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戦場の円舞曲  作者: 雪人
4/4

終極

「…救援?」

二人は、お互いへの警戒をしながらも、声のした方向を見た。

そこには、何人もの手下を従えながら馬に乗って走ってくる男の姿が見えた。

それは、護の村へ来た隣国からの使者であった。エリシアにとっては敵国である。

「護殿!!ご無事ですか!!」

その使者は、護のそばで馬を止めて言った。

「…何しにきた」

護は、ひどく不機嫌そうに聞いた。

「いえ、護殿が、かのカトリア部隊の隊長と戦っていらっしゃると聞き、急いで助けに参ったのです。ご無事でしたか」

そんな護の機嫌など露知らずといった様子で、使者は答える。

妙に恩に着せるような言い方に護は苛立った。

「大丈夫だ。俺は戦える」

「いえ、護殿はもう十分戦いました。敵は消耗しております。後は我々にお任せを。護殿はお下がりください」

使者は護を押しのけるように後ろへやる。護は、その顔に喜色が浮かんでいるのが見えた。

―なるほど、そういうことか。

この使者は手柄がほしいのだ。この戦場において、敵の司令塔であり、カリスマ的存在であるエリシア・カトリア。その首がとれれば、その恩賞はいかほどのものになるか。

俺にエリシアを消耗させておいてから、数に物を言わせて討ち倒す。そういう腹積もりだろう。

「敵はあの戦乙女ですからな。護殿に万が一のことがあってはいけません」

使者は、あくまで低姿勢である。

―万が一って言うのは、俺が万が一死んだ時か?それとも、俺が万が一エリシアを討ち取った時か?

そんな護の心境などお構いなしに、使者は滔滔と語り続ける。

「さぁ、護殿。お下がりにー」


「おい。」

その時、凛、と響く声がした。

「え?」

「お前、なんのつもりだ。」

エリシアが、射抜くような眼光で使者を見ながら言った。

「一体なにを、」

「お前は、なんのつもりで、私達の邪魔をしたのかと、聞いているんだ。」

なにを言っているんだお前は、と言おうとしたであろう使者が、小さくひっ、とこぼした。エリシアの目は、使者を射殺そうとしているようだった。

「答えろ。くだらん理由なら、即座に斬り捨てる。」

一歩、エリシアが前に出る。

「あ…」

使者は、完全に気おされ、一歩下がる。

護は、使者を押しのけた。

「どけ、俺がやる」

そうしてまた、エリシアと対峙する。

さぁ、仕切りなおしに―

「ふざけるな!!あれは私の手柄だ!!」

と、突然、使者が怒鳴りだした。

「はぁ?」

「あれは私が殺す!!お前みたいな雇われが、でしゃばるんじゃない!!!」

取り乱した様子で、使者が喚く。

…この使者はプライドの塊のエリートなのだろう。だから、ちょっと思い通りにならないと、すぐ錯乱する。ついに本音を出したか、と半ば呆れながら、そう護は推測した。

「何言ってやがる、あれはお前の手には負えないだろう」

「黙れ!!!私に楯突くつもりか!!!ふざけるな!!!!」

「いや、そうじゃなくて」


「いいか!!こっちは、今すぐにでもあの小娘を殺せるんだぞ!!!!」


その瞬間、護は剣に手をかけてた。

「て、てめぇえ…!!」

「いいのか?私に楯突いて?」

我が意を得たりと、使者が護を見据える。

「私が城へ帰り、兵に命じれば、すぐに殺せる。今ここでお前が私に逆らったりすれば、すぐにでも、だ」

「き……さまああ!!!」

剣がカタカタと音を鳴らす。怒りで震える手を、ありったけの理性で押さえ込む。

「安心しろ。今はまだ丁重に扱っているから。そのままひきさがればよい」

もはや建前など一切気にせず、使者は勝ち誇った顔を浮かべている。

「く…うぅ…」

ここで激情すれば、末路は見えている。仮に使者を切り伏せても、手下の一人でも馬をとばせば、それで終わってしまう。奥歯を割れんばかりに噛み締めて、耐えるしかなかった。


