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1.ファンタジー系

 灰色の雲が太陽を覆い隠し、大粒の雨が間隙を縫ってでも地面に叩きつけられる。大量の火薬が弾けるような雷鳴が断続的に轟き、いよいよ世界の終わりかと思わせる程の暴風雨の中で、鬱陶しい雨粒と忌々しい雷に悪態をついた。


「胸くそ悪いぜ。ああ、早く帰って女抱きてぇな」


 絹布で出来た襟巻きから水が滴り、舌を打った。この大雨でも洗い流せない汚れた地面に転がる空き缶を蹴り、不機嫌さをアピールする。薄汚れた水が流れる側溝にピッタリとはまり、唇の端を吊り上げた。


 異臭のする入り組んだ路地を進み、表通りからは隔離された場所に入る。肉が腐ったように猥雑な臭いが鼻孔を刺激し、顔をしかめた。雨の湿気に運ばれてくる臭いは、排気ガスを直接吸い込んだ時を連想させた。胸に広がる不快感に吐き気を催しそうになる。


 汚染された空気の漂う路地裏を、男は雨の中歩き続けた。この凄まじい暴風雨でも鎮火されない怒りの炎を顔に張り付け、憤りが腹に巣くう虫を暴れさせながら濡れて役割を果たさない襟巻きを顔に引き寄せた。


 肌にまとわりつく髪を後ろに流す。艶の無い硬質な灰色の髪から大量の水滴が飛び散り、空から降る雨粒と一体になって地面に落ちていった。眉間には神経質な皺が出来て、短く剃った薄い眉と相まって苛々とした感情を表現している。荒廃した映像を映し出す深い黒の瞳には鈍い光が射し、少し窪んだ目を尖らせた。固く伸びた鼻筋、無駄な部分を削いだような形を見せる鼻をぴくぴくと動かす。血色の悪い不健康な頬から連なる唇は、貝のように閉じられ固く結ばれている。


 全身を覆う黒い外套にはフードが取り付けられているが、雨にも関わらず外していた。皮のブーツから聞こえる足音はそこかしこから響いてくる雨音によって掻き消された。外套の上からでも分かる程に研磨された肉体は、大げさに肥大せず極限にまで引き絞られている。まるで、束ねたワイヤーを捻ったような筋肉が薄く張り付ていた。


 ゴミが乱雑に捨てられている路地裏を脱け出し、少し拓けた場所に出た男は脇目も降らず、なけなしの精神力を奮い立たせ憤怒に変換し目的の人物に向かって走っていく。水溜まりを踏みつける不愉快な感触にも目もくれず、充分な勢いのまま飛び上がった。


「だっしゃああああああ!」


 意味を成さない不可解な叫び声を上げながら、膝を曲げ足を後ろにやる。突進の力を利用して相手の腹に蹴りを入れた。


「グボァッ!」


 その人物は、口から空気を目一杯に吐いて後方に飛んでいく。宙に全身を預けながらすっ飛んでいったその人物の性別は女であった。まるで女性らしくない声を発し、シミの目立つ壁に叩き付けられる。


 よろよろと力無く立ち上がった女は光を映さない虚ろな瞳で男を確認し、青白い唇を形の悪い三日月のように歪めた。壊れた人形を思わせるカクカクとした動きで首を動かし、赤いドレスを自らの手で破った。そこから見える肌の色は、毒々しい紫。縮れた黒髪を振り乱しながら、女は甲高い笑い声を上げた。


「キヒヒヒヒヒヒヒ!」


 獲物を見つけた爬虫類を連想させる凶悪な表情を視界に収めた男は、歯を剥き出しにして笑う。女と同種の、しかし感情が窺える猛獣の瞳。歪めれた頬がつり上がり、殺意に満ちた空気を醸し出す。憤怒を拳に集め、きつく握り締めた。


