第18話 星喰みとの決戦-3
皆が星喰みを食い止めている中、俺はあえて後方に下がっていた。
逃げ出したわけではない。俺は皆を信用しているが、それでも万が一に備えるためだ。もし失敗した時、ヤツを止められるのは俺しかいない。そう、衝撃を跳ね返すこのリフレクトブロウであれば。
最初は星喰みの動きが完全に止まっていた。皆がヤツの動きを止められた証拠だ。だが、星喰みが大きく頭を持ち上げると、それを海面へと叩きつけた。そして、ヤツが再び浮き上がってきた時には、そこに皆の姿はなかった。
ヤツがこちらに向かって突進してくる。俺は大きく一息つくと、真っ直ぐにヤツを見据える。
「どうやら出番のようだ」
そう独り言ちて、俺は右手に着けられたリフレクトブロウを固く握り締める。
まさか、またコイツを使うことになるとは思いもしなかった。しかも、状況はあの時とよく似ている。
「もう一度だけ頼むぞ」
あの時と同じように、俺はリフレクトブロウに語りかけた。
一度は砕けた相棒が、また俺の手に戻っている。おそらく、今回もまた壊してしまうことになるだろう。だが、それでも俺はやらなくてはならない。
刻一刻と星喰みが迫ってくる。こいつの衝撃に耐えられなければ全てが終わる。だが、全くと言っていいほど恐怖はなかった。むしろ、体の底から何か熱いものが湧き上がってくるのを感じる。どうやら、俺はこの状況を楽しんでしまっているようだ。
俺は右半身を引いて拳を腰に溜める。腰を落とし、全身に力を込めてヤツを待ち構える。
轟音を立てて海面を切り、星喰みがやってくる。接触まで五……四……三……二……一……
「――はああッ!!!」
完璧なタイミングで俺は星喰みに拳を叩き込んだ。瞬間、星喰みの動きが止まり、リフレクトブロウが白く輝き始める。ヤツの衝撃を全て内部に蓄えようとしているのだ。
ピシッとリフレクトブロウから嫌な音を立てた。膨大なエネルギーの前に、リフレクトブロウが壊れ始めているのだ。これが完全に壊れたが最後、俺は確実に死ぬだろう。だが、そんなことはどうだっていい。賽はすでに投げられた。後はコイツを信じて、俺は拳を前に出すだけだ!
「ぬおおおおおぉぉぉぉぉ!」
俺がどれだけ気合を入れようが、力を込めようが何の意味もない。そんなことは分かりきっている。だが、それでも俺は全力で拳を突き出した。ただ、リフレクトブロウを信じて。
その時、リフレクトブロウの崩壊の音が止み、光がゆっくりと収まっていった。リフレクトブロウが、全ての力を中に蓄えきったのだ。後は、これを打ち出すだけだ!
「ぶちかませ! リフレクトブロウ!」
俺の声に呼応し、リフレクトブロウはその全威力を星喰みに跳ね返し、さらに燃え盛る業火を放って星喰みを包み込む。
豪快に吹き飛んでいく星喰みと同時に、俺の右手からパリンッという音が聞こえた。見ればリフレクトブロウはその役目を終え、完全に機能を停止していた。
◇
僕は……夢でも見ているんだろうか?
星喰みが島に向かって突撃した瞬間にヤツの動きが止まり、さらに次の瞬間には全身を火だるまにしながら遥か彼方へと飛んでいったのだ。
一体何が起きたのが全く分からず、僕はその光景をぼーっと眺めていた。けど、よく見ればそこにはアルさんの姿があった。きっとアルさんがどうにかしてくれたんだ!
僕達はアルさんの元に向かう。そこにはすでに皆が集まっていた。
アルさんとジェフさんが片手でハイタッチをしてお互いの手を打ち合わせ、パァンという小気味よい音が響く。
「やったなアル!」
「ああ。だがリフレクトブロウはこの通りだ。もう次に同じ手は使えん」
「あの……そのリフレクトブロウって一体?」
「こいつは受けた衝撃を相手にそのまま跳ね返す能力を持っている。さらに俺が着ているスーツの力で衝撃に応じた炎を発生させ、ヤツを跳ね返すと共に炎によるダメージを与えたんだ」
一方、星喰みは一度水中に潜って炎を消したみたいだ。でも全身にかなりの火傷を負ったらしく、遠目から見ても体のあちこちがグズグズに崩れている。
「グオオオォォォオオォォ!!!」
星喰みが空に向かって怒りを乗せて啼く。
あのダメージなら少しは時間が稼げるかと想ったけど甘かったみたいだ。星喰みは傷を再生させながらまたゆっくりと、こちらに向かって突進を始める。
チヅさんがぎゅっと自分の武器を構え直して星喰みを見据えた。
「さあ皆、もう一度止めに行くわよ」
「いやいや、その必要はないよ。今まで時間を稼いでくれてありがとう」
突然、その場にいないはずの師匠の声が聞こえた。見れば、いつの間にか僕達の中心に、さも当然といった顔で立っていた。
さらに目の端に違和感を覚えたのでよく見てみれば、島を覆っていた結界が消えてしまっている。
「し、師匠!? どうしてここに?!」
「なに、お前さんのおかげでようやくヤツの弱点が分かってね。さて、皆がこれだけ頑張ってくれたんだ。ワシも一つやるとしようか」
その瞬間、周囲の空気が一変した。師匠の周囲からとてつもない魔力が迸る。帽子の下から星喰みを見据える目はいつもの安穏とした感じはなく、剣呑の光を放っていた。
師匠は右手を開いて前に出す。
「火精よ、水精よ、風精よ、土精よ、光精よ、闇精よ。全て我が前に集え。集いし力は混ざり、溶け合い、あらゆるものを無に帰す光と成す……」
呪文を唱えながら、師匠は右手で空をなぞり虹色の魔法陣を書いていく。
紡がれる呪文に僕の背からぞわりと怖気が這い登った。間違いない、これは禁呪と呼ばれる中でも一際ヤバいあの魔法だ……!