「…なんだか、ややこしいようだな」

置いてけぼりを食らっていたエリシアが声をかけて来た。それは護に向かってだった。

「なんだ?人質でもとられているのか?」

「…」

護は返事が出来ず、目を伏せる。

「図星か。それはまた難儀だな」

「黙れえ!!!もうすぐお前は死ぬんだ!!」

使者がまた錯乱したように激する。

「そして、その悪の黒幕がそいつ、と」

「悠長に話している暇があれば、遺言でも残していけえ!!!」

うな垂れながらも否定をしない護と、大声で喚く使者、そしてそれを全く取り合わないエリシアの構図は、ひどくおかしなものだった。


「よし、『奇跡の守護神』よ。お前に提案がある」

ポンッ、とエリシアは手をうった。


「お前、裏切れ。」


これぞ名案、といった顔のエリシア以外、誰もがその言葉を理解できなかった。

「…はぁ?」

そういったのは護だった。

「なに言ってんの、おまえ?」

「いやだから、裏切れよ、そいつらを」

エリシアは揺ぎ無い。

「ええと……つまりここで、こいつらを斬れってこと?」

未だ使者とその部下達はポカン、としているので、とりあえず護は言ってみる。

「ああ、その通りだ」

エリシアは、どうだ、といわんばかりの得意げな顔をしている。

「いやいやいやいや」

護だってそんなことは考えた。でも

「一人斬ったところで、報告にいかれたら終わりなんだろう?」

エリシアが、護の考えたことをそのまま言ってくる。

「…なんだよ、分かってるじゃねぇか。だから無理なんだよ」

「いや、それが無理じゃないさ」

「はぁ?」


「全滅させればいいんだろう?こいつら、全員」


「な、何をいっている!!」

やっと、ある程度の思考能力を取り戻した使者が、再び喚きだした。

「わ、私達をぜ、全滅!?一体何人いると思ってるんだ!!」

「う~ん、ざっと15人くらいかな。お前の親衛隊だろう?」

エリシアがなんでもないように答える。だが、その数はとても一人で覆せるものではない。こいつらは雑兵ではなく、親衛隊だ。少数精鋭ってやつだ。

「まぁ、一人だときついが…」

思案顔で呟く。と、その時、にやっと笑って護の方を見た。


「二人で、やるか。」

その時、無条件で、体がざわついた。

こいつと、共闘。この、最強の剣士と?

―それは、ひどく、魅力的な提案だった。

「…二人で?」

「あぁ、二人なら、奇跡を、絶対に起こせる。」

迷い無く、答える。

「ぶっちゃけ、お前という弊害さえなくなれば、この戦争は私達の勝ちで終わるだろう。そうすれば、お前の人質を助けられるし、万々歳じゃないか?」

…まったくこいつは。

「それに」

思い出した、というふうにエリシアは付け足した。

「もし、お前がまた私と斬りあいたいなら、後でいくらでものってやるぞ?」

「…!!」

まったくこいつは。何の気もないようにして、それが大本命だろう。

駄目だ。こいつとまた斬り合える。その魅力に、俺は抗えない。


「いいだろう。裏切ってやる。」

あらゆるしがらみを脱ぎ捨てた、清清しい顔で、護は言った。

「き、貴様あああああああ!!!!!!」

使者がそう叫ぶと同時に、エリシアが飛び出した。

反撃のまもなく、手下の兵士の3人が倒れる。

「な、く、か、かかれ!こいつらを殺せええ!!!!!」

使者が大声を上げる。状況の読めない部下達は、ただ、その命令に従い、目の前の二人に走り出す。

だが、護を斬ろうとした2人が、剣を振り下ろすことなく首から血飛沫を上げた。

抜刀と斬撃をほぼ同時に終えた護はすでに剣を鞘に入れていた。

「な、なああ!!??」

うろたえる使者の後ろで、数人の兵士が沈む。

その間に、また数人、両断される。


そしてうろたえている内に、使者は二人に挟まれた。

鋭い眼光で使者を挟み打つ。


「「よくも邪魔してくれたな。」」

どとらともなく言い、刃を走らせた。

どうもお付き合いくださいましてありがとうございます。

この作品、戦闘シーンが書きてぇ!という思いつきのもと執筆した作品でございます。

女剣士!女剣士を出さねば!という思いつきも加わり、こんな次第。

こんな作品ですが、もしよろしければ、感想、批評、よろしくおねがいします。

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