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クライシスゲーム ~引きこもりが世界を救うキセキ~  作者: 若雛 ケイ
一章 引きこもりのお兄ちゃん、出撃ス
15/50

1-7.そのお兄ちゃんは幻か

 風邪を引いた。

 久しぶりに外にでて、免疫のなくなった体に菌でも貰ってきたのだろうか。

 引きこもりはこういった弱点がある。


 引きこもり期間中、前に一度だけ病気をしたことがあったが、その時は学校を休める免罪符ができたとむしろ心が軽くなったものだ。

 今も若干その感じはある。

 あれだけ小夏に「現実を見ろ!」なんて言われて、次の日もう引きこもってましたじゃ格好もつかない。

 元々引きこもる気満々だったけれども、こうして小夏への言い訳もできたことで少し気が軽くなったのは事実だ。


 だが、俺はいつものように落ち着いてゆっくり休むことができなかった。

 やっぱりどうしても小夏や小春のことがどうしても頭に浮かんできてしまう。


 九条家の両親は亡くなり、ミニマム姉妹は絶望のどん底を味わったことを知ってしまった。

 小夏は今でも周りから冷たい視線を送られていると、この目で見て知ってしまった。

 小夏は前を向いて頑張っているようだけれども、命を懸けてゲームを頑張ってしまっている。


 小夏もそうだが、小春も心配だ。

 小春は小夏ほど強い子じゃない。

 幼いころは良く同級生のがきんちょにいじめられては泣いていた。

 親が七原に勤めていたのを周りが知らないから大丈夫だとは言っていたが、それでも心配だ。

 結局学校に行った時は俺が遠慮して顔を合わせることができなかったが、無理をしてでもいいから会っておけば良かったと今は少し後悔している。


 麻莉亜も打倒エボルへの道は足踏み状態になってしまっているし、本当に頭が痛い。

 こう、いきなり『全てがドッキリでしたー』みたいなことになってないかと、無茶な望みに懸けてネットで情報を集めたりするのだが、政府からもエボルからも音沙汰はないようだった。



「気分はどうですか?」

「まぁ、大丈夫だ」


 ベッドで横になっていると、不意にドアがのノック音が聞こえた後に麻莉亜が部屋の中に入ってきた。

 麻莉亜は差し入れとしてりんごを手に持って、ベッドの傍に置いてくれる。

 俺は体を起こして、皮がうさぎの形に切られたりんごを有り難く口にした。

 

 麻莉亜は昔から俺が病気をすると、傍にいて付きっきりで看病してくれるんだ。

 特に何をするという訳でもなく、まるで王に仕えるメイドのようにただ黙って俺の傍にいてくれる。

 何かあったらすぐに対応してくれるし、俺が眠りから覚めても寝る前と同じ格好でいてくれている。

 本当に至れり尽くせりの、俺の自慢の姉だ。


「麻莉亜の方はどうだ?」


 そんな麻莉亜に俺は、『俺のことはいいから、とにかく麻莉亜もレベルを上げられる方法とか、学校で起こっている事件の解決方法とかを探ってほしい』と、少々無茶な頼み事をしていた。

 学校で起こる事件も俺には関係のないことだが、小夏や小春に被害が行くかもしれないと思うと、段々それも怖くなってくる。

 小夏の暴走を止めるのはひとまず置いておくとして、そういう形で少しでも小夏達から危険を取り除ければいいと思っての提案だ。


 麻莉亜のことだからこんな無茶なことでも対応できたりしないかなと少し期待したのだが、麻莉亜はその問いに首を横にふるふると振るだけだった。


「ダメです。オンラインで戦えるレベル5の汎用クライシスでは、通常戦闘ではレベル6まで、真剣勝負ではレベル7までしか上げることはできないようです。レベル6以上の汎用クライシスと戦えるようになる情報も今のところ出ていませんでした」