「……引き絞れ。穿て。その光は全てを滅する。発動せよ。終末の光」
唱え終わった瞬間、師匠の右手から目を灼くほどの凄まじい光が放たれた。光が走った後の海は瞬く間に蒸発し、海を真っ二つに割って道を作り出す。
そして光は星喰みの右目に突き刺さった。着弾点の周辺が蒸発し、星喰みが断末魔を上げる。
「そうだ、その右目の奥だ。そこにあるんだろう? お前の核が。さあ、曝け出してもらおう」
たまらず星喰みが光から逃げようと移動を始めようとした。けど、それを易々と見逃す師匠じゃない。師匠の目が鋭く光る。
「おっと駄目だ。ちゃんと大人しくしていてもらおうか」
師匠が左手で指を鳴らす。すると、星喰みの周囲の空間が歪んだ。さらに師匠が左手をぐっと手前に握ると、そこから数え切れないほどの鈍色をした巨大な鎖が出現し、星喰みの体に突き刺さってヤツの動きを拘束する。あっという間に星喰みは完全に動きを封じられてしまっていた。
光が星喰みを灼き続ける。
そしてついに、ヤツの核が姿を表した。それは鼓動する度に世界を震わせる巨大な蒼の宝玉。そのまま光が核を壊すかと思ったその時、師匠は突然右手を閉じて光を止めてしまった。
「師匠! どうしたんですか!?」
「ふむ、終末の光が取り込まれる感触がした。あれはどうやら魔法を糧としてしまう性質があるようだね。残念だが、ワシではトドメを刺せんようだ」
「なーるほど。つまりはだ、後は俺達が物理で殴ってぶっ壊しゃいいって事だよな! 行くぜ!」
言うが早いか、ジェフさんがいの一番に飛び出した。水面を走って助走をつけると、そこから飛んで空高々と舞い上がった。その両手には、深い紫をした巨大な大剣が握られている。
「スー! 私の武器に乗りなさい!」
「オッケーチヅ!」
続いてスーさんがチヅさんの鈍器の上に器用に飛び乗った。チヅさんはそれを確認すると、両手で鈍器の柄を握りしめる。
「いっっっけええええぇぇぇぇ!」
気合と共にチヅさんが鈍器を思いっきり振り回す。そしてそこに乗っていたスーさんは、その力を利用して完璧なタイミングでチヅさんの鈍器を蹴り、一直線に星喰みへ向かって飛んでいく。
一方、空に飛んだジェフさんは、大剣から炎が吹き出し、その勢いでグルグルと縦回転をしながら凄まじいスピードで落下していく。
二人が星喰みの核に攻撃を叩き込んだのは、完全に同時だった。
「カークファングブレイド! 大円斬!!!」
「雷轟混! くらえーーー!!!」
その瞬間、世界が白に染まった。目を灼くような閃光が走ったかと思うと、すぐにバリバリという爆音が轟き、星喰みの全身が青白い稲光に包まれていた。
二人の攻撃をくらった核はというと、中心に大きなひびが入っていた。けど、まだ完全に壊れてはいない。
その時、グルタが大きく羽ばたいて空を飛んだ。
「何を呆けている。俺達も出るぞ」
「!? ――ああ、分かってる。突っ込めグルタ!」
グルタは星喰みの核に向かって特攻する。グルタが核に激突すると、衝撃で核のひびが更に大きくなった。でもまだ壊れない。グルタはそのまま強引に核を突き破ろうと力を込めた。僕も全力でグルタに魔力を送り込む!
『おおおおおおおぉぉぉぉ!!!』
ついに均衡が崩れた。バリッと一際大きな音を立てて核が真っ二つに割れる。その中心を僕達は突き破った。そのまま星喰みの中を突き進み、最後には尾の先端から外へと飛び出した。
全てを振り絞って満身創痍の僕達が振り向いた目に映ったのは、全身がゆっくりと崩れて海の藻屑と消えていく星喰みの姿。もう、その体が再生する様子は見られない。
ついに……ついに、僕達は星喰みに打ち勝ったんだ!




