この際だからいいことを教えてやろう。学校のクライシスゲーム実習プログラムを作ったのは、この私だ。もちろん、七原もそれを学んでいるだろうが、それが何を意味するか分かるか?」

「…………」


 はっはっは!

 残念だったな!!

 俺は学校行ってなかったんで、そんなの一切知らないんだよバーカ!!

 そして俺の師匠は貴様とは比べ物にならない程の切れ者なんだよ、この変態ロリコン野郎が!!


「私には七原の手が全て読めるということなのだよ! 学外でのゲームは禁止しているので、どの生徒も私の考えた手法しか知らない。真面目な奴ほど、私の教え通りに動いてくれるので楽だったよ。さて、七原は今まで勝ってきた手法を捨てて、私と勝負できるかな?」

「…………」


 真面目な生徒が狙われている理由はそれだったか。

 間違いない、こいつは臆病者のクソ野郎だ。

 こんな奴に負けちゃダメだ!!


「そうか、分かったぞ。お前は今、残りの人生の時間を楽しんでいるな? まぁ、後僅かなんだ。好きなだけ自分の人生を振り返っているがいい」

「……1つ聞かせろ。何故小春を狙った?」

「ほう。まだ喋る余裕はあるか。いいだろう、聞かせてやる。特別九条を狙うつもりはなかった。元々九条を手に掛けるつもりは全くなかったし、こうなることは予定外だった。たまたま九条に見られただけなんだよ。俺が生徒とゲームをしている所をな」


 たまたま……か。

 不審者には近づくなとは言われていたが、まさか小春の信用していた教師が犯人だとは夢にも思わなかっただろう。

 こいつは小春の信用を裏切ったんだ。

 許せん……許せんぞ!!

 段々と本気で殺意が湧いてきた。


「見られた時は九条もこのまま殺して経験値になってもらおうかと考えた。だが、俺にはそんなことはできなかった。九条だけは他の生徒と違う! 他の生徒は私を馬鹿にした、授業もまるで聞かない、テストの点が悪ければ温情をくれとセコいことを考えるクズばかりだ! でも、九条だけは違う! 私を1人の教師として尊敬してくれていた。一生懸命授業を聞いてくれていた。分からないことがあれば、おどおどしながらも聞きに来た! テストの点が良かった時は本当にいい笑顔をしていた。それを見るだけで、私の心が洗われていくようだった……。九条が喜んでいるのを見るだけで、教師をしていて良かったと心から思った! 九条は我が子も同然だ! そんな生徒を殺すことなどできるか!? そう思った私は、九条だけはなんとか殺さないでやろうと考えたのだよ」


 くそ……小春の奴、こんなクズ野郎にまで好かれてしまったのか……。

 その小春の天使っぷりが功を奏して、何とか殺されずには済んだという点は理解した。

 だが、その小春をこうして平気で裏切ったことは断じて許すことはできない!!


「そして、あんたはその小春を裏切った」

「裏切った? 私が九条の何を裏切ったというんだ? 九条は私に感謝していると言っていた。数学は苦手だったが、こんなに点が取れたのは初めてだと、私に報告してきたんだぞ。憧れの教師と共に一緒に過ごせることに、何の不満を感じるというのだ?」

「…………」


 勘違いも甚だしいな。

 呆れて物も言えない。

 もうこいつも二度と小春と話すこともできなくなるんだろうし、好き放題妄想させてやるか。


「エボルというアンドロイドは、なかなか興味深い世界を作ろうとしている。確かに、この世は非効率だ。人間の見られる能力は常に『うまいことを喋れるかどうか』だ。中身がなくともうまいことを話せれば能力が高いとみなされる。周りの評価も上がる。嘘や誤魔化しの効く詐欺師が優位に立つ世界だ。そんなのはおかしい。結果的に、まともな能力のないスッカラカンの無能だけがどんどん上り詰め、頭の悪いやり方でみんなを引っ張り、前に進んでいく。非常に非効率的だ。私はエボルの造る世界を見てみたい。中身をしっかりと評価し、出来る人間が上に立つ世界の中で過ごして行きたい。世界は本来ある姿に戻ろうとしているだけなんだ。そういう意味でエボルを発明した七原の親父さんには非常に感謝しているよ」

