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魔法使いの師匠は友だちを作りたい  作者: 夢空
師匠、覇竜祭に参加する
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第11話 覇竜祭閉幕

「えええ!!! 反則負けってそんな……!」


「あの果実を戦いに持ち込むことは禁じておるのだ。すまなかったね人の子、ちゃんと全てを伝えておくべきだった」


 勝負が終わった後に僕達を待ち受けていたのは勝利の栄誉ではなく、反則負けというあっけない幕切れだった……。マスタードラゴンからその事実を突きつけられた僕は膝から崩れ落ちて地面に両手をつき、これ以上ないくらいに落ち込んだ。

 けど、そんな僕の前にグルタが現れて優しく声をかけてきた。


「気にするな。どのみち、あのままでは俺は負けていた。お前の覚悟、確かに伝わったぞ」


「グルタ……」


 グルタの慰めで僕は顔を上げて立ち上がった。

 すると、そこに先程のブルードラゴンであるブリーズが近づいてきた。僕は反則を使ったのをなじられるんじゃないかと体を強張らせる。しかし、ブリーズから出てきた言葉は思いもよらないものだった。


「人の子よ、君が見せた絶望的な危機の淵に立っても諦めない強さ。私は強く感銘を受けた。君と戦えて良かった。本当にありがとう」


 そしてブリーズは僕とグルタを軽々と担ぎ上げると、ドラゴン達に向かって高らかに叫んだ。


みなよ! 確かに人の子は禁じ手を犯した! だが対峙した私には分かる。それがどれだけの決意と覚悟を持って為されたかを! 人の子とグルタはまさに勇者であった! どうかこの二人に最大の称賛を!」


『ウオオオオォォオオオォオォォォ!!!』


 僕はブリーズの肩の上でドラゴン達の惜しみない称賛の声を聞いていた。それを受けて胸がどうしようもなくうずく。堪えきれずに右手で胸を掴むと次の瞬間、涙が溢れて止まらなくなった。

 隣を見れば、グルタも同じように両の目から大粒の涙をボロボロと流しながら、空に向かって雄叫びを上げていた。それに釣られるように、僕も蒼空そうくうに向けて泣きながら言葉にならない叫び声を上げていた。



 そうして覇竜祭は、竜の部はブラックドラゴン、小竜の部はブルードラゴンの勝利という形で幕を閉じた。そして、祭りが終われば僕達は元の世界に戻らなくてはいけない。


 僕達は塔の天辺で大勢のドラゴンに囲まれていた。そして、僕の前にはグルタが立っている。

 グルタが口を開いた。


「ありがとう。お前と戦えたこと、誇りに思うぞ。だが、これで俺はまた魔法の使えないドラゴンに逆戻りというわけだ」


「グルタ……」


 僕は彼にかける言葉が見つからなかった。僕の砂の目に、グルタの魔力の流れが元通りになってしまっているのが映ってしまっているからだ。僕にグルタを治してあげることはできない……。

 けどその時、師匠がグルタのそばに歩み寄り、グルタの胸に手を当てた。


「なるほど、これは厄介だ。だがこれなら……」


 師匠の手から澄み渡る青の光がほとばしる。それはグルタの体を包み込むと、ゆっくりグルタの中に染み込むように消えていった。


「グルタ、ブレスを使ってみてくれるかい?」


「あ、ああ……」


 師匠に促されてグルタはブレスを使うために口を開ける。するとグルタの口の前に赤い魔法陣が展開された。僕とグルタは目を丸くする。


「こ、これはどういう事だ……⁉」


「魔力経路を強引に繋いでも元に戻ってしまうからね。問題のある箇所を正常な状態へ《《再構築》》させてもらった。これでもう君は魔法が使えなくなることはない」


「ああ……ああ! ありがとう、主殿! この恩、俺は生涯忘れぬ!」


「良かったな、グルタ!」


 涙を流しながらはしゃぐグルタに僕は抱きついて喜びを伝えた。

 すると、グルタが僕を見下ろして言った。


「――ああ、やはりか。お前、なぜそんな《《なり》》をしているのだ?」


 僕は最初、グルタが何を言っているのか分からなかったが、すぐにグルタの言わんとしていることを察して顔を真っ赤にしてしまった。


「……どうして分かった?」


「主殿とは微妙に本質的な匂いが違うからな。最初から妙だとは思っていたが、今になってようやく分かった」


「ぼ、僕にも色々とあったんだよ!」


 僕はもうこの話題を切り上げたくて、グルタから飛び跳ねるように離れた。どこからかこらえたような笑い声が聞こえたように思えて師匠を見ると、意地悪な目をしてにんまりと僕を見つめていた。


