ぜんまい仕掛けの人形
押入れの奥の奥。
滅多に掘り出されることの無いダンボールの中。
ひっそりと、でもしっかりとそこにいた。
「懐かしいなぁ、これ」
君はダンボールからひょいと人形を持ち上げた。
ぜんまい仕掛けで、ギーギーと言う音がする。
かなり古いが、ぜんまいを巻けば何とか動く。
それに、色褪せてはいるが、可愛い容姿とフリルの付いた服は健在だった。
「良く遊んでいたんだよね、これで」
そう言って君は左右に動かし、いろんな角度から見る。
「ぜんまい巻けば、動くかな?」
君は好奇心旺盛にぜんまいを回した。
ギシギシという音を立てながらぎこちなく動いた。
しかし所詮ぜんまい仕掛けで、長く動くことは出来なかった。
それでも君は嬉しそうに目を輝かせている。
「洋服でもつくってあげよう」
結構暇人だなぁ。
しかしこの散らかりよう。掃除の途中じゃないのか。まあいいか。
君は押入れからミシンを取り出し、布を取り出した。
小一時間が過ぎると、君は洋服を作り上げた。
昔から、器用なのは変わっていないみたいだ。
そして洋服を脱がすと、その服を着せた。
うん……まぁ。
分かってたけど。
「……飾ろう」
仕舞っておくのがもったいなくなったみたいだ。
埃を払うと、棚の上に飾った。
スペースが狭くて、落ちそうになったけれど、
君は見事にキャッチした。
そして物を退かし、十分なスペースを確保すると、
再度、置いた。
もう、落ちそうにないよ。
だから、そんなに確かめなくてもいいのに。
君は昔を思い出したみたいに、
腕にあるへこみを気にかけていた。
次の日、君は泣いて帰ってきた。
君は僕の腕を引っ張ると、その場に崩れた。
嗚咽を漏らすばっかりで、何も話そうとしない。
でも、その方がいいのかもしれない。
昔から、一度泣くと止まらなくて、
無理に喋ろうものなら、咳が止まらなくなるのだから。
しかし今日は珍しく早く泣き止んだ。
成長、したんだな。
「……彼氏が、浮気してた……」
成る程ね。
というか君、彼氏いたんだ。
「……っそれでね、……何も、出来なかった……」
そうだろうね。
浮気現場を見てその場で追い詰められるほど、君は強くないから。
誰かに背中を押されないと、動けない。
僕みたいに、ね。
それからも君は泣き続けた。
僕はそこに居ることしか出来ない。
まぁ、いいか。
居ても居なくても、僕が相談に乗ることなんて出来ないのだから。
君と僕は似てるねぇ。
誰かが背中を押さないと動くことが出来ない。
背中に手を当てて自分自身を押すことも出来ない。
ああ、彼氏ついでに僕も真実を言おうか?
僕、男だから。
新しいフリルの服、嬉しいようで嬉しくなかったよ。
小さいころから、気づいてなかったでしょう?
僕が君を見てたことも。
初の二人称作品です!
私なりに頑張ったので下手だとしても大目に見てください;