「まじか……。学校で起こってる事件の方はどうだ?」

「すみません。どうにも情報が少なくて思うようには……」


 俺の期待に応えられなかったことに申し訳なさを感じているのか、麻莉亜はそう言って肩を落とす。


「いや、すまんな。無茶を頼んでいるんだから気にするな」

「私としても、海人さんに安心して学校に通ってもらう為にはと思っているのですが……」

「い、いや、それは考えなくていいんだけど……」


 麻莉亜が作ってくれたりんごを頬張りながらそんな会話をしていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。

 まさか小夏来たんじゃないかと思って時間を確認してみる。

 昼の3時過ぎ。

 学校は今日も短縮授業なので既に放課後になっている時間だ。

 と、言うことは……。


 いやいやいや、小夏もあれだけ「あんたには頼らない!」なんて言ってたのに、ノコノコやってくるか?

 それに、もう学校は終わっている時間だぞ。

 この時間に来たって俺を学校に連れて行くことはできない。


 ……と言うことは、ただの野次馬だろう。


「麻莉亜さん、追い返して差し上げなさい」

「御意」


 そういうことなので、俺はBPSを開いて来客の姿を確認しているであろう麻莉亜に、昔の漫画の悪役の真似をしてそう伝えた。

 麻莉亜は俺のノリに割りと敏感だったりするので、こうやってふざけているとノリを合わせてくれることもある。

 親父の設計なのか、それとも今までの俺との付き合いから学習したのかは分からないが、麻莉亜のこういうところは凄く好きだ。


 麻莉亜は返事をすると部屋から出ていき、玄関へと向かっていく。

 どんなしつこい野次馬が来たところで、麻莉亜に任せておけば安心だと思い、俺は安心してりんごをシャキシャキ食っていたのだが。


「お兄ちゃーん! お兄ちゃーん!」

「!!!!」


 ガチャリと麻莉亜がドアを開ける音がした直後、そんな声が聞こえてきた。

 その他にも「ダメにんげーん!」と、俺を呼ぶ声も聞こえてくる。

 もちろん、両方共聞き覚えのある声だった。

 小春だ。

 小春とその友達の蓮華。


 俺はフラつきながらも反射的に立ち上がってしまったが、玄関へと向かう一歩を踏み出せなかった。

 本来なら何を差し置いてでも飛びついて歓迎してやりたいなのだが、俺は小春を今まで散々無視してきたんだ。

 もう俺のことは忘れていいとか思っていたし、一生会えなくなる覚悟でいた。

 それなのに、どういう顔して会ってやればいいのか分からない。


「…………」

「あれ、麻莉亜さん、ちょっと……」

「お帰り下さい。これは海人さんの命令ですので」


 そんな声が玄関から聞こえてくる。

 違う! 違うんだ!!

 小春に帰れと言ってる訳じゃない!!


