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常勝街道記  作者: 鈴神楽
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悔し涙な真珠の耳飾

貫の敗北の話です

「誰が最強だと思う?」

 ぬいぐるみ屋、シロキバのバイトの途中にとんでもない爆弾発言をしたのは、走だった。

 鍛錬に来ていた貫が顔を引きつらせて言う。

「そんな危険発言は、止せ!」

 首を傾げる走。

「どうして?」

 それに対して、貫に真珠の耳飾を売り込みに来ていた瓜が言う。

「あのね、八刃の中でそんな疑問を持って争い始めたら、大変な事になるでしょうが」

 それに対して、主人のヤヤが不在で店番を任されていた百爪が答える。

「成らない。第一、この世界で最強は、間違いなくあたしだよ」

 その言葉に貫が言う。

「幾らなんでも、それは、反則だと思いますよ」

 百爪が苦笑する。

「それだったら、八百刃獣の力を借りている八刃の大半が反則だよ」

 肩を竦める瓜。

「実際、一般人には、反則扱いされているよ」

「それじゃ、鍛錬に戻ろうか」

 有耶無耶にしようとした貫だったが、空気を読まない走が言う。

「百爪様を抜かしたらどうですか?」

 貫に睨まれ涙目になる走に百爪が答える。

「まず、単独の近距離線なら、ヤヤの父親、エンだな。最強の鬼神の名は、伊達じゃ無いぞ」

 瓜が思い出したように言う。

「そういえば、苦戦したって話すら聞いたことありませんね」

 百爪が頬をかきながら言う。

「あれは、巡り会わせが良いのか悪いのか、とんでも無い相手には、あまりめぐり合わないからな。次に龍に対して一番強いのは、無敵の万年竜殺し、霧流家の六牙ムガだ」

 頷く貫。

「八刃の強者が揃って倒したバハムートヘルと同等の力をもった魔神龍を単独で倒したって逸話を聞いた事がありますしね」

 百爪が続ける。

「術としての能力なら間結のアン。射撃能力だったら貫の母親、トオル。あらゆる状況を想定して一番の勝率だったら、オールラウンドオブスピアと呼ばれる白風のゼロだ」

 走が疑問符を浮かべる。

「あれ、こんだけ名前が出てるのに、どうして八刃の長のヤヤさんが出てこないんですか?」

 言われてみて始めて気付く貫。

「そういえば、一番に出てきても良い名前なのにな」

 瓜が当然とばかりに言う。

「これから、出てくるんですよね」

 百爪はあっさりと答える。

「ヤヤは、純粋な戦闘能力じゃ、ナンバーワンに成れる物ないぞ」

 三人が驚く。

「うそです!」

「そうだ、うちのお母さんだって絶対勝てないって断言してるぞ!」

「ホワイトファングって反則技ももってるんですよ?」

 百爪は、手を横に振る。

「あのな、威力は、ともかくとして、技としてホワイトファングは、大味すぎる。今名前を挙げた面子だったら、対抗策の一つや二つもってるぞ。通だって、鍛錬の最中は、何度か凌いでる」

 信じられない顔をして顔を見合わせる三人。

 しり込みする中、走が手を上げる。

「それじゃあ、なんで八刃の長って呼ばれて居るんですか?」

 百爪が笑みを浮かべて言う。

「あいつの通名を知っている?」

 瓜が答える。

「いくつもありますが、一番メジャーなのは、ホワイトハンドオブフィニッシュでしたっけ?」

 百爪が頷く。

「ヤヤは、まさにフィニッシュ、必殺なんだ。どんな相手にも戦闘を続行させない一撃を打ち込んで来た。父親と対極的に年がら年中自分より強い奴を相手にしてきたんだ、能力に頼った戦いなんて出来やしない。自分に出来る最大限の事で、相手に必殺になる一撃を決める。それをやり続けられたから、八刃の長なんだ。お前らも覚えておけよ、能力の高さが勝負を決める絶対条件には、ならない。逆にどんなに小さな力でも、相手を確実に仕留められるなら、それこそがお前達、自分より強い力を持った異邪を己が意思を籠めた力で歯向かう八刃だって事を」

