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クライシスゲーム ~引きこもりが世界を救うキセキ~  作者: 若雛 ケイ
一章 引きこもりのお兄ちゃん、出撃ス
16/50

1-8.犯した罪の重さは

 俺はここ数日布団からあまり動くことなくベッドの中にいた。

 体調は良いのか悪いのか自分でも良くわからない。

 スッキリしない感覚がずっとあるのは間違いなかった。


 小春から色々看病の連絡はもらったが、それでも俺は小春のために頑張ろうとするどころか、変な罪悪感を重ねる一方で、俺の体を重くする要因になっていたと思う。



 俺がそんな感じでグズッている中、ある日の夕方に蓮華から連絡が入った。

 小春がウチに来ていないかという連絡だったのだが、俺は普通に来ていないと返して、それは終わった。


 最初は特に何も思うことはなかったのだが、段々と小春が事件に巻き込まれたんじゃないかと心配になって、俺は折り返して蓮華に連絡をとってみた。

 どうも小春と蓮華は今日も遊ぶ約束をしていたらしく、蓮華は一旦家に帰ってから待ち合わせの場所に行ったらしいんだが、待ち合わせの時間になっても小春はやってこなかったそうだ。

 待ち合わせの時間から1時間が過ぎても小春が来ないので、俺の所に来ていないか連絡を寄越してきてくれたということだった。


 小春は小夏とは違って良い意味で真面目な子だ。

 約束の時間に遅れることなんてまずないだろうし、アクシデントが起こったのならキチンと連絡を寄越してくれるはず。

 それでも蓮華の所にも、もちろん俺の所にも連絡は来ていなかった。


 蓮華は同じように小夏にも連絡をとってみたらしいのだが、まだ家にも帰っていない様子。

 その辺の話を聞いて段々と嫌な予感がこみ上げてきた俺は、一旦蓮華との通信を切って俺からも小春や小夏に連絡を飛ばしてみた。

 しかし、未だに双方とも返信は返ってきていない。



 まさか小春に限ってそんな事件に巻き込まれるなんてことあるはずがないと思いつつも、俺の顔は青ざめていった。


 一緒に登下校して欲しいな――――。


 小春の言葉を思い出した。

 そう思うくらい、小春はずっと危険を感じていたんだ。

 それなのに俺はそんな小春からのサインを無視して、ずっと1人家でグダグダしていた。

 万が一小春に何かあったとしたら、俺のせいだ。


 そう思うと、いてもたってもいられなくなった。

 俺はすぐさまこのことを麻莉亜に相談した。

 麻莉亜は直ぐに事の重大さを理解したようで、俺に「調査してくる」とだけ告げ、すぐに家を飛び出していった。

 俺も出ると言ったのだが、麻莉亜は俺の体調と身の安全を気にかけ、「絶対に外に出るな」と俺に釘を刺してきた。


 麻莉亜に任せておけば安心だろうとは思うのだが、既に事後という可能性もある。

 気が気ではなくなってきて、俺は何度も麻莉亜に進捗を尋ね、蓮華に小春と会えたかと尋ね、小春にも小夏にも連絡を入れた。

 しかし、何の進展もないまま時間だけが流れていき、日も落ちる時間になってしまっていた。




 蓮華の話では小夏からの連絡はあって、小夏も今必死に小春を探しまわっている所らしい。

 だが、俺のところには一通足りとも小夏からの返信が来ていない。

 こんな時に何んで連絡を寄越さないんだと俺は怒りを爆発させ、蓮華に無理を言って映像通信の又繋ぎをしてもらった。

 蓮華が俺と小夏とそれぞれ別に映像通信をし、俺は小夏の映像を、小夏は俺の映像を見るといった感じだ。


『……はぁ……はぁ……はぁ……何?』

「お前! 何で連絡寄越さないんだよ!!」


 蓮華は2つの映像を出したまま小春の名前を呼んで走り回っている。

 そんな中で映像越しに見た小夏も同じように、外に出て走り回って小春を探しているようだった。

 小夏は映像越しに俺の姿を確認すると、一旦足を止めて冷たい視線を俺に送ってくる。

 

『……あんた何かに頼らない。用がないなら切るから』

「待てよ!! 今大変なことになってんだろ!? 俺がどんだけ心配してんのか分かってんのかよ!? 連絡くらい返せ!!」

『ふざけないで!! それはこっちの台詞! 何今更自分だけ心配しているようなことを言って、自分だけ安心しようとしてんの!? あんた、今まで自分が何をしてきたのか分かってんの!? 小春はあんたのことを思って、ずっとずっとあんたに連絡を入れてたのよ!? 小春が今までどんな思いであんたからの連絡を待っていたのか分かってんの!?』

