勝敗と共に判明するジルコニアの指輪
いきなり最終回です
「次の対戦相手は、あたしだからな」
ぬいぐるみショップ、シロキバで良美に通達を受けて貫が首を傾げる。
「良美さんって強いんですか?」
胸を張る良美。
「これでも学生時代は、空手で全国大会出てたんだぞ」
「凄く微妙……」
瓜の感想に貫も頷く。
「でもでも、確か良美さんに手を出したら、ヤヤさんに殺されても仕方ないって言うのがこの世界の必須の常識ですよね?」
走の言葉にヤヤが苦笑する。
「ファイアーバトルの時までそんなルールを持ち出すほど私は、野暮じゃないわ」
「だったら楽勝じゃん!」
貫の言葉に苦笑するヤヤであった。
「良美先生と戦うんだってね?」
貫達が家に帰ると珍しく通が居た。
「そうだ、通さんは、良美さんとの付き合い長いですよね。模擬戦とかした事ありますか?」
走の言葉に通が頷く。
「滅多に相手してもらえないが、やった時は、いつの間にかに負けてたな」
長い沈黙の後、貫が言う。
「だって、良美さんって物凄い戦闘能力持ってるとか無かったよね?」
あっさり頷く通。
「そうだな。戦闘能力が、勝敗を決める決定的な要素じゃないって証明だな。元々あれってヤヤさんの強さだって教わった事あるな」
首を傾げる貫と走。
「ヤヤさんの力って、ヤヤさんってとんでもない戦闘能力もってるじゃないですか」
走の言葉に通が言う。
「あたし達もそう思っていた。でも、古参の人達に言わせれば、ヤヤさんの一番の力といえばどんな状況でも勝つ、必勝能力だって事だ。それを目の前で見てきた良美先生もそれを身につけたって話だぞ」
「どんな状況でも勝つ、必勝能力って何ですか?」
眉をひそめる貫に肩をすくめる通。
「解らない。何度、体験してもその真髄って奴は、掴めなかった。八刃の中でもあれを持ってるのは、ヤヤさんだけらしいからな。それに一番近づいたのは、七華さんって話しだし」
「必勝能力ね」
腕を組んで考え込む貫。
翌日のぬいぐるみショップシロキバ。
「必勝能力って何ですか?」
ストレートに本人達に質問する走。
ヤヤは、少し考えてから言う。
「負けない能力?」
良美が続けて言う。
「根性の成果だ!」
「意味解りません!」
瓜がクレームを上げるとヤヤが困った顔をする。
「私や良美の力の事をそう呼んでるのは、知ってるけど、あれは、腕力とか洞察力とかそういったものとは、一線を引くの。敢えて表現すると危機的状態での絶対勝利意志。こればっかりは、理屈じゃないの。度重なる重度の死線を乗り越えた先に到達する物だからね」
実感が湧かない貫達に良美が言う。
「あたしと戦えば解るさ」
そして、戦いの時が来た。
よく使われる廃棄地区に貫と良美が対峙する。
「それじゃ、行くか」
無造作に近づく良美。
貫が右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の赤色の人差し指の爪を擦り合わせる。
『炎の矢を射よ、ファイアーアロー』
炎の矢が良美に向かって飛ぶが、それを紙一重で避けると良美が更に接近してくる。
貫が右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の茶色の薬指の爪を数度擦り合わせる。
『土の盾よ巡れ、アースシールドサークル』
土の盾が生み出されて良美の接近を防ぐと、集中力を高める貫。
貫が右手の『貫』と刻まれた親指の爪と左手の白色の親指の爪を擦り合わせる。
『光の矢を射よ、ライトアロー』
狙いを定めた光の矢が土の壁の隙間から撃ち出された。
しかし、それが避けられたと思った瞬間、良美の拳が貫の画面に決まっていた。
顔面を押さえながら間合いを空ける貫。
「何かが変だ! 早いとか、鋭いとか、そんなんじゃない!」
戸惑う貫に良美が悠然と告げる。
「これが必勝能力って奴だ」
貫から油断が抜けた。
貫が右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の赤色の人差し指と左手の黄色の中指の爪を数度擦り合わせる。