「師匠! 早く戻りましょう!」


「んー? いいのかい? まだ話していても良いんだよ? 例えば……」


「ああーー! もういいです!」


 僕は師匠を睨みつけながら地団駄を踏んで急かす。

 師匠はおどけたように肩をすくめると、右手を地面に付けた。するとそこを中心に紫の魔法陣が発生する。これで、この世界ともお別れの時だ。

 マスタードラゴンが口を開く。


「二人ともありがとう。今後のお前達の行く末に幸あらんことを祈っているよ」


 続いてグルタも僕に向かって手を振った。


「また次の覇竜祭で会おう! それまで達者でな!」


「……グルタもな! せっかく使えるようになったんだ。魔法の鍛錬は怠るなよ!」


 僕は笑顔でドラゴン達に手を振った。

 師匠の魔法陣が起動する。紫の光を放ち、僕達はドラゴンの世界に別れを告げた。


 目を開くと、そこは師匠の家の中だった。僕達は元の世界に戻ってきたんだ。

 僕は深呼吸して師匠の家独特のちょっとかび臭いけど落ち着く香りを嗅ぎ、戻ってきたことを実感する。


「さて、どうだったね? 今回の旅は?」


「忘れたくても忘れられませんよ。色々と。……師匠、次の覇竜祭は?」


「うん、また約百年後になるだろうね」


「それ以外にこっちから向こうに行くことはできますか?」


「駄目だ。覇竜祭の時以外に向こうへ行くことは許されていない」


「そう……ですか」


 その時、僕は衝動的に師匠にしがみついた。そして大声を上げて泣く。涙が次から次へ溢れて止まらない。僕はそのまま、涙が枯れ果てるまで泣き続けた。

 もう、あの親友に会うことはできないんだ……。



「はあ、はあ……」


 今日も今日とて僕は家事をしていた。連日の長雨は着実に洗濯物を増やしてくれていて、ようやく晴れた今日、僕はその洗濯物と格闘していた。

 そしてようやく最後の一枚を干し終えて、僕は額の汗を拭いながら空を仰いだ。その瞬間だった。


 突然襲い来る光と激しい突風。洗濯物は風に乗り大空へと舞っていく。僕はそれを叫び声を上げながら眺めていることしかできなかった。


「あーーーーーーー!!!」


 次第に突風は止み、洗濯物は次から次へと地面に叩きつけられていく。けど僕はそんなことはどうでも良かった。僕は食い入るように光の中心を見つめている。

 光が収まるとそこには、赤いトカゲに翼が生えたようなあの姿、グルタが浮いてこちらを見ていた。

 グルタは僕の姿を見つけると、笑いながら手を振る。


「オウ! ヒサシブリダナ! マチキレナクテ、コッチカラデムイテヤッタゾ!」


「グ、グルタ? 何で……⁉」


「一体何事……っと、グルタか。良く来たね」


 家の中からのっそりと現れた師匠が、さも当然といった感じでグルタを出迎えた。僕は目を白黒させながら師匠を問い詰める。


「し、師匠! 師匠は僕にもうグルタに会えないって!」


「んー? はてさて、そんなことは一言も言っていないよ? こちらから向こうに行くことはできない、とは言ったがね。向こうからはマスターが飛ばせばいつでもこちらに来れるのさ」


 口に手を当てながら、のらりくらりとした口調で師匠はそう言い放った。


「師匠⁉」


 完っ全に師匠に騙された……。膝をついて愕然とする僕を、何も知らないグルタは近寄ってきて僕を見下ろした。


「ドウシタヒトノコ? セッカクアソビニキテヤッタノダ。セイダイニモテナシテヨイノダゾ?」


 ふんぞり返ってそう言い放ったグルタを、僕は色んな思いのこもった目で睨みつけて叫ぶ。その目にはちょっとだけ涙がにじんでいた。


「――うるさい! それより先に洗濯のやり直しからだ! お前も手伝えバカヤロウ!」


 それから先も、グルタは度々僕達の所へ遊びに来るのだった。

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