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第1遊戯 話が進まぬ愚か者

俺ぁ、普通が良い……でも、これマジだったら少し興味ある

「先生質問です」


「うむ、答えられる範囲で答えよう」



 そう言うと床に正座する羅刹天。とても優雅な動作である。これであの危険な目線と謎のオーラが無ければ



「ああ、何考えてるかは6割以上は私の頭にスペシャルエキスプレスで届くからあまり変な事は考えない方がいいぞ」


「待ってくれ、羅刹さんそんなことされちゃあ俺の超ダイナミクス思考がおんぼろの紙コップになるじゃないか」


「大丈夫だ、敢えて何も言わんから。せいぜい見た目馬鹿にした顔をしてやる」


「くそ! あの世の奴らが汚い奴らだと体感することになろうとは!」


「まあそのあの世では私がベスト10に入る勢いで性格悪認定されてるらしいから不安がるな。他の奴は比較的善良だ。あほな事さえしなければ」



 淡々と述べるとどこから出したのか獄と書かれた湯呑を口に着けお茶か何かを飲んでいた。



「温度は大体1000℃を超えているが、まあ私らあの世の者からしたら温い」


「はは、さすが人外、マジえぐいわ」



それを人間に飲ましたら間違いなく溶けて死亡。うわぁ、怖いなあの世。さすがあの世だ。ぜひとも不死を身につけたくなったよ。



「不死なんてものが人間界にあるかあほが。まさかあの馬鹿姫の話を信じてるわけではあるまいな」


「馬鹿姫?」


「まあ、あの馬鹿は結局自殺と言うことで処理されたが……はて、今は誰になってるんだ? いや、そもそも人間として生まれ変わったかな?」



 湯呑を空中に浮かせたまま腕を組む羅刹。あ、さっき自分で巨乳とか言ってたけど本当に



「この世の法だとセクハラだな」


「うん、謝るからそのとても物騒な刀をしまおうか。なんか俺から見てもオーラと言うか何というかなんか見えてます」


「ふむ、久々に切り落としができるかと思ったが……まあいい、ここでお前を殺しては閻魔様や他の神々にお説教を食らってしまう。よかったな荒木。お前は幸運だ」



 そう言うと羅刹は刀を後ろに放り投げる。ガシャン! と共にばりん! とかいうとてもハードな音が聞こえたが、突っ込まない。俺まだブッ飛ばされたくない。



「そう言えば羅刹、さん」


「ああ何か質問があるだろうがその前に一つ」


「ん?」


「私のことはセカンドネームのとろりんと呼んでもらおう」


「…………」



 とろりん? なにそれ。解けるの? それとも何かの遊び名?



「失敬な。これでも必死に考えての名前であってだな」



 ならセンスないよ貴方。



「………そうか。ならば仕方ない。改名だ。また金を取られるが、まあ今回の仕事の給金で余裕だろ。そしてもう一つ」


 何?


「突っ込むのが疲れたのか喋るのがめんどくさくなったのかは知らんが口で話せ」


いやだって思考とか読まれるならこっちの方が――


「ならそのお口を綺麗に削ぎ落としてやろう。今なら地獄で鍛えなおした魔神妖刀村正ですっぱり削いでやろう。こいつの切れ味すごいぞ? 何せダイヤでもオリハルコンでも切る落として見せ――」


「分かったから止めよう」



いつ命を失うかと思うと気が気じゃないな。



「ふむ。仕方ないな。でだ、話をパワードリフト並みに戻すが、まずは……改名か? 質問か? さあ選べ」


「いやそんなドヤッとされてもと言いたいけど呼ぶ方としてはまずセカンドネームを変えようか。とろりんはやばい、何がやばいってもう呼ぶ方としてはきつい色々と」


「うむでは何にするか」


「よしならば――」
















「これで良いな」


「問題ない」



 どのくらい時間たったかは分からんが、何故か白熱した改名会議。結果は



「瀬名、良い響きだ。うむ、あっちに帰ってからもこれにしよう」



 今も羅刹こと前名とろりんが言った瀬名こそが彼女の新しい名前である。

 

 決定するに至った経緯は何と可笑しな話。たまたま俺が好きなタイトン・セナと言うF-G1と言う超高速レースの伝説的レーサーの事を頭に浮かべたとき、何と驚き彼女もそれを知っていたというのだ。で、そこからはトントン拍子。セナを元に名前を言うことに。いやぁあの世でも有名とは……タイトン、恐るべし!



