外すのが面倒なピアス
再び陰陽師ですが、少し変り種です
「ボディーピアスか、正直、好きになれないな」
ファッション雑誌を見ていた貫に瓜が頷く。
「体に穴を開けるのは、どうもね」
そんな二人に走が近づく。
「二人とも、ちょっと質問、安倍十二支って知ってる?」
瓜が目を見開き、貫が首を傾げる。
「どっかで聞いた事がある名前だね?」
教室に入ってきた囁がため息を吐いて言う。
「霧流の長と一緒に竜騎機将をやっていた人ですよ」
「どうしてしらないかね」
呆れた顔をする瓜。
「そんな事を言われてもね?」
「そうそう、遠糸って八刃に戻ってから歴史浅いしね」
走と貫が呟き会う。
「それで、どうして十二支様の名前が出てくるのですか?」
囁が聞くと、走が手を叩く。
「あの人がその娘さんだって」
教室の外に居た、穏やか表情の女性が居た。
囁が驚く。
「子卯さんがどうしてここに? 京都の御実家で取り締まりをやっていたのでは?」
走が小声で尋ねる。
「偉い人なんですか?」
瓜が小声で答える。
「十二支様は、陰陽師では、屈指の実力者。子卯さんは、あっちで違法術者の取り締まりをやってる人。睨まれると色々と面倒なんだよ」
「そんな人がどうして八刃学園に居るんだ?」
貫の言葉に子卯が答える。
「貴方のシュートネイルがルール違反になってないかを確認に来ました」
「「「えー!」」」
貫、走、瓜が驚く中、囁が辛そうにいう。
「やっぱりそうでしたか」
貫が近づき肘で突く。
「どうして、あちきのシュートネイルが問題視されてるんだよ」
囁が小声で答える。
「八刃は、術の規制が殆ど無い代わりに外部との接触がかなり制限されているのです。ファイアーバトルは、外部接触が多いので、術の制限が必要じゃないかって話が前々から上がっていたのです」
走も近づき小声で呟く。
「でも、八刃の長だって、バトルに出てましたよね?」
そこに子卯が入ってきていう。
「それで問題に成っているのです。バトルの組織が、八刃の遺伝子を使った人体改造やっていた、それでかなりの大きなトラブルが多発していました。貫さんの術が他の術者達に悪影響を与えるんじゃないかと確認する事になりました」
一歩下がった所に居た瓜がいう。
「この距離じゃ、小声で話しても筒抜けだよね」
小さく咳払いをして囁がいう。
「実際問題、どうなされる予定ですか?」
子卯が笑顔で告げる。
「うちと戦って頂きます。その中で確認させて頂きます」
こうして、ファイアーバトルが行われる事になった。
ぬいぐるみショップシロキバに相談にしてきた貫にヤヤがいう。
「判っているけど、物理現象以外の術は、禁じ手だからね」
顔を引きつらせる貫。
「どうしてですか!」
ヤヤがお茶を啜りながらいう。
「物理現象外の術が発生することは、少なく、希少なのよ。その知識は、あまり外部に漏らさないようにって通知があるのよ」
顔を見合わせる走と貫に瓜が苦笑する。
「八刃って規格外なんだって」
そしてヤヤが言う。
「下手に規制がかけられたら、自分の首を絞める事になるから気をつけるように」
「他人事みたいですね?」
瓜の突っ込みに良美が言う。
「他人事というか、ヤヤの場合、規制掛かりまくりで、今更なんだよ」
それ以上、突っ込めない貫達であった。
「それでは、始めましょうか?」
子卯が告げると貫が構えて言う。
「よろしくお願いします」
すると子卯が、子の呪符を取り出す。
『子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥。時空を司る十二の獣よ我が意に答え、我が式神と成りてここに』
地面に呪符を向ける。
『八百子』
地面を覆いつくすような式神の鼠が現れる。
「いきなり大技だな」
観戦モードの瓜の言葉に子卯が苦笑する。
「見た目が派手なだけですよ。攻撃力は、低いですから」
「攻撃力が低いとか、高いとか以前の問題だ!」
貫は、慌てて右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の茶色の薬指の爪を数回擦り合わせる。
『土の盾よ巡れ、アースシールドサークル』
展開された土の盾に鼠達の進行を防ぐが、直ぐに連携して乗り越えてくる。