 色々と考えて二の足を踏んではいたが、このままではあらぬ誤解を与えてしまい兼ねないと思ったので、俺はそのまま玄関へと駆け出していった。


「あ、お兄ちゃん!!」

「何やってんだよ麻莉亜!! 俺の思い違いだって分かるだろ!!」

「いいえ、思い違いではありません。お帰り下さい」

「何でーーー!!?」


 俺がそう言うも、麻莉亜は小春と蓮華に両手でアイアンクローをかまして顔を抑えつけ、追い返そうとしていた。

 俺は慌ててその手荒い対応をしている麻莉亜を制止する。


「御意じゃねぇーよ何やってんだてめー! 止めろ!!」

「はい? 海人さんの命令です。海人さんの命令は絶対ですので」

「何この場面だけ嬉々として命令遵守してんのーー!? 俺の思い違いだってすぐ分かるだろ!! 今直ぐ離せ!! これも俺の命令だろうが!!」


 やむを得ず俺は少し強い口調でやめろと言うと、麻莉亜は少ししゅんとなって、その手に込めていた力を抜いてくれた。

 どうも麻莉亜はミニマム姉妹には強く当たるような所があるんだよな。

 ただでさえ風邪を引いていて頭が痛いのに、余計頭が痛くなる。


 麻莉亜の手を解くと、俺の知る大天使の笑顔がそこにはあった。

 麻莉亜にこんな手荒い対応をされても笑顔でいられるこの子は、まさに天使だ。

 改めて見ると、本当に可愛い。

 前見た時よりも可愛く成長している。


「良かったー!! お兄ちゃん、心配したよ~」

「よ! 久しぶり! ダメ人間生きてたじゃん!」

「こはるぅうーー!!」


 小春は俺と顔を合わせるなり、思い切り抱きついてきた。

 俺はそんな小春を抱きかかえて頬ずりでもするように、顔をグリグリと動かした。


 ……あぁ、今目が覚めたよ。

 俺はとんでもなくアホな男だった。

 自分が大変な目に遭っているというのにも関わらず、小春は俺をずっと心配し続けてくれたんだ。

 こんな子を無視しようとしていたなんて、どうかしていた。

 俺は小春のお兄ちゃん。

 永遠に小春のカッコイイ憧れのお兄ちゃんなんだ。

 今こうして生小春を見たことで俺も目を覚ましたよ、ごめんな、小春。


「やめて下さい。菌が移ります」

「す、すまん小春! 今俺、風邪を引いていて……」

「これ以上海人さんに病気を移すようなことがあったら、いくら小春さんと言えど許しませんから」

「そっちかよ!!」





 久しぶりに小春と会えたことで、俺は今までのもやもやを吹き飛ばすことができた。

 こうして小春の笑顔を見ると、どうして小春を無視なんてできたのだろうとすら思う。


 もう迷ったりしない。

 これからはしっかり小春からの連絡は確認するし、ちゃんと小春と向き合っていこうと思う。

 俺と小春の絆は、連絡を少し無視したくらいで崩れる程ヤワではないんだ!