 神妙な顔をする三人。

 そんな中、百爪が窓から月を見て言う。

「ドジッたな」

 次の瞬間、月の模様が替わっていくのが目に見えた。

 重い沈黙の後、貫が言う。

「あれってもしかして……」

 百爪が帳簿整理をしながら言う。

「ヤヤだろうな。何でも、かぐや姫の血を引く人間が強制的に月に呼び込まれて、それを助けに行こうとする男が、良美と意気投合して、月まで追っかけるのを手伝ってるらしいからな」

 瓜が疲れた顔をして言う。

「月の模様を変える人が小さな力で大きな力に逆らってるなんて説得力がないですね」

 貫や走も頷く中、百爪が言う。

「目の前の問題を解決する為に、山のようなトラブルを発生させる性質も持ってたな」

 月の模様については、後日、巨大隕石の衝突とされるが、それは、また別の話である。



「次の対戦相手?」

 学校で相手の資料を見て眉を顰める貫。

「どうしたの? 何、このデブ?」

 横から見た瓜も首を傾げる。

 走が少し考えてから言う。

「でも、デブだから弱いって事ないですよね?」

 貫が言う。

「基本的には、外見なんて、意味ないね。ヤヤさんが良い例。だれもあの人が昔は、対戦者相手を人として壊してまくっていて、月の模様を変える事が可能なんて思わないよ」

 瓜が資料についていた顔写真を突きながら言う。

「顔つきを見れば性格が解る。この顔は、大きな力に守られてそれを疑ってない、ボンボンの顔だよ。とてもファイアーバトルの参加者とは、思えない」

 貫も頷く。

 この時点で貫は、ある種の油断をしていたのかも知れない。



 そして、下校途中、人気が無くなったところから、襲撃が始まった。

 後ろに飛びのく貫。

「どうしたの?」

 走が聞くと瓜が道路を指差す。

 さっきまで貫が立っていた場所に銃弾が埋まっている。

「遠距離からの射撃。離れて!」

 次々と襲ってくるライフル弾に貫を襲う。

 走が遠くを見て言う。

「あそこ、ビルの屋上からの精密射撃だよ」

 瓜が目を細めるが、まともな影が見えない。

「この距離で良く解るね」

 走が頷く。

「視界を邪魔するものが無ければ、どんな遠くでも大丈夫なの」

 貫がつまらなそうに舌打ちをする。

「どうせ、あちきは、遠糸のその能力を持っていませんよ!」

 走が困った顔をする中、瓜が言う。

「そんな事より、早くどっか戦いやすい場所に移動して。あたし達を巻き込まないでよね」

「はいはい!」

 貫は、わき道に逃げていく。

 そして首を傾げて走が言う。

「でも、あの人、さっきの資料の人と違ったな?」



 貫は、遮蔽物が多く狙撃に向かない廃ビルが隣接した場所に逃げ込む。

 実は、ここは、ヤヤが保有する、ファイアーバトルに適した場所の一つで、貫は、今まで何度もここに相手を引っ張り込み、勝利を収めていた。

「あの殺気からして、あの資料の男じゃ無いな」

 ビルの壁越しに様子を探る貫。

 しかし、攻撃は、予想外の所から来た。

 咄嗟に貫は、右手親指の爪で、左手の緑色の薬指と黒色の小指の爪を擦りつけ放つ。

『吸収の闇の矢を射よ、スポイントダークアロー』

 放たれた闇の矢は、後方から迫ってきた、大爆発の威力を激減させる。

 同時に貫は、跳びあがり空中で丸くなって爆発の衝撃に逆らわず、そのまま大きく飛ばされ、壁に故意的にぶつかる。

 壁が破壊され、地面に叩きつけられる貫。

 貫が周囲の気配を探りながら呟く。

「下手な鉄骨にぶつかる前にコンクリートの壁にぶつかって勢いを殺すなんて真似を本当にする事になるなんて、最低!」

「良い教えを受けた」

 貫が声の方を向くと、走が見た男が居た。

「あんたは、何者?」

 それに対して男が淡々と答える。