『雷炎の矢を乱れ撃たん、プラズマアローラッシュ』
本人にも軌道予測できないプラズマの矢の乱射。
それを回避する事は、八刃の熟練者でも困難な筈だった。
しかし、良美は、プラズマの矢の中を突っ切り、接近する。
貫が右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の青色の子指の爪を擦り続ける。
『水の刃よ敵を斬れ、ウォーターブレード』
振るわれる水の刃が、良美の服を切り裂く。
服だけを。
良美の蹴りが貫のわき腹に突き刺さる。
崩れ落ち、咳き込む貫。
「ヤヤも言ったでしょ、洞察力とかそういう類の力じゃないって。別段、貴女の癖をよんで、避けているわけじゃないからランダム攻撃が避けられない訳じゃない。回復する時間をやってるのは、サービスだぞ」
貫が、涙目になりながら後退する。
「舐めないで下さい! あちきだって死線の一つや二つ……」
術の体勢に入る貫だったが、視界から良美が消えていた。
「あたし達が抜けてきた死線の数は、百じゃきかないよ」
後ろから声に焦る貫。
貫が右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の赤色の人差し指の爪を強く擦り合わせる。
『火炎よ広がりて焼き尽くせ、ファイアーバースト』
周囲に炎が撒き散らされる。
しかし、地を這うような回し蹴りを食らい、地面に倒される貫。
炎の海の中を平然と立つ良美。
「いい加減、終わらせるよ」
「どうしてだよ!」
貫が泣き叫びながら良美を睨む。
そんな状況を遠くから見ていた走と瓜が困惑する。
「そんな、幾らなんでも一方的過ぎる。第一、良美さんの動きがやたら速い訳でもなければ、物凄い攻撃力が高いわけでも無い!」
瓜が困惑する中、走が真剣な顔で言う。
「でも、動きが変。まるで予知能力を持っているみたいに一番安全な場所、攻撃しやすい場所に貫が動く前から動いている」
瓜が戸惑いながら頷く。
「そうだ。確かに、貫が動く前からの動き始めてるよね。でも、良美さんって予知能力者じゃないよね?」
「あれが、必勝能力。数え切れない実戦経験、それも自分の実力以上の相手と相対し、その中で積み重ねられた対処法から一番適した物を導き出す。その上で、自分の動きで相手の攻撃の選択幅も狭め、攻撃の放たせた後の隙を確実に突いて行く。先の後に因る必勝の一撃を放つ力。口で言うなら簡単だけど、真似できると思う?」
ヤヤの解説に瓜も走も首を横に振る。
「良美さんって普通の人間ですよね? 貫の本気の攻撃を一発でも食らったら即死してもおかしくないですよ。それなのに、一切の躊躇も迷いも無いです。信じられません」
瓜の言葉に走が言う。
「良美さんには、それだけ確固な自信があるんですね」
ヤヤが失笑する。
「戦いが怖くない人間が居ると思う?」
「怖いんですか?」
更なる困惑に陥る走。
「でも、だったら、どうしてこんな戦いを受けたんですか?」
瓜の質問にヤヤは、答えない。
「あちきなんかには、絶対負けないって自信たっぷりな態度ですね!」
憎しみすら籠めて告げる貫に、立ち上がる炎に手をかざす良美。
「冗談、生身でこんな炎を出す人間が怖くないと思う。ほら火傷してる」
その言葉通り、良美の手は、焼け爛れていた。
驚く貫。
「そんな程度の炎だったら気で十分にガード出来るでしょ?」
良美が肩をすくめる。
「あたしは、八刃でもなければ、オーフェンハンターみたいな特別な訓練もしてない。普通の人間だよ。そんな人間離れした事が出来るわけないでしょ」
混乱する貫。
「そんな、だったらどうして、戦うんですか?」
「生きたいから。大切な人と一緒にね。ヤヤや昔の同級生、娘達、そして今まで知り合った人々と。その為には、貴女達には、もっと強くなって貰わないといけないのよ」
真摯な顔を向ける良美に貫が唾を飲み込む。
「予言されている異界壁崩落大戦ですか?」
良美が頷く。
「多くの人達が死ぬでしょう。でも、あたし達は、一人でも多くの人を救いたい。だから、色々して来た。強くなって。そうしなければ、大切な人は、護れない」
