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常勝街道記  作者: 鈴神楽
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勝利を呼ぶ紅玉の指輪

彼氏とのデートでのおしゃれの為に戦う少女が現れた

 八刃学園、竜夢区にある、来る者は、拒まずという変わった学校で、世に浸透し始めた超常現象の中心点と呼ばれているが、この話では、ただの一舞台でしかない。

 その八刃学園の中等部二年の教室、そこで、小学生並の背なのに、やたら長い髪をした少女、遠糸貫ツラヌがノートパソコンで収支計算をしていた。

「やっぱり、次のデートの時につけていく、新しいアクセサリー代が足りない」

 眉を顰める貫。

「前、使った奴じゃ駄目なの?」

 そう聞くのは、背が小さいのに鋭い目と眼鏡で年相応かそれ以上に見える貫と違って、背が高いのに幼い雰囲気がある貫の従姉妹、遠糸走ハシリだった。

 貫が自慢気に言う。

「あいつ、自由ジユウは、カメラマンを目指しているだけあって、ちょっとした違いも気付いてくれるの。そんな彼に中途半端な事は、出来ないよ」

 首を傾げる走。

「あたしには、よく、解らない」

「そんなだから走には、彼氏が出来ないの。ぬいぐるみばっかり集めてないで、もう少しファッションにも気をつけなよ」

 口を膨らませる走。

「ヤヤさんのぬいぐるみは、どれも可愛いから、どれだけ集めても足りないの!」

 そこに、二人の中間くらい背の髪をツインテールにした少女、百母モモモウリが割り込んでくる。

「貫、いい出物があるんだけど、買わない」

 そういって、ルビーの指輪を見せる。

 貫は、目を輝かせてそれを手に取る。

「良いじゃん! 宝石も良質だし、デザインも悪くない。これこそ次のデートにぴったりのアクセサリーだよ!」

「そうでしょうそうでしょう。それで値段なんだけど」

 瓜が見せてきた値段を見て貫の顔がひきつる。

「もう少し安くならない?」

 瓜は、笑顔で答える。

「これでも家族割引価格だよ」

 瓜との付き合いが長い貫は、瓜が暴利を貪っていない事も知っているが、自分の儲けを減らすつもりもない事を知っていた。

「今は、お金が無いからパス。出来れば取り置きしておいて欲しいんだけど?」

 貫がすがる様な目で言うと、瓜が肩をすくめて言う。

「そうも行かないよ、これだけの品を不定期な貫の収入を待って、遊ばせる訳には、いかないもん」

 口をへの字にする貫。

 その時、貫の携帯電話がメールの着信音を鳴らす。

 貫は、慌ててメールを開いて、笑みを浮かべる。

「収入の当てが出来た、今夜から例の奴だよ」

 瓜がカレンダーを見て言う。

「それだと最悪でも明後日だから良いか。しっかり稼いできてよね」

 貫が両手の爪を見せて言う。

「この爪、シュートネイルがある限り、あちきの常勝は、揺るがないよ」

 貫の爪は、右手の親指以外が色違いに着色がされ、右手の親指にも『貫』と書かれて居た。



 深夜の神社。

 貫は、デザイナー物の時計を見ながら言う。

「もう直ぐ十二時、ファイアーバトル開始だね」

 貫の時計が十二時を告げる鐘を鳴らすと同時に、貫を囲うように紙が立ち上がる。

 紙は、次の瞬間、狼に変化して貫に襲い掛かる。

 貫は、右手の『貫』と書かれた親指の爪で、赤い右手の人差指の爪を擦る。

『炎の矢を射よ、ファイアーアロー』

 貫の周囲に炎の矢が生まれると同時に狼を貫いていく。

 貫かれた狼達は、元の紙に戻って燃え尽きていく。

 すると拍手と共に一人のスーツ姿の青年が現れる。

「流石は、人外とさえ呼ばれる八刃の一家、遠糸の長の娘さんだけは、ある」

 貫は、淡々と聞き返す。

「貴方が、対戦相手のスメラギ五郎で良いの?」

 青年が笑みを浮かべて言う。