「殺し屋だ。お前の対戦者の男からお前を殺してくれと依頼された」

 貫は、油断無く構えて言う。

「なるほどね、そうやって勝ち抜いてきたって事だね。でもここまでだよ。二度と不意打ちなんて通じない」

 殺し屋は、あっさりと頷く。

「そうだろう。今の攻撃を凌いだ実力から考えて、トラップで倒すのは、難しい」

 そういって殺し屋は、スイッチを押すと周囲が爆発する。

「油断させたつもりかもしれないけど効かないよ!」

 貫が右手親指の爪で、右手の茶色の薬指と青色の小指の爪を擦りつけ放つ。

『土と水の壁よ成れ、アースウォーターウォール』

 土と水で出来た壁が爆風を全て防ぐ。

「次で決める!」

 貫が必殺の一撃を決める為に右手親指の爪で、右手の白色の親指を数度擦りつけた。

 しかし、壁が消えた瞬間、貫は、捉えていた筈の殺し屋が居ない事に気がつく。

 咄嗟に自分の死角に顔を向けようとした時、自分の視界に入るナイフを見てしまった。

 爆発と同時に突っ込み、そして、壁の崩壊と共に、真ん前から飛び上がるように迫る殺し屋のナイフは、完全に貫の不意を突いた。

 それでも常人と八刃の人間の体の違いがここで発揮された、咄嗟に腕でガードして間合いを空ける事に成功する貫。

 大きな切り傷を作った左腕を押さえながら悔しさに言葉も無い貫。

「凄まじい。あの状況で攻撃をガードするとは、流石は、人外と呼ばれるだけは、ある」

 殺し屋の褒め言葉も今の貫には、皮肉にしか聞こえなかった。

「詰り、同じ条件だったら絶対に殺してたって言いたいみたいね!」

 それに対して殺し屋は普通に答える。

「無駄な仮定だ。そんな仮定を立てるより、どうすれば殺せるかを考えた方が有意義だ」

 貫が右手を殺し屋に向けて言う。

「プライドがかなり傷ついたけど、これで御終い!」

 この後、殺し屋がどう動こうと次の攻撃を命中させる自信が貫には、あった。

 しかし、膝を着いたのは、貫だった。

「……毒」

 殺し屋がこの状況でも油断無く近づきながら答える。

「常人なら致死量だ。それでもまだ命がある。やはり、首を刎ねるしかないな」

 貫は、死を覚悟した。

 その時、殺し屋の動きが止まった。

 貫が必死に血流コントロールによる、毒の排除を試みながら、このチャンスを生かそうとしていた。

 殺し屋は、ナイフを構えたまま携帯に出た。

 少し話した後、殺し屋は、携帯を貫の前に捨てて言う。

「依頼主が違約金を払ってキャンセルしてきた。ビジネスは、ここで終わりだ」

 そのまま消えていく殺し屋。

 貫は、どうにか動けるようになった所で相手のヒントを掴もうと殺し屋が捨てた携帯電話を拾って、最後の着信に電話する。

『今回は、私が、本当の対戦相手をギブアップさせといたわ』

 ヤヤの声に目を驚く貫。

「どういうこと!」

 それに対してヤヤが答えてくれた。

『月から帰ってきたら、殺し屋ブラッティーフィンガーが貫の対戦相手に雇われたってタレコミがあった。今の貴女じゃ勝てる相手じゃ無いから、少し強引だけど、終らせておいただけ。最初にいっておくけど、貴女は、常勝で無いといけいない解るわね』

 激しい葛藤の後、貫が答える。

「……解っています」

 悔しさに涙を流す貫。

『悔しいでしょ? 強くなりなさい、いつか大切な者が出来た時にそんな思いをしなくて済む様に』

 貫は、携帯を握りつぶす。

 そして、大泣きをした。

 公式上は、貫の常勝は、続き賞金も手に入った。

 貫は、その賞金で買った真珠の耳飾に大きな傷を作り、常に身に着ける様にした。

 貫の胸には、真珠の傷の様な強い敗北の傷が刻まれたのであった。

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