「狩ってやるからありがたく思えよ、化け物」


 完全に相手を見下した不遜な態度を理解したのか、女は金属を擦り合わせたような声を喉から絞り出した。知性の無い生物が相手を挑発する際に発する音に似た、不快感を煽ってくる声に男は理性を保っていた糸が切れた事を認識する。


 爆発したかのように地面を蹴った男は、不気味な笑みを浮かべる女に接近していく。人間の持てるスピードを軽く凌駕した速度で近付く男は瞬きをする間もなく、女の懐に潜り込んだ。


「気持ち悪いんだよ!」


 鋭く響いた声と共に、握った拳を女の顎に叩き付けようと振り抜いたが、尋常ではない反応で避けられてしまう。 続けざまに手刀を喉に突き刺すように繰り出した。


「ギィッ……!」


 皮を破り、肉を削ぎながら指が喉に侵入する。生暖かい血と、固い筋のある肉の感触に口角を上げた。そのまま抉るように頸骨の一部を引き抜いた。骨の折れる独特の音を聴いて、更に笑みを深める。


 それでも痛覚が機能していないのか、女の動きに淀みはなく、すぐさま反撃をした。歪に折れ曲がった長く鋭利な爪が男の腹部を襲う。


 体を反転させ、それを回避した男は一歩だけ後ろに退いた。次の瞬間には男のいた場所へ雨を切り裂くような蹴りが通りすぎる。足は変形し、鉄のような皮膚と凶悪に伸びた棘となった骨が出ていた。


 蹴りを放った体勢のまま戻していない女の足を掴み、体を回転させ放り投げた。しかし、空中に投げ出されたままもう片方の足で攻撃を繰り出してくる。


 尖った骨が男の頬を切り、血が流れる。その間に、女は先程と同じように壁に叩き付けられた。


「男前の顔に何すんだよ」


 傷を撫で、爆発寸前の心を落ち着かせる。


 しかしーー


「あは、アハハハ。あァ、愉しいなァ」


 抑えきれない愉悦に顔を歪めた。醜悪な悪魔にも見える表情からは悪意の塊が鎮座している。地の底から這い上がってくるように低い声は、雨が激しく打ち付けた音にも負けずこの汚れた場所に響いた。


 瞬間、女の風貌が異様な変化を遂げる。濃い暗紫色の肌を破り、ヌメリとした粘膜の垂れる骨が全身から突き出てきた。うねりをもって動くソレに、男は垂涎の思いで見届けた。


 脳を震わせる快楽を感じて、指を不規則に動かす。今にも張り裂けそうな膜を守るように、焦点の合っていない目で女を睨んだ。


「ダメだわーー我慢デキネェ」


 醜怪さを全面に押し出した顔で笑う男は、狂気を隠さず呟いた。今すぐに女を引き裂き、千切り、滅茶苦茶に壊す幻想が見えて自然に涎が垂れる。渇望が身を焦がし、正気を失わせていった。


 先程よりも遥かに凶悪な姿の女が、ガリガリと地面を削りながら走ってくる。速度をそのままに、骨をつき出してきた。


 避ける事も、防ぐ事もせず男は持ち前の反射神経で白濁とした骨を掴み、折った。伸びてくる無数の攻撃に対して、男は刹那の間に対処した。 


 再び骨を操り攻撃してくる女の頭を鷲掴みにして、地面に叩き付けた。頭蓋が割れ、脳漿が水溜まりに溶けていく。


 断末魔を上げる瞬間、女は最期の一撃を出した。露出した骨を砕き、弾丸となって男に飛ばす。


 至近距離で発射された弾丸に、男は避けられず被弾。全身に穴が穿たれ、肉が飛び散り血しぶきが雨と融合し落ちていく。小刻みに全身を震わせ、地面に倒れ伏した。


 路地裏に転がる二つの死体に、冷たい雨が降り注いだ。


 

 後半の出来が最悪、適当過ぎたので少し反省。ちなみに続かない。

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