「!!!」


 小夏は息を切らせながらも、俺を睨んでそう強く言ってきた。

 そんな小夏の言葉に、俺は何も返す言葉が見つからなかった。


『あんた何かに小春を心配する資格なんてないし、小春の心配をしてほしくない! 通信切るから』

「待ってくれ!!」


 返す言葉も見つからなかった俺は、通信を切るのだけはやめて欲しいと、そう叫んだ。

 小夏にそう言われて、心から何かがこみ上げてくる。


 小夏の言うとおりだ。

 俺は現実から逃げ続け、心配する小春からの連絡も無視してきた。

 七原研究所炎上の報が入った時、小春は恐らく真っ先に俺の安否を心配してくれたことだろう。

 おばさんは嫌がらせに耐え切れず、自殺してしまった。

 九条家より七原家の方が強い非難を受けていると考えるのが普通だ。

 小春は、さぞかし俺のことを心配してくれたことだろう。

 選民試験なんていう恐怖のイベントがあり、友達を亡くした小春は、自分の親しかった兄の心配をどれだけしただろうか。

 それはきっと、俺が今小春を心配するレベルとは比較にならないくらいのものだっただろう。


 俺はその全てを無視して、小春の心配を増長させていたんだ。

 そんな俺に都合良く自分だけ小春の安否を心配する資格なんてない。

 でも……でも!!


「悪かった! 本当にすまなかった! 小春にも……お前にも悪いことをしたと、心から反省している。でも今はそれどころじゃないだろ!? 小春の行方が分からないんだ! 小春のピンチなんだよ!! 俺のせいなんだ! 俺がしっかりしていたら小春もこんな目には合わなかったんだよ!」

『…………あんたなんかに頼らない。あんたには関係ないことだから』

「いい加減にいしろ! 俺はお前のことも、小春のことも心配なんだよ!! お前1人で解決できる話じゃないだろ!!」

『うるさい!!』


 小夏と言い争いをしていると、間に入っている蓮華が突然声を張り上げてそう怒鳴り散らした。


『喧嘩すんなら他でやれよ!! そんなのどうだっていいんだよ!! 今一番やらなきゃいけないことって何だよ!! はるるを探すことなんじゃないのかよ!!』

『…………ごめん』

「…………」


 蓮華の声が震えている。

 蓮華もいつになく真剣な様子で、小春の名前を呼び続けていた。


「すまなかった。俺もこれから小春を探しに外に出る。麻莉亜も今探してくれているところだ。蓮華も小夏も、何かあったらすぐに知らせて欲しい」

『……………………』


 俺はそれだけ言って通信を切った。

 結局、最後まで小夏は首を縦に振ることはなかったが、それも今考えることではない。

 とにかく、今は少しでも小春の手がかりになることを見つける方が先だ。



 俺はまだ少しふらつく体に鞭を打ち、ジャージのまま小春を探すために家を飛び出していった。

 そのままの勢いで適当に夜道を探しながら、すぐに麻莉亜に通信要請を出す。


「麻莉亜!!」

『海人さん!? 今どこに居るのですか! まだ体調が優れていない様子ですし、外は危険です! 直ぐに家に戻って下さい』

「じっとしていられねぇんだよ!! 俺も小春を探す! 何か情報は掴めたか!?」

『ある程度のことは探れました。ただ、海人さんは直ぐに家に戻って下さい。小春さんは私が何とか探し出します』

「ある程度のことって何だ!? 知ってることがあるなら全部話せ!!」


 俺は焦ってそう麻莉亜に問いただす。

 映像の向こうに見える麻莉亜もみんなと同じように外に出てはいたが、今はベンチに座って腰を落ち着かせていた。

 手元には書類が見えるが、それを吟味して、そこから何かを掴んだのかもしれない。


『……落ち着いて聞いて下さい。小春さんは連続失踪事件と同一犯が起こした事件に巻き込まれた可能性が高いです。その犯人を探し当てないことには、小春さんを見つけ出すことはできません』

「探し当てられたのか!? 犯人はまだ分からないのか!? 小春は無事なんだよな!?」

『確証が持てていない状態です。私の力が足りず、申し訳ありません。小春さんからの応答がないということは、最悪の事態も覚悟しなければなりません』

「っざけんな!! そんなの絶対俺が許さねぇぞ!!」


 そんな大事を麻莉亜は淡々と話す。

 いつも頼りにしている麻莉亜の言葉だったが、この時ばかりは信じたくなかった。


『落ち着いて下さい。まだそうと決まった訳ではありません。可能性があるかぎり、最善の選択肢を見つけて探し出すまでです』

「最善の選択肢って何だ!? 何でも言ってみろ!! 小春が助かるならなんだってしてやる!! 死ねと言われたら喜んで死んでやるぞ!!」

『しっかりと裏を取り、確証を得ることです。それができるまで軽率な行動は控えるべきです』

「そんな悠長なことをしている場合じゃねぇんだよ!!」

『これはゲームではありません。裏付けを取る余地が残っているのであれば、それを探して確証を取るべきです』

「確証って何だ!? 犯人の目星はついているのか!? いないのか!?」

『目星はついています』

「誰なんだ!?」


 全くノーヒントの状態から、よくも犯人を見つけることができたと感心するが、今はそれどころじゃない。

 犯人が誰だろうと、一刻も早くそいつを見つけ出して小春の無事を確認しなければならなんだ!