「……頭おかしいんじゃねぇのかこいつ……」


 突っ込みどころ満載過ぎる。

 こんなの、ただの出来損ないの愚痴だ。


「つまり、あんたは能力のない人間は死んでもいいと」

「そうは言ってない。確かに、その点に関しては若干エボルと私ではズレがあるかもしれない。だが、全面的にその部分を否定している訳ではない。喋ることだけが得意で、中身のない頭の悪いクソガキはいなくなった方が社会の為だ。そんな奴は社会を混乱に陥れるだけ、不要な存在だというのはエボルの言うとおりだと感じている」


 何このリア充コンプレックス。

 単に社交的な奴が自分とは合わないから嫌ってだけじゃねぇか。

 話にならんな。

 道理でしっかり自分を見てくれてる小春を気に入るわけだ。

 小春はどんなクズでも優しく接してくれるからな。

 自分が小春に認められたと勘違いして、嬉しくなっちまったんだろう。


「お前は私のことを人殺しと思っているだろうが、ゲームによる敗北は人殺しではない。単に能力が足りなかったというだけで、そういう人間に用意されているこの社会の末路がたまたま死だったというだけだ。死にたくないなら努力しろ。いい言葉じゃないか。そうは思わないか?」

「思わないなぁ。大体、能力能力ってさっきから何なんだ? 何の能力だ? ゲームに勝つ能力か? 人間はこのゲームに勝つために生まれてきたのか? そんなもんいらねぇだろ! スポーツができても勉強ができない奴は社会不適合者か? 優しくても馬鹿なら社会不適合者か? 馬鹿でも好きなことはあるんだよ。好きなことならいくらでも努力できるんだよ。それをたった1つの物差しだけで勝負させておいて、有能とか無能とか判断してんじゃねぇぞ! ふざけやがって! そんなに効率良く生きたいなら、どうせ人間いつか死ぬんだ、さっさと墓場にでも入ってろ!!」


 まぁ、俺は判断するまでもない程の社会不適合者だけどな!


「さすがは高校生。あの偉大な七原重蔵の息子とは思えない凄まじいまでの馬鹿さ加減だ。私は七原重蔵に憧れていたのだが、息子がここまで馬鹿と知って非常に残念だ。ならばさっさとサポートスキルの選択を済ませるといい。私を墓場に送りたいんだろ?」

「…………」


 残り時間を見てみる。

 既に予備時間が9分も削られていた。

 あまり長引かせて後々考える時間がなくなるのは困る。

 こんなクソみたいな奴、麻莉亜がいなくても俺の力で葬り去ってやる!!


「いいだろう。小春が味わった恐怖、何百倍にしても返してやんぞ!!」


 俺は意を決してSSの選択の確認オブジェクトを握りつぶしたのだった。



 ――ターン1 フォア――

 カイト:33 ゲームを制する者:26


 戦闘開始だ。

 隣を見れば俺の擬戦体であるゴミクズ。

 このゴミクズも弓兵という職に就いてからはいっちょ前に鎧のようなものを着てやがる。

 着ていると言うか、着させられているような感じだけど。


 相手の擬戦体は……ハゲ!!

 つるっぱげの髪の毛一本という情けない感じのハゲのちっこいおっさん!!

