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クライシスゲーム ~引きこもりが世界を救うキセキ~  作者: 若雛 ケイ
一章 引きこもりのお兄ちゃん、出撃ス
10/50

1-2.夢と現実と

「それじゃ、ちょっと行ってくる!」

「あまり遠くへは行かないのよー!」


 お袋のそんな声もお構いなしに、俺は元気に幼馴染2人の手を引いて駆け出していった。


 七原家と九条家は家族ぐるみの付き合いだった。

 特に親同士の仲が良いということもあり、休日は片方の家に集まって一緒に食事をするなんてのはざらだ。

 学校が終わって家に帰ってもオールスとジーソックしかいない俺に気を利かせたのか、九条のおばさんはよく俺を九条家に招いてくれた。

 休日は親が暇だとこうしてよく九条家と一緒にピクニックへと出かけたものだ。


「おい、危ねぇぞ小夏! そこにはモンスターの巣がある! 気をつけろ!」

「…………」


 俺がそう促すと少女は小さい体を更に屈めて蜘蛛の巣を交わした。


 九条小夏。

 九条家の長女で、俺とは生まれた日が数日しか違わない同い年。


「小春! 頑張れ! 勇気を出すんだ!!」

「でも……」

「頑張れ! 小春!!」


 小夏と一緒に付いて来たもう一人の少女は、俺と小夏がジャンプで飛び越した水たまりを前にして足を止めていた。


 九条小春。

 小夏の妹で年は俺と2つ違う。


 この2人とは年がら年中ずっと一緒だった。

 俺はそんな2人の手を引き、「探検だ!」とか言って親の元を離れて勝手に森林コースを歩き始めていた。

 何というか、当時見ていたアニメの影響だか何だかで『か弱きものを守る勇者』のようなことがやってみたかったんだと思う。


「ほら! 頑張れ!!」


 俺は水たまりを跨いで向こう側にいる小春に手を差し伸べる。

 小春はおろおろとしながらも、その俺の声で踏ん切りがついてようで、目を瞑ってジャンプした。


「おっと!」


 予想より飛べなかった小春は、俺が何とか手を引いて無事にこっち側へ渡ることができた。

 片足が少し水たまりに浸かってしまっていたが、俺は両手で小さい小春の体を抱き上げ、小春の勇気を褒め称えた。


「よくやったぞ小春!! 頑張ったな!」

「えへへ……」


 高い高いするような感じで、何度も小春を空中に持ち上げる。

 すると小春は満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。


 そんな感じで俺は楽しい探検を続けていった。

 ただ、俺は物足りなさを感じていた。

 もっとこう、2人がピンチの時に颯爽と現れて手を差し伸べるような、そんなことがやってみたかったんだ。



「お兄ちゃん、危ないよ」

「大丈夫だって! 俺がついてるからな!!」

「…………」


 立入禁止の看板につけられているロープをくぐり、その中へと入っていった。

 いつもは俺が手を引けば喜んでついてくる2人だが、さすがにこれはまずいんじゃないかと二の足を踏んでいる様子だ。

 しかし、俺は構わず「俺がついてる!」と偉そうな言葉を吐いて立入禁止区間の中から2人に手を差し伸べた。


「ほら、小夏もこいよ! ピンチになったら俺が助けてやる!」


 俺がそう言うと小夏は俺の手を取ってロープをくぐり、こちら側へとやってくる。

 置いて行かれたと感じたのか、小春も慌ててロープをくぐって立入禁止区間の中へと入っていった。


「ここはモンスターが強いからな。俺の元を離れるなよ!」


 俺は近くに落ちていた棒切れを拾って武器代わりにし、胸をときめかせながら足を進めていった。

 しかし、俺の期待とは裏腹にモンスターが襲ってくるようなことなんてあるはずもなく、子供には少し厳しい傾斜の道が続いていくだけだった。


「海人……もう帰ろう」

「何言ってんだよ! 探検はこれからだっつーの! ここは少し滑るからな! 気をつけろよ!!」

「小春が少し辛そう」

「小春! 大丈夫か!? 頑張れ!」

「待って……お兄ちゃ……きゃっ!!」


 突然小春が足を滑らせた。

 その勢いで小夏と繋いでいた手を離してしまい、小春は真っ逆さまに傾斜を転げていった。


「小春!!」

「小春ー!!」


 小春の悲鳴が響き渡る。

 小春は俺も予想しなかった方向へと転げ落ちて行き、崖とも言えそうな程傾斜が急な坂道に入ったと思ったら、俺の視界から消えてしまった。


 まずい。

 これは尋常じゃなくまずいことになったと、子供ながら思った。


「小春ーー!!」


 小夏はそんな様子を見て勢い良く小春を追いかけていく。

 しかし小夏も途中で滑ってしまい、小春とは違う方向に転げ落ちていった。

 小夏はかなりの勢いを付けて転がり、途中で木にぶつかると、その場で動かなくなってしまった。


「…………」


 大変なことになった。

 どうすればいいんだ……。

 俺のせいで2人が酷い目に合っている。

 小春が悲鳴を上げながら視界から消えた映像を思い返すだけで、頭がおかしくなりそうな程動揺した。

 動かない小夏を見ているだけで、世界の終わりのような恐怖を感じた。


 方針した俺は……そのまま足を前へと進めていった。


 ――――!?