「さて、改名も終えたことだし本題の事前説明と質問会を始めよう。ではどうぞ」


「今更感満載であれだけど始めよう。時間が結構経ったおかげで頭も整理整頓ピッカピカで新品同様になったからな」


「そうか赤子に戻ったかではどうぞ赤子君」



くそ! いつかぎゃふんと言わせてやる!



「いつかぎゃふんと言わせてやる!」


「おおお見事。ものの見事に本音と台詞が一致したよではどうぞ」



 どうしても先に行かせたいらしい瀬名。仕方ない質問してやる。



「じゃあ質問する前に。さっきの話の会議うんぬんの中で俺が質問しても良いものを挙げてほしいんだ」


「良いだろう。まずはノアの箱舟のリテイク……ああ、すまないな、それを合わせたらあとは天獄遊戯のみだ」



 少な過ぎてどっかんしそうだ。やばいねこの情報の少なさ。今時の情報社会でももっとましだよ? ええ? 瀬名さんや。



「極秘なのだよ。でだ、まずはノアの箱舟の話だが……この話の内容は大体は把握しているな?」


「ああ」



 確かあんまりのあほんだらな人間の数にプッツンした髪がノアの家族と全動物の雄と雌のみを助け、他の生物を洗い流したって奴だったな。



「ああそうだ。あの時の光景はまこと激しいものだったよ。食器の汚れを洗い流すことがあれほど平和に思えるとは思わなかった」


「まず食器洗いと比べるのはあれだけど、それ以前にどんな食器洗いしてたんだ」


「洗えば大破は当たり前だった。10枚あったら助かっても1枚だ。生存率1%以下のサバイバル、楽しそうだと思わんかね?」


「思わないから話し続けよう」


「うむ、そうだな」



 例の湯呑をまた召喚するとごくごくと飲み干す瀬名。優雅な動作である。



「で、今回没になったノアの箱舟リテイク計画だが、何故断念したか。まあ簡単に言えば規模だな、規模」


「規模?」


「うむ。前回はノア一家と選ばれた他の動物達を助けるため比較的威力をお押さえになったのだが今回は一斉掃除をという話になってな。威力的には前回の大体八万倍を予定されていたらしい」


「うむ、倍率は分かったがどのくらい? 何か例を見せてほしいのだけど」


「そうだな……これを見てくれ」



 瀬名は立ち上がると我が家のテレビの前に行き電源を点ける。するとそこには見たことも無いような荒野が続いていた。



「ていうかテレビまで操作するなよ。この11459ってないチャンネルだろ」


「この瞬間専用のチャンネルだ。で、これを見てくれ」



 そう告げると突如荒野に膨大な水が流れ始めた。そして徐々に水位を上げていくと水深……



「簡単に言えばマリアナ海溝より深いぞ」


「そこまでやらんでも」



 そんなふざけたことになった海らしきもの。すると突然激しい風が吹き始め空に暗雲が広がり、雷が鳴り響く。当然海は荒れる。まるで獰猛な肉食獣が暴れまわるかのように。いやそれすらも生温い気がする。ううん、間違いなく生温い。というかもはや表現できない。



「で、これの……そうだな、とりあえず試しに適当に倍にしてみよう」



 瀬名がそう言うと荒れていた海がさらに荒れ始める。そして波の高さが高層ビルを超え始め、ついには波が波ではなくってしまった。



「こんなの、天災じゃねえよ……」


「そうだな、もはや天災ではない。“天罰”だ」


「……」



 あまりのえげつなさに鳥肌が立つ。そりゃそうだ。こんなの来たらたとえ空に逃げても宇宙に逃げない限り死亡確定。逃げることのできない運命。まさに



「人類滅亡……」


「そうだ、その通りだ。だが、今回は流された。幸運だな。一歩間違っていればお前達生物は全て地球上から消えてしまうだろう。勿論バクテリアも微生物も、何もかも。文字通り、終焉だ」


「これでまだ……」


「全開ではない」


「……あはは」



 乾いた笑いしか出ない。



「まあさすがにそこまで落ちぶれた判定は出ていなかったのでだ。さっきも言った通り、流しとなった。だがな……」


「だけど?」


「次はないと思った方がいい」


「……」



 次はない。マジか。頭が吹っ飛んじまいそうだ。いや吹っ飛びそうだ。



「大丈夫だ。今の人類の堕落速度から行くと少なくともお前が生きてるうちにこんな目に遭わんよ。0ではないがな」


「うはぁ……」



 恐すぎる。


 

