ROYAL BOUNTY:Side Pot 01
機械死者と墓荒らし
荒れ狂う稲妻、大粒の雨が降り注ぐ。
空に裂け目が現れた。
裂け目から幾つもの機械が現れる。
素朴な共同墓地に落ちていく。
ボト、ボト、ボト、ガシャン、ガシャン。
墓地の地面に落ちた機械達から管のような物が伸びていき、鉤爪になり、地面を這いながら辺りを探る。
機械達が周囲をスキャンしていく。
「生体反応ナシ。損傷物多数……損傷率十二%。肉体捕捉」
機械達は素早く動き、野晒しになった一体の獣人の死体をスキャンしていく。
「胸部ヘノ損傷、腹部ヘノ損傷確認。対象ニ寄生実行」
機械達は獣人の腹を切り裂き、身体の中へ次々と侵入し、細い管を幾つも出していく。
注射針のような物が死体の背骨、手足を駆け巡り、脳に達していく。
獣人の死体が痙攣するように動き出し、瞼を開ける。
眼球が黒く染まり、中心に僅かな白を残す。
両目が縦横無尽に動いていく。
「細胞活動ヲ強制再開。シナプス信号ノ適合率八十五%」
「血管内ノ血液ヲ排除。代替循環液精製開始。全体適合率六十五%、六十六%、六十七%……」
獣人の死体が身体を起こす。
太陽が昇り、街の酒場。
一つのテーブル、二人はカードを握る。
テーブルにはカードが置かれ、金が山積みになっている。
「いくぞ」
「来いよ」
二人は同時にカードをテーブルに叩きつける──
「また負けたのかい、ラクムス。だから辞めとけって言ったのに」
「……ほっといてくれ」
酒場の女店主が腰に手を当て、カウンターに突っ伏しているラクムスを見て溜息をつく。
「そろそろ酒場のツケ、払いな。それまでウチからは何も出さないよ」
「貧乏に優しくない世界だ……」
「しっかり稼げるんだから、賭け事辞めて真っ当に生きな」
ラクムスは立ち上がり、酒場の隅にある掲示板へふらつく足取りで向かう。
「世界の中央じゃ祭り事に金が集まるってのに、こんな街じゃ、ぱっとしないな」
ラクムスが掲示板を眺めると、一枚の依頼紙に目が止まる。
――――――――――――――
【依頼・共同墓地調査】
場所:街外れの共同墓地
依頼内容:
数日前より、夜間の共同墓地にて正体不明の影が徘徊しているとの報告あり。
墓地周辺では墓石の破損、地面を這ったような痕跡も確認されている。
異変の原因を調査し、危険がある場合は排除すること。
報酬:銀貨三十枚
危険対象の討伐、または捕縛に成功した場合は追加報酬あり。
調査結果は連合国ロマナス 白霧の街、酒場へ報告すること。
署名:
――――――――――――――
ラクムスは掲示板から依頼紙を手に取り、女店主に持っていく。
「こんな街に破格な報酬じゃねぇか! コイツでツケを払ってもお釣りがくるぜ!」
「……これ、他所じゃ手に負えなくて、この街まで回ってきた曰く付きだよ」
「はんっ、腰抜けしかいなかったんだろ。任せとけって」
ラクムスは依頼紙に署名してカウンターに叩きつける。
「噂だけど、依頼に出た賞金稼ぎは皆、生皮を剥がされて墓地に埋まってるそうだよ」
「……今回の依頼はなかった事にしよう」
ラクムスが叩きつけた依頼紙に手を伸ばすと、女店主が素早く取り上げる。
「死んでもいいから稼いで来な」
太陽が雲に覆われていく。
日が落ちて夜になる。
共同墓地から離れた廃屋。
火を灯した蝋燭の灯りで、ラクムスが装備を整える。
「ツケを返す前に、取られた金を取り返してから払うか」
ラクムスが廃屋から出て、共同墓地を遠くから眺める。
墓石に座って腕を擦っている人物がいる。
ふいに、その動きが止まる。
ラクムスの視線を射抜くように、顔を素早く向ける。
「うおっ!」
ラクムスは素早く屈み、視線を切る。
「勘が鋭いなんてもんじゃねぇぞ」
ラクムスは首の鱗を擦る。
相手の視界に入らぬように、素早く共同墓地に近付いていく。
共同墓地の門に辿り着き、短く息を整える。
ラクムスは門を潜り、墓石に腰掛ける人物に近付く。
「あんたが例の徘徊者かい?」
ラクムスの声に反応する黒眼の獣人。
皮膚が裂け、身体の中には金属の管が通っており、周りには死体が並んでいた。
「……その身体、どうなってるんだ?」
黒眼の獣人が一つの死体に視線を向ける。
死体に近付き、腕を掴み上げる。
指先が変形して鋭い刃に変わり、皮膚を裂いてくり抜く。
ラクムスは眉をひそめ、舌を出す。
「気味悪いな。確かに正体不明が似合う奴だ」
黒眼の獣人の腕から小さなワイヤーが網目状に覗き出す。
くり抜いた皮膚へ侵入すると、そのまま自らの身体の裂け目へ寸分違わず収まった。
周りの死体を次々と皮膚の形に切り取り、身体に埋めていく。
「……ひ、人違いみたいだ。これから真っ当に生きるための仕事探しに戻るよ」
