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常勝街道記  作者: 鈴神楽
13/15

危険な匂いを漂わせるプラチナピアス

あのユリーアが登場

「そろそろ、どうしようもない実力差を実感させるのも良いタイミングかもしれないわね」

 ヤヤの言葉に良美が確認する。

「因みに、どのクラスとやらせるつもりだ?」

「丁度良い話が転がってきてね」

 ヤヤが差し出した相手の資料を見せると良美が顔を引きつらせる。

「これは、やば過ぎない?」

 ヤヤが少し考えてから気楽に言う。

「まあ、今回は、負けても良い事にするから、最悪失うのは、貞操だけだよ」

 良美が遠い目をする。

「危ない世界に目覚めなければ良いけど」



「金が無い」

 貫が深刻そうな顔をして言うと瓜が冷たく突き放す。

「どうしてもって言うからつけで売った、アクセサリーの代金は、月末までにお願いね」

「お前は、どうして、そう銭金だけなんだ! 友情とか、お互いの家の事情とか色々考慮する事があるだろう?」

 貫の言葉に瓜が笑顔で告げる。

「それは、それ。貸し借りは、きっちりしろって言うのが八刃のルールだよ」

 苦虫を噛んだ顔をする貫。

「何で、そんなルールあるんだろう? 八刃だったら、お金なんて二の次ってイメージあるのに?」

 走の疑問に瓜が答える。

「八刃の人達は、お金にそんなに執着しないし、直ぐに寄付とかもする。名誉も大切にするからね。問題は貸し借りの問題で、お金とかもそうだけど、貸しを作った状態のまま、貸し手と争う事になった時に問題になるからだよ。八刃って、別段内部で争うの禁止してないしね」

「八刃って本当にドライな組織だよな」

 貫がぼやいていると、囁がやってきた。

「貫さん、ファイアーバトルの次の試合の話が来ていますが、どうしますか?」

「受けるに決まってるでしょ!」

 貫は、囁から書類を奪い取り、素早く了解のサインをしてしまう。

「ちゃんと勝って、つけを払ってね」

 気楽に言う瓜に貫が胸を叩く。

「任せておいてよ!」

 そんな中、青ざめている囁に気付いた走が言う。

「どうしたの囁ちゃん? 今度の相手ってそんなに面倒な人なの?」

 強く頷くが、言葉に出来ない囁。

「もう大げさだな。どんな相手か知らないけど、八刃じゃないんだろ?」

 囁が頷くと瓜が安心した様に言う。

「だったら、大丈夫。色々細工されたら苦戦するかもしれないけど、八刃以外の相手だったら、正面から戦えば負けないもん」

 深呼吸をしてから囁が言う。

「対戦相手の名前を確認して下さい」

 貫が眉をよせる。

「八刃以外の相手で、そこまで慌てる相手なんて……」

 対戦相手の名前を見た貫が硬直した。

「どうした、そんなにメジャーな人だ……」

 興味半分で覗き込んだ瓜も硬直する。

 走が首を傾げる。

「そんな二人が驚く相手って何者?」

 沈痛な面持ちで囁が答える。

「ユリーア様です」

 走も固まる。

 長い沈黙の後、貫が怒鳴る。

「このマッチメイクした人って何を考えてるの! ユリーアさんって言えば、オーフェンハンターの最強のクラスで、白風の長、鬼神エン様のフォーカードの一枚、カットオブダイヤって呼ばれてる人だよ!」

