信念を通す金剛石の腕輪
遠距離攻撃に苦戦する貫の話です
「次の相手ってどんな人?」
走の質問に困った顔をする貫が大きなため息を吐いて言う。
「相庭翔、スイーパーだよ」
首を傾げる。
「ライフルを使う人ですか?」
「それは、スナイパー。3Sが何の頭文字か忘れたの?」
貫の言葉に手を叩く走。
「そうだった、シャドーサイドスイーパー、確か影側の掃除屋って意味だよね?」
貫が頷いて答える。
「裏家業の人間で、拳銃を使った殺人を得意とする人。はっきり言ってファイアーバトルのルールでは、一番厄介なタイプだよ」
「知ってる。正面から戦わないけど、いつの間にかに相手を負かしてるって切れ者でしょ?」
瓜が湧いて出る。
「その上、節操無しの女好きだって事だよ」
貫が再びため息を吐く。
放課後、そいつは、八刃学園内でナンパをしていた。
「ねえ、きみ僕といい事しなーい?」
「うちの校内でナンパなんて珍しいですね」
走の言葉に瓜も頷く。
「まーね、うちの学校の生徒は、可愛い外見していても、ライオンを素手で殺せる子が多いから」
因みにこの三人は、その気になれば象でもKO出来る。
そこにナンパ男がやってくる。
「君達、可愛いね。お兄さんとデートしない。大丈夫、エッチな事は、大人になるまで待つから」
「ここで、ふっ飛ばしても勝ちだよね、相庭翔」
貫が睨むと手を叩く翔。
「そうだった、君が対戦相手だったね。まあ、それは、おいておいて、お茶でもどう?」
困った顔をする走。
「もちろん奢りだよね?」
瓜の質問に翔が胸を叩く。
「女の子に金を払わせた事が無いことが自慢だよ」
「それで、何時も金欠だって、ホープさんから聞いていますよ」
貫の言葉に苦笑する翔。
「師匠もいう事がきついな。キッドさんとまだ結婚してるの?」
瓜が笑顔で答える。
「それは、もう仲直りの印として、うちのみせで大粒のダイヤがついた腕輪を買って行かれました」
翔が遠い目をして言う。
「あれがばれても離婚されなかったのか、師匠も頑張ってるな」
話についていけない走が呟く。
「どういう事ですか?」
貫が答える。
「翔の師匠は、バトル時代の十三闘神の一人、銃神ホープさん。ヤヤさんとも知り合いなの。そして、浮気騒動で、家一つ壊滅させたって話だよ」
瓜がしみじみと頷く。
「二人の娘でもある、ツモロー先輩から相談を受けて、うちの高級品をお詫びの印で買うことで事なきを得たんです」
「そこに行き着くまでの間で家が一つ潰れたんだ」
走の言葉に翔が言う。
「凄い夫婦だねー」
同意を求められたのだろうが走は、少し驚いた顔をして言う。
「そのくらいで済むって、キッドさんって本当にお淑やかなんですね」
強く頷く貫と瓜に翔が顔を引きつらせる。
「家が一つ潰れたんだよ?」
貫が遠い目をして言う。
「あちきのお父さんが、風俗店に行ったのがばれた時は、周囲一キロが焼け野原になったよ」
「うちは、巨大な氷山と雷雲が周囲を支配したね」
瓜も即座に続く。
「君達の父親も大変だね」
翔が同情すると、走が言う。
「あのね、あたし達の所は、まだましだよ。八刃の男性の奥さん達は、みんなもっと酷いらしいから」
「うちのお婆ちゃんとお爺ちゃんは、二人とも本家筋の人間だから、夫婦喧嘩になると、周囲に結界が展開され、その中は、地獄だったらしいよ」
瓜の言葉に流石に言葉を無くす翔に貫が追い打ちする。
「因みに親子喧嘩で、南極に巨大なクレータ作った人達も居るよ」
肩を竦める翔。
「今更ながら八刃の規格外さには、驚かされる。とにかく行こうか」
貫の肩に伸びた翔の手が止まる。
「公衆の面前で殺人するのは、迷惑ですから止めてくれませんか?」
翔の手首を掴んだ貫の言葉。
「毒針って古典的な手を使うね」
瓜が翔の手に隠されていた毒針をとり言う。
翔は苦笑する。
「古典っていうのは、意外と優れている方法なんだけどね。それじゃあまた今夜」
去っていく翔。
「このまま見送って良いんですか?」
走の言葉に肩を竦める貫。
「この場で戦闘する訳にも行かないでしょ。それを見越して来てるんだよ。ナンパで陽気な性格なのに、こういった陰険な手も得意って困った奴なんだよ」
そしてその夜、貫は、夜の廃墟を逃げていた。
「こっちの射程に入らない」
貫が舌打ちしてから横に飛びのくと、貫が居た場所の壁をライフル弾が穿つ。
「本気で節操がない。何でも拳銃でこなしていたホープさんの弟子とは、思えないよ!」
『師匠みたいに天才じゃないんでね。得物を選べるほど余裕がないんだよ』