貫は、すぐさま次の手を打つ、慌てて右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の茶色の薬指の爪、青色の小指の爪を擦り合わせる。
『土と水の壁よ成れ、アースウォーターウォール』
水と土で生み出された壁は、鼠の突破を防ぐと同時に登るのを防いだ。
そうしている間に子卯が卯の呪符を取り出す。
『子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥。時空を司る十二の獣よ我が意に答え、我が式神と成りてここに』
突き上げられる卯の呪符。
『天降卯』
飛び上がった兎が見えないところまであがった。
殺気を感じた貫が咄嗟に反応する。
右手の『貫』と刻まれた親指の爪と左手の銀色の人差し指、金の中指の爪を擦り合わせる。
『金鏡よ包みて我を守れ、ゴールデンミラーカーテン』
上空から降下してきた兎を咄嗟に展開された物理攻撃を弾く。
「あらあら、それって物理現象そのものを変化させる、普通とは、違う技よね?」
子卯の言葉に顔を引きつらせる貫。
「貫、ヤヤさんの忠告忘れないで!」
走の言葉に貫が攻撃に移る。
右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の青色の小指の爪を擦り合わせる。
『氷の矢を射よ、アイスアロー』
氷の矢が子卯の体に貫かれる。
「嘘?」
驚く走だったが、貫が舌打ちする。
「偽者だよ!」
その言葉通り、氷の矢に貫かれた子卯が兎に変わって消えていく。
『子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥。時空を司る十二の獣よ我が意に答え、我が式神と成りてここに』
貫の周りに飛ぶ兎の呪符。
『弾兎』
咄嗟に貫は、右手の『貫』と刻まれた親指の爪と左手の金の中指の爪を数回擦り合わせる。
『剛金よ弾けて敵を砕け、ストロングボンバー』
放たれた弾丸が、呪符から生まれた兎とぶつかりあい、大爆発する。
二人の戦いを見て走が呟く。
「攻撃力そのものは、そんなに高くないね」
瓜も頷く。
「そうだね。咄嗟に反応してどうにか出来るレベル。それでも、使い方が有効だから、中々隙が無い」
貫は、右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の赤色の人差し指の爪を擦りながら右手を振り下ろす。
『炎の刃よ敵を斬れ、ファイアーブレード』
炎の刃が、展開していた水と土の壁を切り裂き、土を含んだ水蒸気を撒き散らす。
「視界を遮ったら、不利になるだけじゃないの?」
どこからともなく聞こえる子卯の声を無視して、貫は、周囲を見渡した。
貫が右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の青色の小指の爪を擦り合わせる。
『氷の矢を射よ、アイスアロー』
放たれた氷の矢は、子卯の足を捉えた。
子卯が驚いた顔をする。
「視界が塞がれた状態で、どうやってうちの位置を判断したの?」
貫が水蒸気を吹き払いながら言う。
「難しい事じゃありません。水蒸気の厚さで、何かあるか判断しただけです。完全に視界を殺せば、ダミーを使わないと思いましたから」
手を叩く子卯。
「お見事、うちの負けで良いわよ」
それを聞いて安堵の息を吐く貫だったが、その背中から一匹の鼠が出て来て子卯の手に戻っていく。
「それって……」
瓜の質問に笑顔で答える子卯。
「試合直後につけたチェック用の鼠。色々と調べさせてもらったわ」
顔を引きつらせる貫に走が言う。
「あんなのを取り付ける余裕があったら、間違いなく勝ててたよね?」
子卯が微笑む。
「どうかしら?」
敢て答えは、出さなかった。
数日後、貫は、机に突っ伏していた。
「どうしたの?」
走の質問に貫が通告書を見せる。
「今後のファイアーバトルで使用禁止が出たシュートネイルだよ。どうしてか、出してない筈の術まで明記されてる」
瓜が頬をかく。
「あのチェックの鼠が優秀だったんでしょ。それを考えると、やっぱりあの時は、勝たせて貰ったんだね」
ふて腐れる貫であった。