『海人さんの学校にいる教師、数学の尾ノ崎だと考えています。海人さんの話の中に現在学校側でゲームの指導をしているというのがありました。生徒のレベルや職業もしっかりと管理していると。犯人は臆することなく被害者の生徒に強制戦闘を仕掛けているようですが、犯人が生徒の手の内を知っている教師なら話は納得できます。更に、尾ノ崎という教師は被害者ほぼ全員の数学を受け持っています。小春さんの担当も尾ノ崎です。これは偶然とは考えにくいです』

「尾ノ崎!? そいつが犯人なんだな!?」


 数学の尾ノ崎……。

 確か、1年の時に半期だけ俺も授業を受けたことがあったな。

 ガリガリのちびで、ハゲ散らかしているような見すぼらしい教師だった。

 生徒からも『オノちゃん』とか言って舐められてたっけか。

 そんな奴が犯人だとはあまり思えないが、麻莉亜がそういうのなら確率は高いんだろう。


『可能性は高いですが、そうと決まった訳ではありません。根拠が弱すぎます。まだ情報の吟味が終わって――』

「分かった、ありがとな。俺が今から尾ノ崎を探す。尾ノ崎のGPS情報か、自宅分かるか?」


 俺は麻莉亜の言葉を遮り、そう言葉を続けた。


『いけません!! 危険です!! 海人さんは体調が万全ではありませんし、行っても無駄足になる可能性が十分にあります。そして何より本当に尾ノ崎が犯人だった場合、海人さんがその場で口封じの為に殺されてしまう可能性があります。今他の情報も合わせて吟味しています。もう少し情報を集めて、対策を練ってからでないと……』

「それじゃおせぇんだよ!! 今小春がどんな思いをしているのか分かってんのかよ!? 恐怖で泣いてるかもしれないんだぞ!! 助けを求めてるかもしれないんだぞ!! 1秒でも早く助けてやらないといけないんだよ!!」

『落ち着いて下さい。海人さんが行くとなると、私も行かなければなりません。そうなると、私の推測に間違いがあった場合に大きく時間をロスすることとなり、結果として小春さんの発見が遅れてしまうかもしれません』


 そこまで分かっているのに、麻莉亜は落ち着いてその場を動こうとしていなかった。

 その理由は、まだ確実に尾ノ崎が犯人だと言える証拠がないからのようだが……。


「麻莉亜はそこで情報を吟味しててくれ。新しい可能性があればすぐに俺に報告しろ。小夏も蓮華も探している最中だ。少しでも怪しいと思ったら小夏にでも蓮華にでも連絡して、人を動かせ。1秒たりとも無駄にすんじゃねぇぞ!」

『危険です! 海人さんが行っても返り討ちにあってしまっては……』

「うるせぇ!!!」


 ごちゃごちゃとうるさい麻莉亜を恫喝するように叫んでしまった。

 周囲に人がいたら何事かと思うだろう。

 だが、本当にそれどころじゃないんだ。


「そんなこと言ってる場合じゃねぇんだよ!! 俺が危険な目に合うとか合わないとかじゃねぇんだ!! そんなことよりもずっと大事なことがあるんだよ!! 小春は今泣きながら俺や小夏に助けを求めてるだろうよ!! 俺が行かないでどうすんだよ!! 人間ってもんはな、自分が危険な目にあってでもやらなきゃならねぇことがあるんだよ!! 効率や損得なんて知らねぇ!! いいから教えろ!! 尾ノ崎の情報を!! 麻莉亜が知らないってなら、俺が直々に探しだして地獄に送り込んでやる!!」

『……分かりました。今から尾ノ崎の自宅情報を送ります。私はこれからも情報の吟味を続けます。どうか、無茶だけはしないで下さい』

「あぁ、助かる。小夏にも蓮華にも、無茶だけは絶対するなと伝えておけ!!」

『……はい』


 俺が強く言うと、麻莉亜は萎縮してしまい、最後には力なくそう返答してきた。

 すまんな、麻莉亜。

 お前が失敗を嫌うのはよく知っている。

 そしてお前は誰よりも俺のことを心配してくれているというのも、よく知っている。

 でも、それより優先しないといけないことだってあるんだ!

 それが今なんだよ!!


 麻莉亜との通信を切ると、早速尾ノ崎の自宅情報が麻莉亜から送られてきた。

 ……上大隅。

 ここから電車を使えば家まで2~30分で着くくらいの距離だ。

 俺はそれを確認するなり、今までで一番というくらいのスピードを出して駅へと向かって走っていった。

 麻莉亜に『怒鳴ってすまんな』というメッセージを残して。

 【Next】

 →エボルの生み出した悪魔


 【Tips】

 アシストを結んだ者同士では戦闘は成立しない。

 また、アシスト関係にある者のステータスはいつでも参照できる。

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