 お似合い過ぎるわ。


 ププッと笑った所で、ゆっくりと戦闘準備に入る。

 この勝負は相手から仕掛けてきたので俺はリアラ、相手の構えからとなる。

 相手はほぼ時間を使うことなく弓を構えてきた。


 ここは無難に拳でいいだろう。

 最初の方は定石通りでほぼ問題無いと、麻莉亜から指導を受けている。

 注意としては、ここで無闇にSSを使わないことだ。

 俺は強撃とクライシスを持ってきているので、手で勝てるこのターンでの強撃は有効。

 ただ、この強撃というSSはむしろ最後まで使わないほうがいい場合があると、麻莉亜から教えられた。


 このゲームのキーはSSのクライシス。

 クライシスを先に使わせたほうがほぼ勝てると、麻莉亜は言っていた。

 持ちだした2つのSSを温存し、何を選んだか分からないという状態を続けることによって、相手は『強撃があれば死ぬ』場面で、クライシスを使わざるを得なくなる。

 そうやってクライシスを使わせて勝つことが出来るゲームが多いと、百戦錬磨の麻莉亜先生は言っていた。

 つまり、先に強撃を出してしまうと『強撃はない』と読まれてしまい、クライシスの無駄遣いをしてくれなくなるのだ。


 だから、俺はこのターンでは強撃は使わず、単に拳だけを選んで待機した。

 ここでも予備時間5分くらいは使っていいだろう。

 麻莉亜が来れば勝てると信じて、麻莉亜を待つのが賢い選択だ。


「どうした? 陽動作戦か? 私はササキコジロウではないので、そんな作戦で動揺したりはしないぞ?」

「…………」


 無視だ、無視。

 とにかく今は麻莉亜が来るまで待ち続けることだ。

 時間はまだまだある。

 麻莉亜だって俺からのアシスト要請があれば、何を差し置いてでも駆けつけてくれるだろう。


 とにかく、慌てないことだ。

 最初の方はあまり響かない。

 あと一歩で死ぬかどうかって所からが本当の勝負なんだ。

 それまでには頼む……麻莉亜、来てくれ!!




 予備時間が残り15分になってしまった。

 その時間まで待っても麻莉亜はやってこなかった。

 俺はこれ以上待つのは危険だと判断して、ようやく確認のオブジェクトを握りつぶした。


 結果、相手は弓、俺は拳で俺の勝ち。

 麻莉亜が来るまで後どれくらい待てるか、色々と考えを巡らせながら次の回へと移っていった。


==========

カイト

HP:33

拳:8

【なし】

勝ち


ゲームを制する者

HP:26→18

弓:5

【なし】

負け:ダメージ8

==========



 ――ターン1 リア――

 カイト:33 ゲームを制する者:18


 相手は後2撃くらいで死ぬというのに、それでも余裕たっぷりの表情だ。

 それを見ていると段々と不安になってくる。


「あ~あ、はい、負け~」

「何……?」


 今回はリア。

 俺が先に構える番なので俺が自分の手を選ぼうとしていると、不意に相手が声を掛けてきた。


「七原はあまり数学の成績が良くなかったよねぇ。残念ながら、このゲームは論理のゲームなんだよ。分かる? 数学的思考。相手と自分のステータスや所持スキルを良く確認して、如何にパズルを当てはめていくかが勝負なの。言ってしまえば、戦う前から勝負が決まっていることだってある。それを読み切ることが勝利する絶対の条件なのだよ」

「…………」


 確かに俺はあまり頭のいい方ではない。

 ましてや数学でこいつと勝負しても勝てっこないだろう。

 レベルも負けている。

 だからと言って、始まる前から負けているなんてことあるのか?


「パズルを組み合わせていくとね、確実に勝てる道と、確実に負ける道がよぉ~く見えてくるんだよ。もちろん、私には見えた。七原にはちゃんと見えたかな?」

「…………」

「見えてないよね? お前、馬鹿だもんね? だから1つ教えてあげるよ。君の負けは確定しましたぁ~」

「!!!」


 相手は嫌味ったらしく、余裕そうにそう言ってくる。

 そんな馬鹿なことあるか!?

 残りHPでは俺が圧勝しているんだぞ!?


「七原は不思議に思わない? 私のレベルがここまで高いことに」

「…………」


 相手のレベルは8。

 レベル上げをたくさんしてきた俺から言わせれば、ありえない数字だ。

 どれだけの雑魚クライシスを倒したらそこまでたどり着けるのか、想像するのも嫌になる。


 だが、こいつの場合は雑魚クライシスよりも人間を相手にしていたんだ。

 しかも、真剣勝負で殺すようなこともしている。

 そうすれば経験値は多く入るので、俺よりも効率よくレベルを上げてきたことだろう。

 それで一体どれだけの数の命が犠牲になったかなんて、知りたくもない。


「私は多数の生徒に真剣勝負を挑み、その全てに勝ってきたんだよ。1つの負けもなくね。その秘密は何も相手の手が分かっているからだけじゃないんだよね。ゲームのパターン化にもあるんだよ。七原にはちょっと難しい話かな~?」