「お兄ちゃん病気だったんだ……ごめんね、そんな時に押しかけて来ちゃって……」

「いいんだいいんだ、ゆっくりしていってくれよ」

「おう! 馬鹿なのに風邪引いたのか!?」

「お前じゃねぇんだから、風邪くらい引くわ!!」


 と、小春の隣でケタケタ笑うのは黒波蓮華くろなみれんげ

 小春と同学年で、小春とは中学からの付き合いのある友達。

 一見俺とはなんら関係のない奴なのだが、必ずと言っていい程小春にひっついているので、いつの間にか一緒にゲームをする程の仲になってしまった。

 俺が不登校になる前は小春共々よくここに遊びに来てくれていたもんだ。


 またこいつとは奇妙な縁があり、蓮華には俺と同い年の兄がいて俺と同じ学校に通っている。

 そう、黒波空吾が蓮華の兄に当たるんだ。

 俺がこいつの兄と会ったのは蓮華と仲良くなった時と同じ頃の話。

 その時は兄とも仲良くなれるかなとか思っていたんだが、実際はその逆だった。

 蓮華も兄とは仲が悪いみたいで、ここ数年間口も利いていない程だと言っている。


 蓮華も本来なら兄のように『打倒七原! 七原死すべし!』という立ち位置にいるはずなのだが、こいつはそんなのお構いなし。

 現に小春の父親も七原研究所所属だったのに、小春とは本当に仲がいい。


 性格も小春とは真逆。

 小春の逆と言っても、姉の小夏とはその方向性が違う。

 ガサツで生意気でオッペケペー。

 小夏と違って馬鹿で人懐こいので、扱いやすいとえば扱いやすいのだが。

 立場も性格も小春とは全く逆なのに、こうして仲良しなのは偉大なる小春神の心の広さ故だろう。



 俺は早速そんな2人をリビングに通す。

 麻莉亜は文句を言いいながらも俺に掛け布団を持ってきてくれ、2人をもてなす準備をしてくれた。


「麻莉亜、すまんがマスク持ってきてくれるか? 2人に病気を移すわけにはいかん」

「分かりました」

「ごめんね、やっぱりお邪魔だったよね……」

「お邪魔なのですぐに帰ってもらって結構ですが?」

「麻莉亜!!」


 俺がそう強く言うと、麻莉亜は再びしゅんとなって俯く。

 本気で言ってる訳じゃないとは思うんだが、どうしてこう意地悪するのか。

 九条のおじさんもこんな麻莉亜を見てケラケラ笑ってたんだが、俺としてはこの辺なんとかプログラムを直して欲しかった。


「私は帰らないよ~」

「お前は少しくらい遠慮しろよ!」


 せっかくリビングに通してやったのに、蓮華はソッコーで俺の部屋から勝手に漫画を持ってきて、床に寝そべって読んでいる。

 俺としてはこれくらい図々しい方がやりやすくて助かるのだが、小春は麻莉亜の一言を真に受けて本気で帰りそうになってしまうから困る。

 慌てて俺は小春に「真に受けなくていいから」とフォローした。


「……ごめんね、お兄ちゃん。でも、本当に心配したんだよ? 約束して! ちゃんと連絡は返すって!」


 小春は少しむくれながら、そう俺に訴えてきた。


 俺はちらっと連絡アプリを立ち上げた時に、小春から大量のメールが届いていたのを確認している。

 それだけ心配してくれたのに、俺はずっと無視を続けていたんだ。

 本来なら小夏のように呆れられて、もう知らないと見捨てられてもいいところなのに、今もなお俺を心配してくれているなんて……。


「すまなかった!! お兄ちゃんを許してくれ!!」


 俺は自分の犯した罪の大きさに気付き、そう言って頭を大きく下げた。


「お兄ちゃん、体は大丈夫? 選民試験で大変な目にあってない? 周りの人からは嫌なことされてない?」

「小春……もしかして、それを確認する為にここに……?」

「そうだよぅ。お兄ちゃん、全然連絡つかなくて心配で夜も眠れなかったんだから」


 なんてこった。

 それを聞きたいのは俺の方だったのに。


 小春だって両親を亡くして、世間から冷たい目を浴びせられているに違いない。

 それなのに、自分のことなんかより俺の心配をして、俺が無視をするものだからわざわざこうしてここに足を運んできてくれたんだ。


 俺は居てもたってもいられなくなり、小春に抱きついて詫びを入れる。


「小春ぅーーー!! すまなかった、こんな馬鹿なお兄ちゃんを許しておくれ!! お兄ちゃんは全然大丈夫だよ! 少し体調は崩しているけど、この通り元気だ! 俺には最強の護衛役である麻莉亜様がほらっ!」


