雪解け泳宮
全ての報告を聞いた入彦は目を臥せた。阿弖も自分の目で見た事が未だに信じられないでいるが、事実弟姫は亡くなっている大碓を一人で祀っていたのだ。どういう経緯でこうなったのか想像もつかない。
一人、入彦だけがやっと全ての実体を分かったかのように、深く深く溜息をついた。
「───きっと大王の意向に逆らってしまったんだな」
若さ故の過ち。だが、二度目は無い過ちだったのだ。
こうならないためにも入彦は再三娘達に注意を促してきた。娘達の様子からして、入姫はこの事を知らず、弟姫だけが知っていたのだろう。弟姫が青ざめる理由も仕方がない。
しかしずっとそのままでいてはいけないのだ。成長しなければ、前を見なければ、ずっと己を変えることは出来ない。
弟姫が罪の意識を何に転じさせるか、入彦はそれだけが心配だった。
ふと窓から空を見る。澄んだ空から太陽の光が柔らかく降り注いでいた。きっと今の時分は、大碓の造った池が想像以上に綺麗に輝く頃だだろう。入彦は忙しさにかまけてまだ見ていない池の光景を脳裏に描いた。あの池が全ての始まりだ。
弟姫が落ち着いたら、さり気なく事の次第を聞こうと思う。池を案内させて見るのもいい。最近の自分は入姫のことばかりを気にかけて、弟姫のことはすっかり後回しだったから。
***
季節が巡り春がやってくる。
春は雪解けの季節だ。
溶けない氷がないように、心のわだかまりもいつかは解ける。
入彦は思った。
───温かな日差しが、全ての罪を溶かしてくれればいい、と。