「未だに一対一の模擬戦でヤヤさんに勝てるって噂されてるよね?」

 瓜が青ざめた顔で言うと走が強く頷く。

「それに、ユリーアさんって言うと、百合の人だって聞いてます」

 再び訪れる長い沈黙の後、囁が言う。

「マッチメイクしたのは、八刃の長です。流石に今回は、勝たなくても良いそうですが、負けた場合は、ユリーアさんと、同じホテルに泊まる事になるそうです」

 憐れみ表情で貫を見る走と瓜。

「貫が百合になってしまうなんて……」

「安心して、うちらは、百合になっても友達で居てあげる。まあ、恋人には、なれないけどね」

「そんな心配されたくないよ!」

 騒ぐ貫を尻目に瓜が言う。

「いくらなんでも、非常識なマッチメイクだよ。拒否権は、無かったの?」

 囁がため息混じりに言う。

「ありました。何も聞かずにサインする人が居たので、行使できなくなりましたが」

 冷や汗を滝の様に流す貫。

「完全な自業自得だね」

 瓜の言葉に走も頷くのであった。



 戦いの場所は、幽霊屋敷の様な洋館であった。

「あら、かなり可愛い子ね」

 妖しい微笑を浮かべる年齢を感じさせない美女、それがユリーアだった。

 女として大切な物が危険に晒されているのを本能で察知し、震える貫であった。

「そうでもないですよ。体のあちこちに傷もありますし……」

 これは、真実であった。

 八刃に属する女性なら誰でも抱える問題だが、普通の生活している分には、目立たないが、裸で同じベッドに入るなどすれば、体のあちらこちらにある傷跡にどうしても気付かれてしまう。

「何言っているの。それも魅力の一つじゃない。そんな戦いの事しかしらない貴女の体にいろんな事を教えてあげるわ。それに今日は、とっておきのプレゼントも持ってきたのよ」

 ユリーアは、そういってプラチナ製のピアスを見せる。

「綺麗ですけど、何か普通のピアスと違う気がするんですけど」

 楽しそうに頷くユリーア。

「だって、ここにつけるんだもの」

 胸の先端を指差すユリーアを見て、貫は、血の気が一気にひく音を聞いた気がした。

「正直、普通に戦ったら勝ち目は、まるで無いわね。だからハンデよ、この洋館のどこかにある、これと対なすピアスを破壊できたら、貴女の勝ちで良いわよ」

「随分と親切ですね?」

 親切すぎる条件に疑る貫にユリーアが妖しさを深めた笑みで答える。

「その方が楽しいでしょ? 自分が壊せなかったピアスを無理やりつけられるのは、来るわよ!」

 強すぎる戦慄に涙目になる貫であったが、それでも理解出来た、まともにやるより何倍も増しで、僅かなりにも可能性があると。

「解った。絶対に壊して見せる!」

 嬉しそうに頷くユリーア。

「そうそう、そんな健気な所も良いかもしれないわね」

 絶対に負けられないと心のそこから思う貫であった。

「それじゃあ、五分だけここで待っててあげるから頑張ってね」

 ユリーアの言葉に貫は、駆け出す。

 とにかく、ユリーアを視界から消したかったのだ。

 一目散に走った後、二階の一室で息を吐く。

「取り敢えず、これで少しは、時間が稼げるよね?」

『残念、この洋館の中は、私の糸が張り巡らされているから、何処に居ても関係ないから』

 ユリーアの嘘のような答えに貫が泣きそうになる。

「このクラスの人達って本気でそれが出来るからな。愚痴を言っていても解決にならない。何とかピアスを見つけないと!」

 思案する貫であったが、一分ほどしてからしゃがみこむ。

「こんな広い洋館の中を小さなピアス一つをどうやって探せって言うのよ!」

『なんだったら、私を倒した後、ゆっくり探すのもありよ』

 更に難度が高い事をあっさりいうユリーアの悪意に拳を握り締める貫。

「本当にいい性格してるよ!」

『よく言われるわ』

 ユリーアの笑顔が見えてきそうな声だった。

『五分経ったから行くわよ』

 四方八方から迫る糸に対して貫が、右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の茶色の薬指と青色の子指の爪を何度も擦り付ける。