 と、飲み物とお菓子を用意している麻莉亜の方を振り向く。

 したら、麻莉亜は一生懸命飲み物にぽちゃぽちゃ角砂糖を投入してた。


「何してんのーー!?」

「飲み物に砂糖を混ぜてます」

「見りゃ分かるよ!! 多すぎるだろ! そんな甘党いねぇから!! それはお前が飲めよ!!」


 麻莉亜には任せてられんと、麻莉亜の用意していた物を俺自ら取りに行く。

 ついでに近くにあったマスクを装備し、麻莉亜が用意した飲み物とお菓子を自ら持って小春のところへ戻っていった。

 そうしているうちに麻莉亜は食卓の方に腰を落ち着かせ、俺達と距離を置いた位置に座った。


「大体海人さん、海人さんは小春さんの兄ではありません。血縁関係のない兄妹は、兄妹とは認めません」

「いーじゃねーか! 昔っから兄と妹のようにしてきたんだから! 小春は俺の妹、麻莉亜は俺の姉。何の問題もない!」


 血縁関係がないなんて言うもんだから、危うく「俺と麻莉亜にも血縁関係はないのに姉だよな?」と言いそうになってしまった。

 それはアウトだ。

 傍でだらしなく寝転がっている蓮華に麻莉亜が俺と血縁関係がないことを知られる訳にはいかない。


 ちなみに麻莉亜は生まれた順番的に俺の妹に当たるのだが、容姿が20代と明らかに俺より年上っぽいので、世間を納得させるために俺の姉ということになっている。

 俺が30とかになったら今度は妹になるのかもしれない。


「いいえ、問題です。海人さんや小春さんからは、やましい下心が垣間見えます。これは教育上宜しくないことです。私はそれを抑止したまでです」

「なんだよ下心って……ったく」


 それを受けた小春も苦笑いだ。


「ご、ごめんね、麻莉亜さん。でも、そうするとお兄ちゃ……か、海人さんをどう呼べばいいか分からなくなっちゃうから……」


 それを受けた小春は、恥ずかしそうに慣れない感じで俺を『海人さん』と呼ぶ。

 うん。

 これはこれで有りだ。


「よし、海人さんでいこう」

「えぇーー!?」

「そんなことより、小春の方こそ大丈夫なのか?」

「うん。私は大丈夫だよ。お姉ちゃんがいるし、蓮華もたまに泊まりに来てくれるし、全然平気。お兄ちゃんの方が酷い目にあったんだし、こんなことで挫けてないよ」


 小春はそう言って健気に両拳をグッと握って、元気をアピールしてくる。


 父親が死んだと思ったら、次は世間からのバッシング。

 突然の悲劇を前に頼れるのは母親しかいなかっただろう。

 そんな母親もバッシングに耐え切れずに自殺。

 頼れる存在のいなくなった小春の悲しみは、そんな簡単に消えるものではないはずだ。

 本人は「こんなこと」と軽く言ったが、それで片付けられる話では到底ない。

 

 それなのに、自分のことではなくこうして俺の心配をしてくれているんだ。

 小春の健気な姿勢を見るだけで涙が出てきそうになった。

 何でこんな子がこんな目に合わなきゃいけないのか、本当に悔しくて仕方ない。


「でも、お兄……か、海人……さんが心配で……それにお姉ちゃんも……今学校では大変なことになっているし……」

「…………」


 小春はそう言って顔を下に向ける。


 小春は俺と同じ悩みを共有しているんだ。

 小夏の暴走、校内での生徒失踪事件。

 どちらも自分に関係していることなので、俺が感じているよりもずっと大きな不安を抱いているに違いない。

 そんな小春を見て、俺が何となしなければいけないと使命感を感じてしまう俺は、いくら引きこもりになろうとも、昔から変わっていなかった。


「大丈夫大丈夫。みんな不安なのは一緒だし、赤信号もみんなで渡れば怖くないっしょ~」

「何それ!? 何が大丈夫なの!! トラックに轢かれて死ぬ状況なんだけど!!」


 そんな不安いっぱいの小春とは対照的に、漫画を読みながらケラケラ笑う蓮華はあっけらかんとしている。

 確かに小春の不安は取り除いてやりたいけど、こんな適当な考え方で不安が取り除ける訳ない。


「大丈夫だって。いずれ人間死ぬんだから、今死んでも後で死んでも同じ同じ。気楽に行こうよ!」

「大雑把すぎるだろ!! え、何、蓮華は友達が突然失踪しても恐怖を感じないの?」

「そりゃ、最悪だよ。でも、どうすることも出来ないんだから不安に思ってても仕方ないじゃん! 昨日ゆっこがいなくなっちゃったけどさ、引っ越した先で楽しくやってると思えば別にそれでいいって思うよ」

「えぇ~……」


 そのゆっこさん、引っ越した先が恐らく天国なんすけど……。

 まぁ、天国で楽しく……楽しくやってるか?

 こいつの突き抜けた独特なポジティブシンキングは見習おうにも見習えんな。

 小春も困ったような、呆れたような、そんな顔をしている。


「お兄ちゃん……私怖いよ……。学校に行くとね、昨日まで元気だった人の席が急に空席になってたりするの。そんな日が毎日続いていく。だからね、私、学校に着くとみんなちゃんと来てるかな、元気にしているかなって確認するの。私……もう、学校に行くのが怖い。このままみんないなくなっちゃうんじゃないかって、お兄ちゃんやお姉ちゃんもいなくなっちゃわないかって……」

「大丈夫だ。お兄ちゃんはいなくならない。もちろん、小夏もな」


 小春がそんな不安を口にしたので、俺は小春の隣に席を移してそう言ってやった。

 

