埃塗れの琥珀のクロス
ミノタウロスとの対決
八刃学園の貫達の教室。
「次の対戦は、ギリシャ! あっちのお土産いっぱい買ってくるからね!」
ご機嫌な貫。
「良いな! あたしも行きたかった!」
不満そうな走に瓜が言う。
「あたし達は、家の用事が入ったんだから仕方ないじゃない。ところで対戦相手は、どんな奴?」
貫が首を傾げる。
「それが秘密なんだって」
それを聞いて、眉をひそめる瓜。
「それって、あまり良い予感しないよ」
気楽な態度で貫が言う。
「大丈夫、順位は、百五十位の奴だよ。楽勝、楽勝!」
そのまま、旅立つ貫だった。
ギリシャでの対戦場所に向かう車。
貫の横には、大量の買い物袋があった。
その中でも気にいった一品、琥珀のクロスを着けながら呟く。
「戦いが終わったら何処に行こうかな?」
そんな時に、携帯電話がなる。
「瓜からだ、どうしたんだろ?」
電話に出る貫。
『大変だよ! あんたの対戦相手、オーフェンハンターの一人、ミノタウロスさんだよ!』
瓜の言葉が理解できなく貫が聞き返す。
「いま、オーフェンハンターって聞こえたけど、冗談だよね?」
『今、ファイアーバトルのランキングで確認した! 百五十位に居るのは、オーフェンハンターに所属しているミノタウロスさん。それもギリシャって言えば、ミノタウロスさんが一番得意とするフィールドがある場所』
焦る瓜に戸惑いながらも貫が言う。
「いくらオーフェンハンターって言っても、百五十位だったら、そんなに強くないよね?」
瓜の代わりに走が報告する。
『お母さんが聞いた話だと、そのミノタウロスさんの能力は、単純でネズミを操るビーストマスターなんだけど、本体を迷宮で隠して、戦うことで、その能力を効率よく使って、ヤヤさんも苦戦させた事があるそうだよ』
冷や汗が流れ落ちる貫。
「冗談だよね?」
『本当だぞ、バトルの中でもあれほどのダメージを負わされた経験は、そう無かったぞ』
電話をかわった良美の答えに貫が叫ぶ。
「そんな相手に勝てるわけ無いじゃないですか!」
『ヤヤからの伝言だ。負けたら、帰りは、自力で頑張ってだと』
良美の冷酷な伝言に貫が携帯にすがりつく。
「待ってください。せめてもう少し、フェアな条件で!」
無常にも、目的地に到着し、貫の下車後、車は、そのまま走り去っていく。
「完全に嵌められた!」
文句を言いながらも、ラビリンスに入るしかない貫であった。
右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の赤色の人差し指の爪を擦り合わせる。
『炎の矢を射よ、ファイアーアロー』
貫が放った炎の矢は、正確にネズミ達を焼き殺すし、汗を拭う貫。
「いくら倒しても、きりが無い! 本体は、何処よ!」
苛立ちを振り払うように右手の『貫』と刻まれた親指の爪と左手の金色の中指の爪を数度擦り合わせる。
『剛金よ弾けて敵を砕け、ストロングボンバー』
放たれた矢が、壁に当たり、大爆発を起こすが、それだけだった。
逆に瓦礫がネズミ達の姿を隠し、より危険度を増すのであった。
右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の黄色の中指の爪を擦り合わせる。
『雷の矢を射よ、サンダーアロー』
電気の矢で迫ってくるネズミを痺れさせて、その間に逃走する貫であった。
周囲にネズミが居ない事を確認して一息吐く貫。
「洒落にならない。ほぼ迷宮全体にネズミが配置されてて、気配を手繰れない」
苛立つ貫。
「間結だったら、結界を張って時間を稼いで、その間に、見極められる。百母だったら、追跡用の輝石獣を使えは、良い。神谷なら、オーラで弾き飛ばし続けるなんて荒業もある。こんな視界が利かない場所での戦闘は、遠糸の、あちきの戦闘スタイルに合わない!」
その時、足を噛まれる。
右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の赤色の人差し指の爪を擦り合わせる。
『炎の矢を射よ、ファイアーアロー』
炎の矢で、噛み付いたネズミを焼き殺す。
「通常生物のネズミだから、探査が難しいのに、気を与えられて、攻撃力が上がってる」
貫の体のあちこちにダメージがあった。
「このままじゃ、負ける……」
敗北の恐怖に震える貫。
「どうすれば良い?」
思案を繰り返すが、答えが出ない。
そうしている間にもネズミでの攻撃は、確実に貫にダメージを与え、体力を奪っていく。
何時間も迷宮探索を続けた貫。
「これ以上は、無理」
床に倒れる貫。
ネズミと言う、気を張り続けないと攻めてくる存在に、通常の何倍もの気の消費を続けた貫には、もうまともに動く体力が残ってなかった。
そんな時、天井に書かれた落書きが目に入った。
『逃げるな、立ち向かえ、その先に求める物がある』
その字には、貫は、見覚えがあった。
「良美さんの字だ。でもどうして?」
首を傾げる中、ネズミ達が襲ってきた。
「またかよ!」
右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の赤色の人差し指の爪を数度擦り合わせる。
『火炎よ集いて敵を撃て、ファイアーキャノン』
ネズミを巨大な炎で焼き尽くす。
「まだ、居る!」
何時に無く、増えていくネズミに背を向けようとした時、貫の足が止まる。
「逃げるなか……」
貫がネズミ達の来る方向に右手の『貫』と刻まれた親指の爪と左手の金色の中指の爪を数度擦り合わせる。
『剛金よ弾けて敵を砕け、ストロングボンバー』
大爆発の音と煙が逆流するなか、大穴が開き、その先に中年デブが居た。
「ようやく見つけた!」
笑顔になる貫と顔を引きつらせる中年デブ、ミノタウロス。
右手の『貫』と刻まれた親指の爪と右手の青色の子指の爪を擦り合わせる。
『氷の矢を射よ、アイスアロー』
ミノタウロスは、氷漬けになるのであった。
「お帰り!」
空港まで出迎えに来た走に抱きつく貫。
「今回こそ駄目だと思った!」
瓜も頷く。
「ヤヤさんも厳しいよね」
「厳しいどころじゃない! 自分が苦戦した様な相手をさせないでよ!」
泣言を言う貫の頭を叩く良美。
「これでも、色々サービスしてやったんだぞ。あいつが本気で、攻め立ててたら、ネズミに毒を仕込み、もっと早く限界が来てたんだからな」
「気付いてましたよ。あのメッセージは、本体が居る場所の周囲だけに書いてあったんですよね?」
ふてくされる貫の言葉を良美が頷く。
「あれを使ったから、六十点のギリギリ及第点だ」
「不合格で無くって良かったです」
ため息を吐く貫。
「因みに、満点の回答は、なんだったんですか?」
走が質問すると良美がいう。
「ヤヤがやったのと、同じように、攻撃の威力など本体からの距離を搾り出し、本体の位置の特定をやる事。因みにヤヤは、あたしを庇いながら、それをやったぞ」
「なんだ、それじゃ、大分楽だったんじゃない?」
瓜の言葉に貫が顔を押さえる。
「あの中を、他人を庇いながら戦ったあげく、攻撃の威力をこまめに判別して、本体の位置を探り出すなんて、どうやったら出来るのか、検討も出来ませんよ」
「ついでに言えば、あの時は、間違いなく命のやり取りだったぞ」
良美の追い討ちに突っ伏し、琥珀のクロスを床に落とす貫であった。