貫が立ち上がる。
「あちきは、自分が才能無いと思っていました。遠糸の目を持たず、九尾弓の後継者からも外され、絶望していました。それでもネイルシュートを開発して頑張ってきました。それでも、次期長候補の走や瓜と比べたら数段落ちると思っています。そんなあちきに期待をしてくれるのですか?」
良美が焼けどした手を見せる。
「痛み、圧倒的な力差、自分の無力さを知らなければいけない場所がある。貴女には、そこに到達するだけの気概があると思っている。だからこの拳で教えてあげる。敗北の味を」
良美が正拳突きの構えをとる。
唾を飲み込む貫だったが、真剣な顔で告げる。
「あちきの全身全霊を籠めます!」
貫が右手の『貫』と刻まれた親指の爪と左手の白色の親指の爪を強く擦り合わせる。
『閃光よ集いて敵を撃て、フラッシュキャノン』
強烈な光が真っ直ぐ良美に向かって突き進む。
良美は、燃え上がる炎を突き抜けることで回避し、貫の目前に現れた。
そして、良美の拳が貫の胸を打ち抜く。
魂の篭った一撃に意識を失う貫。
こうして、連勝を続けてきた貫が敗北したのだ。
「無茶したわね、ヤヤちゃんに任せる訳には、行かなかったの?」
良美の治療をする八子の言葉に、良美が全身に走る痛みを堪えながら言う。
「八刃の長のヤヤじゃ駄目なんです。力が劣っても意志の力で強き者に打ち勝てるって見せ付ける必要があったんです」
そこにヤヤがやってくる。
「八刃の人間には、ショックだったみたい。タダの人間に八刃の本家の人間が負けた事実がね」
八子が肩をすくめる。
「何かの冗談よね、良美ちゃんがタダの人間なんて思っている馬鹿がそんなに居るなんて。良美ちゃんの事を知っている人間は、誰もが言うわよ、ヤヤちゃん以上の化け物だって」
ヤヤも頷く。
「だからこそ、ヨシが八刃の中でも特別な立場に居た。それが、あちきの影響だと思っていた人達もわかったでしょう。八刃である事が全てでない事を」
八子が遠い目をする。
「八刃だけでは、勝てない。そんな戦いを迎えるにあたって、人である良美ちゃんが八刃に勝つ事が必要だったって事ね。貫に連勝させていたのには、そんな企みがあったのね?」
ヤヤが頷く。
「全ては、異界壁崩落大戦の為。八刃と八刃以外の力を合わせるのに、一番のネックだった選民思考を根元から叩き折ってやる必要があったのです」
八子が真剣な顔で言う。
「更なる引き締めと強化、まだまだやる事は、一杯あるわね」
強く頷くヤヤと良美であった。
八刃学園の屋上に貫達が居た。
「結局、あちきの連勝なんてこれと一緒だったんだな」
そういってイミテーションダイヤ、ジルコニアの指輪を太陽にかざす貫に走がフォローする。
「でも、八刃にとって必要な事だったってヤヤさんも言ってたし」
「そうそう、期待されてたのだって本当だと思うぞ」
瓜の言葉に貫が頷く。
「だから、あちきは、ちょっと旅に出て来る」
それを聞いて走が驚く。
「どうして!」
貫がジルコニアの指輪をつけて言う。
「あちきは、ジルコニアの指輪のままで終わるつもりは、ない。本物のダイヤになる為に、自分を磨くの。世界中を巡ってね」
「独りで行くの? 何だったらあたしがついていっても良いよ」
瓜の提案に貫が笑みを浮かべる。
「バーカ、あちきが自由と離れて暮らせないよ。自由が一緒に行ってくれるって」
そういって階段の入り口を見るとそこには、ピュアな瞳を持つ少年、遠山自由が立っていた。
「婚前旅行?」
走の言葉に顔を赤くしながら貫が頷くと瓜が疑る視線で問質す。
「そんなんで、修行になるの?」
貫が強く頷く。
「必勝能力を身につけたヤヤさん達は、大切な人と一緒に居たから出来たって言ってた。だからあちきも大切な人と一緒に強くなる」
そのまま、ジルコニアの指輪を着けて自由と二人旅立つ貫であった。
貫は、その後、世界各地に散らばる強力な力を持った人々と戦う事になる。
それが、異界壁崩落大戦の時、大いに役立つ資料となった。
異界壁崩落大戦の時、貫の指には、本物のダイヤの婚約指輪が嵌められていた。