「そんな状態になってるのに、学校はどうして閉鎖しないんだ? 小春も犯人が見つかるまで、家で待機していた方がいいんじゃないのか?」

「学校ではちゃんとゲームの指導をしてくれているし、そういう危険な情報を伝えてくれるから……。お兄ちゃんも、ちゃんと学校来ないと……」

「うっ……」

「お兄ちゃん、病気が治ったら学校に行こう。ね? お兄ちゃんもちゃんとゲームの勉強をしないと。私、試験があるって聞いて、お兄ちゃんのことが心配で仕方なかったんだから」

「す、すまん……」

「それで……ね。お兄ちゃんも病気が治って、学校に行けるくらいに元気になったら、一緒に登下校して欲しいなって……」

「…………」


 まずい。

 小春はかなり不安を抱えている。

 小春は子供の頃から結構俺を頼りにしてくれていたから、今もそれを引きずっているのだろう。

 俺が傍に居てくれれば大丈夫だと、俺を信用してくれているのだろう。


 俺も小春は心配だ。

 そんな、人がどんどん失踪していくような場所に小春を放置することはできないし、出来ることなら一緒に登下校したい。


 でも俺は……。


「よし分かった。俺がちゃんと小春を守ってやる! だから心配すんな!」

「本当!?」


 俺がそう言うと、小春は表情を明るくして嬉しそうに俺のことを見てくれた。

 その小春の笑顔が……痛い。


「あぁ、大丈夫だ。今はちょっと病気してるから無理だけれども、それでも何かあったらすぐに俺の所に来い! 何でも相談にのってやるし、小春の不安は何でも取り除いてやる!!」

「うわぁ~。ありがとう、お兄ちゃん! お兄ちゃんが居てくれて本当に良かったよ!」


 俺がそう言って元気づけてやると、小春は小さい手で俺の両手を掴みあげて喜んでくれる。

 その笑顔は、昔から何一つ変わっていなかった。


 ……俺の悪い癖なんだ。

 どうも小春の前では見栄を張ってしまう。

 自分にはそれを対処する能力がないくせに、つい俺に任せろとカッコつけたくなっちまうんだ。

 小さい頃、キャンプ場で無理して立入禁止区間に入った時もそうだったっけな……。


「いいなぁはるる……。私のクソ兄貴とダメ人間、交換しないか?」

「ダメだよ! お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだから!」


 そう言って小春は俺が熱を出しているというのにも関わらず、俺の腰に手を回して全体重をかけ、『だいしゅきほーるど』をしてくる。

 いつもはこう、小春に頼られて俺の気分も最高潮に達するはずなんだが……。


「小春、今お兄ちゃん熱があるから……」

「大丈夫だよ! お兄ちゃんの熱ならもらっても平気!」


 そう言って小春は離れようとしない。

 だがそれも麻莉亜によって引き剥がされてしまう。

 俺はそんな小春に気が引けてしまって、麻莉亜の引き剥がしに抵抗しなかった。



 その後、適当に黒波の愚痴を蓮華に話したり、小夏の暴走を止めようという話をしたが、小春が俺に気を使って割りと直ぐに2人は退散していった。

 色々と不安を抱えるような表情を見せていた小春ではあったが、俺が『大丈夫だ』と言った後はその表情も一切見せなくなった。

 余程俺のことを信頼してくれているのだろう。

 小夏とは違い、あの頃のままに。



 そんな小春を見て、俺の頭は更に痛くなってきた。

 もう学校に行くまいと決めた直後に、見栄を張って小春を守るなんて言ってしまった。

 学校に行くことがなければ、小春を守ることもできない。

 でも、学校へ行けば冷たい視線が待っている、黒波が待っている、現実という地獄が待っている。


 そんな矛盾を抱えてしまい、俺の熱は更に上がっていった。



 結局、俺は体調が戻らないまま、苦悩しながらその後も学校を休み続けた。

 小春からは毎日『早く元気になってね』という励ましのメールを貰った。

 それでもなお、俺に学校へ行こうとする勇気が湧くことはなかった。


 そうしているうちに、最悪の出来事が起こってしまった。


 小春が……失踪した。

 【Next】

 →犯した罪の重さは


 【Tips】

 アシスト関係は一個人につき3人までしか結ぶことができない。

 また、戦場には1人しかアシストを出すことはできない。

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