その声は、四方から聞こえてくる。
貫は、油断無く、射線が発生しない地点に移動する。
「やっぱり厄介だよ。こっちの射程を完全に読まれてる」
悔しそうな顔をして、眼鏡を弄る貫。
「どんな遠くでも糸を着けた様に貫くって意味の遠糸の姓を名乗ってるのに……」
落ち込んでいく貫の目に数日前の特訓でついた傷が目に入った。
数日前、シロキバ隣接の道場で、何時もの様に叩きのめされる貫。
「この頃、何をやってるの?」
叩きのめした相手、八刃の長、ヤヤの言葉に貫は、下を向く。
溜息を吐いてヤヤが言う。
「飛距離を伸ばそうとあがいてる最中みたいね」
図星を突かれた貫が、情けない顔をしてヤヤを見て言う。
「やっぱり、あちきには、駄目ですか?」
『アポロンビーム』
ヤヤは、指先から熱線を放ち、窓から見える数十メートル先の木の実を落とす。
貫は、点にしか見えないそれがあっさり落とされた事に才能の差を思い知らされる。
「凄いですね。やっぱり八刃の長になる人は、違うんですね」
ヤヤは、苦笑する。
「止まっているのを狙えてたって実戦じゃ大して役に立たない。遠糸は、その視線の半ば予知能力に近い予測能力で相手の動きまで見抜き、命中させる。通だったら、数百メートル離れていても、視界を塞ぐものさえなければ、チーターでも命中させられる」
俯く貫にヤヤが言う。
「私は、ホワイトファングがあればこの世界の者だったら何でも滅ぼせる。それじゃあ、他の技には、意味が無いの?」
意外な質問に貫が言う。
「そんな事は、ありません。ホワイトファングは、威力は、凄いですが、強すぎる威力では、使えない場面が多いです」
ヤヤが頷き質問を続ける。
「さっき言った、通の技って何処で使うの?」
貫は、戸惑いを覚えた。
「えーと、それは……」
「それが、答え、どんなに優れた力だって、大きすぎれば意味が無い。はっきり言ってあげる、貴方の目には、力がある。その力を使えばいくらでも代用が利くよ」
ヤヤの言葉に貫の中にまだ形がない自信が一つ生まれた。
「もう一つ、距離を伸ばすのは、無理じゃない。目の力だけが遠距離に命中させる技じゃない。さっきやって見せたように、気を飛ばして、それで目標を捉える方法等など、色々と方法がある。自分にあった方法を見つけなさい」
「はい!」
貫が元気よく頷くのであった。
「そうだよね、方法は、一つじゃない」
貫は、射線がある開けた空間に出る。
ライフル弾が迫ってくるが、高速移動でかわし、また射線から隠れる。
『このままかくれんぼかい? 時間切れになって困るのは、そっちだよ?』
翔の言葉に貫が答える。
「ご心配なく。ここから反撃しますから」
貫は、右手の『貫』と刻まれた親指の爪と左手の金色な中指の爪を擦り合わせる。
『剛金よ弾けて敵を砕け、ストロングボンバー』
貫が放った一撃は、さっきのライフル弾の弾道予測で見つけたビルに直撃し、破壊するのであった。
その時、翔は、ライフルを構えて倒壊していくビルの屋上に居た。
「まさか、ビル一つ破壊するのか?」
戸惑いながらもいざって時の為に用意した隣のビルへのロープを掴む。
しかし、その目の前で隣のビルまで壊れていった。
「……冗談だろう」
そして、翔は、ビルの倒壊に巻き込まれた。
ビルが崩壊し、砂煙が消えていく中、咄嗟に受身をとり、死ななかったが、即座に動けない翔の視界に貫が入ってきた。
向けられた右手を見て、翔が即座にライフルを貫の足元に投げて、両手をあげる。
「俺の負けだ、大人しく負けを認める」
貫は、ライフルの銃身を踏み潰しながら、油断無く構えて言う。
「随分、思いっきりが良いじゃない?」
翔が肩を竦めて言う。
「君との勝負は、いかに君の射程に入らないかだ。射程に入った以上、俺に勝ちは、無い」
その言葉に偽りが無いことを認めて貫が背中を向ける。
「中々有意義な戦いだったよ」
そのまま歩いていく貫。
このまま貫が無事ならば、後で翔が何を言っても敗北は、変わらない。
しかし、翔は、諦めていなかった。
貫の射程から抜けた瞬間、隠し持っていた拳銃を引き抜く。
その瞬間、貫が振り返りもせず右手の親指の爪と左手の白い親指の爪を擦り合わせる。
『光の矢を射よ、ライトアロー』
光の矢が翔の拳銃を持った腕を貫いた。
貫は、独り言の様に呟く。
「目標の位置さえちゃんと捉えていれば目を瞑っても命中させられる。これが、あちきの力だよ」
貫が新しい自分の力を確信するのであった。