「…………」

「このゲームはまだ世に広まって日が浅いので、個人の持つステータスに差はあまりない。生徒に至っては私の作った教育プログラムによってほとんど1~3レベルに統一されている。つまり、相手の戦力はほぼ分かっている状態なのだよ。事前に相手の能力と自分の戦力を比較して研究しておけば、多少のイレギュラーはあってもちゃんと勝てるって訳。授業で言うと予習だよ、予習」

「…………」


 心臓がバクバクいってきた。

 まずい。

 喉もカラカラに乾いているのが分かる。


 こいつのレベルからして、今まで多くの生徒に連戦連勝してきたのは間違いないだろう。

 だからと言って、本当にそこに負ける要素なんてなかったというのか?

 俺に勝てる要素はないのか!?


「その研究こそが、私が負けない根拠なのだよ。そして七原君、君はまさにその私のパターンにハマっているんだ。あ~あ、さっき強撃つけてればな~七原にも勝つ道はあったんだけどな~。強撃持ってきてないのかな~」

「嘘……だろ……」


 本気の殺し合いでも何でもない、ただのゲームでもしているかのように尾ノ崎はへらへらとしている。

 それが全てを物語っている気がした。


 こいつは勝ちを確信している――――。


 まだゲームは始まって間もないんだぞ!?

 この時点で俺の負けが確定していることなんて有り得るのか!?


 マズイ。

 どうすればいい!?

 このままじゃ、麻莉亜が来たところで勝てるかどうかも怪しくなってきた。

 どうすればいいんだよ!!

 クソッ!


「1つだけ、勝つ道を教えてあげようかあ?」

「…………」

「私に土下座しろ。土下座して謝って命乞いしろ!! 『尾ノ崎様! 頭の悪い自分をどうかお助け下さい!』と、地に頭をつけて叫んでみせろ!!」

「…………」


 どうする……そうすれば俺の命は助かるのか……?


 馬鹿な馬鹿な!!

 そんなことをしたって何もならないじゃないか!!


 そうしたら相手がわざと負けてくれるのか?

 馬鹿らしい!

 そんなことあるわけがない!

 こいつは俺をからかって遊んでやがるんだ!


「まぁ、そうしてもお前は死ぬんだけどなぁ! ひゃーーっはっはっは! あ~、帰ったら早く酒でも飲んで九条を愛でてやりたいな~」

「この野郎……」


 こいつが小春の名前を出すだけでも嫌悪感が出てくる。


 小春……。

 お前には謝らなきゃいけないことがたくさんあるっていうのに……。

 こんな所で俺はこいつに殺されちまうのかよ!?

 小春を残して……あんな泣きじゃくっている小春を残して、俺は死ぬのか!?

 小春の前で死んじまうのかよ!?


 頼む!!

 頼むよ!!

 どうにか……どうにかしてくれ!!

 この状況で麻莉亜がきたら勝てるのか!?

 負けが確定している状態でも、麻莉亜ならなんとかしてくれるのか!?


 頼む!!

 早く来てくれ!!


 手が震え、涙が出てきそうになった。

 パニックに陥った俺は持ち時間が残り20秒になった所で、慌てて2枚残っている剣を選択してしまった。

 予備時間はまだ10分以上残っているというのに。


「剣か~。ま、どれを選んでも勝ちの道がしっかり見えている私には関係のないことだけれどもね!」


 相手は余裕そうに弓を選択。

 結果、相手も特に何もSSは使わず俺は5のダメージを貰った。


==========

カイト

HP:33→28

剣:8

【なし】

負け:ダメージ5


ゲームを制する者

HP:18

弓:5

【なし】

勝ち

==========



 ――ターン1 エクストラ――

 カイト:28 ゲームを制する者:18


「はい、エクストラね。七原の手はマイティでしょ? 別にそれ以外でもいいけど! はーっはっはっは!」


 くそっ!!

 ターン1エクストラでマイティを使うのもバレてる!!

 こいつ、本気で読めていやがる!


 どうすりゃいいんだよ!!

 何を出しても本当に負けなのか!?


