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初期座標の紛失

ヘッペはアルミ鍋を手に、耳の靴下を外出用ストリート・モードに微調整した。(気分だけ)



「……ふむ。どこへ行くというのだ? 貴様らの徘徊散歩に付き合えばよいか?」


「……。……ひ、……ひぃいいいいいん!!(号泣)」

 アルヴィスが再び床を叩いた。


「魔王退治という世界の命運メイン・クエストを、……『散歩』と! 散歩と言い切られましたぞ、あの大賢者様はぁあ!! どこまでも底が知れないスペック外だぁあああ!!」


「…勇者。泣く。また泣く…いちいち面倒い。もうこれはアレだね?」


 佐藤ブラジルが面倒くさそうに首を振る。


「……ヘッペ君。……いい? ……。……俺たちの目的はねぇ?魔王。うん、そう、魔王をね、……倒しに行くの……うん、そのために。王族。お城。正式な。オファー受けに。行く。…謁見っていう。……ヤツ?……するの。」


 ヘッペは、理解したというように小さく頷いた。


「……なるほど。これはRPGで言うところの、最初の拠点ルイーダの酒場と言ったところか?」


「……。……あー、。……そうそう。……ふにーらの酒場。……。……それ。……それだよ……そこで。……。……パーティ。……。……かき集めて。……。……魔王。……魔王にね


『コラ!ダメだぞお!』…『ダメだぞお!』


……って。……言いに行く。ヤツ。…うんうん。」


 こうして、奇妙な三人はアパートの101号室を後にした。


 だが、草原に出た瞬間に内紛が発生する。


「……あー、。……。……左じゃね?左。お城…左。……。……だって。……。……右から。……。……来たでしょ? ……。……だから。……。……お城。……。……左。……。……でしょお、お城!!」


「はっはw 何を言っているのですか佐藤殿!! 右から来たのですから、お城は右に決まっているでしょう! 勇者の直感を信じなさいよ!!」


「……あー、バカ。勇者。…もうバカ。「猛烈に」の猛バカ。……右に行ったらまた。勇者の。実家。…戻っちゃうね?」


「バカって言ったか?んもぉおおお!!悔しい!」



 そんな、出口のないループ押し問答を尻目に。

 ヘッペは地面に這いつくばり、石畳の埃を丁寧に指で採取していた。


「……ふむ。素晴らしい、この埃はなんと珍しい…異世界の堆積物キャッシュ。非常に興味深い。

解析スキャンのし甲斐があるな……」


「おーい?おーい?ヘッペ君?あー女子。女子が。……。……四つん這い……四つん這いで。埃。…埃。舐めてる?舐めてる……よね?

もう、この佐藤、アルゼンチン。俺はいま。…アルゼンチンに入国しているーーーー!」


 城を目指すはずのパーティは、歩き始めて数歩で、迷子と偏愛によって完全に停止していた。


そして一行の前に、それは現れた。


「……ピョコ。……ピョコピョコ。……コケッ! ……コケーッココッ!」


 鶏のような、しかし怨念の塊のような何かが、進路を塞ぐ。


アルヴィス

「魔物め! 我らの行く道を邪魔するなら容赦しないぞ! 聖剣の錆にしてくれる!!」


「……あー待て。ステイ。勇者すぐ。斬る。あー、野蛮。……だね。賢者様見て? 賢者しゃがんだ。しゃがんでまた。四つん這いで話し聞いて。あげてる、ねぇ!!」


ヘッペは、鶏の様な何かの目を見つめ、優しく(?)語りかけた。


「……うん、そうだな。辛かったろう、。……。……そうだな、分かるぞ」


「…コッケコゥ!!コケッ!!」


佐藤アルゼンチン

「……あー、ヤバい。ヤバくね? あれ。……。……なに? 何してるの。ねえ。…鶏と!」


ヘッペ

「……ふん。貴様らにこの鶏のような何か冤罪個体が、何と言って鳴いているのかわからんのか?」


佐藤アルゼンチン

「……。……コケコッコー。じゃねえ。…じゃねえの。普通に…ねぇ!!」


ヘッペ

「……ふん。凡夫め。彼は『やってねーよー』と、かつての冤罪を叫んでいるのだ。

彼はかつて罪人として処刑され、無念のあまり鶏に転生した。

……いいか? 彼は全能力パラメータリソースを、『やってねー』に全振りしている。

ゆえにな、自分が産んだ卵すら証拠物件データと勘違いして、なんだかわからずに蹴飛ばすのだ。……。……ククク。……ウケるな」


 ポロッ、と産み落とされた卵を、鶏は「やってねー!」と叫びながら全力でサイドキック物理攻撃した。卵は放物線を描き、草原の彼方へ消えていく。


アルヴィス

「……なんと……! 血の繋がった子すら、真実潔白のために犠牲にするというのか……! その不屈の精神スタック、……ひ、……ひぃいいいいいん!!(号泣)」


佐藤アルゼンチン

「……あー、無理。無理。…泣く勇者。笑う賢者。

あー、。……もうウルグアイ!! ……。……俺、いまウルグアイ入国。不法入国もう。完了!」




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