「さて、一応もしこの話が決行されていたらどのくらいの規模かは、想像はついたろうし、流れた理由は大方は分かっただろ」


「ああ」


「では本題に入ろう」



 そう告げた途端、瀬名の雰囲気が先ほどよりも硬く、厳格に変わる。



「これより開始に伴う事前説明をする。意味のない質問は無しだ。素早く始めたいし、何より少し複雑だからな。では始めるぞ」


「おう……」


「今回お前達選定された人間が参加する天獄遊戯。やり方については人間界で言う人生ゲームと大差ない」


「人生ゲーム……」


「ああ。さいころを転がし、進む。至ってシンプル。だが、それ以外にも特異なものがある」


「特異なもの?」


「ああ、よく聞いておけ。この特異なものこそ、お前の人生を左右する部分でもあるのだからな」



 俺の人生を左右する。さっきのテレビの件もあってか、少し……いやとても恐怖を感じる。



「まずは行動時だ」


「行動時?」


「ああ、行動時。行動に時を合わせて行動時。こうどうじとは読まずにこうどうどきだ」


「そうなのか……で、その行動時が何なんだ?」


「この行動時とはさいころを転がす前、さいころを転がした後のどちらかに一度行える行動ターンだ」


「行動ターン?」


「そうだ。例えばAが行動ターンとしよう」


「おう」


「そしてBが居たとしよう」


「ふむ」


「Aはまださいころを振っていない。だがここで行動時を宣言する。すると後で説明するが行動札と呼ばれるカードが出現する。勿論所持しているものだけだがな」


「おう」


「その中に相手を邪魔するカードがあり、それをBに使う。するとBはそのカードの効果によって何かしらの妨害を受けることになる。これで行動時は終了。後はさいころを振ることになる」


「妨害?」


「ああ。効果は様々だがな。まあそう言ったものはプレイ中にでも教える。でだ、そういった妨害、手助けと言った行動がターン毎に1度だけ行えるのが行動時というのだ」


「はぁ~」



 パーティゲームで言うアイテムの使用ってやつだな。



「でもそれで俺の人生に何の揺さ振りが?」


「くくっ、そいつは後の楽しみだ」



 恐ろしく悪女みたいな笑みを浮かべる瀬名。やばい恐い。



「で、次にターン数だ」


「ターン数?」


「そうだ。このゲームには1日につき決められた回数しかさいころを振れんのだ」


「そうか」



 まあそうだわな。いくらでも触れたら早く終わるし。



「ターン数は最大10回。勿論全部しなくてもかまわない」


「てことは何か? 何もせずに日常を過ごしてよいと?」


「そうだ。さいころを転がさずただ決められたレールの上を通るもよし、ただ堕落した日々を過ごしてもよし。ようはお前の自由と言うことだ」



 ふむ……



「ただ今回の遊戯が提案された訳を聞けばそうも言ってられないかもしれんがな」


「訳?」



 その訳に反応した俺を見てまるでそうなるであろうと予想していたのか、余裕の表情の瀬名。何故だろう、見た目綺麗なんだがとっても腹黒――



「殺してやろうかホトトギス?」


「疑問で聞いてくれるだけ感謝しますはい」



 おお、こわやこわや。



「で、その訳って何ぞね」


「ふむ。ではお答えしよう。まずこの天獄遊戯、一番の大きな点とは何だろう」


「んなもん分かるかバカたれ」


「ならば考えろ。さもなくば考えろ。ひたすら考えろ」



 おうこれはきついね。やばいね泣けてきたよ俺。お母さん助けて。



「私が助けてやろう」


「ならその大きなむ――」


「セクハラで警察署にいくか?」


「止めておくことも肝心だ」



 いくら何でも大げさすぎだ。何故少しのジョークに首に刀を突き付けるのか。しかも地味に血が出てる。



「まあいい。で、考えたか愚か者」


「地味に愚か者呼称が多くて泣けてきたよ」


「お前の現段階の称号が。頑張ってコンプしろ。お前ら一時の快楽に身を任せる馬鹿人間ならば容易く可能だろう」


「じゃあ聞くがどうすれば早く貯まる?」


「寿命を5カ月。ついでに一回につきな」


「それはきついね!!」



 まさか課金が課命に変わるなんて誰が想像できるかアホンダラ!!



「ついでにお前の寿命は残り60年だ」


「あれ、意外に多い」


「ただし現段階でな」


「おおう……ん? 現段階?」



 現段階という言葉に引っかかった俺は瀬名にどういう意味? という視線を送る。すると待ってましたとばかりに答え始める瀬名。



「この天獄遊戯、最大の目玉は……運命から逃れることが可能ということだ」


「……おう?」



どういうことだし……


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