「そうです。あの安倍晴明の血を引く、現在、最高の陰陽師です」

 貫は、腹を押さえて笑う。

「安倍晴明の血を引くなんて威張る陰陽師って、まだ居たんだ!」

 皇は、目を吊り上げて言う。

「小娘の分際で、私を愚弄した罪、死を持って償え!」

 複雑な印を両手で組み、一枚の護符を放つ。

 護符は、空中で膨らみ、巨大な鬼と化す。

「これぞ、前鬼ゼンキ! その力を思い知れ!」

 巨大な拳を振り下ろす前鬼の攻撃を飛び退き、避けて貫が言う。

「前鬼って役小角エンノオヅヌじゃん」

「五月蝿い!」

 皇は、激怒をしながらも、手の印で前鬼を操る。

 貫は、眼鏡を外して前鬼を見る。

「確かに強力な式神だね。でも、それだけだよ」

 貫は、右手親指の爪で、右手の茶色の薬指の爪を擦りながら地面に右手を向ける。

『土の槍よ昇れ、アーススピア』

 土の槍が地面から生えて、前鬼の足を貫き、足を止める。

 貫は、右手を前鬼に向けた状態で数度、親指の爪で人差指の赤い爪を擦った。

『火炎よ集いて敵を撃て、ファイアーキャノン』

 炎の塊が前鬼に直撃し、その体を燃やし尽くす。

 愕然とする皇に貫が言う。

「うちの学校の教師の一人に陰陽師が居るけど、本当の前鬼は、確かに強いけど、役小角の使役から解き放たれていない。所詮は、作り方や形が似てるだけの積み重ねが無い紛い物。貴方と一緒でね」

「私は、紛い物じゃない!」

 皇が叫ぶが貫は、続ける。

「安倍晴明の強大な力は、術者には、魅力的だった。力を欲した術者の家だったら、その血を自分の血統に入れたがる。貴方の祖先もその類でしょうね。安倍晴明の血をひいている事なんて、今の時代には、意味が無いよ。大切なのは、自分の力のみ」

 皇は、舌打ちをしながら次々と、事前に設置した呪を開放する。

 常人だったら即死しかねない怨念の塊が貫に襲い掛かる。

 貫は、右手の親指で左手の銀色の人差指の爪を擦る。

『鏡の矢を射よ、ミラーアロー』

 貫が放った銀色の矢は、怨念の塊に当たると、その怨念は、逆方向に進んでいった。

「あれだけの怨念を全て返すなんて、人間じゃな……い……」

 怨念の逆流を食らい倒れる皇の懐から、身代わり人形が零れて壊れる。

「一応、術の返り風対策くらいは、してるか。これで勝利だよね?」

 皇の携帯電話が震え続け、それが止まると同時に貫の携帯電話に勝利を示すメールが入る。

「これで、あのルビーの指輪が買える」

 嬉しそうに家路につく貫であった。



 勝負の一部始終が、様々の通信手段を使って会員に配られる。

「所詮は、九十七位になったばかりの新人では、十五位のネイルシューターには、勝てませんか」

「しかし、小さな小娘に、術の大家と呼ばれる人間が負けるのを見るのは、爽快ですな」

「そうそう、それが楽しみで、この試合に賭けてるんですよ」

「胴元も上手い、人外と呼ばれている八刃の本家の人間と言えば、力の象徴。八刃に恨まれない勝負できるとなれば、名を上げたい人間だったら、勝負をしたがる」

「あんな小娘だったら、勝てるかもと淡い期待を持たせている」

「そんな状況だから、大穴狙いでネイルシューターの負けに賭ける馬鹿が居る」

「愚かだな、ネイルシューターの試合時間の賭けだって言うのに」

 賭けに興じる金持ち達は、好き勝手な事を言うのであった。



 ファイアーバトルランキング十五位、ネイルシューターこと遠糸貫は、遠糸の長、遠糸通トオルの娘である。

 彼女は、ファイアーバトルに裏の実力者を集める餌として、参加していた。

 九尾弓と呼ばれる神器を操る遠糸の長の娘でありながら、新たな術を使う彼女の事情は、この次の話しで話される事であろう。

 今は、勝負の賞金で瓜からルビーの指輪を買って、デートに行った事だけを伝えておこう。

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