終極
「…救援?」
二人は、お互いへの警戒をしながらも、声のした方向を見た。
そこには、何人もの手下を従えながら馬に乗って走ってくる男の姿が見えた。
それは、護の村へ来た隣国からの使者であった。エリシアにとっては敵国である。
「護殿!!ご無事ですか!!」
その使者は、護のそばで馬を止めて言った。
「…何しにきた」
護は、ひどく不機嫌そうに聞いた。
「いえ、護殿が、かのカトリア部隊の隊長と戦っていらっしゃると聞き、急いで助けに参ったのです。ご無事でしたか」
そんな護の機嫌など露知らずといった様子で、使者は答える。
妙に恩に着せるような言い方に護は苛立った。
「大丈夫だ。俺は戦える」
「いえ、護殿はもう十分戦いました。敵は消耗しております。後は我々にお任せを。護殿はお下がりください」
使者は護を押しのけるように後ろへやる。護は、その顔に喜色が浮かんでいるのが見えた。
―なるほど、そういうことか。
この使者は手柄がほしいのだ。この戦場において、敵の司令塔であり、カリスマ的存在であるエリシア・カトリア。その首がとれれば、その恩賞はいかほどのものになるか。
俺にエリシアを消耗させておいてから、数に物を言わせて討ち倒す。そういう腹積もりだろう。
「敵はあの戦乙女ですからな。護殿に万が一のことがあってはいけません」
使者は、あくまで低姿勢である。
―万が一って言うのは、俺が万が一死んだ時か?それとも、俺が万が一エリシアを討ち取った時か?
そんな護の心境などお構いなしに、使者は滔滔と語り続ける。
「さぁ、護殿。お下がりにー」
「おい。」
その時、凛、と響く声がした。
「え?」
「お前、なんのつもりだ。」
エリシアが、射抜くような眼光で使者を見ながら言った。
「一体なにを、」
「お前は、なんのつもりで、私達の邪魔をしたのかと、聞いているんだ。」
なにを言っているんだお前は、と言おうとしたであろう使者が、小さくひっ、とこぼした。エリシアの目は、使者を射殺そうとしているようだった。
「答えろ。くだらん理由なら、即座に斬り捨てる。」
一歩、エリシアが前に出る。
「あ…」
使者は、完全に気おされ、一歩下がる。
護は、使者を押しのけた。
「どけ、俺がやる」
そうしてまた、エリシアと対峙する。
さぁ、仕切りなおしに―
「ふざけるな!!あれは私の手柄だ!!」
と、突然、使者が怒鳴りだした。
「はぁ?」
「あれは私が殺す!!お前みたいな雇われが、でしゃばるんじゃない!!!」
取り乱した様子で、使者が喚く。
…この使者はプライドの塊のエリートなのだろう。だから、ちょっと思い通りにならないと、すぐ錯乱する。ついに本音を出したか、と半ば呆れながら、そう護は推測した。
「何言ってやがる、あれはお前の手には負えないだろう」
「黙れ!!!私に楯突くつもりか!!!ふざけるな!!!!」
「いや、そうじゃなくて」
「いいか!!こっちは、今すぐにでもあの小娘を殺せるんだぞ!!!!」
その瞬間、護は剣に手をかけてた。
「て、てめぇえ…!!」
「いいのか?私に楯突いて?」
我が意を得たりと、使者が護を見据える。
「私が城へ帰り、兵に命じれば、すぐに殺せる。今ここでお前が私に逆らったりすれば、すぐにでも、だ」
「き……さまああ!!!」
剣がカタカタと音を鳴らす。怒りで震える手を、ありったけの理性で押さえ込む。
「安心しろ。今はまだ丁重に扱っているから。そのままひきさがればよい」
もはや建前など一切気にせず、使者は勝ち誇った顔を浮かべている。
「く…うぅ…」
ここで激情すれば、末路は見えている。仮に使者を切り伏せても、手下の一人でも馬をとばせば、それで終わってしまう。奥歯を割れんばかりに噛み締めて、耐えるしかなかった。
「…なんだか、ややこしいようだな」
置いてけぼりを食らっていたエリシアが声をかけて来た。それは護に向かってだった。
「なんだ?人質でもとられているのか?」
「…」