黒眼の獣人は腹部の穴を眺め、ラクムスの腹に視線を注ぐ。
「スキャン完了。腹部適合率九十二%」
キュィーーン……
音と共に、口と鼻から空気を噴き出していく。
「バケモノかよ……割に合わねぇな!」
ラクムスが腰から二本の曲刀を抜き、両手に構える。
黒眼の化物の動きが止まる。
視線を横に向ける。
「あん? どうしたんだ──」
ラクムスが視線の先を追うと、カマキリの魔物の大群が押し寄せてくる。
「両刃機甲!? 死体を嗅ぎ付けてきたか!」
魔物が威嚇しながら、黒眼の獣人とラクムスに襲いかかる。
「〈チロス〉!」
ラクムスが手をかざす。
氷柱がカマキリの腹に突き刺さり、霜が覆っていく。
動きが鈍くなったカマキリに距離を詰め、首を刎ねる。
次々襲いかかるカマキリの刃を受け流し、距離を取る。
「生命体、虚空カラ未知ノエネルギー放出。該当記録皆無」
黒眼の獣人が値踏みするようにラクムスを観察している間に、カマキリが距離を詰めていく。
黒眼の獣人は視線をカマキリに戻す。
「照合解析。対象ヲ規格外昆虫ト分析、敵対行動ト判断、排除開始」
黒眼の獣人は襲いかかるカマキリの顎に拳を突き上げる。
仰け反るカマキリの腹を蹴り飛ばす。
横から襲いかかるカマキリの腕を掴み引き寄せる。
体勢を崩したカマキリの首を肘と膝で挟み込み、そのまま押し潰す。
ラクムスは負傷を避けるように深追いせず立ち回り、黒眼の獣人は傷を受けようが撃破に固執する。
カマキリの大群を殲滅し終えると、黒眼の獣人は身体の損傷を確認し、ラクムスは息を切らして墓石に腰掛ける。
「損傷率四十二%、適合外皮サーチ開始」
「待て待て待て! お前何者なんだ! その身体なんなんだ!?」
「所属、自立寄生型調査部隊。任務ハ未確認世界ノ構造解析、生態記録、情報送信。当機ハ現地生体ヘ寄生シ、任務ヲ遂行スル」
「言ってる意味が分からねぇよ」
「コノ世界ノ生命体ニ寄生シ、生体、文明、環境調査シニキタ」
「別世界から仕事で調査しに来たのか? 死体の皮を被って?」
「必要ナ記録ヲ蓄積サセ脅威ニ満タナイ場合、コノ世界ヲ制圧──」
バサッ。
共同墓地の外の茂みから、人の形をしたクワガタの魔物が一瞬で黒眼の獣人との距離を詰めた。
湾曲した尖った双鞭で、その首を挟み飛ばす。
ガチンッ! ボトッ。
ラクムスは黒眼の獣人の首を視認すると素早く構え、クワガタから距離を取る。
「双鉤牙甲!? 上位種までいたのかよ!」
分厚い身体を黒く染まった甲殻が覆い、手首の裏には鋭い鉤爪。頭部の尖った双鞭をラクムスに向ける。
クワガタが姿勢を落とし、ラクムスに狙いを定める。
「お前を勢いに乗せるのは不味いよな、こっちからいくぜ!」
ラクムスが体勢を低くし、左右に飛んで狙いを散らし、クワガタに駆けていく。
クワガタは合わせて頭を振ると、双鞭で迎え撃つように立ち上がる。
刃と双鞭が交わる間合い。
先にクワガタが前屈みになり、双鞭で襲いかかる。
ラクムスは双鞭を曲刀で受け流し、その勢いのまま、一回転して横に並び、脇腹を斬りつける。
ガキンッ!
甲殻に弾かれ、浅く傷が残る。
「刃が通らねぇなら、関節ならどうよ!」
脚の関節に曲刀で斬りつける。
クワガタは曲刀を手首の鉤爪で弾き、反対の鉤爪でラクムスを襲う。
ラクムスが身体をのけ反らせ、頭を振って躱す。
クワガタは腕を捻らせ、鉤爪をラクムスの頭部に向ける。
側頭部を掠め、血が流れる。
後ろに飛ぶラクムスとの距離を詰めるようにクワガタが飛び、鉤爪を連打する。
ラクムスが躱すたびに腕を捻らせて追撃し、鉤爪が上着の襟元を引っ掛ける。
クワガタはそのままラクムスを持ち上げ、双鞭の前に運んでいく。
ラクムスが諦め、目を閉じた刹那──
「解析完了。対象ノ撃退ヲ開始」
ラクムスがその声に驚き、目を見開く。
目の前でクワガタの双鞭を、首の無い獣人が両手で掴み押さえている。
首の断面は、青い光を散りばめたように煌めいている。
クワガタの後ろでは、飛ばされた頭部が地面に横たわりながら、こちらへ顔を向けている。
「何だこりゃ! イカれてやがる! 頭がおかしくなってる」
「生命体、拘束ヲ抜ケ出シ首ノ関節ノ切断ヲ推奨」
ラクムスがその言葉を理解すると、鉤爪を掴み、強引に襟元の服を引き裂き抜け出す。
クワガタが双鞭を掴む獣人を強引に押し込んでいく。
獣人は地面に脚が沈み、腕や脚の関節から金属の擦れる音が響く。
バキッ、ビキビキビキ。
獣人の指が双鞭に食い込む。
その表面に亀裂が走っていく。
クワガタの鉤爪が獣人の腕を襲う。
皮膚が裂けた先、金属の管が鉤爪に食い込み、金属同士が擦れる金切り音が鳴る。
バキンッ!
