交錯
「…あんたの名前、教えてくれないか?」
剣と剣のぶつかりあう金属音、そして怒号が飛び交う平野の戦場。
そこで、二人の剣士が対峙していた。
「たぶん、あんたがそちらの軍で最強なんだろう?」
問いかけているのは片方の男。
「…そうだな、私が一番この部隊で偉いよ」
そして、もう片方の女が腰に手を当てながら応える。
「私はエリシア。エリシア・カトリアだ。カトリア部隊の隊長をやらせてもらっているよ」
エリシアは一対の剣を引き抜く。その剣はそれぞれ長さが違った。美しきマントと服に身を包み、両手を水平に伸ばすその姿からは、美しき彫像のような繊細さと、その奥に秘める力の激しさが伺えた。
「おいおい…カトリア部隊、それにその双剣……あんた、『絶対の戦乙女』かい…」
男が驚愕とともに言う。
『絶対の戦乙女』。カトリア部隊を率いる双剣の女剣士の二つ名である。
カトリア部隊は、いかなる戦場、いかなる戦力差の中であろうと必ず勝利をもたらす最強の部隊。今までその部隊が破れたことはなく、その戦場の最前線には、自由自在に間合いを制圧する双剣使いがいた。その剣士とはカトリア部隊の隊長で、彼女のいる戦場に負けはなく、絶対の勝利を約束されていた。
ゆえに彼女は『絶対の戦乙女』と呼ばれた。
「ふん…そんな名前に意味は無いよ。私は勝てない戦以外やらないだけだよ」
彼女は謙遜でも挑発でもなく、ただありのままを言っただけだ。彼女は本当に勝てると思った戦以外には出撃しない。ただ、「絶望的」な戦場すらも彼女にとっては勝ち戦だっただけなのである。。だからこそ彼女は戦乙女たりえるのだ。
「そういう君こそ、ただものじゃないだろう?」
エリシアが薄い微笑を浮かべながら男に問う。
「今度は君が教えてくれよ。名前と、地位をね」
エリシアは気づいていた。男が身に着けている薄い鎧には大量の血が付いていたが、その全てが返り血だということを。この男は間違いなく強いと、その様が物語っていた。
「なぁに、俺はただの正義の味方さ」
「正義…?そちらの国に、正義があると?」
「いやいや、そんなんじゃない。俺はしがない村人さ。ただ自分の村を守りたいだけの、ね。」
「村……ああ、あの村か…」
エリシアは思い至る。作戦の前、この近くには小さな村があると確認した。そう、確かその村は…
「守護者の村…まさか、噂の守護神か?」
「噂してもらえてるとは、うれしいね」
守護者の村。その村にはある言い伝えがある。月が輝き、星が瞬き、流星が流れ落ちたとき、『守護神』と呼ばれる子が生まれると。迫りくる脅威を圧倒的な力で屠る、守り神。
それが、目の前に敵としている。
「…あの噂が本当だったとはな…」
エリシアの国に密かに流れていた噂。それは、敵国に異常なまでに強いとされる剣士が現れたというものだった。国境付近の攻略に失敗した兵士から流れた噂だったが、苦し紛れのいいわけだと思っていた。
だが、どうやら成功間近の制圧戦をたった一人に覆されたという話は本当だったようだ。
噂は徐々に広まり、やがて一人歩きしていた。そのとき、皆の間に広まった名前があったはずだ。
そう、それは確か…
「…『奇跡の守護神』とかだったかな?」
「また、ストレートな名前だな」
「多分、私に対抗したんだろうよ」
だが、その名前は正しいだろう。たった一人で戦局をひっくり返すなど、奇跡としか思えない。
その奇跡を起こした剣士がそこにいる。そう思うとエリシアは高揚を抑えられなかった。
「そうだな…とりあえず名前をいってくれないか?」
エリシアは長い一本の剣を男に向けて突き出し、もう片方の短い剣は懐で構える。
敵の侵入を許さず、逃すことなく切り伏せる必勝の構え。すでに彼女は臨戦態勢だった。
「まったく、せっかちだな」
そういう男も口元を楽しげに歪ませ、鎧を投げ捨て、背中に背負っていた剣を握る。
男の身の丈ほどもあるその剣はすらりとした形で、鋭く光っていた。それは日本刀。
鎧を脱ぎ身軽になった男は決闘の構えを取る。
「神崎 護。-いくぞ。」
その静かだが鋭い声とともに、剣戟は始まった。
お読みくださりありがとうございます。
久しぶりの執筆です。
この話は、四話で完結いたします。
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