 いやいや、冷静に考えろ!!

 俺だってまだ道はあるはずだろ!!

 こんな早く勝負が決まることなんてないぞ!!

 でも、こいつの馬鹿みたいな拳のステータスも見たことがない!

 そこに秘策とかあるのか……?


 もう分からねぇよ……どうすりゃいいんだよ!!!

 麻莉亜……頼む……早く来てくれ!!



 麻莉亜を待ち続けたが、残りの予備時間が10分を切っても麻莉亜が姿を現すことはなかった。

 考える余裕もなくなった俺は、結局相手の読み通りにマイティを出してしまった。

 マイティならこっちの数値は8、相手の数値は5。

 どういう結果になってもこっちにダメージが来ることはない。

 ダメだと分かっていても、それ以外の手が全く思いつかなかった。


 しかし、結果は俺の想定していたものと全然違った。

 相手は特攻のSSを拳と一緒に使ってきて、俺に12ものダメージを与えてきた。

 予想できなかった結果になったので、俺はその結果を受けて更に動揺してしまうのだった。



==========

カイト

HP:28→16

マイティ:8

【なし】

勝ち:(特攻)ダメージ12


ゲームを制する者

HP:18→10

拳:18+6

【特攻】

負け:ダメージ8

==========



 ――ターン2 フォア――

 カイト:16 ゲームを制する者:10


 ターン2のフォア。

 相手の構えからなんだが、相手は手を選択する前に楽しそうに話しかけてきた。


「よ~し、特別大サービス! 今なら九条への遺言を聞いてやろう! お前は九条に慕われているようだったからな! 何でも聞いてやるぞ~? 何だ? お前、九条に惚れていたとかあるか? 九条はもう私のもの……いや、私の妻だけれどもな! はーっはっはっはっは!!」

「…………」


 クソ……。

 クソッ!! クソッ!! クソォーーー!!!


 悔しい!!

 本当に悔しい!!

 何で俺にはこんなに力がねぇんだよ!!

 何でこんなクズみたいな奴すら倒せる力がねぇんだ!!

 何で小春を守ってやれないんだよ!!


 麻莉亜の指導をしっかり聞いておけばよかった……。

 ちゃんと真面目にこのゲームをやって、力をつけておけばよかった……。

 俺は何で呑気に漫画なんか読んでたんだよ……。

 そんなことをしている間に、世の中はこいつみたいに腐っていってるというのに!

 小夏も、小春もずっと危険に晒されているというのに!!

 何で俺が助けてやれないんだよぉ!!!


 ――――時間を巻き戻したい。


 時間を戻して、俺も学校へ行って、小春と一緒に登下校しておけばよかった。

 そうすればこんなことにはならなかったのに!!


 俺は……危険に晒されている小夏や小春を、ずっと無視し続けてきたんだ!

 クソッ!!

 何でこんなことになっちまったんだ!!

 本来なら俺は……俺は……。


「あ、遺言ない。あっそ。じゃあ、手、決めてさっさと殺しちゃうね。じゃあね~」

「…………」


 もう……ダメだ……。

 ごめんな小春……俺は小春を守りきれなかった。

 威勢よくカッコつけて勝負を受けて立って……結局殺されちまうんだ。

 あの時もそうだったもんな。

 結局、俺が二人を危険な目に合わせて、それでも俺は二人を守れなくて……。



 相手は選択を終え、剣を構える。

 俺は気がついたら涙を流していた。

 悔し涙を。

 その涙に濡れた目でIPに目をやる。


「!!!!」


 そのIPに表示されていた文字を確認すると、今ある俺の全ての負の感情が、それだけで一気に吹っ飛ぶような感覚になった。


『マリア 剣士Lv7 からアシスト参入が有りました。参加を許可するか選択して下さい』

 【Next】

 →麻莉亜、参戦


 【Tips】

 レベル5で新たに取得できるSSのは以下の通り

特攻:勝負手で負けても本来のダメージの半分が相手に入る

小盾:受けるダメージを半分にする

吸収:ダメージを与えた場合は、その半分だけこっちが回復する

根性:このターンで手に負けてHP0になった場合、HPが1残るが相手は与えたダメージ分HPが回復する

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