 小春を、そして小夏を放置し、今起こった現実を見なかったことにするように、その場から走り去った。


 ――――違うだろ。


 凄い勢いで走る。

 来た道を戻っている訳ではない。

 親たちに知られるのもまずい。

 親たちの元にも戻れない。


 俺はどこかも向かっているかも分からず、今起こった現実から逃げたい一心でただただ走り続けた。



 ――――違う。俺はそんなことはしていない!

 俺は2人を助けに行ったはずだ!

 引き返せ!!

 今直ぐ引き返せ!!

 取り返しの付かないことになる前に!!

 早く!!



 それでも俺の何処へ向かっているかも分からない足は止まらなかった。

 そうしているうちに俺も小夏達と同じように足を滑らせ、崖から――――。




 ――――――――。




 ピンピンピンピンピンピンピンポーン……


「…………夢?」


 最悪な夢を見た。

 寝汗をぐっしょりかいている。


「…………」


 ベッドから転げ落ちて頭を打って目覚めたみたいだ。


 ピンピンピンピンポーン……


 インターフォンを連打する音が聞こえてくる。

 今何時だ……?


「…………」


 時計を見てみる。

 まだ朝の7時過ぎだった。

 人間の行動する時間じゃない。


 俺は転げ落ちた体を再びベッドに乗せて、布団をかぶり直した。

 


 来客はエボル出現以降、極稀にあることだった。

 そのパターンは2つに1つ。

 俺の存在を嗅ぎつけて文句垂れに来た野次馬やマスコミの奴らか、エボルの設計上の瑕疵があったりしないか俺に尋ねに来たか研究員か、のどちらかだ。


 俺だって両親が死んで悲しいし辛い。

 世間にはどことなく申し訳ないと思ってる。

 だが、俺が文句を言われる筋合いはない。


 エボルの設計の話だって、俺は一切知らない。

 俺はそういうアンドロイドの研究とは一切無縁な環境で育ったんだ。


 俺の両親は父親も母親も忙しくて研究室に篭もりきりだった。

 忙しくて子育てもままならず、それでも俺を放置する訳にいかないので制作されたのが麻莉亜だという話も聞いた。

 直接愛情を込められない分、間接的に愛情をたっぷり込めて麻莉亜を作ったとか抜かしてたな、そう言えば。

 ふざけている。


 更に俺は『金や研究にまみれていない、あくまで普通の子に育って欲しい』という両親の意向により、高校から実家を離れて麻莉亜と共にこうして二人で暮らしをしている。

 そのお陰でアンドロイドの知識なんてものは本当に一般の人間と同じ程度にしかない。

 故に、俺にエボルの設計がどうのとか言われても困るんだ。


 対応しても文句言われるか、知らないことを教えろと言われるかのどちらかなので、来客が来てもその全てを無視していた。

 まぁ、ほとんどは前者なんだけれどもな。



 そんな具合なので、ロクな来客じゃないのは分かりきっている。

 しかもこんな時間に来る奴だ、頭がどうかしているに違いない。

 放っておけば今までのように麻莉亜が何とかしてくれるだろう。

 そういう訳でおやすみ。


 ピンピンピンピンポーン……ガンガンッ! ガンッ!


 それにしても鬱陶しい。

 こんなインターフォンを連打したり、ドアを叩いたりする奴を相手にするというだけで気が滅入ってくる。

 すまんな、麻莉亜。


 …………って、あれ。


 このインターフォン連打。

 この荒々しくドアを叩く感じ。

 以前にも経験したことがあるぞ。


 その時は確か――――。


「いるんでしょ! 開けなさいよ!!」


 間違いない。

 俺の天敵、九条小夏がやってきたんだ。

 【Next】

 →脅威、幼馴染の襲来


 【Tips】

 エボルとの対戦はオンラインで行われる。

 ただし、エボルとは誰でも戦えるという訳ではなく、エボルと戦うためには資格が必要になる。

 その資格はエボルが用意した中ボスとも言える敵3体の中から1体を撃破することで手に入る。

 その中ボスはいつでもオンラインで戦うことができる。

 中ボスのレベルは20でクライシスゲームにおけるレベルの上限値である。

 これは無駄な挑戦が起きないよう、告知で全員に公開されている。

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