護は返事が出来ず、目を伏せる。
「図星か。それはまた難儀だな」
「黙れえ!!!もうすぐお前は死ぬんだ!!」
使者がまた錯乱したように激する。
「そして、その悪の黒幕がそいつ、と」
「悠長に話している暇があれば、遺言でも残していけえ!!!」
うな垂れながらも否定をしない護と、大声で喚く使者、そしてそれを全く取り合わないエリシアの構図は、ひどくおかしなものだった。
「よし、『奇跡の守護神』よ。お前に提案がある」
ポンッ、とエリシアは手をうった。
「お前、裏切れ。」
これぞ名案、といった顔のエリシア以外、誰もがその言葉を理解できなかった。
「…はぁ?」
そういったのは護だった。
「なに言ってんの、おまえ?」
「いやだから、裏切れよ、そいつらを」
エリシアは揺ぎ無い。
「ええと……つまりここで、こいつらを斬れってこと?」
未だ使者とその部下達はポカン、としているので、とりあえず護は言ってみる。
「ああ、その通りだ」
エリシアは、どうだ、といわんばかりの得意げな顔をしている。
「いやいやいやいや」
護だってそんなことは考えた。でも
「一人斬ったところで、報告にいかれたら終わりなんだろう?」
エリシアが、護の考えたことをそのまま言ってくる。
「…なんだよ、分かってるじゃねぇか。だから無理なんだよ」
「いや、それが無理じゃないさ」
「はぁ?」
「全滅させればいいんだろう?こいつら、全員」
「な、何をいっている!!」
やっと、ある程度の思考能力を取り戻した使者が、再び喚きだした。
「わ、私達をぜ、全滅!?一体何人いると思ってるんだ!!」
「う~ん、ざっと15人くらいかな。お前の親衛隊だろう?」
エリシアがなんでもないように答える。だが、その数はとても一人で覆せるものではない。こいつらは雑兵ではなく、親衛隊だ。少数精鋭ってやつだ。
「まぁ、一人だときついが…」
思案顔で呟く。と、その時、にやっと笑って護の方を見た。
「二人で、やるか。」
その時、無条件で、体がざわついた。
こいつと、共闘。この、最強の剣士と?
―それは、ひどく、魅力的な提案だった。
「…二人で?」
「あぁ、二人なら、奇跡を、絶対に起こせる。」
迷い無く、答える。
「ぶっちゃけ、お前という弊害さえなくなれば、この戦争は私達の勝ちで終わるだろう。そうすれば、お前の人質を助けられるし、万々歳じゃないか?」
…まったくこいつは。
「それに」
思い出した、というふうにエリシアは付け足した。
「もし、お前がまた私と斬りあいたいなら、後でいくらでものってやるぞ?」
「…!!」
まったくこいつは。何の気もないようにして、それが大本命だろう。
駄目だ。こいつとまた斬り合える。その魅力に、俺は抗えない。
「いいだろう。裏切ってやる。」
あらゆるしがらみを脱ぎ捨てた、清清しい顔で、護は言った。
「き、貴様あああああああ!!!!!!」
使者がそう叫ぶと同時に、エリシアが飛び出した。
反撃のまもなく、手下の兵士の3人が倒れる。
「な、く、か、かかれ!こいつらを殺せええ!!!!!」
使者が大声を上げる。状況の読めない部下達は、ただ、その命令に従い、目の前の二人に走り出す。
だが、護を斬ろうとした2人が、剣を振り下ろすことなく首から血飛沫を上げた。
抜刀と斬撃をほぼ同時に終えた護はすでに剣を鞘に入れていた。
「な、なああ!!??」
うろたえる使者の後ろで、数人の兵士が沈む。
その間に、また数人、両断される。
そしてうろたえている内に、使者は二人に挟まれた。
鋭い眼光で使者を挟み打つ。
「「よくも邪魔してくれたな。」」
どとらともなく言い、刃を走らせた。
どうもお付き合いくださいましてありがとうございます。
この作品、戦闘シーンが書きてぇ!という思いつきのもと執筆した作品でございます。
女剣士!女剣士を出さねば!という思いつきも加わり、こんな次第。
こんな作品ですが、もしよろしければ、感想、批評、よろしくおねがいします。




