執着される猫目石の原石
久しぶりの輝石獣の登場、貫は、サポートです
「助けて」
会頭一番の瓜の言葉に貫が気にした様子も見せず、アクセサリー雑誌を見る。
「言っておくけど、今月は、そんなに戦ってないから売り上げ協力は、出来ないよ」
「違うの! 聞いて!」
何時に無く本気な瓜だったが、貫は、相手にしない。
「ねえ、可愛いそうだから、聞いてあげたら?」
走の言葉に面倒そうに貫が言う。
「もう何?」
瓜が必死な顔をしていう。
「手違いで、うちの家宝の原石を売っちゃったの!」
呆れた顔をする貫。
「どうして、そんな事になるんだよ?」
瓜は、遠い目をしながら言う。
「家の原石の仕分けをしていたの。その時、勉強用にって輝石獣を生み出すのに適した石として、家宝の原石を使っていたの。そこにお客様が来て、あたしが仕分けしていた原石を買い取ってくれたの。それは、もう、物凄く高値で」
呆れた顔をする貫。
「その中に、家宝の原石まで混じっていたって事か?」
視線を合わせず頷く瓜に走が言う。
「瓜らしくない失敗だね」
貫も同じ気持ちらしく頷く。
「そうだ、お前がそんな損な取引するとは、思えないけどな?」
瓜は、頬をかきながら言う。
「だって、家宝が混ざっていたけど原石に一億も払ってくれたんだもん」
少しの沈黙の後、貫が言う。
「詰り、半ば解って居たのに売ったのか?」
否定しない瓜。
「それで、どういう状況なの?」
走の質問に、瓜が涙ながらに言う。
「お母さんにばれて、まともな商売をしなかった罰って、ファイアーバトルに参加する事になったんだけど、使用する輝石は、全部自腹って言われて居るの」
「それは、大変だな。頑張ってくれ」
貫があっさり見捨てるが、瓜がしがみ付く。
「全力で戦闘したら、あたしの貯金が無くなるよ!」
「だよね、殆ど生身で戦う白風や萌野と違って、遠糸や百母は、お金が掛かるものね」
走が同情するが、貫は、相手にしない。
「自業自得だ、諦めろ」
瓜は、搾り出すように言う。
「次の商品を店員割引で売ってあげるから手伝ってくれない?」
貫が笑顔で言う。
「一品安くしてもらってもな」
「これ以上は、むりだよ、営業成績が下がったら、お小遣いが減るんだから!」
瓜の言葉に貫が笑顔で言う。
「何、安売りしろって言ってないし、営業成績も落とさないさ。ただ、この前お店にあったキャッツアイのアクセサリーをキープしてて欲しいいんだ」
複雑な顔をする瓜。
「今月中には、お金が貯まる?」
「努力する」
貫の守る気が薄そうな言葉にも頷くしかない瓜であった。
そして、ファイアーバトルの開始。
「お前が、百母の本家の人間だな」
指差してくる、体中に文様を描いた召喚師、ユンクに貫は、隣に立つ瓜を前に出して言う。
「百母の本家は、こいつ。あちきは、遠糸の本家の人間で、貫だ。助っ人だ」
「お手柔らかに」
営業スマイルを浮かべる瓜に対してユンクが言う。
「同じ、獣を使役する者としてどちらが上か、はっきりさせてやる!」
そういって、地面を杖で叩くと、地面に巨大な召喚魔方陣が浮かび上がる。
『古からの盟約に従い、我が求める。我にその大いなる力を貸せ、阿修羅』
そうして現れたのは、三面六臂のその姿を見て感嘆する貫。
「すげえ、神様を召喚したよ」
それに対して瓜が小声で解説する。
「あの人は、創作系の召喚師だから、今構成したんだよ」
首を傾げる貫。
「その創作系って何だ?」
瓜が答える。
「一般的な召喚師には、実は、二種類居るの。一つは、本当にその者を召喚するタイプと召喚と言う形式で、召喚対象に近い物を合成するタイプ。あの人は、後者。俗に阿修羅と呼ばれる存在をこの場に合成したんだよ」
「力は、どうなんだ?」
貫の実務的な質問に瓜が答える。
「大抵は、落ちるよ。でもあのクラスの擬似神とまとも戦ったら、間違いなく破産だよ」
溜息を突く瓜に貫が前に出て言う。
「留めは、あんたが刺してよ。それまでの時間は、あちきが稼ぐ」
そう言って駆け出す貫。
「阿修羅よ、邪魔者を滅ぼせ!」
ユンクの声に応え、阿修羅の顔が回転して、鬼の顔になり、口から炎を連射してくる。
貫は、右手親指の爪で、右手の赤色の人差し指の爪を擦りつけ放つ。
『炎を導く矢を射よ、ファイアーコールアロー』
放たれた矢は、阿修羅の放つ炎を誘導して、外させる。
舌打ちするユンク。
「ならばこれでどうだ!」
能面みたいな顔が現れて、その口から吹雪が発生する。
貫は、右手親指の爪で、右手の青色の小指の爪を擦りつけ放つ。
『水の矢を射よ、ウォーターアロー』
放たれた水の矢は、吹雪で氷つくが、肝心の冷気が全て水に吸い取られて貫には、ダメージを与えられない。
「ならば、接近戦で倒すのみ!」
ユンクの言葉と同時に最初の顔に戻った阿修羅は、その六本の手で攻撃を開始した。
貫は、最初の二本の腕の攻撃を紙一重でかわしながら右手親指の爪で、右手の茶色の薬指と青色の小指の爪を擦りつけ放つ。
『粘る泥の矢を射よ、マッドアロー』
貫が放った泥の矢は、後から攻撃してきた中間の二本の腕に命中し、そのまま、最後の二本の腕とくっついて攻撃を完全に無効化してしまう。
「今だ!」
貫の言葉に答え、瓜が蛇の様な形をした携帯ストラップを取り外す。
『百母瓜の名の元に、この寄り座しを用いて、ここに獣晶せよ、気喰蛇』
ガーネットが埋め込まれたその蛇は、一気に阿修羅に巻きつき、そのまま、全身から気を喰らう。
「阿修羅よ、お前の力で、引き裂け!」
ユンクの言葉に答え、力をあげる阿修羅だったが、その動きは、直ぐに緩慢になりそのまま消滅する。
その反動がユンクにダメージを与える。
瓜が近づき、地面に落ちた人形を見る。
「まあ、召喚獣が破れた時の返り風を逃す儀式は、やってたみたいだから、死なないね」
ダメージを逃しきれなかったのか吐血しながらユンクが言う。
「どうしてだ! どうして阿修羅がああも簡単に倒された! 百母との差がこんなにもあると言うのか!」
それに対して瓜が貫を指差して言う。
「攻撃力に特化した阿修羅の攻撃を凌いでくれたから、十分に準備が出来た事。もう一つは、気張り過ぎ。最強の召喚獣を呼び出そうとして、自分の能力以上の阿修羅を呼んだ。その所為で、無駄な気がだだ漏れして居た。だから気喰蛇の能力が有効だっただけ」
その言葉を聞いて、ユンクが脱力する。
「自分に負けたと言うのか……」
この後、ユンクは、大人しく負けを認めた。
次の日の放課後、瓜が机に突っ伏していた。
「どうしたの?」
走が質問すると、貫が答える。
「例の原石な、偽者だったららしいぞ」
涙ながらに瓜が叫ぶ。
「お母さんに騙された!」
肩を竦める貫と走であった。