腕が折られ、中から金属の管が青く煌めく。
「敵対ノ筋繊維ト関節ノ収縮ヲ確認。生命体ノ踏ミ込ミ、斬リ込ムタイミングヲ算出。生命体ノ斬リ込ミヲ最適解ト判断」
クワガタの背後から、ラクムスが飛び掛かり、そのまま首の後ろに曲刀を振り下ろす。
ザシュ!
クワガタの首と胴体が離れ、地面に伏して倒れる。
ラクムスがその場に座り込み、息を整える。
地面に転がる黒眼の獣人の頭部が口を開く。
「生命体ニ命令、損傷部位ヲ回収セヨ」
「やってらんねぇ、仕事はこれで終わりだ。依頼紙の内容はお前だろうけど、もうコイツでいい。ほら、どっか行け」
ラクムスが立ち上がり、クワガタの首を担ぐ。
「生命体ヘ警告、早急ニ損傷部位ヲ回収セヨ」
「へっ、バラバラの身体なんて怖くねぇよ。やるなら相手してやるぜ」
「……敵対行動ト判断。生命体ヲ新タナ寄生対象ト認定、鎮圧スル」
獣人の首、折れた腕、残った身体から機械達が次々と現れ、鉤爪を向け、機械音を鳴らす。
「正体がそれか、一つ一つ潰してやるよ! 身体がなけりゃ楽勝だな!」
キュィーーン……
機械達はラクムスから離れ、クワガタの死体に群がっていく。
ラクムスは目を見開き、素早く死体に駆け寄る。
「待て待て待て、分かった。コッチの仕事を手伝ってくれた。今度はそっちの調査を手伝う、なっ?」
機械達の動きが止まり、その一つが再び獣人の首に入っていく。
「要望ヲ受理シヨウ。死体回収ヲ要求」
「これはもう無理だろ。共同墓地の野晒し死体より、ロマナスの英雄達が埋葬された墓地なら状態がいいぞ」
ラクムスと機械達が共同墓地から出て、夜明けを歩いていく。
機械達が新たな身体へ寄生し、適応するまでに幾度か日の昇りと沈みを繰り返した。
新たな日が昇る。
街の酒場。
カウンターに頬杖をつくラクムス。その隣には、機械達の新たな寄生体となった獣人が座っている。
女店主がラクムスに耳打ちする。
「これが例の別世界から来た死者に寄生する変なのかい?」
「機械……なんだったかな?」
「死者寄生型機械、呼称『メタルグールパラサイト』」
「長いねぇ。機械死者でいいだろ」
ラクムスが視線を上げる。
「従兄弟が家畜にルグールって名前つけてたな。お前、ルグールでいいか?」
「許可。現地調査完了。生命体ラクムス、別区域調査ヲ希望スル」
「つってもよ、他所に行くにも仕事があればなんだが……」
ラクムスが掲示板へ視線を向ける。
目を見開き、掲示板へ駆けていき、依頼紙を取り、カウンターに置く。
「これ……いけるんじゃねぇか? ルグールがいりゃ、優勝出来るぞ!」
ルグールと女店主が依頼紙を見る。
「開放領都で賞金首杯が開かれるのね。これ、受付間に合うのかい?」
「行くぞ、ルグール。開放領都は世界の中心都市だ。色んな種族がいて、祭りの最中だ。文明調査だ!」
「了承。目的地、開放領都。速ヤカナ移動ヲ推奨スル」
「今すぐ行くんだよ! 立て、走れ!」
ラクムスがルグールの肩を掴む。
二人は酒場を離れる。
「気付かないもんかね」
女店主は掲示板の隅にある依頼紙へ視線を向ける。
依頼紙にはラクムスの人相書きが載っていた。
英雄の墓を掘り起こし、埋葬された遺体を持ち去ったとして、墓荒らしのラクムスを賞金首とする。
「長い付き合いだから見逃したけど、精々長生きするんだよ」
女店主は掲示板の依頼紙を剥がすと、丸めてポケットに入れた。
「通信機能起動、記録送信。──エラー、座標取得不能。帰還経路、未検出」
ルグールは前を歩くラクムスへ黒眼を向ける。
「異世界調査ヲ継続。現地種族、文明、世界構造ノ記録ヲ優先スル」
ROYAL BOUNTY 本編
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