『粘る泥の幕を張れ、マッドカーテン』

 泥のカーテンが糸の進攻を遅らせている間に貫がその場を離れる。

『上手い上手い、下手に硬い防御だったら、瞬間的に切り裂かれて終わりだったわ。それを粘度が高い技で、スピードを落とすのを優先し、その間に逃走したわね』

 子供を褒めるように声を掛けるユリーア。

「考えろ、考えろ! どんな不利な状況でも打破する方法がある筈! どんなに力差があっても抗う、それが八刃だ!」

『偉いわね。ひとつだけ良いこと教えてあげる。ヤヤちゃんとバトルで戦った時との力差は、今回の条件を考えいれればもっと酷かったわよ』

 ユリーアの言葉に貫が驚く。

「冗談でしょ? 確かその時の勝負は、ヤヤさんが勝ったって聞いてるわよ!」

『その通り、それでもヤヤちゃんは、私に勝った。こちらの性格を読み、僅かな可能性を信じて、その可能性を力尽くで手繰り寄せたのよ』

 ユリーアの説明に貫が唾を飲み込む。

『貴女には、それだけの勝利に懸ける思いがある?』

 ユリーアの問い掛けに貫が『貫』と書いた爪を見る。

「あちきは、強くなりたかった。遠糸の長の母親を持ちながら、遠糸の目を持たない故に、遠糸の次期長になれなかった。その代わりになる力を得たかった!」

『そう。でも、今回の勝負に勝てないようじゃ、全然足りない。一族の長になると言うのは、もっと絶対的な力、意思を持たないといけないのだから』

 ユリーアの声に貫が足を止める。

「やってやろうじゃない! 何処からでも掛かって来なさい!」

「御馬鹿! 何、ユリーアさんの口車に乗ってるの」

 そういって貫の頭を叩いたのは、貫達の先輩にて、良美の娘、大山オオヤマ較美ヤヤミだった。

「較美さん! どうしてここに?」

 貫が驚いていると較美が言う。

「ちょっと、ユリーアさんに用事があってね」

『可愛い子の用事だったら何時でもOKよ!』

 楽しそうな声を出すユリーアに較美が言う。

「ユリーアさんが調合した惚れ薬の解毒剤を下さい」

『もしかして、ムトラちゃんが失敗したの?』

 ユリーアの言葉に較美が頭を押さえて言う。

「アザが間違えて飲んで大変な事になってるの」

『それは、困ったわね』

 ユリーアの気楽な声に較美が大きくため息を吐く。

「お願いですから、八刃でも解毒が困難な薬をムトラに渡すのを止めて貰えます?」

『私としては、ムトラちゃんの応援したくなっちゃって。解毒剤は、直ぐに届けさせるわ』

 ユリーアの答えに較美が疲れた顔をして言う。

「ありがとうございます。それじゃあね」

 立ち去ろうとする較美の袖を掴む貫。

「手伝ってくれたりしません?」

 較美は、肩をすくめる。

「そんな事をしたら、あちきが危険じゃない」

 縋り付く貫。

「可愛い後輩の貞操の為に、力を貸してください!」

 較美が苦笑する。

「それじゃ、ヒントだけだよ。ユリーアさんの目的を考えなさい。そうすれば、自ずと道が開けるから」

「それだけですか?」

 貫が不満そうな顔をするが、較美が頷く。

「頑張ってね」

 そのまま大きく間合いを開く較美に追いすがろうとする貫だったが、その前を無数の糸が塞ぐ。

『はい。ヒントタイムは、終了。バトル再開』

 ユリーアの声に慌ててその場を移動する貫。

「相手の目的って、あちきにエッチな事をするって事で……」

 貫が何かに気付いた顔をすると、右手の『貫』と刻まれた親指の爪と左手の金色の中指の爪を何度か擦り合わせる。

『剛金よ弾けて敵を砕け、ストロングボンバー』

 壁を打ち砕き、道を作り出す。

 その途端、糸の攻撃が激しくなる。

 必死に避け突き進む貫。

 そして、大きなベッドがある寝室に辿り着くと、右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の赤色の人差し指の爪を強く擦り合わせる。

『火炎よ広がりて焼き尽くせ、ファイアーバースト』

 部屋を焼き尽くす貫。

 するとドアが開いて、ユリーアが現れる。

「よく、ピアスが寝室にあるのが解ったわね」

 貫がへたりこみながら言う。

「貴女の性格を考えて、敗北を確実にするピアスは、エッチな事をする場所で明らかにすると思ったんです」

「いい判断ね。今回は、負けで良いわ。頑張ったわね」

 そういって去っていくユリーアを見て貫が呟き。

「最初からこういう展開にするつもりだったんじゃ……」



 翌日、ぬいぐるみショップシロキバで良美が言う。

「甘い、ユリーアさんが今回の件を受けたのは、ユメコの惚れ薬騒ぎの所為だよ。自分が出所と発覚したらヤヤに恨まれると思って先手を打って恩を売りに来たんだよ。因みに、負けてたら本気で貴女達が知らない世界に引きずり込まれていたぞ」

「本気で勝って良かった」

 しみじみと呟く貫であった。

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