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戦場の円舞曲  作者: 雪人
3/4

剣戟~守護神~

怒涛の勢いで、敵の女剣士は剣を繰り出してくる。一つ一つが致命傷と思われる攻撃で、稀にある大振りな攻撃は、相手を誘うための罠である。その上、剣の長さが違うので、思わぬ角度から剣が突き出されることもままある。一瞬でも気を抜けば間違いなく斬られるだろう。こちらの剣の長さも、存分に生かしきれない。むしろ仇となっている。

…こいつは、死ぬかもしれねぇな。

俺は、暴風のような斬撃を舞うようにかわしながら思った。

だが、その感情すらも俺を高ぶらせる要因にしかならない。

先ほど、この女剣士は、この戦いが楽しいと言った。いつ、どちらが死ぬかも分からないこの戦いが楽しいらしい。

正直、頭がおかしいんじゃないかと思う。こんな戦いを楽しいと感じるなんて。

そして、それに共感している自分も、多分、どこかおかしいのだろう。

楽しい。

この、ぎりぎりの命のやり取りが、途方も無く楽しい。頬を掠める刃の風を切る音が、どうしようもなく自分を興奮させる。


もっとだ。もっと昂ぶれる。俺は、まだ、上り詰められるー!



もともと、俺は戦争なんかまっぴらごめんだった。戦争を喜ぶやつなんか、殺人鬼か、政治家くらいのものだ。

俺はただ、村のやつらと平和に暮らせれば、十分満足だった。

村の両親の間に生まれ、村の子供と共に育ち、村の幼馴染と恋に落ち、村の中でそいつとの子供を育て、村の中で死んでいく。

なんと楽しくて、なんと温かい日々だろうか。村の畑を耕し、共に汗をかいた友人と川で水浴びをし、そこに幼馴染が果物を持ってくる。そんな日が、俺は大好きだった。

年に一度、村が総出で行う祭りで、そこで一番男気を見せた、村一番の男がもらえる『守護神の刀』を手に入れた日は、人生で最高の日だったかもしれない。


そうして満ち足りた人生を送り、村の幼馴染と恋に落ちるところまでを達成した俺は、突如として日常を崩された。

戦争。

俺達の『守護者の村』は、過去にあった歴史的な大災厄の折に、世界を救った英雄が出たとされる村だ。その言い伝えの信憑性、また、その有り難味は、隣に位置する大国も大いに分かっており、今までは戦争に関するあらゆることからは遠ざけられていた。だから、俺達の村は、ずっと平和だった。


だが、その大国が疲弊し、もうこれ以上戦争を長引かせることは出来ないと、最終決戦に踏み切る決意をした時、遂にその不文律は破られた。

「あなた達の村は守護者を生み出すために、精鋭とも呼べる剣士を鍛えていらっしゃる。どうか我々に力を貸し、その腕を振るって祖国を助けてはくれないか」

それが、いきなり訪れてきた使者の言い分だった。

丁寧な言葉で頼んではいたが、村の周りを大量の兵士で囲んでいたのだから、それはただの脅しであった。

村長は村の男衆を集め話し合い、結果、戦争への参加を決意した。

自分達は死んでもいい、でも女子供を死なせるわけにはいかないとの、苦渋の決断だった。

もちろん、村の男達は誰も反対しなかった。この村の男達なら、周りの兵士を壊滅させることは出来るだろうが、死人は確実に出る、それだけは、なんとしても許せなかった。


その決断の直後、夜空に満月が昇り、流れ星が瞬いた。

そして、俺の家に飾られていた『守護者の刀』が輝きだした。それを手に取ったとき、俺は自分が逸脱したのを感じた。

実際、その力は信じがたいものだった。

救援を求めてきた隣国を助けに、村中の反対を押し切って一人で走り、包囲されていた城を助け出した。そのときの自分には、村の男が束になっても敵わなかっただろう。自分は神にでもなったのかと思った。


