剣戟~戦乙女~
相手の日本刀の横なぎをかわし、長剣を突き出す。だがその攻撃は相手を捕らえられない。やはり相手の剣はこちらに比べて間合いが広すぎる。
お互いに距離を取り、様子を見る。
「…君は変わった剣を使うんだな。随分と長いな。村のものかい?」
「あぁ、そうだよ。どうだい、近づけないだろう?」
確かに厳しい。下手に飛び込めば切りつける前にやられてしまうかもしれない。
だが-
「とりあえず、やってみようか!!」
そう叫び、私は剣を前に突き出し飛び出す。
「は、はぁ!?」
男が面食らった顔をしている。さすがに無策に飛び込んでくるとは思っていなかったのだろう。
だが、それこそが好機。一気に片をつける。
「ーーツ!まじかよ!!」
しかし、男はそう言いつつも瞬時に半歩下がり、間合いを切りながら刀を振り下ろしてくる。
片手の長剣でそれを受け止め、短剣で腕を狙う。…さすがに身体には届かない。
だが、男はそれを刀を返して避け、そのまま胴を薙いでくる。
まさかこの状況からこちらが切られるとは―!!
長剣を逆向けなんとか受け止め、短剣を狙う。今度は心臓-決まった!!
「はああ!!!!」
ガッ!!
そんな音がしたと思った直後、私は反射的に後ろへ飛んだ。
何が起こったのかは分からないが、本能がそうさせたのだ。
瞬間、目の前を刀が通り過ぎる。
「…まさか避けるとはな…」
男が驚いたようにこちらを見てくる。
だが、驚きたいのはこちらのほうだ。
「…もしかして、柄で受け止めたのか?」
「ああ、なんとかな。」
冗談じゃない。そんな芸当をあの剣戟の中でやったというのか。しかも止めた直後にすぐに攻撃に移るなどと人間業じゃない。
-いや、こいつは守護神だ。ならば、あんな神業をしたとしても当然なのかもしれないな。
「おもしろいじゃないか」
思ってもいなかった言葉が口を突いた。
まさかこんなギリギリの戦いを面白いと思えるとは。勝ちの目などよくて五分五分だろう。
だが、私は負けるわけにはいかない。
はじめて勝ち戦とは言えない戦いをしている私は、不思議な高揚を感じていた。
もともと、剣術の腕はあった。子供のころから父に教わっていたこともあり、どの友達とちゃんばらをしても負けたことは無かった。それは、大人になり、武器が紙を丸めたものから真剣に変わり、場所が町の空き地から戦場に変わっても、一度も変わることは無かった。
そんなことで、私は一部隊を任されることとなった。そして迎えた初めて指揮した戦は、圧倒的に不利な状況だった。絶望的といっても良かった。初めて、死の恐怖というものを思い知った。
その戦場を生き延びられたのは、きっと、その恐怖のおかげだ。
―死にたくない。
―絶対に、死にたくない。
その思いで、私は部隊を鼓舞し、戦場を駆けさせ、少しでもその恐怖から逃れたくて、自分自身も無我夢中で駆けずり回った。
後は、部隊の一人一人の技量の差、気迫の差、そして時の運だろう。
その戦を生き延びた私は、生というものに感謝した。
そして、執着した。
私は、自分の部隊なら勝てると確信した戦以外、決して出ようとはしなかった。
幸い、私を戦乙女として担ぎ上げようとしていた国にとっては私に死なれないほうが好都合だし、カトリア部隊そのものも、最強と呼ばれるに値するものではあったので、誰も私がでる戦に疑問をもつものは無かった。
だから、私の代わりに出撃した部隊が壊滅したとしても、私が非難されることは無かった。
そうして私は負けることなく、死ぬことなく、何か空虚を感じながら今まで生きてきた。
そうして胸の空虚が膨らむのを感じながら、戦を重ねてきた。
だが、この戦で。この戦で勝てば、戦争は終わる。
そう、この戦は、戦争を続けている国の総力戦。いわば、最終決戦。
胸の空虚がもう限界まで膨らんだと思った時、その最高指揮官を任された。
いつ終わるともしれない空虚が、遂に終わる。結果はどう転ぶか分からないが、私はそのことだけで、どうやら満足できたみたいだった。死ぬのが怖くなくなったわけではないだろうが、これ以上生き続けるのを選ぶのも辛かったのだと、初めて気づいた。
そんな思いを抱きながら臨んだこの戦、何も無いだったぴろい平野が舞台のこの戦で、私がとった作戦は、至極単純、突撃、だ。
何も考えず、ただ生きるか死ぬか。その戦に賭けてみようと思った。
戦況は圧倒的にこちらが有利だった。
それは、お互い疲弊しきった国力で出た、微妙な戦力差、そして、戦乙女のもつ強大なカリスマ性のもたらしたものだろう。
―勝てる。
最前線にいたエリシアが確信した直後、部隊の左翼が切り裂かれた。
「はああぁぁ!!」
双剣を前へ突き出し、飛び掛る。敵は軽やかにいなし、そこからの反撃をしてくる。まるで流れるような斬撃は、ひどく鋭利な木の葉を相手にしているような気がした。
剣と剣が弾きあったのを機と、一度間合いをとる。
「はぁはぁ……」
お互い、息を切らしてはいる。が、決してその目の光がぶれる事はない。
ふっ、とエリシアが笑った。
「なんていうか、たのしいなぁ!!」
と、いきなり大声で語りかけた。
「ははは、初めてだ!!戦場でこんな気分は!!」
「……おいおい」
日本刀を構えながら、神崎護は聞いた。
「どうしたってんだよ、いきなり」
「いやなぁ、初めてなんだよ、こんな高揚感は!!」
エリシアは何の屈託も無く答える。
「罠…ってこともなさそうだな」
「ああ、私の素直な気持ちだよ。今なら、死んでも怖くはなさそうだ」
これは本当に素直な気持ちだった。死が怖くない。もしかしたら、目の前の青年の殺気が、恐怖を与えるためではなく、何かを護るために発されているからかもしれない。
「そうかい……だったら死んでくれないかな?」
護は腰を落とし、再び凄まじい殺気を立ち上らせながら、尋ねた。
「いいや、お断りだ。死んでもいいが死にたくは無い」
エリシアも双剣を構える。その目は、敵を切り刻む光景を思い浮かべている。
「だって、こんな楽しいこと、負けるわけにはいかないだろう!!??」
「ふ……どうやら、戦乙女殿は、とんだ酔狂者だな」
護は唇をふっ、と緩めた。
「まぁ、だけど」
両者が、地面を踏み込む。
「…どうやら俺も、とんだ酔狂らしい!!!」
黒い双眸がぎらりと剥かれ、エリシアの眼光とぶつかり合う。
二つの唇がにやりと吊り上げられ、両者は同時に飛び出した。
さて、とりあえずバトルシーンが書きたい!!
という欲求の元かかれたこの作品、正直難しい。
戦いって書きにくいんですね。