だが、それはとんだ自惚れだった。

自分が一人で村を飛び出した最中に、幼馴染が隣国へ連れて行かれた。人質だろう。隣国の意見は「我々に力を貸してくれる村の人を少しでももてなしたいから」と、村一番の器量娘を連れて行ったらしい。連れて行かれる直前、村の男達が怒り猛るのを、幼馴染は諌めたそうだ。私が行かねば、皆が死んでしまう。そう言って。

我ながら、たいした娘と恋に落ちたものだと思った。

だからこそ、すぐに助けたかった。

だから、この最終決戦、下手なことはせず、隣国を助け、勝たせることこそが最善策だということにはすぐ思い至った。どれだけ怒りが胸にあろうとも、そうせねば、あいつはきっと助からない。


そうして村の男達全員に村の護衛を任せ、俺は戦場へと赴いた。


何も考えず、ただ敵の兵士を斬る。うっかり味方を斬ったが、この大混戦、誰も気には留めない。

そもそも、自分のとってそれが味方かどうかは怪しかった。自分には、もうその戦場にいる人間が、まるで人の形を模した、藁のようにしか思えなくなっていた。


そうして、怒りを胸のそこに抱きながら斬り続けていたら、目の前に突如、美しい女剣士が現れた。

その瞬間、今までただ斬るための藁だと思っていた人影が、いきなり光彩を放った。


斬るべき敵ではなく、戦うべき人が出てきたと思った。




「せああああああああ!!!!!」

女剣士―エリシア・カトリアが、先ほどよりもさらに勢いを増した攻撃を仕掛けてくる。絶対の戦乙女。初めて聞いた時、一体なんだそれは、と鼻で笑ったのを覚えている。だが、これは、どうも洒落にならない。冗談抜きで、名前の通りだ。

そんなやつと戦えるとは。

村の中では一度も味わったことの無い、命のやり取りがくれる、研ぎ澄まされた快感。脳が、雑多な感情を押しのけ、勝ちを得るためだけに、必死で勝機を見出そうとしている。

あぁ、楽しい。今だけは、戦争も、隣国への怒りも、幼馴染の安否への不安も、何もかも忘れてしまう。

ただ、この戦乙女を倒したい。絶対を、奇跡で、覆したい。

「はああああああ!!!!!!!!」

渾身の力を込め、敵のわずかな隙を薙ぐ。

―もらった!!

この攻防の中、何度そう思っただろうか。分かっていても、つい確信してしまう。

逃れられるわけが無い、そう思いながら払った剣は、空を斬った。

……跳んだ?

そう思うと同時に体が勝手に後ろへ跳んだ。直後、そこへ短剣が突き刺さる。

そして、敵が着地し、もう一方の長剣を突き出しながら飛び出すのをみた頃になって、やっと何が起こったのかを理解した。

後ろへ跳びながら後退し、十分に間合いをはかる。エリシアも短剣を拾い上げ、間合いを切る。


「まさか…」

思わず声が漏れる。

「まさか、そんなことをするなんてなぁ!!」

駄目だ。どうしても口が笑う。楽しさを抑えられない。

「ありえねぇよ。跳んだとは!あの状況で、あの跳躍力なんて!!!」

笑みがこぼれる。これが、極限なのか。

「お褒めに預かり光栄だよ、だが……」

「ああ分かってる」

お互いが笑いながらも、じりじりと距離を詰める。


「「まだまだだ。」」

護は剣を頭上へ掲げ、いつでも敵を両断する準備をする。

エリシアは腰を低くし、徹底的に切り刻む構えを見せる。


そして、二人の緊張感が限界に達し、爆発しようとした。その時、

「神崎護殿!!救援に参りました!!!!」

そんな無粋な声が、二人の勝負に割り込んできた。

さて、この話も次で最後です。

なんとかまとめたつもりですが、至らないことばかりです。むしろ何もいたってないような気も…

もしよろしければ、あと少し、お付き合いください

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